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土地の相続放棄|制度や手続き、注意点など知っておくべき知識

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

親が所有している土地等について、遠方に住んでおり管理できないことや、地方であり資産価値がほとんどないこと等を理由として、相続したくないと考えている方もいるでしょう。そこで、「土地だけ相続放棄できないだろうか」と考えるかもしれません。 また、相続放棄して相続人がいなくなった場合に、相続財産に含まれている土地はどうなるのかと気になる方もいるでしょう。 そこで、本記事では、土地だけの相続放棄の可否や、相続放棄をすると土地はどうなるのか、相続放棄するときの注意点、土地の相続放棄について弁護士に相談するメリット等について解説します。

目次

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不要な土地の相続放棄を検討すべき3つの理由

相続放棄とは、相続人としての立場を放棄して、プラスの財産もマイナスの財産も相続しないことです。 被相続人が所有していた財産に不要な土地がある場合には、相続放棄することによって相続しない方法が考えられます。 要らない土地がある場合に相続放棄するべきである理由として、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 固定資産税を支払う必要がなくなる
  • 土地や建物を放置することで起こり得るトラブルがある
  • 土地を共有する場合のリスクがある

これらの理由について、次項より解説します。

固定資産税を支払う必要がなくなる

相続放棄によって不要な土地を相続しなければ、固定資産税を支払う必要は基本的になくなります。 相続放棄をせずに土地を所有し続けると、毎年、固定資産税を支払わなければならなくなります。これは、土地を使用しているかいないか、土地が必要か不要かは関係ありません。 そのため、余計な税金を払いたくない場合には、不要な土地を相続しないことが重要となります。

土地や建物を放置することで起こり得るトラブルがある

相続放棄せずに、不要な土地を放置しておくと、雑草が繁殖して害虫が発生したり、ゴミの不法投棄を招いたりするリスクがあります。 また、建物がある土地の固定資産税は更地よりも減免されることが多いので、解体せずに放置されることが多いですが、そのような建物が劣化して倒壊すれば損害賠償請求を受けるリスクがあります。倒壊しなくても、景観が悪くなるため、周辺住民とトラブルになるリスクもあります。さらに、誰かが勝手に住み着く等、治安の悪化を招くかもしれません。 なお、空家等対策特別措置法によって特定空家等の勧告を受けてしまうと、税負担の軽減措置が適用されなくなるため、土地の固定資産税が高額になってしまうおそれがあります。

土地を共有する場合のリスクがある

不要な土地を相続人の間で押しつけ合い、結果的に共有するとトラブルの原因となるケースがあります。 例えば、土地を所有するための経費を分担することになりますが、なかなか支払わない人が出てくる等、経費の負担で揉めるおそれがあります。 また、共同所有財産について、売却等の処分を行うためには共同所有者全員の同意が必要なので、一人でも反対する人がいれば、処分ができなくなってしまいます。 相続放棄すれば、土地を相続することはなくなるため、土地の経費や処分等で頭を悩ませる必要はなくなります。

土地だけを相続放棄することはできない

相続放棄をする前に確認しておかなければならない最も重要なことは、土地だけの相続放棄はできないということです。 相続放棄とは、亡くなった方の相続財産に関する一切の権利義務を放棄することです。そのため、財産を選んで相続することはできません。 一例として、以下のようなケースについて考えます。

【相続財産が土地と100万円の貯金である場合】
●土地だけ相続放棄して、100万円の貯金を受け取る⇒できない
●相続放棄して、土地も100万円の貯金も受け取らない⇒できる

なお、不要な土地は相続したくないものの、思い入れのある実家等は相続したいという場合には、「限定承認」を行うことによって希望を叶えられる可能性があります。 限定承認について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

相続放棄された土地はどうなるのか

相続放棄すると、相続財産の土地等は他の相続人などが相続することになります。 法定相続人になり得る全員が相続放棄すると、相続財産清算人が選任されて債権者や特別縁故者等に分配され、それでも残った場合には国庫に帰属します。 ただし、相続放棄したときに現に占有していた相続財産については保存義務が課されることに注意しましょう。 保存義務や相続財産清算人について、次項より解説します。

相続放棄をしても土地の保存義務が残る

相続放棄をしたとしても、新たに相続人となる者が管理を引き継げるまで、土地や建物といった相続財産に関する「保存義務」が残ります。 保存義務とは、自己の財産におけるのと同一の注意をもって相続財産の管理を継続する義務をいいます。ただし、令和3年に改正民法が施行されたことにより、保存義務を負うのは相続放棄のときに「現に占有」している相続財産に限られます。 相続放棄後の保存義務について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

相続財産清算人の選任

相続人全員が相続放棄をした場合等、相続人がいなくなったときには、利害関係人等の申立てにより家庭裁判所が相続財産清算人を選任します。 相続財産清算人は、相続財産の管理事務を行うために選任されます。相続財産の内容を明らかにするために相続財産目録を作成し、財産を保存するために必要な行為を実行します。 最終的に、残った財産は国庫に帰属します。

土地の相続放棄をすべきか判断するポイント

土地を相続しないために、相続放棄するべきかを判断するためのポイントとして、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 土地を売却できるか
  • 土地を利用できる可能性があるか
  • 土地の最低限の手入れ等ができるか
  • 土地によって生じる不利益を上回るほどの相続財産があるか
  • 埋設物が存在するリスク等があるか

たとえ土地が有益だと判明しても、相続放棄してしまうと基本的に取り消すことはできません。そのため、前もって慎重に検討しましょう。

土地の相続放棄をする際の注意点

土地の相続放棄をする前に、以下の点に注意しておくべきです。

  • 相続放棄が認められない場合がある
  • 相続放棄をする前に相続人全員に連絡をする
  • 相続放棄後に固定資産税の納付通知がくる場合がある

これらの注意点について、以下で解説します。

相続放棄が認められない場合がある

相続放棄できない理由がある場合等では、家庭裁判所に相続放棄が認められないことがあります。 相続放棄が認められない主な理由は以下のとおりです。

●相続財産を処分してしまった 相続財産を自分のために使ったり、不動産や自動車等の名義を変更したりすると、単純承認が成立するおそれがあります。単純承認が成立すると、相続放棄はできなくなります。

●期限までに相続放棄しなかった 自己のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内に相続放棄しないと、基本的には単純承認が成立してしまいます。例外的な事情があれば、期限後でも相続放棄できる可能性もありますが、なるべく期限内に申し立てるべきでしょう。

●照会書に回答しなかった 相続放棄を申し立てると、裁判所から「相続放棄照会書」が送られます。そして、一緒に送られる「相続放棄回答書」に記入して提出する必要があります。連絡せずに回答書の送付が遅れると、相続放棄が認められないおそれがあるので注意しましょう。

相続放棄をする前に相続人全員に連絡をする

相続放棄をする場合には、相続人となることができる資格を持つ人の全員に対して、前もって「相続放棄をすること」を伝える配慮が必要です。なぜなら、先順位の相続人が相続放棄すると、次順位の相続人が相続することになってしまうからです。 次順位以降の相続人も相続放棄できるように、連絡を忘れないようにしましょう。 なお、相続権が高齢な祖父母等に移ってしまうと、相続放棄の手続きを自分ですることが難しいために、迷惑がかかってしまうおそれがあります。 このような事態を防ぐために、限定承認することも検討しましょう。

相続放棄後に固定資産税の納付通知がくる場合がある

相続放棄をしても、毎年の1月1日に「固定資産税課税台帳」という記録に登録されている被相続人の相続人だと推定される人には、固定資産税の納税通知が来てしまいます。 なぜなら、固定資産税の課税では「台帳課税主義」という原則を採用しているので、実態がどのような状況であっても、被相続人の相続人であると推定される人を納税義務者として扱うからです。 たとえ相続放棄しても、固定資産税課税台帳に相続人として登録されていると、納税義務が生じてしまうおそれがあります。支払わないでいると、自分の財産の差し押さえが行われてしまうリスクがあるので注意しましょう。 固定資産税を請求されないようにするためには、相続放棄をしたことを証明する書面(相続放棄申述受理通知書)を役所に提出する必要があります。また、すでに請求されてしまった場合には、固定資産税を課税した各市町村の市町村長(東京23区の場合は東京都知事)に不服申し立てを行いましょう。

土地を相続放棄する方法

相続放棄は、自己のために相続が開始されたことを知ってから3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し立てる必要があります。 相続放棄に必要な書類として、主に次のようなものが挙げられます。

  • 相続放棄申述書
  • 相続放棄する人の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票
  • 被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本

相続放棄にかかる費用として、主に次のようなものが挙げられます。

  • 必要書類を収集するための費用:数千円程度
  • 収入印紙代:800円
  • 連絡用の郵便切手代:裁判所によって異なる

相続放棄の手続きを詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

土地の相続放棄を弁護士に相談するメリット

土地を相続放棄したいときに、弁護士に相談するメリットとして主に以下のようなものが挙げられます。

●相続放棄が妥当かについてアドバイスをしてもらえる 土地の相続が負担になってしまうケースであっても、相続放棄よりも適切な方法が考えられる場合があります。弁護士に相談すれば、様々な方法について検討し、損をしない選択が可能となります。 ●相続放棄の手続きをサポートしてもらえる 相続放棄を申し立てて却下されてしまうと、二度と申し立てられなくなるおそれがあります。弁護士に相談すれば、事前に書類等の不備がないかを確認してもらうことができます。 ●被相続人の債権者等とトラブルになったときに、引き続き相談できる 相続放棄は自分一人で手続き可能なこともありますが、それに対して不満を抱いた人からクレームがくるおそれがあります。弁護士に相談していれば、そのようなトラブルについても追加して相談しやすくなります。

相続放棄以外に土地を手放す方法

相続放棄は行わずに不要な土地を手放す方法として、主に以下のようなものが考えられます。

  • 土地を売却する
  • 土地を寄付する
  • 相続土地国庫帰属制度を利用する

これらの方法について、次項より解説します。

土地を売却する

山奥などにあって利便性が極めて低い等の問題点がある土地は、なかなか買い手がつきません。しかし、土地の売値を下げて、格安で売り出せば売却できる可能性があります。 売却できれば固定資産税を支払う必要はなくなるので、相続放棄しなくても良いケースもあるでしょう。 売却の方法は、主に以下の2通りです。

①不動産会社を仲介して個人に売却する

【メリット】
●高く売れる可能性がある

【デメリット】
●売却までに時間がかかることが多い
●仲介手数料がかかる

②不動産会社に直接買い取ってもらう

【メリット】
●短期間で売却できる
●仲介手数料がかからない
●建物が建っていても解体不要であることが多い

【デメリット】
●売却価格が安くなることが多い
●不動産会社の意見を押し通されやすい

土地を寄付する

自治体に寄付することで、いらない土地を手放せる場合があります。 ただし、自治体への土地の寄付は、断られることが多いです。 なぜなら、土地を寄付するという申し出は、その土地が売れないために行われる場合が多く、寄付されても用途に困るからです。 自治体から寄付を断られたら、隣地の所有者等の個人へ贈与することを検討しましょう。ただし、贈与された人は、土地の価格によっては「贈与税」を支払わなければならないので、事前に説明しましょう。 また、法人への寄付も検討しましょう。法人に寄付する場合には、寄付した人が「譲渡所得税」を支払うことになるケースがあります。これは、寄付の見返りがまったくなくても、土地を売却して現金化してから寄付したのと同じだけ課税されるため注意しましょう。 学校や公益法人等への寄付であれば譲渡所得税が非課税となるため、寄付できる法人を探してみると良いでしょう。

相続土地国庫帰属制度を利用する

相続土地国庫帰属制度とは、相続した不要な土地を、国に引き取ってもらえる制度です。 引き取ってもらうためには、法務大臣の審査を受けて承認される必要があります。審査手数料は1万4000円かかり、承認されなくても返却されません。 承認されたら、10年分の土地管理費相当額を負担金として支払わなければなりませんが、管理の負担や固定資産税の負担等からは解放されることになります。 たとえ数十年前に相続した土地であっても、承認される可能性があるので、持て余している土地については審査を受ける価値があるでしょう。 ただし、少なくとも以下のような土地は、引き取ってもらうことができないため注意しましょう。

  • 建物が建っている土地
  • 抵当権等が設定されている土地
  • 土壌が汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地
  • 所有権について争いがある土地
  • 土地の傾きや崖等によって、管理や処分のために高額な費用がかかる土地
  • 土地の管理や処分を難しくする障害物等が地上または地下にある土地

土地の相続放棄に関するQ&A

相続人全員で相続放棄をしようと思うのですが、名義がそのままなのが気になります。名義変更を行っても良いですか?

相続放棄をしたいのであれば、土地の名義変更をしてはいけません。なぜなら、相続財産の名義変更は「法定単純承認」に該当してしまうからです。 「法定単純承認」とは、民法に定められている制度であり、一定の行為を行った場合に、無条件に亡くなった人の財産を相続する「単純承認」を行ったものとみなす制度です。 単純承認したとみなされる場合として、相続財産の売却や借金などの取り立て、遺産分割協議を行ったケース等が挙げられます。 この点、相続財産である土地の名義変更を行うことは法定単純承認に該当するため、名義変更を行うと相続放棄はできなくなってしまいます。

相続放棄後、土地に建っていた家屋の解体費用を求められたのですが、支払わなければなりませんか?

このような請求を受けるのは、以下の2つのケースが考えられますが、どちらの場合にも解体費用の負担をする必要はありません。

まず、自治体が「空き家条例(空き家の所有者に必要な措置を勧告できる旨を規定する条例)」に基づき、家屋の解体を求めるケースです。 登記記録だけでは、相続放棄をした事実はわかりませんが、相続放棄をしている場合には解体義務を負わないため、解体費用を負担する必要はありません。 次に、相続放棄をせずに相続した他の相続人が、解体費用の分担を求めてくるケースです。 相続放棄をした場合には、はじめから相続人ではなかったものとして扱われますし、相続財産に関するあらゆる権利や義務がなくなります。 そのため、このケースでも家屋の解体義務を負わないため、解体費用を負担する必要はありません。

土地と建物の名義が違う場合、相続放棄はできますか?

土地と建物は異なる不動産なので、それぞれの名義が異なる場合があります。例えば、土地は父親名義で建物は長男名義である場合や、土地は長男名義で建物は父親名義である場合等が考えられます。 これらのような状況で父親が亡くなって相続放棄すると、土地や建物が競売されて他人の所有物になるおそれがあります。すると、主に以下のようなリスクが生じます。

【土地が他人の所有物になった場合】
●建物の取り壊しを求められるリスク
●借地料の支払いを求められるリスク

【建物が他人の所有物になった場合】
●立退料を受け取ること等を目的とした買い手が現れるリスク
●悪質な買い手により、土地が荒らされる等の被害を受けるリスク

共有不動産の持分を相続放棄することはできますか?

共有不動産の持分であっても、相続放棄によって相続することはなくなります。このとき、相続放棄した人が共有者であれば、相続人の不存在が確定すると持分が移転されます。 ただし、相続人の不存在を確定させるためには、相続財産清算人の選任が必要となります。 相続財産清算人の選任が他の人から申し立てられない場合には、自分で選任を申し立てなければならず、そのときに選任費用に加えて予納金の納付を求められることがあります。 予納金は数十万円となることもあるので、相続放棄をする前に、相続した場合の損害等と比較して検討しましょう。

農地など土地の種類によって、相続放棄に違いはありますか?

相続放棄したい土地が農地等であっても、相続放棄すれば相続できなくなることに変わりありません。ただし、農地には相続税の納税猶予が設けられているため、相続しても税負担が軽い可能性があります。 また、農地が生産緑地として指定されている場合には、市町村に買い取りの申出ができるという特別な規定もあります。 農地を相続したくないという理由であれば、本当に相続放棄するべきなのかについては、慎重に検討する必要があります。 農地の相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

土地の相続放棄をお考えならば、まずは弁護士にご相談ください

土地の相続放棄は、保存義務の問題や建物の所有権の問題も絡むため、複雑になることがあります。また、安易に相続放棄を選択すると、結果的に損をしてしまうおそれもあります。 相続財産の調査を詳細に行い、相続放棄のメリットやリスクをしっかりと把握するために、弁護士に相談するべきでしょう。 弁護士に依頼すれば、相続財産の調査や相続放棄の手続き等をまとめて任せることができます。 相続放棄は撤回できないことに加えて、一度申立てが却下されると、再び相続放棄の申立てをすることはできなくなってしまいます。そのため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に行うべきです。 ご自身で対応して問題が生じてしまう前に、まずは一度、弁護士へご相談ください。

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