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生前に相続放棄すると約束した念書は有効か?

遺産相続コラム

生前に兄弟で相続放棄すると念書を書くも…

私の家は、両親、私、弟の4人家族です。1年ほど前、父が病院でがんと宣告をされ、余命3カ月という診断を受けました。父の両親は既に他界しており、父には兄妹もいません。 大学卒業後、私は実家で暮らしており、母と共に父の世話をしていましたが、弟は大学卒業後、独立し一人暮らしで父の世話をすることはありませんでした。 余命を宣告されたからというもの、父は自身の財産についての整理を始め「父の遺産については母と私が相続する。」という内容の公正証書遺言も作成しました。 私と母は、父の余命を知らせても見舞いにもこない弟に対し、父に万が一のことがあった場合に、父の遺言の内容も踏まえ弟に財産を相続してほしくはない、との思いから弟に父の財産について「相続放棄」をする旨の念書を書いてもらいました。 父は余命と言われた3か月間よりもはるかに長く生き延び、先日亡くなりました。その後、遺産整理を行おうとしたのですが、弟が葬式以降実家に顔を出すようになり、遺産相続についても自分の持ち分があるはずだ、といった内容の主張をしてきています。 このような場合、弟に父の相続財産を分配しなければならないのでしょうか。念書もある以上、心情として弟に父の遺産を配分することは納得できないのですが……。

生前の相続放棄を約束した念書についての弁護士の見解は?

弟さんに遺産を分配する必要があるかということですが、「心情的に納得できない」というお気持ちはお察ししますが、念書の存在を理由として遺産分割の請求を拒むことはできません。 というのも、生前に相続放棄を行うことはできないからです。相続放棄については、民法938条以下で規定されていますが、相続の放棄は相続が発生していることが前提とされているため、相続が発生していない段階でこれを放棄することはそもそもできない、ということになります。 よって、念書については相続放棄という観点では意味がありません。 また、本件では遺言が遺っている、ということであり、そこには弟さんの持分はなく、相談者の方とお母様が遺産を半分ずつ、と記載されていることが明らかです。 この遺言に基づけば弟さんはお父様の遺産について1円も入らない、ということになります。 しかし、民法上、1028条以下に遺留分という制度があり、相続人の生活の基礎の維持の観点から一定の金額については、相続に際し、遺言よりも優先して相続人が財産を得ることができる旨が規定されています。 そのため、遺言書があっても遺留分については弟さんにも分配しなければならない、というのが原則です。 ところが、遺留分については、家庭裁判所の事前の許可を得た場合であれば、これを事前に放棄することも可能、とされています。これは戦後になり、従来の家督相続制度が廃止されたことに伴い、農地の残存などを求めて設定され、事前の放棄が可能になっています。 そうすると、本件の場合、問題になるのは、その念書の内容が、遺留分の放棄と読み取れるかどうか、という点に集約されます。 どういった文言で相続放棄を約束しているのか、その文言から遺留分の放棄まで読み取ることができるのか、そういった点が問題になりますし、相談者の方が弟さんに対抗できる(=お父様の遺産を渡さないで良くなる)のはその解釈に委ねられることになります。 この場合、形式的判断のみならず、実質的な判断が必要になる可能性がありますし、実質的な判断はやはり、専門家に依頼すべき、ということになります。 相談者の方の場合でも、一度念書と遺言書をお持ちになって、法律事務所に相談に行かれてみてはいかがでしょうか。トラブルが大きくなる前に、できるだけ早めに相談に行かれることをお勧めします。