メニュー
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
「子供を妊娠中に夫が亡くなってしまった」ような状況では、深い悲しみとともに、今後の生活やお子さまの将来に不安を感じる方も多いでしょう。さらに、夫の財産をすべて相続できないとなれば、経済的な問題に直面する可能性もあります。しかし、たとえお子さまが胎児だったとしても、親の財産を相続する権利は認められています。 この記事では、胎児が相続権を持つための条件、遺産分割協議の進め方、不動産登記や相続税の取り扱いなどを解説します。妊娠中に夫を亡くされた方や、相続手続きで悩まれている方は、ぜひ参考にしてください。
来所法律相談30分無料・通話無料・24時間予約受付・年中無休
0037-6030-14231
メールお問い合わせ
※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。 ※国際案件の相談に関しましては別途こちらをご覧ください。 ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
妊娠中に夫が亡くなった場合、「お腹の子供に相続権はあるのか」と不安に思う方は多いです。 結論から言えば、胎児にも相続権は認められています。民法886条では「胎児は相続についてはすでに生まれたものとみなす」と定めています。相続開始時にお腹の中にいた場合でも、出生後に生きていれば、その子は相続人となります。妊娠何ヶ月からという条件はありません。ただし、死産だった場合には、相続権はありません。 出生の判断は「全部露出説」に基づき、胎児の体が完全に母体から出て、一瞬でも生きていれば相続権が発生します。たとえ生まれてすぐに亡くなったとしても、その権利は失われません。
胎児の相続権を認めてもらうためには、死産でないことが条件とされています(民法886条2項)。 胎児の出生は、「身体が母体からすべて露出したこと」によって判断されます。これを「全部露出説」といいます。全身が露出してから一瞬でも生きていたら、その後に死亡したとしても、胎児であった子に相続権等があったことが確定します。
胎児が出生前に亡くなった場合、胎児の相続権はなかったものとされます。そのため、胎児が亡くなったのが出生前であるか、出生後であるかによって、その胎児の父親が妊娠中に亡くなっていたときの相続人が変わります。 相続人を表にまとめたのでご覧ください。
| 出産前に亡くなった場合 | ●妻と亡くなった胎児以外の子供 ●妻と夫の両親 ●妻と夫の兄弟姉妹 |
|---|---|
| 出産後に亡くなった場合 | ●妻と出産後に亡くなった子供(元胎児)を含む子供 |
胎児が生まれる前に離婚して、それから元夫が亡くなった場合であっても、胎児に相続権はあります。これは、両親が離婚しても、子供は生涯に渡って両親の法定相続人になるからです。 なお、離婚した元妻は相続権を失います。
胎児であっても代襲相続は認められます。
【代襲相続とは】 本来であれば相続人になる予定であった人が被相続人よりも先に亡くなっていた場合に、相続する予定だった人の子供が代わりに相続する制度です。 例えば、胎児の父親の父親(胎児の祖父)が亡くなったときに、胎児の父親がすでに亡くなっていた場合には、胎児に代襲相続する権利があります。ただし、死産でないことが条件となります。 代襲相続について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
胎児はすでに生まれた子供と同じように、第1順位の法定相続人となります。そして、その胎児にとって兄または姉にあたる子供と同じだけの法定相続分が認められます。 例えば、法定相続人の構成によって、以下のような法定相続分があります。
【配偶者、胎児1人の場合】
●配偶者:1/2
●胎児:1/2
【配偶者、すでに生まれていた子1人、胎児1人の場合】
●配偶者:1/2
●既に生まれていた子:1/4
●胎児:1/4
法定相続分について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
胎児は、生まれてくるまで遺産を相続できるかどうかが確定しません。そのため、遺産分割協議や相続放棄などの手続きは、基本的に生まれた後に行います。 ここでは、胎児がいる場合の相続手続きの進め方について解説します。
胎児がいる場合には、基本的に出生まで遺産分割協議はできません。なぜなら、判例では、胎児が出生すると被相続人の死亡したときに遡って権利能力を取得するとされているからです。 そのため、胎児がいるときに、その胎児を除いて遺産分割協議を行ったとしても、死産の場合を除いて相続人全員による遺産分割協議が行われておらず無効となってしまいます。 一方で、胎児を含めて遺産分割協議を行おうとしても、胎児は意思表示をすることができないだけでなく、権利能力がないので代理人を選任することもできません。 以上のことから、遺産分割協議を行うのは、胎児が生まれるまで待つようにしましょう。
胎児にも相続権は認められていますが、出生後は未成年者となるため、自分で有効な遺産分割協議を行うことはできません。通常は親が代理しますが、親も相続人である場合は利益相反となるため、家庭裁判所で特別代理人の選任が必要です。 利益相反とは、一方の利益が増えると他方の利益が減る関係のことです。たとえば、母親が子の代理人になると、自分の取り分を増やすために子の取り分を減らす可能性があります。 このような場合、母が代理すると協議は無効となり、後でトラブルになるおそれがあります。そこで、家庭裁判所に申し立てて、利害関係のない親族や弁護士などを特別代理人に選びます。特別代理人は遺産分割協議に参加し、協議書への署名や押印、不動産の相続登記などを代理します。 未成年者の遺産分割協議について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
被相続人が亡くなったときに胎児であった相続人も、相続放棄することができます。ただし、胎児であるうちに相続放棄することはできないので、出生後の3ヶ月以内に相続放棄することになります。 通常の相続放棄の期限は、自己のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内なので、母親と胎児とで相続放棄の期限が異なるケースが多いため注意しましょう。 なお、母親と胎児だった子供が同時に相続放棄する場合や、母親が先に相続放棄してから子供が相続放棄する場合には、母親が代理人として手続きすることが可能です。これは、母親も相続放棄するため、利益相反の関係にならないからです。 一方で、母親は相続し、胎児だった子供のみが相続放棄する場合には、子供のために特別代理人を選任しなければなりません。これは、母親と子供が利益相反の関係になるからです。 以上のことを表にまとめたのでご覧ください。
| 母親と胎児だった子供が相続放棄する場合 | 母親が代理人として手続きすることが可能 |
|---|---|
| 母親が先に相続放棄して、胎児だった子供が後で相続放棄する場合 | 母親が代理人として手続きすることが可能 |
| 母親は相続し、胎児だった子供のみが相続放棄する場合 | 特別代理人を選任して手続きを行ってもらう |
相続放棄について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
胎児が生まれる前であっても、相続登記を行うことができます。このとき、母親の名前が「甲野花子」であれば、「甲野花子胎児」として登記します。また、住所は母親の住所を用います。 なお、胎児は代理人を選任する等して遺産分割協議を行うことはできないので、必ず法定相続分によって登記します。 しかし、胎児が出生したら「変更登記」を行う必要があり、死産であれば「更正登記」を行う必要があることから、必ず手間と費用がかかることになってしまうため、基本的には子が胎児の段階では相続登記をしない方が良いと考えられます。 胎児の相続登記が必要となるのは、不正な登記をするおそれのある親族がいるケース等です。 胎児は戸籍等に記載されないため、そのままでは不正が行われるリスクがあります。そこで、胎児の相続登記を行っておけば不正を防止する効果が期待できます。 相続登記について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
胎児がいる場合であっても、相続税については、胎児はいないものとして扱われます。そのため、一般的な相続の場合と同様に、胎児を除く相続人は相続の開始があったことを知った翌日から10ヶ月以内に申告しなければなりません。 一方で、胎児については、法定代理人が出生の翌日から10ヶ月以内に相続税を申告しなければなりません。そのため、出生のタイミングによっては、同時に相続税の申告ができることもあります。 もしも、胎児が相続税の申告期限に近い時期、あるいは申告期限後に生まれる場合には、胎児はいないものとして相続税を申告し、出生から4ヶ月以内に修正申告や更正を行います。 なお、胎児が出生すると相続税の基礎控除額が増えるため、相続税の課税対象にならなくなる場合もあります。その場合には、申請することによって、相続税の申告期限を2ヶ月延長できます。
| 申告期限内に生まれた場合 | 胎児:出生の翌日から10ヶ月以内 胎児以外:相続の開始があったことを知った翌日から10ヶ月以内 |
|---|---|
| 申告期限後に生まれた場合 | 期限内に一旦申告し、胎児が生まれた翌日から4ヶ月以内に修正申告や更正を行う |
| 出生により相続税がかからなくなる場合 | 申請により12ヶ月は申告を留保できるようになる |
相続税の申告について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
【昭和6年(オ)第2771号 大審院 昭和7年10月6日判決】
[事案の内容] 電車事故で内縁の夫が亡くなり、妻は妊娠中でした。妻の依頼を受けて、夫の父が胎児の代理人として鉄道会社と和解契約(示談)を結びました。その後、妻と生まれた子供が、鉄道会社に損害賠償を請求したという事案です。 この事件の争点は、「生まれた子供が、事故当時にさかのぼって損害賠償請求権を持つかどうか」でした。もし胎児に事故時点で権利能力があるとすれば、示談によって請求権が消えてしまう可能性がありました。
[裁判所の判断] 裁判所は、胎児の権利能力について「停止条件説」を採用しました。これは、胎児は生まれる前には権利能力を持たず、生きて生まれた時点で、事故時にさかのぼって権利能力を取得するという考え方です。 そのため、胎児が生まれる前に結ばれた示談は無効として、生まれた子供は鉄道会社に対して損害賠償を請求できると判断しました。
胎児にも相続権は認められますが、出産後に特別代理人を選任しなければならない等、一般的な相続よりも注意するべき点が多くなります。出産直後の一番大変なときに、そのような慣れない手続きをすることは心身への負担が大きくなります。 そこで、出産を控えているときに相続が発生してしまった場合には弁護士にご相談ください。弁護士であれば、今すぐに手続きするべきことと出産後の手続きで良いことの区別や、相続税に関する手続き等を含めて状況に応じたアドバイスができます。 出産という一大事に備えるためにも、不安を解消するのは重要なことです。ぜひお気軽にご相談ください。