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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
平均寿命の伸びに伴い、認知症の高齢者の方も増加しています。 そのため、相続人や被相続人が認知症を患っているケースは増加しており、トラブルも発生しています。 この記事では、認知症の相続人がいるときの遺産分割協議についての問題点や対策、遺産分割協議と成年後見制度といった生前に行っておくのが望ましい対策等について解説します。
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相続人に認知症の人がいるときは、遺産分割協議を行うことができないおそれがあります。 なぜなら、認知症のために判断能力が不十分であり、基本的な法律行為をすることができない場合、遺産分割協議に参加して意思表示をすることができないからです。 また、遺産分割協議は相続人全員が参加する必要があるため、他の相続人たちだけで遺産分割協議を行い、その合意内容をまとめて遺産分割協議書を作成したとしても無効になります。 したがって、相続人に認知症の人がいる場合、遺産分割協議ができないことがあります。 遺産分割協議と遺産分割協議書について知りたい方は、以下の各記事をご確認ください。
たとえ認知症になった相続人であっても、軽度であり意思能力が残っていれば遺産分割協議に参加して成立させることが可能です。 しかし、協議の結果に不満のある人がいた場合には、相続人の一人が認知症によって意思能力を失っていたと主張して、遺産分割協議を無効にされてしまうリスクを伴います。 このような事態を防ぐためには、事前に医師の診断書を取得しておきましょう。 認知症の程度は、「長谷川式認知症スケール」と呼ばれるテスト等によって確認することができます。
遺産分割協議が成立しないと、法定相続分によって相続したときの相続税を申告しなければなりません。 法定相続分とは、民法によって定められている、相続財産の取り分のことです。 遺産分割協議ができない理由について、税務署は基本的に考慮してくれないので、納税が遅れてしまうと、本来の税金に加えて無申告加算税や延滞税等を支払わなければなりません。そのため、一旦は法定相続分によって相続したときの税金を納めることになります。 このとき、「小規模宅地等の特例」や「配偶者の税額の減税」といった相続税を抑える特例は利用できません。そのため、納める税金が高額になるおそれがあります。 法定相続分について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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法定相続分に従って相続する場合、不動産は相続人全員が共有することになるので、後々トラブルが発生してしまうリスクが高いです。 例えば、共有している不動産を売却するためには、共有者の全員の同意が必要となります。 また、修繕費や固定資産税等の負担について、共有者の1人または複数人が応じてくれないことも少なくありません。 これらのリスクがあるため、不動産の共有は避けるべきだと考えられています。
相続財産である預貯金は凍結されるため、引き出すためには遺産分割協議を成立させるか、相続人全員の同意を得ることが基本的に必要となります。 しかし、認知症の相続人がいる場合にはどちらも難しいため、預貯金の一部の仮払いを受ける方法が考えられます。 預貯金の仮払い制度とは、1つの金融機関につき、以下のうち低い方の金額を引き出すことができる制度です。
●預貯金額 × 1/3 × 当該相続人の法定相続分
●150万円
遺産分割ができないままだと、いつまでも相続手続きを進められず、相続財産である不動産等を放置することになってしまいます。また、相続税を仮に納める必要があるため、高額な現金等を準備する必要が生じることがあります。 そこで、遺産分割協議を行うために、成年後見制度を利用する方法があります。後見人が選任されれば、本人の代わりに遺産分割協議へ参加することができます。
成年後見制度とは、認知症などが原因で判断能力が不十分な人が不利益を被らないように、保護・支援してくれる後見人を家庭裁判所に選任してもらう制度です。選任された成年後見人や保佐人、補助人は、本人の代わりに遺産分割協議へ参加したり、同意を必要とさせたりすることができます。 ただし、後見人の仕事は本人の権利の保護であるため、認知症などになった人の従来の考えは基本的に尊重されません。そのため、認知症になる前は「財産を相続するつもりはない」と言っていた相続人であっても、法定相続分を確保しなければならないことが多いです。本人の従来の考えを前提とした予定を立ててしまうと、その予定が破綻してしまうおそれもあるため注意しましょう。 成年後見制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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成年後見制度には、次の2種類があります。
法定後見制度 | すでに本人の判断能力が不十分になっている場合に、本人や親族等が家庭裁判所に申し立てて、保護・支援してくれる人を選任してもらう制度 |
---|---|
任意後見制度 | 本人にまだ十分な判断能力があるうちに、将来に備えて、本人が保護・支援してくれる人を選んで後見人となってもらう契約を結んでおく制度 |
法定後見制度は、「後見制度」「保佐制度」「補助制度」の3つに分けられます。 それぞれの特徴は下記の表のとおりです。
後見制度 | 保佐制度 | 補助制度 | |
---|---|---|---|
認知症の程度 | 重度 | 中程度 | 軽度 |
本人の呼称 | 成年被後見人 | 被保佐人 | 被補助人 |
後見人の呼称 | 成年後見人 | 保佐人 | 補助人 |
後見人の権限 | あらゆる法律行為の代理 | 重要な法律行為の代理 | 特定の法律行為の代理 |
申立てができる人 | 本人・配偶者・四親等以内の親族・市区町村長など |
成年後見人・保佐人・補助人の選任を希望する場合には、主に次のような流れで手続きを進めます。
成年後見制度の手続き等について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
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成年後見制度を利用する際には、次の3つのポイントに注意する必要があります。
成年後見人になるために必要不可欠な資格はありませんが、認知症になった人の親族が希望しても、後見人になれるとは限りません。なぜなら、後見人を選任するのは家庭裁判所だからです。 裁判所は、親族よりも、専門家である弁護士や司法書士、社会福祉士等を選任する傾向があります。また、他の親族との間にトラブルを抱えている人などは、後見人としては基本的に選任されません。 他にも、管理しなければならない財産が高額であるケース等でも、専門家が選任されやすいです。 以上の理由から、親族が後見人として選ばれる可能性は高いとはいえません。
弁護士などの専門家が成年後見人等に選任された場合、保護・支援を受ける本人の財産から、月2万~5万円程度の報酬を支払う必要があります。 後見開始の申立てを取り下げるためには裁判所の許可が必要であり、親族等が選任されなさそうということを理由として取下げが認められる可能性は低いでしょう。 さらに、成年後見人は遺産分割協議後も職務を続けることになり、本人が亡くなるか、判断能力が回復するまで報酬を支払い続ける必要があります。 他方で、認知症によって判断能力がほとんどない人については、成年後見人を選任してもらうことによって悪質な業者による詐欺等のリスクを抑えることができるというメリットもあります。
同じ相続に関して、成年後見人等と、認知症になった本人が揃って相続人になる場合、遺産分割協議において双方の利益が対立します。 これは、本人の取り分が増えると後見人の取り分が減るおそれがあり、後見人の取り分が増えると本人の取り分が減るおそれがあるということです。このような、利益が対立する状態のことを「利益相反」といいます。 利益相反がある場合には、後見人はその遺産分割について、本人の代理人になることができません。 この場合、家庭裁判所に申し立てて、利益が対立しない第三者である「特別代理人」を別途選任する必要があります。
相続人になる予定の人が認知症である場合、遺言書を作成しておくことが有効です。なぜなら、遺言書を作成しておけば、基本的にはその内容に従って相続することになるからです。 すべての財産の相続人を指定しておけば、遺産分割協議を行わなくても相続手続きが可能となります。 遺言書について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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生前対策として、家族信託も1つの選択肢です。家族信託とは、財産の運用や管理、処分を行う権利を受託者に渡すことによって、受益者に利益をもたらすための制度です。 家族信託のメリットとして、主に次のようなものが挙げられます。
被相続人が認知症であった場合には、遺産分割協議を行うことは特に問題ありません。ただし、遺言書があると、問題が発生するおそれがあります。 被相続人が認知症だったケースで遺言書がある場合、遺言書の効力が争われる可能性があります。 認知症になってから作成された遺言書は、正常な判断ができる状態で作成されたかどうかによって、遺言が有効か無効か異なってくるからです。 遺言書の有効性が認められたときは、基本的に遺言書に従って相続が行われます。 しかし、遺言書が無効だと判断された、または相続人全員が合意したときは、遺産分割協議で遺産の分割方法を決めることになります。 遺言書がある場合の相続手続の方法等、遺言書の効力については下記の記事で説明しています。
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認知症の相続人がいることを隠して遺産分割協議を行った場合には、相続手続きのときにバレるリスクは高いと考えられます。遺産分割協議を行っても、金融機関や法務局、裁判所等に出向いたときに、受け答えなどによって認知症であることは気づかれてしまうでしょう。意思能力を失っている人による法律行為は無効となるため、認知症で意思能力を失っている相続人が参加した遺産分割協議も無効となり、相続手続きを進められなくなってしまいます。なお、遺産分割協議書を偽造したとみなされれば「私文書偽造罪」に該当するおそれがあります。そのため、意思能力を失っている認知症の人は、遺産分割協議に参加させるべきではありません。
認知症によって意思能力を失っている人は、有効に相続放棄することができません。なぜなら、意思能力を失っている人は法律行為ができないからです。 また、他の相続人が代わりに相続放棄を申し立てることも認められていません。 相続財産に高額な借金などが含まれている等、どうしても認知症の相続人に相続させたくないケースについては、成年後見人の選任を申し立てる等の対応が必要となります。 相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続人の中に認知症の人がいる、あるいは亡くなった人が認知症だったなど、相続に関わる人に認知症の人がいる場合、特別な手続きが必要になる可能性があります。特に相続人の中に認知症の人がいるケースで、遺産分割協議を行うためには成年後見人等を選任しなければならないので、煩雑な手続きや報酬の支払いが必要になるでしょう。 しかし、成年後見人等を選任してまで遺産分割協議を行うべきとは言い切れない場合もあります。成年後見人を選任すべきかどうか判断が難しい場合は、専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。 弁護士に相談すれば、ご自身の状況に応じた適切なアドバイスを受けられますし、依頼することで諸々の手続を代わりに行ってもらうこともできます。また、相続に関する様々な疑問にも答えてもらえます。 相続における認知症の問題でお困りの方は、まずは弁護士にご相談ください。