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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
相続放棄をした者がいた場合、相続放棄をしていない者に相続財産が分配されます。そのため勘違いしやすいのですが、次のことに注意しましょう。
本記事では、相続放棄をした者がいた場合の相続税について、詳しく解説していきます。
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相続放棄とは、被相続人の財産などをすべて引き継がないようにするための手続きです。相続放棄をした者は、最初から相続人にならなかったとみなされます。 相続放棄をした者がいても、相続人が支払う相続税の金額が上がることは基本的にありません。これは、被相続人の子供の全員が相続放棄して、被相続人の両親が相続する場合などでも同様です。
相続税の基礎控除とは、計算をする際に、相続税の課税対象額から無条件で一律に法定相続人の人数に応じた金額が差し引かれる控除のことであり「3000万円+600万円×法定相続人の数」だけ課税対象額より差し引かれます。財産の額が基礎控除を下回る場合、相続税は課されません。 相続放棄をした者は相続人ではなくなりますが、基礎控除を計算するときには相続人に含めます。そのため、相続放棄をした者がいても法定相続人の数は変わらず、基礎控除額・課税遺産総額・相続税の総額も変わりません。 しかし、基礎控除額を超えた分の相続財産について、相続税を負担する相続人には相続放棄をした者は含まれません。そのため、1人あたりの相続税額は増えることになります。
相続放棄した者がいても、その結果を反映せずに基礎控除の金額を計算するのは、相続放棄が個人の意思でできるからです。 被相続人が亡くなった後で相続放棄を行うため、相続放棄による相続人の増減を基礎控除に反映してしまうと、個人の意思によって税金が増えたり減ったりすることになります。それは公平な課税ではないと考えられるため、相続放棄の影響を排除しているのです。
みなし相続財産とは、相続の対象となる遺産ではないものの、相続法の規定などにより、相続税の対象となる財産のことです。たとえば、相続人が受取人に指定された生命保険金などが該当し、遺産ではないため、相続放棄をした者も受け取ることができます。 みなし相続財産に対しては「500万円×法定相続人の数」の非課税枠が設けられています。基礎控除と同じように、みなし相続財産の非課税枠も相続放棄の影響を受けません。 ただし、相続放棄をした者は、非課税枠を利用することができないため、相続放棄をしていない相続人が利用できる1人あたりの非課税枠は大きくなります。 相続放棄をした者がいるときの課税対象額について、以下の例で解説します。
法定相続人 | 配偶者、子供A、子供B |
---|---|
相続放棄した者 | 子供B |
■受け取った生命保険金の金額(合計2000万円)
配偶者:1000万円
子供A:500万
子供B:500万
■保険の非課税枠
500万円×3人=1500万円
※相続放棄は反映しないため、3人として扱います。
■相続人ごとの非課税枠
配偶者:1500万円×2/3=1000万円
子供A:1500万円×1/3=500万円
子供B:0円
非課税枠を、相続放棄していない者が受け取った生命保険金の金額に比例して分配します。 一方で、相続放棄をした者には非課税枠が適用されないため、全額が課税対象となります。このように、相続放棄をした場合でも、相続税を支払う場合があります。
相続税の控除には、基礎控除のような課税対象額の控除以外にも、税額から控除するものがあります。 相続放棄をした者がいても、相続放棄していない相続人が受ける控除には影響しません。 税額の控除には、次の6種類があります。
相続税の税額控除について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続放棄をした者がいる場合、相続税の控除額への影響について、相続放棄をした者がいない場合と比較しながら次項より解説いたします。 なお、相続税について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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まず、相続放棄をした者がいない場合について解説します。
法定相続人 | 配偶者、子供A、子供B |
---|---|
相続放棄した者 | いない |
相続財産額7000万円
相続税の基礎控除額:3000万円+600万円×3人=4800万円
相続税の課税対象額:7000万円-4800万円=2200万円
ここで、相続税の総額を計算します。
配偶者 | 2200万円×1/2×15%-50万円=115万円 |
---|---|
子供A | 2200万円×1/4×10%=55万円 |
子供B | 2200万円×1/4×10%=55万円 |
総額 | 115万円+55万円+55万円=225万円 |
以上のことから、各相続人の相続税額は次のとおりです。
配偶者 | 225万円×1/2=112万5000円 |
---|---|
子供A | 225万円×1/4=56万2500円 |
子供B | 225万円×1/4=56万2500円 |
そして、相続放棄をした者がいる場合について解説します。
法定相続人 | 配偶者、子供A、子供B |
---|---|
相続放棄した者 | 子供B |
相続財産額7000万円
相続税の基礎控除額:3000万円+600万円×3人=4800万円
相続税の課税対象額:7000万円-4800万円=2200万円
ここで、相続税の総額を計算します。
配偶者 | 2200万円×1/2×15%-50万円=115万円 |
---|---|
子供A | 2200万円×1/4×10%=55万円 |
子供B | 2200万円×1/4×10%=55万円 |
総額 | 115万円+55万円+55万円=225万円 |
以上のことから、各相続人の相続税額は次のとおりです。
配偶者 | 225万円×1/2=112万5000円 |
---|---|
子供A | 225万円×1/2=112万5000円 |
子供B | 0円 |
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相続放棄をすれば相続財産を受け取らないため、基本的に相続税を支払いません。ただし、例外的に相続税を支払うことがあります。 相続放棄をした者が相続税を支払うのは、次の場合です。
これらの場合について、以下で解説します。
相続放棄した者であっても、生命保険の死亡保険金や死亡退職金などの金銭を受け取ることができます。これらの、被相続人が死亡したことをきっかけとして支払われる、相続税の課税対象となる金銭などを「みなし相続財産」といいます。 みなし相続財産には相続税がかかります。そして、みなし相続財産の受取人が相続放棄をした者であるときは、非課税枠は適用されません。なぜなら、非課税枠は相続人のための制度であり、相続放棄をした者は相続人ではないからです。 みなし相続財産について、詳しくは以下の記事をご参照ください。
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生前贈与を受け取っていた者であっても、相続放棄をすることは可能です。 生前贈与とは、人が生きているときに、自身の財産を贈与することです。通常であれば、生前贈与は死亡とは関係なく行われるものであるため、相続税ではなく贈与税が課されます。 ただし、相続等により財産を取得した者が、被相続人が亡くなる前の3年以内に生前贈与を受けたような場合には、その財産の贈与時の価額が相続税の課税対象額に加算されます。つまり、生前贈与にも相続税が課されることになるのです。 なお、生前贈与により課された贈与税の額は、相続税の計算上控除されます。
相続放棄をしたものの、みなし相続財産などを受け取っていた者に相続税が課税される場合には、いくつかの控除を使うことができます。 使うことができる控除について、以下で解説します。
配偶者の場合には、配偶者控除という制度を適用することができます。これは、たとえ配偶者が相続放棄をしても変わりません。なぜなら、相続放棄をしても配偶者であるという事実は変わらないからです。 配偶者控除により、次の金額のうち多い方の金額が控除されます。
適用するための要件は次の2つです。
相続放棄をした者が未成年者や障害者であれば、それぞれ未成年者控除、障害者控除を受けることができます。 未成年者控除とは、相続人が18歳に満たないとき、成人するまでの1年につき10万円を税額から控除する制度です。ただし、2022年3月31日までの相続については20歳を成人として扱います。 また、障害者控除とは、相続人が85歳に満たない障害者である場合、85歳までの1年につき基本的に10万円を税額から控除します。 なお、1年未満の年数は切り上げます。さらに、相続税額より控除額が大きいときは、未成年者・障害者の扶養義務者の相続税額から超過分を差し引くことができます。
相続放棄の後に相続税の申告を行うときには、証明が必要となります。相続放棄の申出が受理されると、裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。また、受理された後に、手数料はかかるものの「相続放棄申述受理証明書」を交付してもらうこともできます。相続放棄をしたことの証明には、この通知書、証明書のどちらかを税務署に提出しなければなりません。
葬式代を支払った場合には、相続放棄しても控除が受けられます。相続放棄をしていると、通常であれば債務控除を受けられませんが、常識的な葬儀費用については、相続税の控除に充てることができます。これは、葬儀費用が被相続人の負債とは関係なく、新たに発生した費用だからです。なお、債務控除とは、相続人が被相続人の負債を負担したときに、負担分を相続財産の金額から差し引くことです。
相続放棄を行っても相続税がかかることがあり、控除を受けられるかの見極めは難しいことが多いです。さらに、相続税の申告書には数多くの書類を添付する必要があり、役所などで集めるために労力がかかります。収集に時間がかかってしまうと、10ヶ月という相続税の申告期限に間に合わなくなるおそれがあり、延滞税がかかってしまうリスクもあります。 相続税に関する計算や申告をスムーズに行うために、ぜひ法律の専門家である弁護士にご相談ください。