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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
遺産分割についての話し合い(遺産分割協議)がまとまらない場合には、裁判で争うのではなく、調停や審判といった手続きによって解決することとされています。
ただし、遺産分割の前提となる、遺言書の有効性等の事項について争う場合には、調停や審判ではなく、裁判で争うことになることもあります。
この記事では、遺産分割に関して裁判を行うのはどのようなケースであるかについて、裁判例を交えながら解説します。
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遺産分割協議を行っても相続人が合意できなかった場合において、遺産分割そのものを裁判(訴訟)によって解決することはできません。これは、相続人の大半が親族であるケースが多いこと等から、なるべく話し合いによっての解決を促すためだとされています。
遺産分割協議が成立しなかったら、遺産分割調停や遺産分割審判によって解決を図ることになります。審判は、調停とは異なり裁判に近い性質の手続きですが、非公開であるため当事者のプライバシーを守ることが可能であり、裁判よりも柔軟な解決が可能です。
一般的な遺産分割手続きの流れは、以下のようになっています。
遺産分割を行うときには、まず相続人全員で話し合います。協議では、相続人全員が合意しなければならず、誰か1人でも納得しなければ協議は不成立になります。
遺産分割協議について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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遺産分割協議で決まらなければ、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では調停委員が当事者間に入り、遺産分割の方法について話し合いをします。
調停はあくまでも話し合いであり、結論を強制する手続きでもなく、皆が納得しなければ調停は不成立になります。
遺産分割調停について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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遺産分割調停が不成立になると、自動的に審判へ移行します。審判の手続きでは、協議や調停とは異なり、裁判官が双方の主張と証拠を踏まえた上で結論を出します。
審判の内容に納得できない場合でも、裁判を起こすことはできませんが、不服申立てが可能です。
遺産分割審判について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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遺産分割の紛争は家庭裁判所で調停・審判の手続きで争われ、それ自体を裁判で争うことはできませんが、「遺産分割の前提となる事実」について争いがある場合には、裁判によって解決しなければなりません。前提事実に争いがあるときは、遺産分割を調停や審判で行う前に裁判で解決しておく必要があります。
前提事実に該当するのは、主に以下の事項です。
遺言の有効性について争いがあるときには、その遺言が無効であることを確認するために「遺言無効確認訴訟」を提起します。
遺言無効確認訴訟を提起するケースとして、以下のような状況が挙げられます。
遺言書の効力の詳細を知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
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ここで、遺言書の効力が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和3年10月15日判決】
[事案の概要]
当該事案は、孤独死した遺言者の遺品を処分するときに遺言書が発見されたところ、法定相続人の1人である被告が「遺言者が新しい遺言書を作成したため、今回発見された古い遺言書は無効になったが、古い遺言書で受遺者とされている者が新しい遺言書を破棄してしまった」旨を主張し、遺言書の効力を争った事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、新しい遺言書が作成されたことを裏付ける客観的な証拠がないことや、新しい遺言書が作成されたと主張する被告の証言を直ちに採用できないこと、受遺者が新しい遺言書を破棄した証拠がないこと等から、本件遺言書に無効原因があるとは認められないと判断し、遺言は有効であると認定しました。
遺産の範囲について争いがあるときには、特定の財産が遺産に該当するかを確認するために、「遺産確認訴訟」を提起します。
遺産確認訴訟を提起するケースとして、以下のような状況が挙げられます。
遺産確認の訴えの詳細を知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
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ここで、遺産の範囲が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和3年7月30日判決】
[事案の概要]
当該事案は、被相続人の遺産に2ヶ所の土地が含まれていたところ、被相続人の子の1人である被告が「被相続人の遺産に含まれている2ヶ所の土地は、本当は自分の土地であるため、遺産には含まれない」旨を主張し、遺産の範囲を争った事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、2ヶ所の土地は登記簿上の所有者が被相続人となっているため、反証がなければ被相続人が所有していたことが推定されると認めました。
そして、被告が主張する土地を購入した経緯や登記名義人を被相続人にした経緯を検討し、被告が主張するほどの収入や資産があったとは認めず、2ヶ所の土地は被相続人の遺産に含まれると認定しました。
相続人の地位や範囲について争いがあるときには、特定の人物が相続人に該当するかを確認するために、「相続人の地位不存在確認訴訟」を提起します。
相続人の地位不存在確認訴訟を提起するケースとして、相続人の誰かが相続欠格者に該当するか等が争われるときが考えられます。相続欠格者とは、民法で定められた相続欠格事由に当てはまる者のことをいい、相続欠格事由は以下の5種類となっています。
また、相続欠格者に該当するか否か以外に、被相続人の婚姻や養子縁組を無効として争うケースでも、相続人に該当するかを確認するために、「相続人の地位不存在確認訴訟」を提起します。
ここで、相続人の地位や範囲が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和2年9月18日判決】
[事案の概要]
当該事案は、被相続人の法定相続人である原告が、同じく法定相続人である被告について、「遺言書を偽造したので相続欠格者に該当する」旨を主張し、相続権の有無を争った事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、原告が主張した「筆跡鑑定により、遺言書は被相続人が自筆したものではなく、被告が偽造した遺言書である」という主張について、筆跡鑑定の信用性については慎重に検討する必要があると指摘しました。
そして、鑑定の信用性に疑問があることを指摘し、被告が偽造した遺言書であるとは認めませんでした。
また、被相続人が当該遺言書を作成する動機や能力があったとしてもおかしくないことを指摘し、被告が相続欠格者であるとは認めず、被告には相続権があると認定しました。
遺産分割協議の取消しや無効を主張するときには、「遺産分割協議無効確認訴訟」を提起します。
遺産分割協議無効確認訴訟を提起するケースとして、以下のような状況が挙げられます。
ここで、遺産分割協議の有効性が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 平成31年3月25日判決】
[事案の概要]
当該事案は、原告と被告の間で作成された遺産分割協議書について、原告が「被告が原告の実印を無断で使用して作成した」旨を主張し、遺産分割協議書の有効性を争った事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、被告は原告の実印を持ち出すことが可能だったと認めました。また、原告は遺産を全て放棄する意思を表明していたものの、気が変わるおそれがあると被告は認識しており、実印を無断で使用する動機もあったと認めました。
そして、被告が主張する、原告は遺産分割協議書の成立を認識していたはずだという根拠についても採用せず、遺産分割協議書は真正に作成されたと認められないと認定しました。
遺留分の権利を有する者が、遺言書によって遺留分を受け取れなかったときには「遺留分侵害額請求訴訟」を提起します。
遺留分とは、民法で定められた最低限の遺産の取り分であり、被相続人の兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者や子等)に認められます。
遺留分侵害額請求は、当事者の意思表示によって行い、当事者だけで解決できないときには「遺留分侵害額請求調停」を申し立てます。このとき、調停を申し立てずに裁判を起こすことは原則できません。
調停を申し立てた後でなければ裁判が起こせない制度を「調停前置主義」といいます。遺留分侵害額請求のように、親族間で発生する確率が高い紛争については、なるべく話し合いで解決してもらうために調停前置主義が採用されています。
遺留分侵害額請求について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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ここで、遺留分の侵害が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和2年7月22日判決】
[事案の概要]
当該事案は、被相続人の長男が生前に多額の贈与を被相続人から受けていたとして、原告が遺留分の侵害を主張し、侵害された遺留分に相当する金銭の支払いを、被相続人の長男を相続した被告らに求めた事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、被相続人が残したメモや遺言書の内容から、被相続人の長男が2060万円の贈与を受け取ったことを事実であると認めました。
また、被相続人の生活費として長男が月6万円を負担していたという被告らの主張を採用せず、月2万円程度と認めるのが相当と判断し、入所した施設の費用等についても被告らの主張の一部だけを認めました。
そして、被相続人の長男による遺留分侵害額を約256万円と認定し、被告らに、被相続人の長男から相続した相続分に応じた支払いを命じました。
他の相続人による遺産の使い込みについて主張するときには、「不当利得返還請求訴訟」や「損害賠償請求訴訟」を提起します。
これらの訴訟を提起するケースとして、以下のような状況が挙げられます。
ここで、使い込まれた遺産の返還が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和3年10月6日判決】
[事案の概要]
当該事案は、被相続人の義理の兄弟ではあるものの相続権のない被告が、被相続人の死後に預金口座から引き出した約5000万円について、原告が不当利得返還請求を行った事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、被告による「被相続人と死因贈与契約をしていた」という主張について、そのような契約を行ったという客観的な証拠はなく、被告の説明にも不自然な点が多く信用できないと判断しました。
また、被告が納税を行っていないこと等から、死因贈与契約はなかったと認め、約5000万円の預金を出金する法律上の原因はないとして、原告の請求を認容しました。
相続回復請求権とは、相続権を有する者が、相続権がないのに相続人として権利を行使している者に対して、相続財産の回復を請求する権利です。以下のような状況下では、相続回復請求をすることにより、不当に侵害された遺産を取り戻すことができます。
ここで、相続権の侵害が争点となった裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 平成30年11月5日判決】
[事案の概要]
当該事案は、交通事故で死亡した被相続人の妻だった被告が、子である原告の相続分も含めた示談金を受け取ったため、原告の相続分の返還を請求した事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、被告が示談金を全て受け取ったことにより、原告に対して2800万円の損害を与えたことを認めました。
しかし、不法行為から20年以上が経過したため除斥期間が経過しており、原告が成人してから6ヶ月が経過したことによって不当利得返還請求の時効も成立していると判断しました。
また、被告が原告を虐待していた等の特別な事情は認められないことから、被告による消滅時効の主張は権利の濫用に当たらないと認め、原告の請求を棄却しました。
「遺産分割の前提事実」についての裁判は、当事者の主張や証拠を根拠として、裁判官が判決を下すことで決着します。裁判は、話し合いである調停や、裁判官が職権で調査する場面が多い審判のとき以上に、当事者の主張立証が重要となります。また、一般的には、裁判で争うときの方が、調停や審判で解決するときよりも時間がかかります。
調停や審判で決着するときよりも、裁判で争うときの方が、手続きの負担や精神的負担が重くなります。そのため、相続争いが裁判に発展する場合には、弁護士への依頼をご検討ください。
相続の裁判に関してよくある質問について、以下で解説します。
遺言書の有効性については、「遺産分割の前提問題」に該当し、遺産分割そのものではないため、裁判で争うことのできる対象とされています。
また、調停や審判によって前提問題に関する取り決めを行ったとしても、その取り決めは裁判の判決を拘束しない(既判力を及ぼさない)ため、裁判で前提問題の結論が覆されることがあります。
つまり、仮に前提問題を含めた遺産分割の結論を調停や審判で決めることができたとしても、裁判で前提を覆されてしまい、結論も無効になるおそれがあるのです。
このような手間や混乱を避けるために、前提問題についての裁判が起こされると、調停や審判は取り下げることになります。
相続についての争いが裁判になった場合には、ケースによって異なるものの、弁護士費用の相場は30万円~70万円程度です。ただし、複雑な事案については弁護士費用がそれ以上になる場合もございます。
頂く費用として、依頼を受けたときの着手金や、依頼完了時の成功報酬がございます。他にも、交通費等の諸経費を頂く場合があります。
弁護士費用がかかったとしても、遺産相続で費用を回収できる可能性がございます。
なお、弁護士法人ALGの相続手続きのための弁護士費用を知りたい方は、こちらをご覧ください。
相続手続きにかかる弁護士費用相続争いでは、遺産分割の前提事実について裁判に発展するケースがありますが、裁判での主張立証が不十分だと、ご自身に不利な判決が確定して、遺産分割でも不利になるおそれがあります。
また、遺産分割の前提事実が裁判にまで発展した場合には、相続人間の感情的な対立は激しくなっていると考えられます。すると、お互いに感情的な主張をする等、収拾がつかなくなるおそれがあります。
弁護士を代理人にすれば、裁判の手続き等に慣れており、当事者の交渉の代理も任せることが可能です。相続争いが裁判に発展したときや、裁判を視野に入れているときには、お早めに弁護士へご相談ください。