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遺言書の8つの効力は?法的に有効となるためのポイントを解説

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

遺言書は、法律で定められた方式・書式に則ってきちんと書けば、強い効力を持ちます。しかし、形式的なミスによって、せっかく作成した遺言書が無効になってしまうリスクもあります。 また、遺言書は万能ではないため、記載してもそのとおりにならない事項も少なくありません。 このページでは、遺言書の効力や遺言書が無効となる要因、遺言書が有効と認められるためのポイント等について詳しく解説していきます。

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遺言書の8つの効力とは?

遺言書の効力

遺言書の正しい書き方は民法で決められており、それに従った方式・書式の遺言書でなければ、法的に有効な遺言書とはならず、効力は発生しません。 また、遺言書の効力として、主に以下の8つが挙げられます。

  • ①相続分の指定
  • ②法定相続人でない人への遺贈
  • ③遺産分割方法の指定・分割の禁止
  • ④未婚で生まれた子供の認知
  • ⑤未成年後見人の指定
  • ⑥生命保険の受取人の変更
  • ⑦相続人の廃除
  • ⑧遺言執行者の指定

これらの効力について、次項より解説します。

①相続分の指定

各相続人に、どのような割合で遺産を相続させるか、遺言で指定することができます。 例えば、配偶者と2人の子供がいる場合、民法で規定されている法定相続分は「配偶者:2分の1、子供:各4分の1」ですが、遺言によって法定相続分とは違った、「配偶者に財産の8分の5を、長女に4分の1を、長男に8分の1を相続させる」といった指定ができます。 法定相続分について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

②法定相続人でない人への遺贈

遺言では、法定相続人でない特定の人に財産を贈与することができます。 遺言による贈与を「遺贈」といいます。 受遺者(遺贈を受ける人)は法律で限定されていないので、内縁関係の配偶者や世話になった親戚、仲の良い友人等、法定相続人ではない人に遺贈する旨を遺言書に記載することができます。 なお、個人宛だけでなく、公共団体や慈善団体、NPO法人などの団体にも遺贈(寄付)が可能です。 法定相続人と遺贈に関しては、以下の各ページで詳しく説明しています。これらのページもぜひご一読ください。

③遺産分割方法の指定・分割の禁止

遺言では、どの財産を誰に残すのか、遺産分割の方法を指定することができます。 例えば、「土地と家は妻に、預貯金は長女に、美術品は次女に」という遺言を残した場合、その内容どおりに遺産を分けることになります。 また、遺言では遺産分割の禁止もできます。 例えば、自分の死後、すぐに相続を開始すると揉めてしまいそうなので期間を置きたい場合等では、遺言者が亡くなってから5年間の範囲で遺産の分割を禁止できます。 「預貯金のみ分割を禁止する」のように遺産を特定しておけば、一部のみを分割禁止の対象とすることもできます。

④未婚で生まれた子供の認知

遺言により、非嫡出子を認知することが可能です。 非嫡出子とは、結婚していない男女のあいだに生まれた子供のことで、例えば内縁関係にある女性との間に生まれた子供、あるいは愛人の女性との間に生まれた「隠し子」のような存在などです。 非嫡出子と父親は、父親が認知をしなければ法的な親子関係がありません。しかし、遺言で認知することにより法的な親子関係が発生するため、結婚している男女の間に生まれた子である嫡出子と同様に、相続人になって遺産を相続する権利を持つことになります。 なお、遺言で子供を認知する場合は遺言執行者(後ほど説明します)が手続きを行うことになるため、遺言執行者の選任が必要になります。

⑤未成年後見人の指定

遺言によって、未成年の子供の未成年後見人を指定することが可能です。 未成年の子供がいて、かつ、遺言者が亡くなると親権者となる人が誰一人としていなくなってしまう場合、遺される子供のためにも未成年後見人を選任する必要があります。未成年後見人とは、親権者がいない未成年者の、財産管理や、生活にかかわる法律行為を本人に代わって行う者のことです。 未成年者本人か親族が家庭裁判所に申し立てて選任するほか、最後の親権者が遺言で指定することが可能です。親族に手続きを委ねることもできますが、あらかじめ準備できるのであれば、遺される未成年の子供の不安や負担を考えても、遺言による未成年後見人の指定は有用といえます。

⑥生命保険の受取人の変更

生命保険の死亡保険金の受取人を変更したい場合、通常は契約者本人が直接保険会社と手続きをする必要がありますが、平成22年4月1日施行の保険法により、遺言により死亡保険金の受取人を変更することもできるようになりました。 ただし、上記保険法の施行前に締結した契約については、遺言で変更できるかどうかは保険会社の判断によります。 また、受取人が死亡保険金を受け取った後に、受取人変更の旨が記載されている遺言書が見つかり相続人が申し出たとしても、保険会社には対応してもらえません。 このような場合、当事者間の話し合いによって解決するしかなく、トラブルになることも考えられるため、遺言で死亡保険金の受取人を変更する際は注意が必要です。

⑦相続人の廃除

遺言者が亡くなったら相続人になる予定の者について、遺言書で、遺留分を含めた相続権をすべて失わせる「相続廃除」の意思表示ができます。 ただし、相続廃除は必ず認められるわけではなく、該当の相続人から被相続人に対し、虐待、重大な侮辱、著しい非行があった場合のみ認められます。遺言書に相続廃除の意思表示があった場合、家庭裁判所が個々の事情を鑑みて審査し、判断します。 例えば、暴力を振るったり、お金を肩代わりさせたりといった事情があれば、相続廃除が認められる可能性がありますが、100%というわけではなく、相続廃除の判断の基準は厳しくなっています。 相続廃除については、以下のページで詳しく解説しています。こちらもぜひ併せてご一読ください。

⑧遺言執行者の指定

遺言執行者とは、遺言内容を実現するために一切の義務・権利を持つ人のことです。遺言により、この遺言執行者を指定できます。 相続人だけですべての手続きを行うことも不可能ではありませんが、非嫡出子の認知や、相続人廃除の手続きは遺言執行者でなければ行えないため、それらが含まれる遺言について遺言執行者は必須となります。 トラブルを防止するために、弁護士などに事前に依頼しておき、遺言執行者に指定することをおすすめします。 遺言執行者が必要なのに指定されていない場合には、家庭裁判所に申し立てて選任してもらいます。 あるいは、「長女に遺言執行者の指定を任せる」というように、遺言執行者の指定を遺言により委託することも可能です。 以下のページで、遺言執行者について、必要なケース、不要なケース、その権限でできること、指定の方法などを詳しく解説しています。こちらもぜひ併せてご参照ください。

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どのような遺言書が無効になる?

遺言書が無効になるケース

遺言書が無効になり、効力を持たないケースとして、具体的に以下のような例があります。

  • 自筆証書遺言の場合……遺言者の手書きではない(パソコンによる作成、代筆、音声、動画など)、日付の記載がない、遺言者の署名・捺印がない等
  • 公正証書遺言の場合……証人となった者が、本来は証人の資格がなかった等
  • 作成時、遺言書に遺言能力がなかった……精神障害や重度の認知症などの影響により、作成時に遺言能力がなかった
  • 2人以上が共同で作成した遺言書
  • 第三者による詐欺や強迫によって書かれた遺言書

また、遺言書であっても、遺留分を侵害している部分や付言事項については記載したとおりの結果にならないケースがあります。これらについては次項より解説します。 遺言書が無効になるケースについては、以下のページで詳しく解説しています。こちらもぜひ併せてご参照ください。

遺言に書いても「遺留分」の侵害はできない

遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に最低限保障されている、相続財産の取り分のことです。 基本的には相続財産全体の2分の1が遺留分となり、法定相続人が親や祖父母などのみの場合は3分の1になります。 遺留分を侵害された法定相続人は、遺留分侵害額請求を行うことによって、侵害された遺留分に相当する金銭等を取り戻すことができます。 ただし、これは自動的に遺留分を取得できるということはありません。たとえ遺留分を侵害している遺言書であっても、遺留分を有する人が請求しなければ、遺言書で指定した相続が実現することになります。 遺留分侵害額請求については、以下のページで詳しく解説しています。こちらもぜひご一読ください。

法的効力を持たない「付言事項」とは?

付言事項とは、遺言書に記載すると効力を持つ遺言事項以外のことです。 法的に効力を持たないことを、遺言書に記載してはいけないという決まりはありません。伝えたいことがあれば自由に書くことができます。 特に、家族への思いや、遺言書を書いた理由・経緯などを記しておくことによって、相続がスムーズに進む可能性があります。 付言事項の例としては、以下のようなものがあります。

  • 遺言書を書いた理由、経緯
  • 遺贈や相続分の指定の理由
  • 家族やお世話になった人への感謝の気持ち
  • 葬儀やお墓に関する希望(家族葬にしてほしい、直葬にしてほしい、永代供養にしてほしいなど)
  • 臓器提供の意思表示

遺言書の効力は絶対なの?

遺言書の記載内容は、基本的に優先されます。 しかし、絶対ではなく、付言事項に強制力はないので無効となるケースもあります。 また、遺留分を侵害すると、遺留分侵害額請求によって結果的に希望どおりにならないこともあります。 なお、相続人全員の合意があれば、遺言内容と違う分割をすることも可能です。この点については次項で解説します。

遺言の内容に納得がいかない場合

遺言の内容に従いたくない場合、相続人全員の合意を得ることができれば、遺言とは異なる内容で遺産分割協議を成立させることができます。 相続人全員の合意を得られない場合で、遺言の有効性に疑義があるときは、「遺言無効確認調停」「遺言無効確認訴訟」といった手段を用いることが考えられます。 遺言無効確認訴訟について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。

遺言書が効力を持つ期間に期限はある?

遺言書の効力が発生するのは、基本的に遺言者が亡くなったときです。 ただし、遺言書の効力の発生については例外があります。「Aが成人したら不動産を相続させる」等の条件をつけることができます。このような遺言を、「停止条件付遺言」といい、条件が成立するまでは効力は停止します。 遺言者が亡くなる前にすでに条件が成立している場合は、無条件の遺言と同じ扱いになりますので、効力の発生は亡くなった時点となります。 条件が成立しないことが確定した場合には、遺言のその部分は無効になります。 なお、遺言書に有効期限はありません。何十年前に書かれた遺言であっても、方式や書式に不備がなければ有効となります。

遺言書が有効と認められるための作成ポイント

遺言書の作成にはルールがあり、反すると無効となるリスクが生じるため、慎重に作成しなければなりません。 遺言書が有効となる可能性を高めるためのポイントを、次項より解説します。

法律で定められた形式や条件を守る

遺言書を作成する方法は、細かく定められています。そして、作成方法は遺言書の種類によっても異なるので、それぞれに応じた作成方法を守りましょう。 遺言書の種類と作成するときの要件を表にまとめたのでご覧ください。

遺言書の種類 要件
自筆証書遺言 遺言書の財産目録を除く全文と日付、署名を必ずすべて自筆で作成し、押印する
公正証書遺言 公証役場で遺言書の内容を公証人に伝えて作成してもらい、証人2人以上の立ち会いのもと内容を確認する
秘密証書遺言 遺言書の本文や日付は自筆や代筆、パソコン等によって作成して、署名は必ず自筆で行って、押印して封印する

公正証書遺言を利用する

公正証書遺言とは、公証役場において公証人に作成してもらう遺言書です。専門家である公証人に作成してもらうため、形式的なミスによって無効となるリスクが低い遺言書だといえます。 自筆証書遺言は、財産目録以外の全文を自筆しなければならないため、形式的なミスや曖昧な文言等によって無効となるリスクが高いため、不安のある方は公正証書遺言を作成すると良いでしょう。 ただし、自筆証書遺言とは異なり、遺言者の財産の金額に応じた費用がかかることに注意しましょう。 公正証書遺言について詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。

弁護士に相談する

自分だけで遺言書を作成すると不備が発生しやすいため、不安な方は弁護士に相談して作成することをおすすめします。 弁護士に相談すれば無効になるリスクが下がるだけでなく、よりトラブルを招きにくくなるようにアドバイスを受けることもできます。 また、遺言書の保管を依頼することや、遺言執行者への就任を依頼することも可能です。

遺言書の効力に関するQ&A

遺言書を書き直すと無効になってしまいますか?

遺言書は、民法で定められている方式を守っていれば、何度でも書き直すことができます。 複数の遺言書がある場合、基本的には記載されている日付が新しい遺言書が優先されます。そのため、書き直した遺言書で別人を相続人としている場合には、その部分については前の遺言を撤回したものとされ、後の遺言が有効になります。 なお、書き直し前後の遺言書で同じ方式をとる必要はなく、前回は自筆証書遺言で、書き直したものは公正証書遺言とすることも可能です。 また、遺言書は作成日の新しいものが優先されますが、新しいものに記載のない財産については古い遺言書も効力を持ちます。遺言書を新しく作成し直す際には、記載漏れがないようにしましょう。

遺言書を紛失してしまった場合、遺言の効力はどうなりますか?

作成した遺言書を紛失してしまった場合、対応は遺言書の種類によって異なります。 法務局で保管せず自身で保管していた自筆証書遺言または秘密証書遺言の場合、紛失により効力はなくなりますので、作り直す必要があります。 公正証書遺言の場合は、公証役場に原本が保管されているため、遺言者が交付された正本や謄本をなくしても、効力が失われることはありません。手数料を支払えば、新たに謄本を交付してもらうことができます。 なお、古い遺言書も、新しい遺言書に記載されていない部分、抵触しない部分は効力を持ちますので、紛失した遺言書が見つかる可能性も考慮し、新たに作成する際には注意しましょう。

遺言書を検認前に開封したら、その遺言書は無効になってしまいますか?

勝手に開封すると過料があります

検認前に遺言書を開封してしまっても、それだけで遺言書が無効になったり、開封した人の相続権がなくなったりするわけではありません。 検認とは、遺言書の状態や内容等を確認し、相続人に遺言書の存在を知らせるための手続きです。遺言書を開封する前に検認を受けるべきですが、もしも開けてしまったら、そのままの状態で家庭裁判所の検認を受けましょう。 検認手続きをせずに勝手に遺言書を開封した場合、5万円以下の過料に処せられるおそれがあります。しかし、開けてしまったことを隠そうとして、遺言書を破棄したり隠蔽したりすると、「相続欠格」という制度によって相続権を失うリスクが生じます。 なお、相続人のことを考えるなら、遺言書を残すときに検認が必要なことを封筒に記載すると良いでしょう。また、法務局で保管されていた自筆証書遺言と、公正証書遺言は検認の手続きが不要なので、これらを利用することをおすすめします。 なお、検認については以下のページで詳しく解説しています。こちらもぜひご参照ください。

遺贈を受ける人が遺言者よりも先に死亡した場合、その遺贈は無効になりますか?

遺言者が亡くなる前(停止条件付遺言の場合は、条件の成立前)に、受遺者(遺贈を受ける人)が亡くなった場合、遺贈の効力は発生しません。 相続人が亡くなった場合、その子供が相続人になる「代襲相続」が起こりますが、遺贈の場合、受遺者の子供が遺贈を受けることにはならず、遺贈を受ける権利は一代かぎりということになります。 遺贈の対象となっていた財産は、相続人で分配することになります。ただし、遺言書に「遺言者より先に受遺者が死亡した場合は、受遺者の子供に遺贈する」というような記載(予備的遺言)があった場合、その遺言には効力が発生し、子供が受遺者になります。

相続問題に詳しい弁護士が、法的に有効となる遺言書の作成をサポートします

法的に有効な遺言書を作成し、効力を発生させるためには、多くの点に注意しなければなりません。 せっかく遺言書を作成したにもかかわらず、不備があって無効になってしまっては、遺言の内容を実現してもらえなくなります。さらには、遺族の争いの原因になってしまうリスクすらあります。 法的に有効であり、確実な遺言書を残したいとお考えの際は、ぜひ弁護士にご相談ください。細心の注意を払いながら、遺留分などにも配慮した遺言書の作成をサポートいたします。 遺言書の作成にご不安をお持ちの方、遺言書に関してお悩みがある方は、小さなことでも、ぜひご相談ください。