メニュー
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
大きな迷惑や苦労をかけられた身内がいるなど、どうしても自分の財産を相続させたくない人物がいる方もいらっしゃるでしょう。
例えば、何度も警察沙汰になり、家でも暴れる等の問題のある子供がいれば、相続人から除外したいと考えたとしても無理はありません。そのような場合に利用できる制度が「相続廃除」です。
今回は、特定の人物を相続人から除外したいと考えていらっしゃる方へ向けて、相続廃除の概要や要件、手続きの方法、取消の可否等について詳しく解説していきます。ぜひご一読ください。
来所法律相談30分無料・24時間予約受付・年中無休・通話無料
※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。 ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
相続廃除(相続人廃除)とは、被相続人本人の意思で、特定の相続人が相続できないようにすることです。相続人から、虐待や重大な侮辱を受けた場合等に申し立てます。
相続廃除は、以下の2つの手続きのうち、どちらかによって行います。
相続廃除の手続きの詳細は「相続廃除の手続方法」をご覧ください。
また、相続廃除は、被相続人の意思だけではできず、家庭裁判所に審判を申し立てて、特定の相続人を相続手続から除外する相当な理由があることを認めてもらう必要があります。
この点について、詳細は次項より解説します。
相続廃除が認められるためには、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
相続人が、被相続人を肉体的または精神的に「虐待」していた場合です。
具体的には、以下のような言動が「虐待」に該当します。
相続人が、ひどい「侮辱」により、被相続人の名誉や自尊心を大きく傷つけた場合です。
具体的には、以下のような言動が「侮辱」に該当します。
その他、相続人が「著しい非行」をしていた場合です。
虐待や重大な侮辱という行為類型には該当しないものの、それに類する程度の非行であることが必要です。
具体的には、以下のような言動が「著しい非行」に該当します。
※ただし、これらに該当する言動について、相続廃除が認められる確率は低いでしょう。
相続廃除された相続人は、相続権を失うと同時に遺留分も失います。そのため、遺留分を取り戻すための請求(遺留分侵害額請求)もできなくなります。
「遺留分」とは、民法で規定されている相続人(法定相続人)に保障されている最低限の相続分をいいます。遺留分は、被相続人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められています。
例えば、『1人にすべての遺産を相続させる』といった遺言書が残されているなど、遺留分を侵害するような遺産の分割方法が指定されていたとしても、遺留分支払うよう他の相続人に請求することができます。
遺留分に関する詳しい解説は、下記の記事でご覧いただけます。遺留分を請求したい方、反対に遺留分を請求されてしまいお困りの方へ向けた対処法もご紹介していますので、ぜひご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
相続廃除の対象となるのは、「遺留分がある推定相続人」です。具体的には、配偶者や子・孫、両親や祖父母等が対象になります。
一方で、「遺留分がない推定相続人」については相続廃除の対象になりません。具体的には、兄弟姉妹が該当します。
兄弟姉妹を相続廃除の対象にできないのは、遺言で「遺産を与えない」といった内容を記載するだけで相続させないことが可能なので、あえて相続廃除をする必要がないからです。
相続廃除の対象になるほどの言動をしていない配偶者や子等について、相続分を少なくしたいときには、遺言によって遺留分に相当する遺産だけを相続させると良いでしょう。
兄弟姉妹に相続させたくない場合は、遺言書に「遺産を一切与えない」といった内容を記載しておけば、兄弟姉妹は自分の取り分を請求できなくなります。
被相続人の兄弟姉妹は推定相続人には当たるものの、遺留分は認められていません。そのため、遺言によって相続権を奪うことができるので、兄弟姉妹をあえて相続廃除する必要はありませんし、制度としても認められていません。
代襲相続とは、相続が開始した時点で相続人がすでに死亡していた場合、または相続廃除や相続欠格によって相続権を失っている場合に、相続人の子が相続権を引き継ぐことです。
つまり、被相続人が亡くなり相続が発生した時点で、相続人が相続廃除によって相続権を失っているときは、代襲相続が発生することになります。
そもそも代襲相続とは何なのか、詳しい説明は下記の記事でご覧いただけます。代襲相続が起こるケースの具体例についても解説していますので、ぜひご一読ください。
合わせて読みたい関連記事
相続廃除の手続きには、
①生前廃除(被相続人が生きている間に家庭裁判所に請求する方法)
②遺言廃除(遺言で相続廃除する方法)
という2通りの方法があります。
とはいえ、どちらの方法でもおおまかな手続きの流れは変わりません。まず家庭裁判所に相続廃除の審判を申し立て、当事者が主張・立証を行ったうえで、最終的に裁判所の判断を仰ぎます。 また、相続廃除は被相続人の意思で行われるものなので、どちらの方法を利用する場合でも、他の相続人などが勝手に相続廃除の手続きを行うことはできません。 それぞれの詳しい手続方法については、次項より解説します。
生前廃除とは、被相続人本人が生きている間に自分で手続きを進める、相続廃除の方法のひとつです。 具体的には、被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、下記のような書類に手数料を添えて提出することで「相続廃除の審判」を申し立てます。
【必要書類】
【手数料】
遺言廃除とは、被相続人が遺言で相続廃除する意思を示しておき、実際に被相続人が亡くなってから、遺言執行者(遺言の内容を実現する人)に相続廃除の手続きを行ってもらう方法です。 遺言廃除では実際に手続きを行う遺言執行者が必要不可欠なので、手間を省くためにも、遺言には次の事項を記載しておくと良いでしょう。
なお、遺言で遺言執行者が指定されていなかったときは、相続人などが家庭裁判所に「遺言執行者の選任」を申し立て、選任してもらうことになります。
遺言廃除の手続きは、基本的に生前廃除の手続きの流れと同じですが、提出書類が少し異なります。具体的には、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ、次に挙げるような書類を手数料と併せて提出し、相続廃除を申し立てます。
遺言執行者の概要や権限、遺言での指定方法など、遺言執行者に関する詳しい説明は、下記の記事でご覧いただけます。
合わせて読みたい関連記事
家庭裁判所に相続廃除の申立てが認められ、相続廃除を認める旨の審判が確定したら、10日以内に推定相続人廃除の届出を行わなければなりません。
相続廃除の審判には、800円の収入印紙と、郵送用の切手代がかかります。
なお、審判は、審判がなされた日の翌日から2週間以内に不服申立て(即時抗告)がなければ確定します。
届出は、相続廃除を申し立てた人(被相続人または遺言執行者)が届出人となり、相続廃除された相続人の本籍地または届出人の住所地の市区町村役場で行います。届出書は市区町村役場で入手できます。
届出の際には、次の書類等が必要です。
市区町村役場に推定相続人の廃除を届け出ると、廃除を受けた相続人の戸籍に「推定相続人廃除」という欄に、主に次の情報が記載されて相続廃除の手続きは終了します。
相続廃除は被相続人の意思によって相続の資格を失わせるものなので、被相続人が望むのであれば、いつでも廃除を取り消すことができます。これは、相続人が改心した場合等に対応するためだと考えられますが、取り消しを申し立てるための特別な要件はありません。
相続廃除を取り消す方法には、相続廃除を求める手続きと同じように次の2通りの方法があります。
どちらの方法でも、まずは家庭裁判所に相続廃除の取消しを請求し、廃除を取り消す旨の審判が確定するのを待ちます。審判が確定して相続廃除の取消しも確定したら、相続廃除のときと同様、市区町村役場に「推定相続人廃除取消届」などを提出し、取消しの届出を行います。
また、相続廃除を取り消さなくても、遺贈により遺産を与えることが可能です。これは、遺言書の作成時の意思を尊重するためです。
遺贈について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
相続廃除の他に、推定相続人が相続権を失う「相続欠格」という制度があります。
相続欠格とは、民法で定められている欠格事由に当てはまる行為をした相続人の相続権を、自動的に失わせる制度です。具体的には、次のような行為をすると相続欠格になります。
相続廃除と相続欠格の違いをまとめると、下記の表のようになります。
相続廃除 | 相続欠格 | |
---|---|---|
該当理由 | 被相続人の意思 | 法律上定められた欠格事由に該当する行為を行った |
手続方法 | 被相続人または遺言執行者が家庭裁判所に申し立てる | 手続不要(自動的に権利を失う) |
裁判所の判断 | 必要 | 不要 |
民法で定められている欠格事由に当てはまる行為をすると、相続欠格となり、自動的に相続権が失われてしまいます。民法上、下記の5つのケースが欠格事由として定められています。
合わせて読みたい関連記事
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します
相続廃除は、申し立てても簡単に認められるわけではありません。むしろ、司法統計によれば、令和3年度に認容された件数はたったの42件であり、既済事件の総数212件のうち20%程度しか認容されていないことになります。
遺留分には遺族の生活を保障する目的があり、相続廃除の判断は慎重に行われます。そのため、認容されにくくなっていると考えられます。
ここで、相続廃除が認められた実際の事例をご紹介します。
【神戸家庭裁判所伊丹支部 平成20年(家)176号、推定相続人廃除申立事件】
[事例の概要]
被相続人(父)が、ひどい非行を重ねてきた長男を相続廃除する意思を遺言で示したため、被相続人の死後に遺言執行者が相続廃除を申し立てた事案です。
[裁判所の判断]
裁判所は、次のような事実から、長男が約20年にわたって被相続人に大きな経済的な負担をかけ、被相続人の親としての心の平穏や住居の平穏を大きく害してきたことを認めました。
また、被相続人が長男に対して抱えていた激しい怒りについても十分な理解を示しました。 そして、長男の行為は、客観的かつ社会通念から見て、被相続人と長男の相続的共同関係を破壊するものであり、遺留分を否定することが正当だと判断されるほど重大だと判断し、「著しい非行」に当たるとして相続廃除を認めました。
[ポイント]
本事例では、推定相続人の廃除が以下のような制度であることを示しています。
相続的協同関係が破壊され,又は破壊される可能性がある場合に,そのことを理由に遺留分権を有する推定相続人の相続権を奪う
上記をふまえ、相続廃除を認める基準として以下を示したうえで、相続廃除の相当性が判断されました。
廃除事由は,客観的かつ社会通念に照らし、推定相続人の遺留分を否定することが正当であると判断される程度に重大なものでなければならない
相続廃除を認める基準と、実際にどのようにして判断がなされるかを知るうえで大変参考になる事例だといえます。
相続廃除が認められなかった事例をご紹介します。
【大阪高等裁判所 令和2年2月27日決定】
この事案は、妻である被相続人が、夫を相続廃除するための意思表示を公正証書遺言の方法によって行った事案です。
家庭裁判所は、主に以下の理由で、夫は被相続人の妻に対して虐待や重大な侮辱行為を行ったとして相続廃除を認めました。
しかし、夫が抗告したところ、高等裁判所は次のように判断し、原審判を取り消して相続廃除の申立てを却下しました。
相続廃除を申し立てられるのは、被相続人本人と、遺言によって被相続人から相続廃除を任された遺言執行者だけです。したがって、相続人などによる相続廃除の申立ては認められていません。そもそも相続廃除は、財産を残す被相続人本人の意思を尊重する制度です。たとえ相続人自身が相続廃除を望んだり、他の相続人が満場一致で特定の相続人の相続廃除を望んだしたとしても、被相続人が望まない限り相続廃除することはできません。また、被相続人に相続廃除をする意思がある場合でも、相続人が被相続人に代わって相続廃除の申立てを行うことは認められていません。
相続廃除の手続きには相続廃除の対象者も関与させる必要があるので、知られずに手続きすることはできません。相続廃除の可否は審判で決定します。
審判では、当事者がそれぞれに主張・立証を行い、これに基づいて裁判所が判断を下すため、審判の相手方となる相続廃除の対象者も手続きに参加しなければ公平な判断ができません。そのため、推定相続人廃除の審判を申し立てると、家庭裁判所から相続廃除の対象者に連絡が行くので、相続廃除を申し立てたことを知られてしまいます。また、相続廃除の手続きが完了すると、相続廃除の対象者の戸籍に“相続廃除された旨“が記載されるので、戸籍を見れば相続廃除された事実がわかってしまいます。
推定相続人の言動によって大変な迷惑を受ければ、遺留分ですら相続させたくないと思ったとしても無理はありません。しかし、相続人から相続権を奪う相続廃除は、被相続人にも相続人にも大きな影響を与えるものなので、簡単には認められません。そのため、相続廃除が認められる件数はそう多くないのが現状です。
弁護士に相談すれば、相続廃除ができる可能性はあるのか、どのように主張すれば良いのか、有効な証拠としてなにが用意できるか等についてアドバイスができます。また、弁護士であれば、証拠の収集や審判の申立て、審判での主張・立証まで、必要な手続きを代わりに行うことができます。相続廃除についてお悩みの方は、ぜひ私たちにご相談ください。