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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
「自分は他の仕事に就いているので、不要な農地を手放したい」「相続税を全額は支払えないので、農地だけ相続放棄をしたい」「どうにかして農地を手放す方法はないの?」等々、農地を相続するに際して、皆様様々な思いや疑問を抱かれていらっしゃるかと思います。 本記事では、農地の相続と相続放棄について詳しく解説していきます。
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不要な農地だけ相続放棄をすることはできません。 そもそも相続放棄とは、相続財産に関する一切の権利義務を放棄することをいいます。相続財産のすべてに対して行う制度ですから、積極財産(プラスの財産)か消極財産(マイナスの財産)かを問わず、すべての相続財産に関する相続の権利を手放すことになります。 したがって、都合の良い財産だけを選んで相続することはできないのです。
相続放棄によって農地の所有権を得ることを免れることはできます。しかし、相続で農地を得て、後になって所有権を放棄することはできません。 そもそも、所有権とは物を自由に使用・収益・処分することのできる権利ですが、民法では、土地をはじめとした不動産の所有権の放棄を認めていません。相続放棄ではすべての相続財産に関する権利を放棄しなければならないことに加え、不動産の所有権の放棄は認められないので、農地の所有権だけを放棄することはできないのです。
「管理義務」とは、自分の財産におけるのと同一の注意をもって相続財産の管理をしなければならない義務をいいます。 相続放棄をしても、新たな相続人が相続財産の管理を始めることができるようになるまでは、継続して管理義務を負うことになります。 相続放棄後の管理義務について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
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相続放棄をした場合、相続をする権利は、相続人の順位に従い移動します。 後順位の相続権を持つ人が相続をすれば、農地の所有権者はその人になります。また、相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなり、相続財産管理人による相続財産の管理清算として競売にかけられた場合には農地を落札した人が、換価や売却ができずに国庫帰属した場合には国が、農地の所有権者となります。 なお、相続放棄をしたにもかかわらず、亡くなった被相続人名義の農地の名義変更を行おうとする方がいらっしゃいますが、絶対にしてはいけません。 民法には法定単純承認という制度があり、登記名義の変更といった財産権の法律上の変動を生じさせる処分行為等を行うと、無条件に相続をしたものとみなされてしまうからです。
農地を小作人へ貸し出しているときに貸主が死亡し、相続人に農地が相続された場合、農地の賃貸借契約はそのまま存続します。 一方、相続人全員が相続放棄をして相続人がいなくなった場合は、相続財産管理人との間で賃貸借契約が存続することになります。この場合、賃借人は相続財産管理人に賃料を支払い使用継続するか、賃貸借契約が解除されることになります。 なお、相続財産管理人が選任されない場合は賃料の支払先がなくなるため、賃借人は不安定な立場のまま使用を継続することになると思われます。この場合、賃料不払いによる債務不履行解除を避けるため、賃借人には賃料を供託する必要が生じます。
「相続税が支払えないため、農地の相続放棄をしたい」 このように考えられている方は、少しお待ちください。相続放棄を行うか否かは、農地を相続する場合に受けられる、税制上の優遇措置である「納税猶予の特例」をよく理解してから判断するべきです。
「納税猶予の特例」とは、一定の条件を満たした場合に、農地を相続した、または贈与された相続人に対して、農地にかかる相続税または贈与税の納税を猶予する制度です。一定の条件には、相続人が農業を続けたり、農業を行う人に農地を貸し出したりすることで、農業が継続されること等があります。 なお、「納税猶予」とはいうものの、納税の期日が先延ばしになるわけではなく、一定額以外の部分についての納税額が猶予される制度です。そして、農業を続けるのであれば、事実上、猶予された納税額が免除されることがほとんどです。 納税猶予の特例は、農業の継続を支援し、農地の有効活用を図るために定められています。
納税猶予の特例の存在を考慮しても農地を手放したい場合、どのような方法をとることができるのでしょうか? 日本の食料自給率は諸外国と比べて低く、農業離れが深刻化しています。そのため、食料の供給源として貴重なものである農地は簡単に用途変更や売却ができないようになっています。この点が建物の敷地となる宅地とは異なります。 では、宅地と農地の具体的な違いとはどのようなものなのでしょうか?
宅地と農地の違いには、①地目の違い、②固定資産税の違いがあります。
① 地目の違い
宅地は、宅地という地目の一種であり、「建物の敷地及びその維持もしくは効用を果たすために必要な土地」と定義されています。 一方、農地は、田または畑という地目の一種であり、「(田)農耕地で用水を利用して耕作する土地」、「(畑)農耕地で用水を利用しないで耕作する土地」と定義されています。
② 固定資産税の違い
固定資産税は、固定資産税評価額(固定資産税の対象となる土地がいくらくらいの価値があるのかを評価した価格)に税率をかけて求めます。宅地と農地では、一般的に農地の固定資産税評価額が低くなります。そのため、固定資産税の金額も下がるのです。
宅地と農地では、土地の用途が異なるために、税負担も異なります。 加えて、売却が農地法で制限されているため、売却方法も異なっています。具体的には、①農地のまま農家に売却するか、②農地以外に用途変更して売却するかの2通りの売却方法が認められています。 いずれの方法でも、一定の条件を満たしたうえで農業委員会の許可を得ることが必須です。そのため、売却することを念頭に農地を相続しても、農業委員会の許可が得られずに売却できない場合があるのです。
説明したとおり、農地の売却は農地法により制限されており、①農地のまま農家に売却するか、②農地以外に用途変更して売却するかの2通りの方法でしか売却することができません。このことからわかるように、用途変更しないままでは、農地を宅地として販売することはできません。 このように、農地の用途を変更し、農地以外のものにすることを「農地転用」といいます。 農地転用するには、立地基準と一般基準(土地の利用目的や周囲への影響に関する基準)に基づき決定される、農業委員会の許可を得る必要があります。 なお、農地転用して宅地にすれば買い手がつきやすくなりますが、納税猶予の特例を受けることはできなくなります。納税猶予の特例は、高額になる傾向にある農地の相続税を免除することに近い制度です。農地転用と、納税猶予の特例のメリットとデメリットをよく理解したうえで、農地転用をするかどうかご判断ください。
農地の転用に必要な農業委員会の許否は、「立地基準」と「一般基準」に基づき決定されます。 立地基準とは、農地をその農業における優良性や周辺の土地利用状況等によって区分し、転用する土地を農業上の利用に支障が少ない農地に誘導する基準です。許否の決定が厳格な順に区分すると、以下のようになります。
これに対し、一般基準とは、土地の利用目的や周囲への影響に関する、次の3つの基準です。
農地の処分には手間がかかります。しかし、すぐに処分できないからといって放置すると「耕作放棄地」となり、さらに処分が難しくなってしまいます。 耕作放棄地とは、現在耕作が行われていないことに加え、近いうちに耕作の予定もない、放置されている農地のことをいいます。誰の手も加えられないので、耕作放棄地では、雑草や害虫の発生、廃棄物の不法投棄、野生動物の繁殖等の問題が発生してしまいます。また、耕作放棄地となると、農地が持つ様々な有用性が失われてしまいます。 このように、有用性が失われ、様々な問題が発生した土地になってしまっては、売却するとなっても買い手がつかず、寄付も断られ、国庫帰属も拒否されて、結局処分することができなくなってしまいます。
不要な農地を手放す方法の一つとして、寄付を思いつかれる方もいらっしゃるかと思います。 しかし、ほとんどの場合、土地の資産価値が低く買い手もつかないために寄付をするので、自治体もこのような農地の寄付を受けたいとは思わないでしょう。また、土地の寄付を受けると、管理費等が増えるだけでなく、税収の多くの割合を占める固定資産税の収入も減ってしまいます。したがって、農地の寄付をしようと思っても、寄付を断られてしまう場合が多いでしょう。
農地を放置して耕作放棄地にしてしまった場合、次のようなトラブルが起こってしまうおそれがあります。
相続放棄をすると、不要な相続財産の相続を免れることができます。しかし、不要な農地だけの相続を拒否し、他の相続財産は相続するといったように、都合の良い財産だけを選んで相続することはできません。また、一度した相続放棄は撤回できません。 ですから、相続財産の調査や相続放棄後のシミュレーションを専門家である弁護士とともにしっかり行い、相続放棄をするのが本当に得策かどうか、慎重に判断するべきでしょう。また、相続放棄の申立ては、一度却下されると再び申し立てることはできないため、慎重に手続を進めるる必要があります。加えて、農地の相続放棄には特有の問題があるため、相続放棄やそれに伴う手続は特に複雑です。 スムーズな解決を図るためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。