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遺言書が無効となるケースと無効にする方法

亡くなった親族が遺言書を残していたものの、民法で決められている形式の要件を充たしておらず、無効となってしまうということも少なくありません。また、作成要件は充たしているものの、内容に納得がいかないのでなんとか無効にできないかと考えている方もいらっしゃるでしょう。 このページでは、遺言書が無効になるケースと無効にする方法について解説します。 遺言書全般に関して、詳細は以下のページで解説していますのでご参照ください。

遺言書を残す?残さない?遺言書を見つけたら?遺言書の疑問やトラブルは弁護士へ

自筆証書遺言が無効になるケースとは?

遺言書にはいくつかの作成方式があり、そのうちのひとつに自筆証書遺言というものがあります。その名の通り自筆で作成する遺言書のことで、費用をかけずに一人で手軽に作成できるというメリットがあります。ただし、自筆証書遺言は作成要件が細かく決められており、それらの要件をひとつでも充たしていないと無効となってしまうおそれがあります。 具体的に、どのような場合に自筆証書遺言が無効になるのかご説明します。 自筆証書遺言について、詳しくは以下のページをご参照ください。

自分で遺言書を書きたい!でも自筆で書く遺言書にはリスクがある?!

1.自筆で書いていない遺言書

遺言者本人が自筆で作成していないと、自筆証書遺言書は無効となります。ただし、民法改正により、遺言書に添付する財産目録に限ってはパソコンや代筆による作成が認められるようになりました。登記簿謄本や通帳のコピーを添付してもかまいません。財産目録を自筆以外の方法で作成した場合は、全ページに署名・押印が必要になります。 なお、音声や動画等のデータによる遺言は、遺言書本文であっても財産目録であっても認められません。

2.日付がない、日付があいまいな遺言書

作成日が記載されていない遺言書は無効となります。また、「〇年〇月吉日」といった作成日が特定できないような表記も認められません。一方、「〇年〇月末日」や「遺言者の満〇歳の誕生日」という表記は、作成日が特定できるため有効とされています。

3.署名・押印がない遺言書

遺言者の署名・押印がない遺言書は無効となります。通常、署名は戸籍上の氏名をフルネームで記載するものですが、遺言者が特定できれば、通称やペンネーム、芸名、姓または名の片方だけであっても認められる可能性はあります。また、押印は実印が望ましいですが、認印や拇印でも認められます。

4.内容が不明確な遺言書

遺言書の内容が不明確な場合、無効となるおそれがあります。例えば、「私の不動産を子に譲る」と記載されていたとすると、不動産とはどの土地または建物を指すのか、子が複数名いれば誰のことなのか、譲るというのは「相続させる」と「遺贈する」のどちらなのかといった点がはっきりしません。 実際の裁判では、遺言書にある文言を形式的に判断するのではなく、遺言書作成当時の事情や遺言者の置かれていた状況等を考慮して、遺言者の真意を追求し、遺言の趣旨を確定していくことになります。

5.訂正の仕方が間違っている遺言書

遺自筆証書遺言は、加入・削除・訂正も方式が定められています。例として、訂正の場合は訂正箇所に二重線を引いて新たな文言を記入し、署名に使用した印鑑と同じもので押印します。そのうえで、欄外に「本行〇字削除〇字追加」等と記入するか、遺言書の末尾に「本遺言書7行目『A』を『B』と訂正した」等と記入し、署名します。 定められた方式どおりでない加入・削除・訂正は無効となり、訂正の内容と全体に占める訂正箇所の重要性等によっては、遺言書全体が無効となるおそれがありますので、注意が必要です。

6.共同で書いた遺言書

2名以上の人が共同で作成した遺言書は無効となります。2名以上の人が同一の証書に遺言を残すことを「共同遺言」といい、民法で禁止されています。

7.遺言能力がない場合

遺言能力がない人が作成した遺言書は無効となります。遺言能力とは、遺言の内容およびその遺言によって生じる法的効力を理解できる能力をいいます。遺言書の作成時に遺言者に遺言能力があったか疑われる場合、遺言の有効性について争われるおそれがあります。

遺言者が認知症のケース

遺言能力があったか疑われる代表的な例として、遺言者が認知症だったケースが挙げられます。 ただし、認知症だからといって、一概に「遺言能力がない」とみなされるわけではありません。認知症といっても、その進行具合はさまざまだからです。 また、認知症の種類によっては、「日や時間によって同じことができたりできなかったりする」、「物忘れはあっても理解力は問題ない」というように、症状がまだらに現れることがあります。そのため、認知症により遺言者が成年被後見人となっていたとしても、一時的に遺言能力が回復しているときに2名以上の医師の立会いのもと作成された遺言書であれば、有効と認められる可能性があります。

遺言者が15歳未満のケース

遺言を残すことができるのは、15歳以上と定められています。そのため、15歳未満の者が作成した遺言書は無効となります。また、遺言書は代理で作成することができないため、親権者である親が代理で作成したとしても認められません。

公正証書遺言が無効になるケースとは?

2名以上の証人の立会いのもと、遺言者が口頭で述べた内容を公証人が聞き取って作成する遺言書が、公正証書遺言です。公証人が作成しますので、作成の仕方に不備が出て遺言書が無効になることはまずありません。また、公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるので、偽造・変造の心配もありません。 そのため、公正証書遺言は、信頼性が最も高いといえるでしょう。しかし、以下で解説するケースでは無効となってしまいます。 公正証書遺言については以下のページで詳しく解説していますので、ご参照ください。

遺言書と公正証書~トラブルを回避するために安全確実な遺言を残す方法

1.証人不適格者が立ち会った遺言書

公正証書遺言の証人は、基本的には遺言者が自分で手配します。ただし、次に挙げる人は証人になることができません。

  • ・未成年者
  • ・遺言者が亡くなったら相続人になる予定の人(推定相続人)、その配偶者および直系血族
  • ・遺言によって遺贈を受ける人(受遺者)、その配偶者および直系血族
  • ・公証人の配偶者および四親等内の親族
  • ・公証役場の職員
公正証書遺言の作成後に立ち会った証人が不適格者と判明し、「証人2名以上」という要件を充たしていなかった場合、その遺言書は無効となります。

2.遺言能力がない場合

公正証書遺言が無効か否かで争いになるケースで最も多いのは、やはり遺言者に遺言能力がない場合です。 公正証書遺言を作成するには、まず遺言者が口頭で遺言の趣旨を公証人に伝え、それを公証人が遺言書として書き起こし、その内容を公証人が遺言者と証人に読み聞かせる(または閲覧させる)という手順を踏む必要があります。 実際には、作成前に公証人と何度か打ち合わせて遺言書の案を作成します。通常、公証人と、遺言者の代理人である弁護士が、遺言者に遺言能力があると判断した場合に公正証書遺言の作成に入るので、遺言能力なく作成されることはまれだと思われますが、遺言能力の有無を明確に判断する手段はなく、場合によっては遺言能力なく作成されることもあり得ます。このように、遺言能力の判断は容易ではないため、遺言能力がなくても作成できてしまうおそれがあるのです。

遺言について訴える方法

遺言内容に納得がいかず、遺言を無効にしたい場合は、相続人全員の合意を得なければなりません。もし話合いによって合意が得られなければ、以下のような法的手続に移行することになります。

遺言無効確認訴訟

遺言無効確認訴訟とは、遺言が法的に無効であることを裁判所に判断してもらう手続です。 遺言に関する事件は家事事件であるため、原則として、訴訟の前に家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります(これを「調停前置主義」といいます)。ただし、調停で解決することが難しいと予想される場合は、調停を省略して訴訟を提起することができます。 調停とは、調停委員会が第三者として間に入って、対立する当事者双方の妥協点を見出す方法であり、あくまでも話合いによる解決を目指しています。しかし、相続人同士の事前の話合いで遺言の無効の合意が得られなかった以上、調停による解決はまず期待できないため、実際には最初から訴訟提起するケースが多いと思います。 訴訟では、遺言の無効を主張する相続人が原告となり、それ以外の相続人や受遺者が被告となります。もし遺言で遺言執行者が指定されていれば、基本的に遺言執行者が被告となります。

訴訟に必要なもの

遺言無効確認訴訟で争われることが多いのは、「遺言能力があったか」、「自筆証書遺言が自筆で作成されたか」という2点です。 遺言能力について争う場合、遺言書を作成した当時の遺言者の認知状態がわかる資料を用意する必要があります。例えば、診断書やカルテ、看護記録、要介護認定結果通知書といったものが挙げられます。特に認知症では、長谷川式認知症スケールやミニメンタルステート検査といった神経心理学的検査の結果が参考になります。 遺言書の自筆性について争う場合は、筆跡鑑定を行うことになるため、手帳や日記といった遺言者の筆跡がわかる資料が必要になります。

遺産分割協議・調停

遺言無効確認訴訟で判断してもらえるのは、遺言が無効か有効かという点のみであり、もし無効と判断された場合は、あらためて遺産の分割方法を決める必要があります。 相続人同士で遺産の分け方について話し合うことを、遺産分割協議といいます。遺産分割協議は単なる話合いなので特別な手続は必要ありませんが、必ず相続人全員で行わなければなりません。 もっとも、遺言無効確認訴訟で争った後に協議を成立させるのは困難と思われますので、状況をみてすぐに遺産分割調停を申し立てるべきです。 遺産分割調停について、詳細は以下のページで解説していますのでご参照ください。

遺産分割調停の流れ

遺産分割審判

遺産分割審判とは、裁判所が遺産の分割方法を決める手続です。裁判所が結論を出すことによって、遺産分割事件の終結を目指します。 遺産分割事件では、調停前置主義が適用されません。そのため、調停を行わずに遺産分割審判を申し立てることも可能です。とはいえ、通常はいきなり審判を申し立てたとしても、できる限り当事者間の話合いにより解決すべきという裁判所の判断で、先に調停に回されるケースが多いようです。 しかし、遺言無効確認訴訟を起こした経緯があれば、審判から始めたとしても認められる可能性は高いと思われます。 遺産分割審判について、詳しくは以下のページで解説していますのでご参照ください。

遺産分割審判の流れと注意点

遺言が有効と判断されたとしても、遺留分侵害額請求ができる場合がある

遺言無効確認訴訟で遺言が有効と判断されたとしても、遺留分侵害額請求訴訟を提起すれば、最低限の遺産を受け取ることができます。遺留分とは、一定の範囲の法定相続人が確保できる遺産の取り分のことです。遺留分を侵害された相続人は、自分の遺留分に応じた程度でほかの相続人や受遺者・受贈者に侵害された分を請求することができ、これを遺留分侵害額請求といいます。 遺言無効確認訴訟を提起する際には、遺言が有効と判断される場合に備えて、遺留分侵害額請求訴訟を同時に提起することもあります。 遺留分侵害額請求については、以下のページで解説していますのでご参照ください。

遺留分侵害額請求とは?相続分に偏りがある場合の注意点

遺産確認の訴え(遺産確認訴訟)

遺産確認の訴えとは、ある財産が遺産に含まれるかどうか争いがある場合に、遺産の範囲を確定するために行う訴訟です。遺産の範囲が変わると分割方法も変わるため、遺産分割協議の前に確定しておく必要があります。もちろん、話合いで解決できるのであれば、遺産分割協議や調停で取り決めをしてもかまいません。 なお、遺産確認の訴えは、あくまで遺産の範囲を確認するための手続であるため、分割方法について決められることはありません。 遺産確認の訴えについて、詳しくは以下のページで解説していますので、ご参照ください。

相続財産に争いがある場合の「遺産確認の訴え」とは?

遺言を無効にしたい場合は弁護士に相談を

遺言の無効を主張するには、無効であることを十分に立証できるような証拠を集める必要があります。特に遺言能力に争いがある場合、診断書やカルテといった医学的資料の収集および分析が大変重要になります。 相続問題に強い弁護士は、こういった証拠資料の収集や分析に慣れており、そのうえで効果的な主張をすることを得意とします。協議や調停でのサポートはもちろん、訴訟を起こすことになった場合は、その後の遺産分割や遺留分侵害額請求まで見すえて、戦略的に問題の解決に取り組みます。遺言を無効にしたいとお考えの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します

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遺言書が無効になった裁判例

【東京地方裁判所 平成30年1月30日判決】

<事案の概要>
(1)被相続人には実子はなく、夫および父母は被相続人の死亡時にはすでに亡くなっていました。本件の原告は、被相続人の姉妹のうちの3名(その後全員が他界したため、それぞれの子らが原告の地位を承継)であり、被告は平成24年8月に被相続人と養子縁組を行った被相続人の姪です。
(2)被相続人は、①平成19年3月に公正証書遺言を、②平成24年9月に自筆証書遺言を、③平成24年10月に公正証書遺言を作成しました。①の遺言書では遺産を姉妹にそれぞれ相続させるという内容でしたが、②と③の遺言書では一切の遺産を養子である被告に相続させるという内容でした。 (3)被相続人については、平成25年7月に成年後見開始の審判がされています。審判の際に、医師により、被相続人は重度のアルツハイマー型認知症であり、自己の財産の管理・処分が可能な能力は有していないとの鑑定書が作成されました。

<争点>
②、③の遺言書の作成当時、被相続人に遺言能力があったかどうか争点となりました。

<裁判所の判断>
成年後見開始の審判の際に作成された鑑定書の信用性を揺るがす事情はなく、被相続人は生前、遅くとも平成25年5月時点においては重度のアルツハイマー認知症であり、財産の管理・処分する能力は有しておらず、入所していた施設において、平成24年6月頃から夜間徘徊を繰り返し、同年3月~10月にはトイレ以外の場所で排泄するといった言動に及んでおり、②、③の遺言書を作成した時点では認知能力が著しく低下していたと判断しました。そして、このことは、③の遺言書作成時に公証人からの問いに的確に回答できていなかったこととも整合すること等から、②、③の遺言書は、被相続人に遺言能力がない状態で作成されたものであり、無効であると裁判所は判断しました。

遺言書の無効に関するQ&A

遺言書を勝手に開封したら無効になるの?

秘密証書遺言と、法務局以外で保管されていた自筆証書遺言は、開封前に家庭裁判所に検認を申し立てる必要があります(法務局において保管されていた自筆証書遺言は、検認の必要がありません)。検認は遺言書が偽造・変造されることを防止する目的で行う手続であり、遺言の有効性に影響を与えるものではありません。そのため、検認前に開封したからといって、その遺言書が無効になることはありません。 開封してしまった場合は、そのままの状態で家庭裁判所に提出し、事情を説明して検認手続を行いましょう。検認手続を行わないと5万円以下の過料に処されてしまうおそれがありますし、遺言書を隠したり捨てたりすると相続欠格とみなされて相続権を失うおそれもありますので、ご注意ください。

遺言無効確認訴訟の提起に期限はあるの?

遺言無効確認訴訟には、いつまでに提起しなければならないという期限はありません。しかし、あまりに昔の遺言書について争う場合、無効を立証するための証拠を集めることが非常に困難になるため、早めに行うべきだといえるでしょう。 また、遺留分侵害額請求権に消滅時効があることを考慮しなければなりません。遺留分を侵害された相続人が、相続が開始した時および侵害額請求の対象となる贈与や遺贈があったことを知った時から1年以内に行使しないと、権利が消滅してしまいます。 なお、遺留分侵害額請求訴訟を起こさなくとも、遺留分を請求しておけば時効にかかりませんが、遺言無効確認訴訟を起こしても時効は中断されないことに注意が必要です。適切な対処をしなければ、遺言が有効と判断された場合に遺留分を請求できなくなってしまうおそれがあります。遺言無効確認訴訟と遺留分侵害額請求訴訟を同時に提起することが多いのも、余計な時間をかけないようにするためです。

遺言無効確認訴訟にはどれくらい費用がかかるの?

訴訟を起こすには、裁判所に手数料を納付する必要があります。この手数料は、訴訟物の価額(訴額)に応じて変わり、基本的には収入印紙を訴状に貼付して納付します。 遺言無効確認訴訟の場合、遺産の総額が訴訟物の価額となります。例えば、遺産の総額が3000万円であれば手数料は11万円、5000万円であれば手数料は17万円となります。詳しくは裁判所のウェブサイトに掲載されている手数料額早見表をご確認ください。 また、手数料のほかに、裁判所が当事者等に郵便物を送付するための切手代も用意する必要があります。 これらの訴訟費用は敗訴者が全額負担することもあれば、原告と被告双方が決められた割合で負担することもあります。

まとめ

自筆証書遺言は、作成要件が厳密に決められているため無効になりやすい遺言書であり、一方で公正証書遺言は、公証人が作成するため信頼性の高い遺言書だといえます。ただし、どちらも遺言能力がない状態で作成されたといった事情があれば、無効になるおそれがあります。 遺言は亡くなった方の最後の意思表示として尊重されるべきものですが、残念ながら、それを利用して自己の利益を増やそうと考える方も少なくありません。不当な内容の遺言に疑問を持たれた場合は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。遺言で悩まれているご依頼者様の味方となって、問題解決のお手伝いをさせていただきます。