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監修弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates 執行役員
相続放棄をしても、遺産に関する全ての義務が、すぐになくなるわけではありません。なぜなら、遺産の管理義務が発生する場合があるからです。 そのため、以下のような相続財産が残っていた場合、相続放棄をするには特に注意が必要です。
これらの相続財産があるケースで相続放棄をするときは、管理責任を追及される場合があります。状況によっては、損害の賠償責任を負うリスクもあるため、注意するべきことを把握しておくのが望ましいでしょう。 ここでは、管理義務の内容や、義務を怠ったときの影響等について解説します。 なお、家屋、農地の相続放棄に伴う管理義務については、以下の記事でも詳しく解説しているので併せてご覧ください。
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相続放棄後の管理義務とは、相続放棄をした後に、自分の財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければならない義務です。 現行民法において、相続放棄をしても管理義務が発生するのは、主に以下のようなケースです。
※令和3年改正民法が施行された後は、放棄のときに現に占有している財産について、相続人等に引き渡すまでの間、管理義務を負うことになります。
管理義務は、あくまでも遺産を「管理」をする義務です。管理とは、財産の保存・利用・改良を目的とする行為に限られます。 そして、相続財産である家屋の登記名義を変更したり、土地を売却したりする等の行為は、管理行為を超えた「処分」行為に当たるとされています。そのため、これらの行為は管理義務の範囲内の行為としては認められません。 もしも「処分」行為をしてしまった場合には、全ての遺産を相続すると認めたことになってしまいます。全ての遺産を相続すると、相続放棄はできなくなってしまいます。
相続放棄後の管理義務は、相続放棄によって相続人となった人(相続放棄をしていない他の相続人、次順位の相続人)が相続財産の管理を始められるまで継続します。もしも、他の相続人等がいないときには、相続財産管理人が選任されるまで継続してしまいます。
相続放棄した者の相続財産の管理義務は、次の相続人が管理できるまで続きます。 例えば、第一順位の相続人・子が相続放棄をすると、父母が相続人になり、父母が相続財産の管理を始めるまで相続財産を管理します。 相続人となる順位は以下のとおりです。
常に相続人になる | 配偶者 |
---|---|
第一順位 | 子 |
第二順位 | 直系尊属(両親等) |
第三順位 | 兄弟姉妹 |
「次の相続人が管理できるようになるまで」とは、次順位の相続人に相続財産を引き継ぎ、管理できる状態になるまでということです。 例えば、被相続人の子が相続放棄をして、被相続人の妹が相続人になったケースでは、相続放棄によって子は相続財産に含まれる不動産や預貯金の通帳等を管理することになります。そして、基本的には、妹に不動産や預貯金の通帳等を引き渡すことによって管理義務がなくなります。 ただし、あらゆる相続財産について引き渡しによって管理義務がなくなるわけではなく、個別の事情を考慮して決められます。
相続放棄によって相続人がいなくなった場合には、最後に相続放棄をした元相続人が、相続財産を管理する義務を課されることになります。そのため、相続財産を適切に管理せず、財産を目減りさせたり、周辺住民等に損害を与えたりすると、損害賠償請求をうけるおそれがあります。 そこで、元相続人等の申立てによって、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任します。そして、実際に相続財産の管理を始めれば、元相続人の管理義務は消滅します。
相続放棄をした者が相続財産の管理義務を負った場合に、その管理義務を怠ると不利益を受けるリスクがあります。 考えられるリスクとして、以下のものが挙げられます。
これらのリスクについて、以下で解説します。
相続放棄した後で、相続財産の管理を怠ると損害賠償請求を受けるリスクがあります。最も注意するべきなのが家屋等の不動産であり、老朽化した壁や塀などの倒壊等の事故によって、近隣住民等から管理者に対する損害賠償請求を受けるおそれがあります。
空き家や空き地を放置すると、不法投棄や害虫の発生等により住環境が悪化して、近隣住民からの苦情を受けるリスクがあります。 さらに、空き家の場合には、放火される等の事件によって周囲に迷惑をかけてしまうリスクもあります。誰かが許可なく住み着いてしまうと、治安に悪影響を与えてしまうおそれもあります。
相続財産管理人とは、家庭裁判所によって任命される、相続財産の管理等をする人をいいます。 相続人がいるのかが明らかでない場合や、すべての相続人が相続する権利を放棄して相続人がいなくなった場合等に、相続に関して利害関係がある人等の申立てによって家庭裁判所で審理されます。そして、家庭裁判所によって相続財産管理人が必要だと判断されれば、相続財産管理人が選任されます。 では、相続に関して利害関係がある人とはどのような人をいうのでしょうか。 例えば、相続財産を管理する義務から逃れようとする元相続人や、被相続人に貸していたお金の弁済を求める債権者等のことをいいます。
相続財産管理人は、業務として相続財産の管理清算を行うため報酬が発生します。また、管理等のために経費も必要です。 相続財産管理人の報酬や経費は、基本的には相続財産から支払われますが、不足する場合には申立人の負担となります。そのため、相続財産が少なくても報酬を支払えるように、選任の申立てのときには、申立人が予納金として数十万円~百万円程度を納めなければなりません。 予納金が余れば返ってきますが、余るケースは少ないので、あまり期待しない方が良いでしょう。
相続放棄をした財産に価値がない場合には、利害関係人が相続財産管理人の選任を申し立てることは少なく、相続財産管理人が選任されない場合があります。 そもそも、相続人がいなくなった場合でも、相続放棄をした者等が相続財産管理人の選任を申し立てる義務はありません。しかし、債権者等の利害関係人は、相続財産から弁済を受けるために相続財産管理人の選任を申し立てることができます。 とはいえ、相続財産に価値がなければ、債権者が弁済を受けることができず、むしろ報酬等の費用がかかります。そのため、相続財産管理人が選任されないことがあるのです。 ただし、相続財産管理人が選任されなければ、相続放棄した元相続人は、相続財産を管理し続けなければなりません。そのため、老朽化した家屋を放置する等、管理義務を怠ると周辺住民とのトラブルを招くリスク等があるため注意しましょう。
損をしないために相続放棄をしたにもかかわらず、相続放棄をしたことで、結果的に損をしてしまう場合があります。 例えば、相続放棄後、元相続人が相続財産管理人の選任を申し立て、相続財産が管理清算された結果、処分が困難な土地が残ったような場合です。この場合、相続財産の管理清算によっても処分できなかった土地であるため、国が国庫への帰属を拒否するおそれがあります。 その場合、土地が処分できないために相続財産管理人の業務がいつまでも終了せず、選任を申し立てた人は、相続財産管理人の報酬を払い続けることになってしまいます。そして、結果的に相続をしていたほうが安く済んでいたというような事態に陥ってしまうケースがあるのです。
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相続放棄の管理義務に関してよくある質問について、以下で解説します。
法定単純承認とはみなされません。なぜなら、公共料金の契約を解約しても、法定単純承認の要件である「処分行為」の定義に該当しないからです。 「処分行為」とは、財産の現状・性質の変化や、財産権の法律上の変動をもたらす行為(取壊し、売却、登記の名義変更等)をいいますが、公共料金を解約しても、この処分行為の定義に該当することはありません。 したがって、公共料金の契約を解約することは、法定単純承認とはみなされません。
被相続人の住まいが賃貸の場合、賃貸借契約を解除すること等は管理義務の範囲内とされておらず、家財道具等を保管するために運び出す程度の行為しか認められません。 なぜなら、被相続人が死亡しても、賃貸借契約は自動的には終了せず、賃貸借契約の解除は処分行為に当たるため、管理義務の範囲を逸脱してしまうからです。 これに対して、家財道具等を別の場所へ移動させるといった行為は、財産を保存する管理行為に当たるため、管理義務の範囲内となります。
相続放棄後も継続して負うことになる管理義務から逃れるためには、最終的に相続財産管理人を選任することが必要ですが、多額の費用がかかるために、選任の申立てを行う方は少ないのが現状です。そして、結果的に相続財産である土地や建物が放置されてしまうことが多いです。 土地や建物を放置すると、ゴミの不法投棄や害虫の発生、老朽化による家屋の倒壊といった問題が起こり、周辺住民に損害を与えかねません。こうした損害の賠償責任は管理義務を怠った元相続人が負うことになるため、管理義務を怠ると不測の損害を被りかねません。このことから、必ずしも相続放棄をすることが最良の方法とは限らないといえるでしょう。 損害賠償請求をされてから、あるいは相続放棄をしてから後悔することのないように、あらかじめ弁護士へご相談いただいてから手続を進めることをおすすめします。