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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
寄与分とは、相続人の中に、亡くなった方(被相続人)の財産の維持または増加につながるような特別な貢献をした人(寄与者)がいた場合に、その人の相続分を貢献の程度に応じて増やす制度です。
なお、令和3年改正民法施行後は、相続開始から10年を経過した後は、遺産分割協議において、寄与分を考慮して具体的相続分を主張することが難しくなりましたので、ご留意ください。
寄与分が認められれば遺産の取り分が増えますが、そのためには相続人が自分で寄与分を主張しなければなりません。そして、寄与分を主張するために、その計算方法を把握しておく必要があります。
このページでは、寄与の類型や寄与分の計算方法、寄与分を主張できない状況等について解説します。
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寄与分を含めて相続分を計算する場合には、以下のように計算します。
【寄与分のある者の相続分】
( 相続財産 - 寄与分 )× 法定相続分 + 寄与分
【寄与分のない者の相続分】
( 相続財産 - 寄与分 )× 法定相続分
寄与分を有する者がいる場合、まずは遺産の総額から寄与分額を控除します。この控除後の金額を、「みなし相続財産」といいます。
そして、みなし相続財産を法定相続分に応じて各相続人に分配し、さらに寄与者には寄与分額を加算します。
例えば、遺産の総額が6000万円で、被相続人の子であるA、B、Cの3名が相続人であり、Aに600万円の寄与分が認められたとします。
この場合、みなし相続財産は次のようになります。
6000万円 - 600万円 = 5400万円
A、B、Cそれぞれの法定相続分は3分の1となるため、みなし相続財産を3等分します。
5400万円 ÷ 3 = 1800万円
Aにはさらに寄与分が認められるため、先ほど控除しておいた寄与分額を加算します。
1800万円 + 600万円 = 2400万円
以上より、各相続人の相続分は、以下のようになります。
A(寄与分のある者) | 2400万円 |
---|---|
B(寄与分のない者) | 1800万円 |
C(寄与分のない者) | 1800万円 |
寄与分を計算する場合には、類型別に計算する必要があります。
寄与分の類型として、以下のものが挙げられます。
家業従事型 | 寄与者が被相続人の営む家業に対して労務を提供した場合に認められる |
---|---|
金銭出資型 | 寄与者が被相続人のために財産上の給付を行った場合に認められる |
療養看護型 | 相続人が被相続人の看護や介護を行った場合に認められる |
扶養型 | 寄与者が、扶養義務がない被相続人を扶養した場合等に認められる |
財産管理型 | 寄与者が被相続人に代わって財産を管理した場合に認められる |
上記の類型別に、寄与分の計算について以下で解説します。
「家業従事型(事業従事型)の寄与分」とは、寄与者が被相続人の営む家業に対し、無償やそれに近い状態で労務を提供して、相続財産の維持・増加に貢献した場合に認められる寄与分のことです。
家業従事型の寄与分額は、基本的には以下のような計算式で算出します。
「寄与者が通常得られたであろう年間の給付額」は、同じような仕事をしたときに得られる世間の標準的な給与額を基準とします。
また、被相続人と同居していたことで食費や居住費といった生活費がかからなかった場合は、その分が寄与者の利益とみなされ控除されます。
さらに、もし実際に少額でも給付を得ていた場合は、上記の計算式からその金額を控除します。
ただし、無給やそれに近い状態でなければ、寄与分が認められる可能性は低いことに注意しましょう。
例えば、同じような仕事をしたときに得られる年収が300万円、生活費控除が0.4、寄与年数が7年であった場合には、寄与分額は以下のようになります。
寄与分額 = 300万円 ×( 1 - 0.4 )× 7 = 1260万円
家業従事型の寄与分について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
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「金銭出資型の寄与分」とは寄与者が被相続人のために不動産を購入したり、借金を弁済したりといった財産上の給付を行い、かつ、財産上の給付の効果が相続開始時に残っているときに認められる寄与分です。
金銭出資型の寄与分額の計算式は出資内容ごとに異なります。基本的には、実際に出資した金額を基準として、相続開始時の評価額に換算します。
不動産を取得するための購入費用を援助したケースでは、以下の計算式で算出します。
例えば、相続開始時の不動産評価額が4000万円、出資金額が2500万円、取得当時の不動産の金額が5000万円だった場合には、寄与分額は以下のようになります。
寄与分額 = 4000万円 ×( 2500万円 ÷ 5000万円 )= 2000万円
寄与者が所有する不動産を被相続人に無償で貸していたケースでは、以下の計算式で算出します。
金銭を贈与したケースでは、以下の計算式で算出します。
金銭出資型の寄与分について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
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「療養看護型の寄与分」とは、相続人が被相続人の看護や介護を行った場合に認められる寄与分です。
療養看護型の寄与分額は、以下の計算式で算出します。
「付添介護人の日当額」は、看護師や介護福祉士等を雇えばかかったはずの費用を基準とすることが多いです。そのうえで、被相続人とどのような身分関係であったかに基づく扶養義務や専従性の程度等の事情を考慮し、裁量的割合を乗じて調整します。
なお、自らで看護や介護を行わず、職業介護者を雇った場合は、そのために負担した実費が寄与分として算定されます。
また、親族による介護の場合は、有資格者のような専門的スキルを持っていないことが考慮され、一定程度減額されることがあります。
さらに、寄与分が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
例えば、付添介護人の日当額が8000円、療養看護日数が1200日、裁量的割合が0.7であった場合には、寄与分額は以下のようになります。
寄与分額 = 8000円 × 1200 × 0.7 = 672万円
療養看護型の寄与分について、さらに詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
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特別寄与料とは、被相続人の相続人でない親族が無償で療養看護その他の労務の提供をした場合において、財産の維持や増加に貢献したことに対する寄与料を請求できるものです。
これは、家族であれば当然行うべき行為では請求が認められず、通常を上回る介護等の負担をしなければなりません。
特別寄与料は相続人の話し合いで決められますが、目安として以下のような式で算出されます。
特別寄与料額 = 日当額 × 付添看護日数 × 裁量割合
この式において、「日当額」とは職業として看護等を行っている者の1日あたりの報酬のことです。
また、「裁量割合」とは、看護等を行うのが親族であることから、一定の割合を差し引くための数値です。おおむね、0.5~0.7程度を目安とします。
「扶養型の寄与分」とは、寄与者が、扶養義務がない被相続人を扶養した場合や、自身の扶養義務の範囲を超えて被相続人を扶養した場合において、被相続人が生活費等の支出を免れたときに認められる寄与分です。
扶養型の寄与分額は、以下の計算式で算出します。
例えば、実際に扶養のために負担した金額が1500万円、寄与者の法定相続分割合が1/3であった場合には、寄与分額は以下のようになります。
寄与分額 = 1500万円 ×( 1 - 1/3 )= 1000万円
ただし、上記の計算式で得た結果がそのまま寄与分額になることは少なく、様々な事情を考慮して増減額されます。
被扶養者と同居して家計が一緒になっていたために、実際に負担した金額がわからないようであれば、生活保護基準等を参考にすることもあります。
扶養義務がある場合では、負担した金額を算出したら、寄与者の扶養義務に相当する部分を控除します。例えば、共同相続人が3人兄弟で、うち1人のみが寄与者の場合、法定相続分である3分の1が寄与者の扶養義務相当部分になり、残りの3分の2が寄与分(本来であれば、他2人の相続人の扶養義務相当部分)になるということです。
扶養型の寄与分については、以下のページでさらに詳しく説明していますので、併せてご覧ください。
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「財産管理型の寄与分」とは、寄与者が被相続人に代わって財産を管理したことで、被相続人が管理費等の支出を免れた場合に認められる寄与分です。
財産管理型の寄与分額は、以下の計算式で算出します。
「第三者に委任した場合の報酬額」については、親族が管理を行ったケースでは、専門家ではないことを理由に一定程度減額されることがあります。
一方で、第三者に委任するための費用を負担したケースや、各種保険料や修繕費等を負担したケースでは、実際にかかった金額が基準となります。
その他考慮すべき事情があれば、裁量的割合を乗じて調整します。
例えば、第三者に委任した場合の報酬額が500万円、裁量的割合が0.8であった場合には、寄与分額は以下のようになります。
寄与分額 = 500万円 × 0.8 = 400万円
財産管理型の寄与分については、以下のページでさらに詳しく説明していますので、併せてご覧ください。
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被相続人が遺言書を書いており、遺贈があるような場合には、寄与分より遺贈が優先とされます。そのため、相続財産から遺贈の価額を差し引き、残っている財産から寄与分を計算することになります。
遺産の全部または大半が遺贈されている場合には、寄与分を主張して相続分を増やすことができなくなるおそれがあります。
遺贈について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
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類型別の計算式に従って寄与分額を算出しても、結果通りの金額を受け取ることができない場合があります。そのような事態に陥ってしまうケースには、どのような理由が考えられるのでしょうか?
寄与分の評価方法には、以下の2種類があります。
例えば、寄与行為をするために300万円の費用がかかった場合、絶対的評価では寄与分額は300万円となります。
一方で、相対的評価で、その寄与行為による貢献度は5%と認定されると、遺産の総額次第で寄与分額が以下のように変わります。
遺産総額 | 寄与分額 |
---|---|
8000万円 | 8000万円×5%=400万円 |
6000万円 | 6000万円×5%=300万円 |
4000万円 | 4000万円×5%=200万円 |
つまり、遺産の総額によって寄与分額が増減してしまうということです。
実際の遺産分割についての争いでは、相対的評価が採用されることもあるため、出資額に満たない金額しか寄与分として認められない場合があることに留意しておく必要があります。
寄与分は遺産の取り分を増やすものであるため、遺産の総額を上回るような額の寄与分は認められません。
さらに民法では、被相続人が相続開始時に有していた遺産の総額から遺贈の額を控除した残額を超えるような寄与分を認めることはできないと規定しています。
遺贈とは、遺言によって特定の人に財産を与えることです。たとえ計算した寄与分額が遺産の総額に収まったとしても、遺贈の額を侵害しているようであれば、その通りの金額は認められません。
遺留分とは、配偶者や子、両親等の法定相続人が確保できる最低限の相続分のことです。遺言や生前贈与等により、遺留分に相当する財産が残らなかった場合には、遺留分権利者は「遺留分侵害額請求」を行うことで、贈与や遺贈等を受けた者に対して、遺留分に相当する金銭の返還を請求できます。
過去の裁判例では、裁判所が寄与分を定める際には、他の相続人の遺留分を考慮して慎重に行わなければならないとしています。
寄与分は、寄与行為をすれば自動的に遺産分割に反映されるものではありません。寄与行為をした相続人が、計算した寄与分を他の相続人に対して自ら主張しなければならないのです。
しかし、明確な理由もなく請求をしてしまうと、他の相続人の理解が得られず、トラブルの元となりかねません。そのため、自身の寄与行為と被相続人の財産の維持・増加の因果関係等を立証できるような証拠を確保しておく必要があります。
寄与分の類型別の計算式は、弁護士が実務でも使用するものなので、計算式に当てはめて正確に計算することが相続人間の信頼にもつながると思われます。もちろん、計算に用いた数値の根拠となるような領収書等の具体的な証拠書類を提示することも重要です。
寄与分は、被相続人の遺産を増やすことへの貢献を評価し、相続人間の不平等を解消するための重要な制度です。しかし、ご自身で被相続人に対する貢献を寄与行為の類型に当てはめて寄与分額を算出するのは難しいことでしょう。
介護だけを行っていたようなケースだけでなく、複合的なケースも少なくありません。さらに、計算式には、寄与行為に係る一切の事情を考慮して裁量割合を乗じるものもあるため、相続に関する深い知識がないと判断がしづらくなっています。
相続に詳しい弁護士であれば、状況を分析し、寄与行為に関する証拠を集めて、正確な寄与分額を算出することができます。そのうえで、他の相続人に対し効果的な主張を行っていくため、遺産分割協議の円滑な解決につながります。
寄与分についてお困りでしたら、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください。