メニュー
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
認知症等が原因で正常な判断ができない相続人がいる場合には、相続手続きが進められないことがあります。そこで、「成年後見制度」を利用して代理人を立てることにより、手続きを進めることが可能となります。 ここでは、成年後見制度の概要や、相続手続きにおける成年後見人の役割、成年後見制度のメリットとデメリット等について解説します。
来所法律相談30分無料・24時間予約受付・年中無休・通話無料
※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。 ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害等で判断能力が十分でない方を保護し、援助するための制度です。 家庭裁判所によって選任された成年後見人等が、本人の代わりに契約を結んだり、本人が結んだ契約を解約したりして、不当な契約などから守ります。 そして、相続について遺産分割協議をしなければならないときにも、本人の代わりに成年後見人等が参加します。 遺産分割協議は、相続人が全員参加して行わなければなりません。そのため、判断能力が十分でない者を除外して協議することはできません。 そこで、成年後見人等が代理して協議することによって、遺産分割協議を成立させることが可能になります。
成年後見制度には、大きく分けて以下の2種類があります。
それぞれ、以下で解説します。
法定後見制度は、判断能力が実際に低下し、それにより生じた不都合を解消するために、家庭裁判所に開始の審判を申し立て、後見開始の審判がなされることにより始まる制度です。 つまり、判断能力が不十分になってから、本人や親族等が裁判所に申立てを行い、利用を開始するものです。任意後見制度と異なり、後見人の権限は基本的に法律で定められています。 法定後見制度は、本人の判断能力に応じて、後見、保佐、補助の3つの類型が存在します。 それぞれ、次の表のような違いが設けられています。
後見 | 保佐 | 補助 | |
---|---|---|---|
判断能力 | 物事を理解する能力がほとんどない者を対象とする制度 | 物事を理解する能力がとても不足している者を対象とする制度 | 物事を理解する能力が不足している者を対象とする制度を対象とする制度 |
代理権の範囲 | 後見人(成年後見人)は財産に関する法律行為についてのすべての代理権を持つ | 後見人(保佐人)は法律で定められた範囲の代理権を持つ | 後見人(補助人)は法律で定められた範囲の代理権を持つ |
取消権の範囲 | 日常生活に関する行為以外の法律行為のすべてについて取消権を持つ | 法律に定められている法律行為について取消権を持つ | 法律に定められている法律行為のうち、家庭裁判所が必要だと認めた行為について取消権を持つ |
同意権の有無 | 本人の行為への同意権はない | 法律で定められた本人の行為について、同意権がある | 法律で定められた本人の行為のうち、必要だと認められた行為について同意権がある |
任意後見制度は、判断能力があるうちに、認知症等による判断力の低下に備えるために、後見人と契約する制度です。 つまり、判断能力が十分なうちに、将来を任せる後見人を自分で選び、判断能力が不十分になってから制度の利用を開始するものです。 任意後見人に対しては、契約によって様々な権限を与えることが可能であるため、柔軟性のある制度です。 ただし、本人が不当と考えられる契約を結んでしまった場合であっても、任意後見人には、法定後見人のような取消権がないことに注意しましょう。
未成年後見制度とは、親権者がいない未成年者を法的に保護し、援助するための制度です。未成年者の監護教育の権利および義務を持ち、財産を管理することを業務とします。未成年者の相続人がいる場合、成年後見制度ではなく未成年後見制度を利用します。 なお、未成年後見制度の場合は、本人に知的障害や精神障害等があることを要件としていません。 相続人に未成年者がいる場合の遺産分割協議の進め方については、以下の記事で詳しく解説しているのでご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
法定後見人や任意後見人には、特定の条件に当てはまる者は就任できないと定められています。そのような条件を「欠格事由」といいます。 欠格事由として、以下の事由が挙げられています。
本人が利益を得ると成年後見人が利益を失う状態(利益相反)であるときには、成年後見人は本人の代理人となることができません。 相続人はお互いに、一方の取り分が増えれば他方の取り分が減るため、利益相反の関係にあたります。 例えば、3人兄弟の長男が亡くなり、二男と三男だけが相続人である場合において、二男が三男の成年後見人であれば、三男を代理して相続放棄をしてしまうと二男が遺産を独占できることになってしまいます。 そのため、相続人の一方が他方の成年後見人になることはできません。 ただし、上記の例において二男が先に相続放棄をしていれば、成年後見人として三男を代理し、相続放棄することができます。
成年後見人は、相続において、本人の代わりに遺産分割協議を行うことができます。これは、遺産分割協議が本人の財産に影響を及ぼすからです。 一方で、遺言書による遺産の配分や、法定相続分による遺産の配分については、成年後見人が関与する必要がありません。 なお、成年後見人の業務には、大きく分けて「財産管理」と「身上監護」の2種類があります。 具体的には、次のような業務を行います。
【財産管理】
【身上監護】
判断能力が不十分な相続人が1人でも存在し、その相続人に成年後見人をつけずに遺産分割協議を進めようとすると、相続人が欠けているとみなされてしまい、遺産分割協議が有効に成立しません。なぜなら、判断能力が不十分である相続人は、自分に不利益な遺産分割協議の結果を、疑問を持たずに受け入れてしまうおそれがあるからです。 その点、成年後見人は本人の利益のために行動するので、遺産分割協議でも、本人が不利益を被らないように財産を確保することができます。 したがって、判断能力が不十分な相続人が成年後見制度を利用すれば、遺産分割協議を行うことができるようになります。
成年後見制度には、メリットもあればデメリットもあります。制度を利用する前に、制度について知っておきましょう。 成年後見制度のメリットとデメリットについて、以下に挙げますのでご覧ください。
成年後見制度には、以下のようなメリットがあります。
なお、信頼できると思う人を任意後見人に指定したとしても、実際に財産の管理を開始すると、お金を流用してしまうおそれがあります。 また、法律のことがよく分からないために、不正とされる行為に及んでしまうリスクもあります。 そこで、家庭裁判所が任意後見監督人を必ず選任し、後見人の職務をチェックしながら、必要があれば後見人の相談に応じる等します。
成年後見制度には、以下のようなデメリットがあります。
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します
法定後見制度と任意後見制度では、成年後見制度開始の申立て手続が異なります。 法定後見制度は、初めから家庭裁判所に開始の申立てを行い、後見人を選任してもらいます。 一方で、任意後見制度では、公正証書を作成して、任意後見受任者(任意後見人になる人)を選任しておき、本人の判断力が低下してから家庭裁判所に開始の申立てを行うことになります。 成年後見制度について、家庭裁判所での手続きや費用、必要書類等については以下の記事で詳しく解説しておりますのでご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
成年後見制度において、後見人による財産の使い込みなどの不正がされるおそれは、残念ながらゼロではありません。 後見人として親族が選任された場合、専門的な知識がない状態で本人の財産等を管理しなければならず、負担は決して軽くありません。後見人は、簡単には辞任できないので、「予想よりも大変だから」といった理由で辞任するのは難しいと考えられます。 さらに、後見人は解任することも困難です。 そのため、後見人が職務を怠っているのではないかと疑っても、証拠がなければ辞めさせるのは難しいでしょう。
弁護士が後見人になれば、財産を私的に流用する等の不正な行為をするおそれは少なくなります。また、後見人に必要な知識を有しているので、本人の利益のために適切な処理が期待できます。 後見人の職務は本人が亡くなるまで続きます。後見人としての職務は親族にとって重い負担となるおそれがあるため、専門家に任せることで安心につながるでしょう。
後見人の業務は、成年被後見人である本人が死亡すると、何らかの手続きを行わなくても終了します。 ただし、即座に後見人の業務を終わらせてしまうと、管理していた財産を放置することになってしまうため、本人が亡くなったことを家庭裁判所に報告しなければなりません。 報告するときには、死亡診断書の写しまたは死亡の記載のある戸籍謄本等を添付します。 その後、法務局に対して後見終了の登記の申請を行い、現在の本人財産額の計算を2ヶ月以内に行います。 そして、本人の財産を相続人に引き継ぎ、後見事務終了報告書を作成して、家庭裁判所に提出することによって業務は終了します。
成年後見制度に関してよくある質問について、以下で解説します。
親族が成年後見人になることは可能です。ただし、「成年後見人になりたい」と申し出た親族が必ず成年後見人になるわけではありません。 誰を成年後見人にするかは家庭裁判所によって決められるため、立候補した親族がいたとしても、相応しくないと判断されれば弁護士や司法書士といった専門家が選任されます。 近年では、立候補した親族を尊重してもらえる傾向にありますが、基本的には本人が亡くなるまで後見人として活動しなければならないことに注意しましょう。
成年後見人が本人に代わって相続放棄をする場合には、「後見人が本人について相続が始まったことを知ってから3ヶ月以内」に相続放棄を行わなければなりません。 ここで、後見人が本人と共に相続する立場の者であるケースでは、基本的に本人の相続放棄手続きを代理できないので、「特別代理人」を選任しなければならないことに注意しましょう。 ただし、後見人が先に相続放棄をした場合については、本人に相続放棄させることが可能です。
成年被後見人が死亡した場合には、以下の手続きを行う必要があります。
成年後見制度を利用すれば、本人の財産等を守ることができる可能性があるものの、本人が亡くなるまで続くため、法律に詳しくない親族が後見人になることの負担は重い場合が多いです。 途中でやめたいと思うかもしれませんが、辞任は簡単に認められるわけではありません。 また、後見人による本人の財産の横領についても不安でしょう。 後見人による横領のほとんどは、親族を後見人とした場合に生じます。親族が後見人になると、他の親族から横領を疑われてトラブルに発展するケースもあります。 弁護士を後見人にしていただければ、職務として財産の管理を行うので、安心して任せていただけます。 トラブルの防止や適切な財産管理がなされることを期待するのであれば、ぜひ弁護士にご相談ください。
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します