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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
相続が発生し、相続税の申告が必要になった場合には、いくらになるのかを把握しておきたいことでしょう。 また、自分が保有している財産について考えたときに、相続税がかかるのか、かかるとしたらいくらになるのかを、自分で計算して準備しておきたいと思われるかもしれません。 ここでは、相続税の計算方法について、相続財産に加える必要のあるものや、相続財産を減額できる制度等ついて、なるべく詳しく解説します。
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相続税は、亡くなった方が残した財産を、相続や遺言によって取得したときにかかる税金です。この税金を支払うのは、相続等により遺産を受け取った者です。 相続税には、一定の金額以下の遺産から相続税を取らないようにする基礎控除があり、これを超えると相続税がかかります。基礎控除は2015年に引き下げられたため、財産が基礎控除を上回って相続税の課税対象になる人の割合が上昇しており、近年は8%程度になっています。
相続税の基礎控除とは、遺産の中で課税対象になる金額から一定額を差し引くことのできる制度です。控除できる金額は、以下の式によって計算します。
基礎控除額=3000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人とは、遺産を相続する者として民法に定められている者のことです。配偶者は常に法定相続人となり、他の法定相続人については優先順位が定められています。その順位は以下のとおりです。
第1順位:子
第2順位:直系尊属(両親など)
第3順位:兄弟姉妹
例えば、夫(父親)が死亡し、妻と子供2人がいる場合には、法定相続人は3人となり、基礎控除額は4800万円(3000万円+600万円×3)です。この金額は、たとえ直系尊属や兄弟姉妹が何人いたとしても変わりません。 上記の例では、遺産の合計額が4800万円以内であれば相続税は課税されません。この場合には、相続税の申告手続きは不要となります。
相続税の計算方法は、下記の流れとなっております。
それぞれの計算について、以下で解説します。
まずは、遺産の総額を計算します。おおむね、遺産の合計額から、債務などのマイナスの財産を差し引くことで算出します。 より詳しく説明すると、以下の式によって遺産の総額を計算することができます。
遺産の総額=本来の相続財産+みなし相続財産+相続開始前3年以内の贈与財産+相続時精算課税制度の贈与財産-マイナスの財産
上記の式において、本来の相続財産とは、本来の相続、遺贈または死因遺贈により取得した財産をいい、みなし相続財産とは、死亡退職金や生命保険金等をいいます。 また、相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母または祖父母から18歳以上の子・孫への生前贈与について、贈与税を優遇した贈与を行える制度です。
相続税の課税対象に含める財産として、現金や預貯金、土地や建物といった不動産、自動車、株式、債券、貴金属、宝石類等が挙げられます。これらは、上記「遺産の総額」で「本来の財産」にあたるものです。 注意するべき財産として、名義が被相続人でない財産が挙げられます。例えば、被相続人が配偶者や子・孫などの名義で預貯金の口座を作り、定期的にお金を振り込んでいるケースがあります。そのような場合であっても、実質的には相続財産の一部であるとみなされることが少なくありません。 また、いわゆるヘソクリやタンス預金についても隠さずに申告しましょう。
みなし相続財産とは、法律的には被相続人から相続や遺贈により取得したものではないけれども、実質的には同様の経済的効果である財産について、本来の相続財産と同じとみなして、相続税の課税対象とされる財産です。代表的なものとして、生命保険金や死亡退職金が挙げられます。 ただし、生命保険金や死亡退職金には、「500万円×法定相続人の数」によって算出される非課税限度額が設けられています。
被相続人が死亡する前の3年以内に行われた贈与によって移転した財産は、相続税の課税財産に加算されます。これは、死期が迫った者が、自身の遺産にかけられる相続税を減らそうとして、贈与を行うことを防止するためです。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親または祖父母が、18歳以上の子または孫に贈与を行うときに利用できる、2500万円までは贈与税を支払わないで済む制度です。 この制度によって贈与を行った場合には、相続の発生時に贈与した財産を相続財産に加算する必要があるため、一見すると得をしないように感じられるかもしれません。しかし、以下のようなケースでは利用するメリットがあります。
相続税の課税価格の計算上差し引くべきマイナスの財産として、銀行等からの借金やローン、未払いの税金や医療費、葬儀費用等が挙げられます。ただし、被相続人が生前に購入したお墓の未払代金や、葬儀費用等のうちの香典返しの費用等は、相続税を計算するときにはマイナスの財産として扱われません。 被相続人に多額の借金があり、遺産の総額がマイナスになることが確実な状況では、相続放棄を検討するべきです。相続放棄は、相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内に行わなければならないので注意しましょう。 相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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プラスの財産からマイナスの財産を差し引くことによって遺産の総額を計算したら、さらに相続税の基礎控除額についても差し引いて「課税遺産総額」を計算します。 課税遺産総額は、以下の式によって求めます。
課税遺産総額=遺産の総額-基礎控除額
例えば、遺産の総額が6000万円、基礎控除額が4200万円であった場合には、以下のようになります。
遺産の総額(6000万円)-基礎控除額(4200万円)=課税遺産総額(1800万円)
上記の例では課税遺産総額がプラスになっていますが、同じように計算したときに、もしも課税遺産総額がマイナスになった場合には、相続税がかからないことを意味します。
課税遺産総額を計算したら、そこから相続税の総額を算出します。 相続税の総額を算出するためには、課税遺産総額を法定相続分に従って分配することを前提に、全員が支払うべき相続税を計算し、その合計額を算出します。
例えば、課税遺産総額が8000万円であり、法定相続人が配偶者と子2人(子A・子B)であった場合を考えます。 相続税の総額を計算するためには、実際の遺産の取り分とは無関係に、法定相続分によって各々が支払う相続税を、速算表を利用しながら計算します。 法定相続分による各々の遺産の取り分は以下のとおりです。
・配偶者 8000万円×1/2=4000万円
・子A 8000万円×1/4=2000万円
・子B 8000万円×1/4=2000万円
次に、上記の遺産の取り分を基準として、速算表の税率を乗じ、控除額を差し引きます。
・配偶者 4000万円×20%-200万円=600万円
・子A 2000万円×15%-50万円=250万円
・子B 2000万円×15%-50万円=250万円
こうして求めた各々の相続税を合算して、相続税の総額を導きます。
600万円+250万円+250万円=1100万円
以上のことから、このケースにおける相続税の総額は1100万円です。 なお、相続税の速算表は以下のようになっています。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円以上 | 55% | 7,200万円 |
法定相続分とは、民法によって定められた相続人(法定相続人)が、遺産を相続する割合のことです。 常に法定相続人になる配偶者以外の法定相続人には、相続順位が設けられています。より順位の高い法定相続人がいる場合には、順位が劣る者は基本的に相続人にはなりません。 法定相続人の相続順位は以下のとおりです。
・第1順位 子
・第2順位 直系尊属
・第3順位 兄弟姉妹
法定相続人の順位について詳しく知りたい方は、以下の記事において図を用いて説明しておりますのでご覧ください。
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続税の総額をもとに、相続人の各々が支払う相続税額を算出します。 このときには、実際の遺産の取得割合に基づいて、相続税も同じ割合で分配します。 例えば、相続税の総額が1100万円であり、実際の相続割合が配偶者60%、子2人(いずれも成人で、障害者ではないとします。)が各20%であったとします。 このとき、各々が支払う相続税の金額を計算すると以下のようになります。
・配偶者 1100万円×60%=660万円
・子A 1100万円×20%=220万円
・子B 1100万円×20%=220万円
ただし、配偶者にはいわゆる「配偶者控除」が適用されます。その結果、1億6000万円以下の相続税は免除されるため、上記のケースにおける配偶者の相続税は0円となります。 よって、実際に各々が納める相続税は以下のとおりです。
・配偶者 0円
・子A 220万円
・子B 220万円
相続税には「税額控除」があり、相続税が減額されます。基礎控除は誰にでも適用されますが、税額控除は特定の条件に該当する相続人のみに適用されることになります。 税額控除として、以下のものが挙げられます。
相続税の税額控除を受けられる条件を詳しく知りたい方は、以下の記事も併せてご覧ください。
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他にも、税額控除ではないものの似たものとして「小規模宅地等の特例」があり、一定の要件を満たした土地の評価額を減額できます。 ただし、税額控除や特例を受ければ相続税を支払わずに済む相続人であっても、税務署への申告が必要です。なぜなら、税額控除を受けられるのは、期限までに申告を行った相続人だけだからです。 申告が遅れると税額控除を受けられなくなるおそれがあるので注意しましょう。
被相続人の配偶者に適用される税額控除が「配偶者控除」です。 配偶者控除によって、相続する財産が1億6000万円以下の配偶者に相続税はかかりません。 また、相続する財産が1億6000万円を超えたとしても、法定相続分相当額以下であれば相続税がかからずに済みます。 この制度により、配偶者が多額の相続をしても税負担は軽くなりますが、配偶者が亡くなった後に発生する相続についての税負担が重くなりすぎないようにすることについての配慮も必要になります。
法定相続人の中に未成年者がいるときに適用できるのが「未成年者控除」です。これにより、未成年者が18歳になるまでの年数1年につき、10万円が控除されます。 つまり、未成年者控除額の計算式は次のとおりです。
10万円×(未成年者が満18歳になるまでの年数)
なお、18歳になるまでの1年未満の端数は切上げて1年として計算するため、例えば17歳9ヶ月の場合でも1年分の控除の適用を受けられることになります。 この制度は、子供が成人になるまでにかかる費用に配慮して設けられていると考えられます。
相続財産の中に、一定の要件を満たす土地が含まれている場合に適用できるのが「小規模宅地等の特例」です。 この特例が適用されれば、相続財産に含まれる土地について、相続税を計算するときの評価額を最大8割減らすことができます。減額される割合は宅地等の利用状況によって異なり、また、取得者にも被相続人と一緒に住んでいたなどの要件が必要となります。
相続人が配偶者や1親等の血族(代襲相続の孫を含みます。)以外の者である場合には、相続税額が2割加算されます。これは、配偶者でなく血縁関係も遠い者が相続するのは偶然に近い出来事であり、生活を保障する必要もないことから、税を多く取っても構わないという考えによります。 また、孫であっても、被相続人の養子になって相続を受けた場合には2割加算の対象となります。これは、孫に相続されるまでに相続税を支払う機会が2回あったはずなのに、養子になることで機会が1回に減るため、公平性を保つ必要があるという考えによります。
相続税は、相続の発生を知った日の翌日から10ヶ月以内に税務署へ申告する必要があります。期限を過ぎても申告せず納税を怠ると、加算税の支払いを命じられるおそれがあります。また、一部の特例による相続税の軽減措置を受けられなくなってしまいます。
相続税の計算は複雑であり、多くの手順を踏まなければなりません。ただでさえ、相続にまつわる様々な手続きがあって大変なのに、難しい計算をして税金を納めなければならないのは負担が大きいでしょう。 そこで、相続問題に特化した弁護士にご相談いただければ、相続税に関する疑問や不安を解消していただけます。思わぬ見落としによって申告漏れが発生すれば追徴課税を受けるおそれがあるため、専門家の存在は心理的な負担の解消に役立ちます。 また、弁護士であれば、相続全般についてアドバイスをすることができます。相続税の負担が予想以上に重いこと等から、相続人が自身の取り分を増やそうとしてトラブルに発展するおそれがあります。そのような状況を仲裁できる専門家の存在は心強いことでしょう。 相続について不安のある方は、私たちにご相談ください。お電話いただけることをお待ちしております。