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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
退職金が支給される規定のある会社では、労働者が亡くなると、その遺族に死亡退職金が支給されるケースがあります。このとき、死亡退職金を相続財産と扱って遺産分割する必要があるのかについては、相続人等にとっては重要な問題となります。
この記事では、
・死亡退職金の概要
・死亡退職金が相続財産として扱われるのか
・死亡退職金への課税
等について解説していきます。
目次
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死亡退職金とは、退職しないまま、あるいは退職した直後等に亡くなった労働者に代わって遺族が受け取る退職金のことです。死亡退職金は、会社において「退職金」「死亡手当金」「功労金」等といった名称で支給されています。 また、亡くなった方が役員や公務員だった場合は退職金の名称が異なります。以下の表にまとめましたのでご確認ください。
死亡退職金 | 一般的な会社員等が死亡したときに支払われるもの |
---|---|
死亡退職慰労金 | 民間企業の役員等が死亡したときに支払われるもの |
死亡退職手当 | 公務員が死亡したときに支払われるもの |
なお、被相続人が死亡してから3年以内に支給額が確定した死亡退職金については相続税がかかります。相続放棄しても原則的には死亡退職金を受け取れますが、そのときには相続税がかかるため注意しましょう。 3年を経過してから金額が確定した死亡退職金については所得税がかかってきます。
相続財産とは、被相続人が遺した財産のことです。 死亡退職金が相続財産に含まれるか否かは、会社の退職金規程等に死亡退職金の受取人が定められているかによって決まります。 死亡退職金が相続財産になるケースとならないケースについて、次項より解説します。
死亡退職金の支給規定が存在しない場合や、支給規定があっても受取人が指定されていない場合等では、被相続人の遺産であるとして、死亡退職金は相続財産に含まれ得ると考えられます。 死亡退職金の受取人が指定されているケースについては、受取人の生活を保障するために支給されると考えられるため、受取人固有の財産とされています。
死亡退職金の支給規定が存在しており、受取人が指定されている場合には、死亡退職金は相続財産に含まれないので遺産分割の対象とはなりません。 このような死亡退職金は、内縁の配偶者などの法定相続人ではない人でも受取人になることがあり、遺族の生活保障のために支給されるため受取人固有の財産になると考えられるからです。 相続財産にならない死亡退職金は、遺産分割協議書への記載は不要ですが、相続税の課税対象になります。
死亡退職金の受取人は、多くの会社の退職金規程で民法に定められた法定相続人とされています。 ただし、被相続人に配偶者がいた場合には、配偶者だけを受取人としている場合もあります。また、内縁の配偶者は法定相続人ではありませんが、死亡退職金は内縁の配偶者でも受け取れる旨の規定を設けている会社もあります。 死亡退職金の受取人が定められていなかった場合などには、被相続人の財産と考えられ、相続の対象となるため相続人全員が参加する遺産分割協議によって受取人や分配方法を決めることになるでしょう。 具体的に、民法で規定されている相続人と相続順位は次のとおりです。
常に相続人になる:配偶者
第1順位:子
第2順位:親
第3順位:兄弟姉妹
相続順位と遺産分割協議の流れ等について知りたい方は、以下の各記事をご覧ください。
相続放棄とは、相続人としての立場を放棄して、相続財産を一切受け取らないための制度です。相続放棄するためには、家庭裁判所に申し立てをし、認められる必要があります。 相続放棄した人が死亡退職金を受け取れるかは、死亡退職金が相続財産に含まれるかによって異なります。 死亡退職金に支給規定がないなどの相続財産に含まれる場合には、相続放棄をすると死亡退職金を受け取れなくなります。 反対に、死亡退職金の支給規定に受取人が定められており、相続財産に含まれない場合には、受取人に指定された人は相続放棄しても死亡退職金を受け取れます。 相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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死亡退職金が相続財産に含まれない場合であっても、相続税が課税されるおそれがあります。これは、死亡退職金が民法上では相続財産にならなくても、税法上では相続財産として扱われるからです。 このような財産を「みなし相続財産」といいます。代表的なみなし相続財産としては、「死亡保険金」や「死亡退職金」が挙げられます。 なお、死亡保険金や死亡退職金については相続税の非課税枠が設けられています。非課税となるのは「500万円×法定相続人の数」に相当する金額です。 みなし相続財産と相続税について詳しく知りたい方は、以下の各記事をご覧ください。
相続税の課税対象となる死亡退職金の範囲については、相続税法によって規定されています。 具体的に、相続税の課税対象となるのは次のような死亡退職金です。
なお、被相続人が生前に受け取っていた退職金や、被相続人の死亡から3年を経過してから金額が決まったような死亡退職金については、相続税ではなく所得税がかかってきます。また、住民税がかかる場合もあります。 詳しくは、以下の表にまとめましたのでご覧ください。
退職金の受け取り時期 | 税目 |
---|---|
生前に本人が受け取った退職金 | 所得税 |
死亡後3年以内に遺族が受け取った退職金 | 相続税 |
死亡後3年経過後に遺族が受け取った退職金 | 所得税(一時所得) |
死亡退職金にかかる相続税の非課税枠の金額は、次の式により計算します。
非課税枠の金額=500万円×法定相続人の数
相続税は、死亡退職金から非課税枠の金額を差し引いた金額にかかります。死亡退職金が非課税枠の範囲内であれば、相続税はかかりません。 ただし、非課税枠には以下の決まりがあります。
相続税の課税対象となる死亡退職金の計算方法について、以下で解説します。
このとき、非課税枠の金額は「500万円×3=1500万円」なので1500万円となります。
【死亡退職金が2000万円であるとき】 「2000万円-1500万円=500万円」なので500万円となります。 【死亡退職金が1200万円であるとき】 「1200万円-1500万円<0円」なので0円となります。 このとき、余った非課税枠を相続財産や死亡保険金等から差し引くことはできません。
会社以外から受け取る弔慰金や花輪代、葬祭料等は、通常であれば相続税の課税対象とはなりません。ただし、高額な弔慰金等については相続税がかかる場合があります。 相続税がかかる基準は以下のとおりです。
●被相続人が業務上の死亡である場合 被相続人の死亡時の給与の3年分に相当する額を超える弔慰金等 ●被相続人が業務上の死亡ではない場合 被相続人の死亡時の給与の6ヶ月分に相当する額を超える弔慰金等
なお、香典については相続税がかからず、所得税や贈与税等も基本的にはかかりません。ただし、それは香典が社会通念上相当な金額である場合であり、常識的に考えて高額すぎる香典については贈与税の課税対象となるおそれがあります。 贈与税の課税対象となる香典に、明確な基準は設けられていませんので、高額すぎる香典を渡すことは控えましょう。
特別受益とは、特定の相続人が受けた、被相続人からの遺贈や生前贈与等のことです。特別受益について考慮しないままで相続財産を分配すると、特別受益のあった相続人だけが被相続人からの利益を多く受けたことになってしまうので、特別受益を相続財産の一部だと考えて分配することになります。 死亡退職金は、基本的に特別受益としては扱われません。なぜなら、これまで述べてきたとおり、死亡退職金は遺族の生活保障のために支給されるものとして、受取人の固有の財産、すなわち、相続財産とは異なるものとして扱われることが多いからです。 ただし、受取人の固有の財産であって相続財産ではない場合でも、相続財産がほとんどない等の事情がある場合には、例外的に死亡退職金が相続財産として扱われることがあります。この例外について、次項より解説します。 特別受益について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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死亡退職金が特別受益とみなされた裁判例をご紹介します。
【昭和55年(家)第205号 福島家庭裁判所 昭和55年9月16日審判】
この事例は、被相続人と前妻との間に生まれた原告らが、被相続人の死亡時の配偶者とその子供に遺産分割を請求した事例です。 裁判所は、死亡退職金は取得者によって原始取得されたとしましたが、被相続人が生前に退職金を積み立てていたことから、被相続人からの特別受益だと認めました。また、死亡時の配偶者名義の特別受益については、その子供と共同での特別受益だとしました。 そして、被相続人の死亡時における相続財産の金額と特別受益の金額から、被告らは法定相続分を上回る特別受益を得ているとして、被相続人の相続財産を原告らに取得させるのが相当だと判示しました。
死亡退職金が特別受益とみなされなかった裁判例をご紹介します。
【平成23年(ワ)第41973号 東京地方裁判所 平成25年10月28日判決】
この事例は、死後認知を受けた相続人である原告が、遺産分割によって相続財産を受け取っていた被告らに対して、自身の法定相続分として金銭の支払いを求めた事例です。 なお、死亡退職金を受け取ったのは被相続人の配偶者ですが、被相続人の配偶者は被告とはされていません。 裁判所は、死亡退職金は3億6100万円であり比較的高額ではあるものの、相続財産に対する比率は過半を占めるようなものではないことや、被相続人の配偶者は被相続人と同居して長期に渡り貢献していたこと、原告が保険金3000万円等を受け取っていたこと等から、相続人の間に生じる不公平は到底是認できないほどに著しいものであるとは評価できないとして、死亡退職金を特別受益とはみなしませんでした。
死亡退職金は、受取人が定められているかによって相続財産になるか否かが決まります。しかし、遺族にとっては誰に受け取る権利があるかがわかりにくいお金だといえます。 また、死亡退職金には相続税がかかりますが、相続税の金額を計算するためには相続財産の全体を調査する必要があります。相続税の申告には期限があるため、相続財産調査は急がなければなりません。 そこで、死亡退職金についてお困りの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。弁護士であれば、死亡退職金を受け取る権利のある人や、相続税の金額等について明らかにできる可能性があります。 また、相続財産がほとんどない場合に、死亡退職金を特別受益として遺留分を請求したい方についてもぜひご相談ください。