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不当利得返還請求とは?使い込まれた遺産を取り戻す方法をわかりやすく解説

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

相続の際、相続人による相続財産の使い込みが発覚し、トラブルになるケースは決して少なくありません。被相続人の親族等が悪気なく使ってしまっていたという場合もありますが、親族等が自分に使う権利のないことを認識しながら使い込んでいたという場合もあります。 相続財産を使い込まれたときには、「不当利得返還請求」を行うことにより、使われた財産を取り戻せる可能性があります。ただし、相手方が認めないケースでは使い込みを証明しなければならないので、念入りに調査しておく必要があります。 この記事では、不当利得返還請求の要件や流れ、消滅時効になるまでの期間、遺産分割に関する法改正等について解説します。

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不当利得返還請求とは

不当利得返還請求とは、不当に利益を得た人から、その利得を取り戻すための請求です。 不当利得とは、法律上の権利がないのに受け取った金銭等のことです。法律上の権利がない金銭等を手に入れた人がいると、その人が手に入れた金銭等の本来の所有者が有する権利を侵害していることになるため、本来の所有者は返還を請求できます。 不当利得返還請求の例として、グレーゾーン金利による過払い金の返還請求や、横領されたお金の返還請求、売買契約の解除による既払い金の返還請求等が挙げられます。

相続時に不当利得となる行為

遺言書がない場合、相続財産は遺産分割が終わるまで、誰かが勝手に使うことは基本的に認められません。そのため、相続人の誰かが相続財産を使い込んだ際は、不当利得返還請求を行うことができます。 相続財産の不当利得として、以下のような例が挙げられます。

  • 被相続人が自宅に置いていた現金を使い込む
  • 被相続人名義の預金を勝手に出金して使い込む
  • 被相続人が所有していた不動産や株式を勝手に売って売却金を独占する
  • 相続財産である不動産から発生した賃料を受け取って自分のものにする
  • 被相続人が加入していた保険を解約して解約返戻金を使い込む

不当利得返還請求の要件

民法703条には、不当利得が成立する要件が規定されています。 相続財産について、相続人による不当利得が成立する要件をまとめると、以下のようになります。

①他人の財産や労務によって利益を得たこと
相続財産を勝手に使ったり処分して利益が発生すると不当利得の成立につながります。
②他人に損失を及ぼしたこと
相続財産のうち法定相続分を上回る財産を消費すると、他の相続人に損失を及ぼすことになるため、不当利得の成立につながります。
③利益と損失との間に因果関係があること
相続財産を使い込んだことによる利益と、使い込まれたことによる他の相続人の損失との間には因果関係があるので、不当利得の成立につながります。
④利得に法律上の原因がないこと
法律上、消費することが認められている相続財産を上回る財産を使うと、法律上の原因がないため不当利得の成立につながります。

不当利得返還請求で取り戻せる範囲・取り戻せない範囲

不当利得返還請求で取り戻せるのは、基本的に「現存利益」だけです。 現存利益とは、不当利得のうち、現在でも相手方の手元に残っている金銭等のことです。相手方がギャンブル等により不当利得をすべて浪費していた場合、現存利益はありません。ただし、相手方が不当利得であることを認識しながら相続財産を使い込んだケース等では、浪費した分を含めて返還させることができます。 ただし、相続財産を使っても、法定相続分までは不当利得にあたりません。取り戻せるのは、「法定相続分を超えて使い込まれた分」だけです。 また、法定相続人が不当利得返還請求できるのは、自身の法定相続分だけです。他の相続人の法定相続分については、他の法定相続人の判断によります。 法定相続分について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

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不当利得返還請求の方法・流れ

不当利得返還請求は、以下のような流れで行います。
①証拠集め
②不当利得返還請求の通知
③話し合い
④訴訟を起こす

この流れについて、次項より解説します。

①証拠集め

不当利得返還請求を行うために、まずは不当利得があったことを証明するための証拠を集める必要があります。 証拠がなければ、相手方に請求しても、使い込みの事実を否定されるおそれがあります。そのため、相続財産である預貯金の通帳や、家賃の受け取りに関する記録等を用意しましょう。 銀行口座の通帳が存在しない場合、相続人が銀行に対して請求することによって取引履歴の開示を受けられることがあります。 また、タンス預金等の現金については使い込みを証明するのが困難ですが、預貯金を引き出した記録や被相続人の生活状況、被相続人が遺したメモ等、証拠になり得るものを準備しましょう。 そして、証拠から明らかにできる使い込まれた相続財産について、金額を算出します。 不当利得返還請求を弁護士に依頼する場合は、銀行への開示請求や相続財産の計算については任せることができます。

②不当利得返還請求の通知

使い込まれた金額を算出したら、使い込みをした人に対して不当利得返還請求を行います。請求は内容証明郵便を送付する方法により行うのが一般的です。 内容証明郵便とは、郵便物の内容を郵便局に証明してもらえるサービスです。通常の方法で手紙を送って請求しても、相手方にとぼけられてしまうおそれがあるので、内容証明郵便によって証拠を残します。 内容証明郵便は「手紙を送ったことを証拠に残す」ための郵便ですので、内容証明郵便によって請求すること自体が、相手方にとってプレッシャーとなります。さらに、弁護士に依頼して、弁護士名で送ってもらえば、より相手方にプレッシャーをかけることができます。

③話し合い

相続財産を使い込んだ人が話し合いに応じた場合には、「何に使ったのか」「どのくらい使ったのか」等の説明を求めます。そして、どれだけの金額を、どのような方法で返還するのかについて話し合います。 この交渉は、弁護士に依頼すれば代わりに行ってもらうことができるので、自信のない人は弁護士に相談することをおすすめします。 話し合いがまとまったら、合意書を作成します。作成した合意書には、双方が署名押印しましょう。これにより、約束を反故にされたときに証拠として活用することができます。

④訴訟を起こす

相手方が話し合いに応じない場合や、話し合いがまとまらなかった場合には、「不当利得返還請求訴訟」を提起して裁判により解決します。 裁判では、客観的な証拠がより重要になりますが、不当利得を証明できれば判決によって支払いを強制できる可能性が高まります。 また、判決による解決ではなく、裁判所から和解をすすめられるケースもあります。裁判所のすすめに応じて和解しても、判決によって結論が出された場合と同じように、相手方が従わなかったときには差し押さえ等による履行が期待できます。

不当利得返還請求権の時効

2020年3月31日までの不当利得について、不当利得返還請求権の消滅時効は発生から10年です。しかし、2020年4月1日以降では、民法改正により以下のいずれか早い方となりました。

①不当利得返還請求権を行使できることを知ったときから5年
②不当利得返還請求権が発生したときから10年

時効の成立が間近になってしまった場合、返還を請求すると6ヶ月間時効の完成が猶予されます。請求した証拠を残すために、内容証明郵便によって請求しましょう。 ただし、請求による時効の完成猶予は1回だけなので、完成が猶予されている間に裁判を起こして消滅時効の完成を防ぎましょう。 時効が迫っている場合には、すみやかに弁護士に相談することをおすすめします。

不当利得返還請求と損害賠償請求の違い

相続財産の使い込みに対して、不当利得返還請求ではなく、損害賠償請求を行える可能性があります。ただし、不当利得返還請求と損害賠償請求では消滅時効の期間が異なります。 それぞれの消滅時効の期間を表にまとめたのでご覧ください。

不当利得返還請求 以下のうちいずれか早い方
・行使できることを知った時から5年
・行為の日から10年
損害賠償請求 以下のうちいずれか早い方
・損害と使い込みをした人を知った時から3年
・使い込みから20年

なお、これらは二重に請求できるわけではありません。どちらかの請求しか成立しないので注意しましょう。

不当利得返還請求を有利に進めるためのポイント

不当利得返還請求を有利に進めるためには、いかに客観的な証拠を集めて、論理的な主張をできるかがポイントとなります。 請求手続きを有利に進めるためのポイントについて、次項より解説します。

不当利得を立証する証拠を集める

証拠が不十分なまま不当利得返還請求を行っても、相手方から反論されるケースが多いです。相手方が医療費等を立て替えていた場合等、不十分な証拠をもとに疑いをかけることによって感情的な対立に発展し、無用な相続トラブルを招いてしまうこともあります。 そこで、最初はなるべく客観的な証拠を集めて、中立的な立場で検討するようにしましょう。 特に重点的に集めるべき証拠として、以下のようなものが挙げられます。

  • 使い込みの事実・時期・金額を示す証拠
  • 相続人が利益を得ることを認める被相続人の意思がなかったことが分かる証拠

これらの証拠について、次項より解説します。

使い込みの事実・時期・金額を示す証拠

使い込みの証拠として有力なものは、以下のようなものが挙げられます。 ●預貯金通帳、取引履歴、定額貯金の解約請求書の写し等
金融機関の記録を確認すれば、誰が、どのような目的で出金処理を行ったのかを調べることができます。被相続人名義の取引履歴は、相続人が金融機関に申請すれば発行してもらえます。
●介護や葬儀に関する費用の領収証等
使い込みをした人による、「介護や葬儀費用に使った」等の反論に備えて、それらに関する支出を把握しておきましょう。
●贈与契約書、売買契約書、売買代金の領収証等
使い込みをした人による、「被相続人から贈与を受けた」「被相続人との売買によって購入した」等の反論に備えて、被相続人が遺した書類などを調べましょう。書類等がなければ、相手方に提出を求めましょう。

相続人が利益を得ることを認める被相続人の意思がなかったことが分かる証拠

相手方の反論を封じるために有効な証拠として、以下のようなものが挙げられます。

  • カルテ
  • 診断書
  • 介護日誌
  • 要介護認定の記録 等

被相続人の認知症が進行していた等、被相続人に財産を処分する意思能力がなかったことを証明できれば、使い込みをした人による「本人が自分で預金を出金した」「本人に頼まれて預金を出金した」等の主張を崩すことが可能です。 また、たとえ認知症でなくても、被相続人の日常的な言動の記録から、誰かに財産を生前贈与する意思はなかったことが推測できる可能性もあります。カルテは医療機関に、介護記録は介護事業所に、要介護認定の記録は役所に対して情報開示請求を行います。

弁護士に依頼する

不当利得返還請求を有利に進めるためには、弁護士に依頼するのが有効です。なぜなら、相手方の言い逃れを防ぐためには、十分に証拠を収集しておく必要があるからです。 また、証拠を収集するためには、医療機関等への情報開示請求といった手続き等、日常生活では馴染みのない手続きを行う必要が生じる場合があります。弁護士に依頼すれば、そのような慣れない手続きを自分でする必要がありません。 さらに、代理人として弁護士に相手方と交渉してもらうこともできます。当事者が交渉すると、お互いに感情的になってしまうおそれがありますし、法的に間違った議論が進んでしまう可能性もあります。そのため、専門家として代わりに交渉してくれる弁護士がいると心強いでしょう。 そして、最終的に裁判になったとしても弁護士に任せることができます。裁判による解決が視野に入るケースでは特に、早い段階で相談することをおすすめします。

親族が使い込んだ使途不明金の一部を、和解により返還できた事例

この事例は、相続財産である預金を、法定相続人ではない依頼者の叔父に使い込まれてしまった事例です。 叔父は、被相続人が生前に宗教団体へお布施をした等の説明を行いました。依頼者は、被相続人が宗教にのめりこんでいる等の情報を聞いたことがなかったので、返還について叔父に交渉を持ちかけたのですが、1円も返還に応じることはできないと回答されてしまいました。 そこで、訴訟提起して追及したところ、相手方の主張の矛盾点が明らかになってきたものの、相手方の財産状況から全額の返金は事実上難しい状態でした。そのため、使用された預金の一部である、200万円を分割で支払わせる内容で和解しました。

遺産分割による解決と法改正について

遺産分割の前に使い込まれた相続財産を取り戻す方法について、2019年7月1日に法改正が行われました。 法改正により、遺産分割協議における、使い込まれた相続財産の扱いが次のように変わっています。

●法改正前:使い込んだ本人の合意がなければ、使い込まれる前の遺産を基準に遺産分割協議を行うことができなかったため、別途民事訴訟を提起する等しなければ使い込みについて解決できなかった ●法改正後:「相続開始後」の使い込みに関しては、使い込んだ相続人の同意がなくても、それ以外の相続人全員の同意があれば、使い込まれる前の遺産を基準に遺産分割協議を行うことができ、遺産分割協議の中で使い込み部分の解決を行うことが可能になった 使い込まれた相続財産がある場合、法改正後に開始された相続であれば、その財産があるものとして遺産分割ができるようになりました。 遺産分割協議について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

不当利得返還請求に関するQ&A

不当利得返還請求で弁護士費用を請求することは可能ですか?

不当利得返還請求では、弁護士費用を相手方に負担させることは基本的にできません。なぜなら、日本では弁護士費用が基本的に自己負担となるからです。 これは、敗訴したときに相手方の弁護士費用を負担しなければならないとすると、裁判を起こすときのリスクが上がってしまうため、裁判による紛争の解決をためらう原因となること等が理由として挙げられます。 例外的に、不法行為による損害賠償を請求する場合等では、弁護士費用の一部を請求することが可能です。

不当利得返還請求訴訟における立証責任は、原告側・被告側のどちらにありますか?

不当利得の立証責任は、基本的に原告が負うことになります。そのため、被告が相続財産である現金や預貯金等を管理しており、その残額が目減りしていることが明らかであったとしても、私的な目的で使い込んだこと等を証明する必要があります。

不当利得返還請求を無視された場合の対処法はありますか?

不当利得返還請求を無視されてしまった場合には、内容証明郵便を送付しましょう。相手方に正式な請求であることが伝わり、応じてもらえる可能性が高まります。 それでも無視されてしまったら、民事訴訟を提起しましょう。ただし、裁判を自力で行うのは困難なので、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

使い込まれた遺産を取り戻すためにも、不当利得返還請求は弁護士にお任せ下さい

相続財産を使い込まれたままで遺産分割をしてしまうと、本来の取り分を受け取ることができないおそれがあるので、不当利得返還請求によって取り戻す必要があります。 しかし、不当利得返還請求を行ったとしても、「被相続人のために使った」等の反論が行われるケースは多いです。証拠が乏しい状況で交渉を進めようとしても、事態を打開するのは難しいでしょう。むしろ、感情的な対立が悪化するリスクもあります。 そこで、相続財産を使い込まれた方は弁護士にご相談ください。弁護士であれば、使い込みについての調査や、相手方との交渉についてのアドバイスをすることができます。 万が一、使い込みが勘違いであれば、今後の親族関係に悪影響を及ぼします。相手方を問い詰める前に、弁護士に相談することをおすすめします。