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相続における寄与分とは、相続人の中に、被相続人の財産の維持や増加に特別な貢献をした人(寄与者)がいた場合、それに応じて、寄与者が取得できる遺産を増額する制度です。寄与分として認められる行為には主に5つの類型があり、そのうちのひとつとして「家事従事型」という類型があります。被相続人が営んでいた事業に対して、無償ないしそれに近い状態で労務を提供したことで、財産の維持・増加に貢献した場合に認められるものです。 本記事では、寄与分の類型としての「家事従事型」に関して、詳細に解説します。
家事従事型の「家事」とは、炊事洗濯といった意味ではなく、「家業」や「事業」を意味します。 家事従事型の寄与分として認められるケースには、どのようなものがあるのでしょうか?以下に具体例を挙げましたので、参考にしてください。
寄与分の要件以外に、家事従事型で求められる要件は以下のとおりです。 ・無償ないしこれに近い状態で行われていること(無償性) 提供した労務に見合うだけの報酬が支払われていた場合は、寄与分として認められません。 ・労務の提供が長期間継続していること(継続性) 一時的な手伝いではなく、一定期間継続する必要があります。 ・労務の内容がかなりの負担を要するものであること(専従性) 専業であることまでは求められませんが、片手間ではできず、一定の負担を要する労務である必要が あります。
福岡高等裁判所 昭和52年6月21日判決
被相続人の妻は、夫婦間の協力扶助義務に基づき、家事や育児等に従事しただけでなく、被相続人の死亡まで約46年間にわたって、自ら主体となって家業である農業に従事し、相続財産の大部分を占める農地の取得・維持について特別の寄与をしたものと認められました。 また、被相続人の長男も、生活費・煙草代・小遣い程度の金銭の他には報酬を受けることなく、約27年間農業に従事し、相続財産の取得・維持について、被相続人の他の子らに比べて特別の寄与をしたものと認められました。 それぞれの寄与分は、妻に対して3割、長男に対して1割とみるのが相当とされています。
寄与分では、その貢献が「特別の寄与」といえるかどうかがひとつの重要なポイントとなります。もともと親族間には扶養義務があると民法で定められているため、通常の手伝いや身の回りの世話程度では、親族であれば当然行うべき行為とみなされ、寄与分は認められません。ただし、どこまでが「当然行うべき行為」にあたるかは、被相続人との身分関係(夫婦、親子、兄弟姉妹等)によって変わってきます。 家事従事型の場合は、文字通り「ただ働き」やこれに近い状態で労務に専念していなければ、扶養義務の範囲を超えるような貢献とはみなされない可能性が高いでしょう。
札幌高等裁判所 平成27年7月28日判決
相続人Aは、被相続人の指示で勤めていた会社を退職し、被相続人の経営していた簡易郵便局に夫婦で勤め、2人で月25万円から35万円の給与を得ていました。受領していた給与は、当時の賃金センサスによると、大卒46歳時の平均給与の半分にも満たない金額となっていました。 しかし、被相続人が引退するまでの間、業務主体は被相続人であったこと、給与水準は事業の内容・企業の形態・規模・労働者の経験・地位等の諸条件によって異なること、相続人A夫婦は被相続人と共に住んでおり、家賃や食費は被相続人が支払っていたことから、相続人Aは当該事業への従事で相応の給与を得ていたというべきとして、寄与分は認められませんでした。
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家事従事型の寄与分額は、基本的には以下のような計算式で算出します。 寄与者が通常得られたであろう年間の給付額×(1-生活費控除割合)×寄与年数-現実に得た給付 「寄与者が通常得られたであろう年間の給付額」は、相続開始時(被相続人が亡くなったとき)における、家業と同種同規模の事業に従事する、寄与者と同年齢層の年間給与額を基準にします。実際には、賃金センサス等を参考にすることが多いです。 また、寄与者が被相続人と同居しており、家賃や食費を支払わずに済んでいた場合、被相続人から利益を得ていたとみなされるため、その分が「生活費控除割合」に換算され、控除されます。さらに、少額であっても現実に給付を得ていたようであれば、その分についても控除されます。 ただし、寄与分を決める際には、寄与の時期や方法、程度、相続財産の額といった一切の事情が考慮されるため、上記の計算式によって算出した額からさらに調整される可能性があります。
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寄与分は、寄与行為があれば自動的に認められるというものではありません。寄与分を認めてもらうには、遺産分割協議(相続人間での遺産の分け方に関する話合い)の場で自ら主張する必要があります。 ただし、主張をしたからといって他の相続人に認めてもらえるとは限らないため、寄与行為を裏づけるような証拠をあらかじめ用意しておくべきでしょう。
家事従事型の寄与分を判断するときには、すでに説明した要件の他に以下に挙げたような項目もポイントとなります。
寄与分は、要件さえ満たしていれば必ず認められるというものではなく、その他一切の事情が考慮されたうえで決められるものです。そのため、寄与分を認めるに値するような具体的な事情があり、それを証明できることが求められます。
家事従事型の寄与分を主張する際には、以下のようなものが証拠となり得ます。
<労務の実態がわかる資料> ご自身の確定申告書、給与明細書、預貯金通帳、日記、業務日報、タイムカード、取引先とのメール、他の従業員の証言等
<被相続人の財産の推移がわかる資料> 被相続人の確定申告書、預貯金通帳等 会社の場合は税務申告書、会計帳簿等
家事従事型の寄与行為には様々なケースが考えられますが、以下に挙げる事例では寄与分を認めてもらえるのでしょうか?ひとつひとつ解説していきます。
寄与分が認められるのは、法定相続人(民法で定められた相続人)に限られます。被相続人の配偶者であれば必ず法定相続人になれますが、相続開始時にすでに離婚していた場合は、法定相続人とは認められません。そのため、過去にどんなに負担の大きい労務を無償で提供していたとしても、離婚した人には寄与分が認められないどころか、相続権もないので、一切の遺産を受け取ることができません。 もし被相続人が財産を遺贈する旨の遺言書を作成していれば、遺産を受け取ることはできますが、離婚している以上、そのような内容の遺言書を作成してくれている可能性は低いと考えられます。
被相続人の長男の妻(被相続人の子の配偶者)は法定相続人ではないため、寄与分の請求は認められせん。このケースでは、寄与行為の対価を「特別寄与料」として相続人に請求をしていくことになります。特別寄与料の請求権を持つ「特別寄与者」になれるのは、相続人以外の一定範囲の親族です。
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被相続人の事業を手伝うだけでなく、ヒット商品を開発する等して、被相続人の財産形成や増加に大きく貢献したような場合は、その貢献の程度に応じて寄与分を増やせる可能性が高くなります。 ただし、寄与分を算定する際には、寄与行為にかかった金額をそのまま算定する「絶対的評価」ではなく、寄与行為による貢献度を割合に置き換えて算定する「相対的評価」を用いることもあるため、遺産の総額によっては、貢献に見合っただけの金額の寄与分が得られないケースもあることを理解しておく必要があります。
家事従事型の寄与分でいう「被相続人が営む事業」とは、基本的には個人事業(会社であれば個人企業)を想定しています。法律上、個人と法人(会社)は別人格として扱われます。そのため、被相続人の経営する会社が法人企業であった場合は、その会社を手伝ったとしても、被相続人の財産の維持・増加に貢献したのではなく、会社の財産の維持・増加に貢献したとみなされ、寄与分は認められません。 ただし、法人企業であっても実質は個人企業に近く、被相続人とは経済的に極めて密着した関係にあり、会社への援助と被相続人の財産の確保との間に明確な関連性がある場合は、会社への寄与を被相続人への寄与と認める余地があるとした裁判例も存在します。
被相続人の事業を手伝いながら、空いた時間に株式投資や副業等で別に収入を得ていた場合であっても、寄与分は認められると考えられます。家事従事型の寄与分の要件のひとつに「専従性」がありますが、これは他の業務に従事してはいけないという意味ではありません。ただし、手伝いの内容がかなりの負担を要するものであることが前提となるため、片手間で手伝いをしつつ、1日のうちかなりの時間を株取引等に費やしていたといった場合は、専従性が認められないおそれがあります。
親族であれば、たまの外食や旅行等にかかる費用を、割り勘にせずに一部の人のみが負担するというケースも往々にしてあるでしょう。そのため、日常的に被相続人の事業を手伝っているが、被相続人にときどき外食代や旅行代等を支払ってもらっていたとしても、それが世間の常識的に妥当な頻度や金額であれば、寄与分額の算定で控除すべき対象とみなされる可能性は低いと考えられます。ただし、被相続人と同居しており、家賃や食費をほぼ被相続人が負担していたような場合は、寄与者の利益とみなされ、控除対象となるでしょう。
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寄与行為は個々の事例によって異なるため、ご自身のケースが寄与分として認められるのかどうかを判断するのは、なかなか難しいことかと思います。また、寄与分を主張すると他の相続人に納得してもらえず、相続争いの原因となってしまうおそれがあります。そのため、寄与分の主張を考えられている場合は、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。 弁護士は遺産や親族関係について詳しく調査したうえで、ご依頼者様の味方となって寄与行為の証拠を確保し、効果的な主張を行っていくため、遺産分割協議の早期解決につながります。 「相続争いになってしまうくらいなら…」と寄与分の主張を諦めてしまう方も少なくありません。しかし、被相続人のためにこれまで行ってきた努力は正しく評価されるべきです。弊所の弁護士は依頼者に寄り添って解決策をご提案させていただきますので、相続でお困りのことがあればぜひご相談ください。