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秘密証書遺言にメリットはある?作成方法や他の遺言書との違い

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

遺言書の作成方式は、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類に分かれています。どの方式にするかは、自身の状況に合わせて選択する必要があります。 3種類の方式のうち、秘密証書遺言はメリットが少ないため、あまり利用されなくなっています。しかし、有効な遺言書であることに変わりありません。 この記事では、秘密証書遺言の作成方法やメリット・デメリット、保管場所、有効に作成するための注意点等について解説します。

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秘密証書遺言とは?

秘密証書遺言とは、遺言の「内容」を秘密にしたまま、公証役場で遺言の「存在」を、公証人と証人に証明してもらう遺言のことです。 封をした状態で公証役場へ持っていくため、遺言者本人以外には内容を秘密にしながら、遺言書の存在と遺言者本人が作成した遺言書であることを公証役場で証明してもらう作成方式であり、公証役場での手続を終えた後は、遺言者本人が遺言書を保管します。

それぞれの遺言書の違い

遺言書は方式によってそれぞれ違いがあります。作成するときには、自分に合った方式を選びましょう。 秘密証書遺言は、あまり選択するメリットがないと考えられており、特にこの方式を選択するのが有効な人は、遺言書を自筆するのが難しく、費用をなるべくかけたくない人等に限定されるでしょう。 それぞれの方式の違いについて、表にまとめたのでご覧ください。

自筆証書遺言 公正証書遺言 秘密証書遺言
遺言書を書く人 本人 公証人 本人または代筆
費用 用紙代等しかかからない 相続財産の金額に応じて、数千円から数十万円程度 1万1000円
証人 必要ない 2人以上 2人以上
秘密性 秘密にできる 公証人と証人には知られるものの、守秘義務がある 秘密にできる
保管方法 自宅等で保管するか、法務局に保管してもらう 原本は公証役場に保管されて、作成者には写しが渡される 自宅等で保管する
偽造・改ざんの危険性 自宅等で保管すると比較的高い リスクは極めて低い リスクは低い

秘密証書遺言の作成方法

秘密証書遺言を作成する要件と作成の流れについて、以下で解説します。

①遺言書を作成し署名・捺印をする

秘密証書遺言は、自筆証書遺言とは違い、全文を自筆によって作成する必要はないので、パソコン等を使って作成することや、誰かに代筆を依頼することができます。 ただし、遺言者本人の署名(本人の自筆)・押印がないものは無効となってしまうため、絶対に忘れないようにしましょう。署名を代筆してもらうと無効になるため、特に注意しましょう。 なお、遺言書を提出した日付は公証人によって記入されますが、念のため作成日についても自筆で記入しておくと良いでしょう。

②封筒に入れて封印する

遺言書を作成したら、封筒等に入れて封をします。その際に、遺言書の署名で使用した印鑑と同じもので封印をする必要があります。 封印がなかったり、遺言書とは違う印鑑を使用していたりすると無効になってしまうので、ご注意ください。

③公証役場に提出する

遺言書の用意ができたら、それを持って2人以上の証人とともに最寄りの公証役場に行きます。ほとんどの公証役場は予約制になっていますので、事前に電話で予約しておくと良いでしょう。 公証役場では、遺言者は公証人と証人の前に遺言書が入った封書を提出して、それが自己の遺言書である旨、およびその遺言書に遺言を記載した者の氏名・住所を伝えます。

④封紙に遺言者および証人が署名・押印する

公証役場に氏名・住所等の必要事項を伝えると、公証人がその日の日付と遺言者から聞いた内容を封紙に記載します。そのうえで、遺言者、証人および公証人が封紙に署名・押印すれば、手続は完了です。 遺言者の氏名や生年月日、遺言書の作成日といった情報はデータベース化され、日本公証人連合会の「遺言検索システム」に登録されます。さらに、封紙の控えが公証役場に保管され、封書は遺言者に返却されます。

秘密証書遺言のメリット

秘密証書遺言のメリットについて、以下で解説します。

遺言内容を秘密にしておける

秘密証書遺言は、公証人や証人にも内容を見られることはないので、遺言の内容を他者に知られるリスクが低いです。 そのうえで、「遺言書が存在しているという事実」が公的に証明されるので、遺言者本人が遺言書を作成したことを明らかにできます。 結果として、遺言内容については秘密にしたままで、自身の死後、遺言書の作成者が本当に本人なのかと疑われるのを防ぐことができます。

パソコンやワープロ、代筆での作成が可能

自筆証書遺言書は全て自筆する必要があるのに対して、秘密証書遺言は、全文を自筆する必要はありません。そのため、パソコンを使って作成したり、他者に代筆したりしてもらったりすることも可能です。 ただし、遺言者本人の署名・押印は必要であることに注意してください。また、秘密証書遺言を代筆してもらう場合には、遺言の内容を代筆者が漏えいするおそれがあるため、代筆者は慎重に選ぶようにしましょう。

偽造・改ざんを避けられる

秘密証書遺言は開封されたことが分かるようになっているため、偽造・改ざんをされにくいです。 秘密証書遺言を作成し終えたら、封をして公証役場に提出します。公証役場では所定の処理を施した後に封紙の控えを保管しており、開封された形跡があれば基本的に秘密証書遺言としては無効となります。 秘密証書遺言を開封するときには、「検認」という家庭裁判所の手続が必要です。もしも、発見した人が誤って開けてしまうと少なくとも秘密証書遺言としては無効となってしまうため、封筒に「検認しなければ開封してはならない」旨を記載する等の対策が必要です。

秘密証書遺言のデメリット

秘密証書遺言のデメリットについて、以下で解説します。

遺言書が無効になるおそれがある

秘密証書遺言は、公正証書遺言とは違い、公証人や証人に内容を確認されることがありません。そのため、秘密証書遺言として存在が公的に証明されたとしても、遺言として必要な要件を満たしていないことで遺言書として無効となってしまったり、遺言内容が不明確であるために、遺言者の死亡後に相続人間で争いが生じたりしてしまうリスクがあります。 遺言書の不備を防ぐためには、誤解を招かないように正確な記載をすることや、決められた方法で訂正すること等に注意しましょう。

2人以上の証人を用意しなければならない

秘密証書遺言の手続では2人以上の証人が必要になり、基本的には遺言者が自分で手配しなければなりません。 その際、次に挙げる者は証人になることができないので注意が必要です。

  • 未成年者
  • 遺言者が亡くなったら相続人になる予定の人(推定相続人)、その配偶者および直系血族
  • 遺言によって遺産を贈られる者、その配偶者および直系血族
  • 公証人の配偶者および四親等内の親族
  • 公証役場の職員

費用がかかる

秘密証書遺言の手続を公証役場で行うためには、1万1000円の手数料がかかります。 大抵の場合は公正証書遺言の手数料よりも安く済みますが、費用をかけずに作成できる自筆証書遺言に比べれば、費用がかかる点はデメリットといえるでしょう。

後から訂正ができない

秘密証書遺言の手続を終えた後に訂正したい部分が出てきたとしても、開封せずにその中身の遺言書を書き直す方法はないので、訂正するにはまた新しい遺言書を作成するしかありません。 もう一度秘密証書遺言を作成するためには、公証役場へ出向き必要な手続をとらなければならないため、手間や費用がさらにかかってしまいます。

紛失・隠匿・破棄や発見されないおそれがある

秘密証書遺言は、その存在や、遺言者自身が作成したことが公的に証明されますが、保管場所は遺言者本人が決めなければなりません。そのため、紛失するおそれや、誰かに隠されたり捨てられたりするリスクがあります。 また、あまりにわかりにくい場所に保管してしまうと、遺言者の死後に発見してもらえない危険もあります。そのため、保管場所や保管方法については、よく考える必要があるでしょう。

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秘密証書遺言の保管場所

秘密証書遺言は、公証役場で保管してもらう制度がないため、自宅等に保管しなければなりません。そのため、誤って破棄してしまうリスクや、発見されないリスク等があります。 また、銀行の貸金庫に遺言書を入れる方がいますが、貸金庫は相続手続が終わるまで開けられないおそれがあるため避けるべきです。 そのため、遺言書は遺言執行者か弁護士に預けることをおすすめします。弁護士に預ければ、紛失や改ざんのリスクがほとんどなくなるため、遺言執行者として指名する弁護士に預けるのが最も安全だといえるでしょう。

秘密証書遺言書が効力を失わない為の注意点

秘密証書遺言が無効とならないように、以下のことに注意しましょう。

  • 作成年月日が特定できるように書くこと
  • 遺言内容を明確に書くこと
  • 訂正は決められた方式で行うこと
  • 開封前に検認の申立てが必要であること

これらの注意するべきことについて、次項より解説します。

作成年月日が特定できるように書く

作成年月日が特定できないことでトラブルとなるおそれがありますので、「〇年〇月吉日」といった日付を特定できない表現は使わずに、「○年○月○日」としっかり記載しましょう。 この点について、秘密証書遺言は封紙に公証人が日付を記載するため、遺言書自体に作成年月日の記載はなくてよいとの考え方もあります。しかし、遺言の有効性に関わり得る点であり、秘密証書遺言として無効とされた遺言書であっても、本文や日付、署名を自筆しておけば自筆証書遺言として有効と判断される可能性もあります。そのため、遺言書自体に作成年月日を記載しておくべきでしょう。

遺言内容を明確に書く

遺言書を作成する際は、誰に、何の財産を、どの割合で遺すのかが明確にわかるように記載する必要があります。遺言の内容が曖昧だったり、誤記があったりして、内容を複数の意味に解釈できてしまうと、相続人同士のトラブル、いわゆる「争続」の原因となりかねません。 遺言の内容が明確になるよう、表現や表記には十分注意しましょう。

訂正は決められた方式で行う

秘密証書遺言は、誤字・脱字の訂正方法についても方式が決められており、これに従っていないものは基本的に無効となってしまいます。 例えば、文字を訂正したい場合には、該当箇所に二重線を引き、正しい文言を書きます。そして署名の際に使用したものと同じ印鑑で押印し、末尾に「上記〇中、〇字削除〇字加入」等と書いて署名します。 修正液や修正テープ、塗りつぶしによる修正は無効となるリスクがあるため、行わないようにしましょう。 しかし、訂正が多いと分かりにくくなってしまいます。もしも訂正方法を間違えると、その訂正が無効になってしまうリスクもあるので、はじめから書き直すことをおすすめします。

開封前に検認の申立てが必要

秘密証書遺言は、自宅等で保管されていた自筆証書遺言と同じく、開封の前に家庭裁判所に検認を申し立てなければなりません。 検認は相続人全員に遺言書の存在を知らせ、偽造や変造を防ぐ目的で行われる、遺言書の状態を確認する手続です。検認をせずに遺言書を開封してしまうと、5万円以下の過料に処せられるおそれがあります。 しかし、遺言書の開封前に検認の申立てが必要であることを知らない人も多いので、封紙にその旨を記載しておくか、封筒を二重にする等の工夫を施しておくべきでしょう。 遺言書の検認に関しては以下のページで詳しく解説していますので、ご参照ください。

秘密証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット

秘密証書遺言の作成について弁護士に依頼すると、主に以下のようなメリットがあります。

●遺言書としての不備がないようサポートしてもらえる
秘密証書遺言は基本的に自分で作成するため、不備が生じやすく無効になるリスクがあります。弁護士に依頼すれば、遺言書が有効になる可能性が高まります。
●遺言書を保管してもらえる
遺言書を自宅等に置いておくと、発見されなかったり、紛失したりするリスクが高いです。弁護士に保管を依頼すれば、そのようなリスクを抑えることができます。
●検認手続きを代行してもらえる
秘密証書遺言の内容を実現するためには、検認手続きが欠かせません。弁護士に依頼しておくことによって、自身の死後すみやかに検認してもらえます。

秘密証書遺言に関するQ&A

字を書けないが秘密証書遺言を残せる?

病気や障害等で字が書けない人であっても、秘密証書遺言であればパソコンや代筆での作成が認められるため、遺言書を残すことが可能です。 ただし、遺言者本人の署名・押印は不可欠なので、自筆での署名が困難な場合には、公正証書遺言の方式で遺言書を作成しましょう。 原則として、公正証書遺言も遺言者本人が署名しなければなりませんが、それが不可能な場合、公証人がその事由を付記すれば、署名に代えることができます。 公正証書遺言に関して、詳しくは以下のページで解説していますので、ご参照ください。

公証人や証人には秘密証書遺言の内容がわかってしまう?

公正証書遺言では、遺言者は公証人と証人の前で遺言の内容を述べる必要があるため、立ち会った証人から遺言の内容が漏えいするおそれがあります。 どうしても遺言内容を秘密にしたい場合には、秘密証書遺言を作成すると良いでしょう。 公証役場における秘密証書遺言の手続では、遺言書の入った封書が開封されません。封書のままで所定の処理が施されるので、遺言内容は基本的に遺言者が把握するのみで、公証人や証人等に遺言書の内容を知られることはありません。 ただし、代筆してもらった場合は代筆者も知ることとなります。

秘密証書遺言の作成をご希望でしたら、弁護士にお任せください

秘密証書遺言は、遺言内容を誰にも知られたくないけれども、遺言書の作成者が遺言者本人であることを公的に証明したい場合に有用な作成方式です。しかし、要件を満たさなければ遺言が無効になってしまうおそれがあるため、作成するときには細心の注意が必要となります。 秘密証書遺言の作成をお考えの場合は、ぜひ弁護士にご依頼ください。弁護士は、ご依頼者様のご希望をお聞きしたうえで、秘密証書遺言の方式で遺言書を作成するのが適切かどうか判断し、より適した方法があればその方法をご提案することが可能です。さらに、遺言内容や表現についてアドバイスをし、相続争いに発展しないような遺言書の作成をお手伝いすることができます。