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相続放棄後でも固定資産税の支払い義務はある?請求が来た場合の対処法は?

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

固定資産税とは、土地や建物といった固定資産に対して課される、市区町村の税金です。固定資産税の納税義務者は、その固定資産の所有者です。 相続によって、相続人が固定資産の所有者になると、固定資産税の納税義務者は当然に相続人になりますが、相続人が相続放棄をした場合には、固定資産の所有者にはならないため、納税義務は基本的に発生しません。 しかし、相続放棄をしたにもかかわらず、固定資産税の支払いを請求されることがあります。そこで、この記事では、なぜ相続放棄をしても固定資産税を請求されるのか、どのように対応するべきか等について、解説します。

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不動産を相続放棄したのに、役所から固定資産税の納税通知が来るのはなぜ?

相続放棄をしても、「課税台帳」と呼ばれる記録に掲載されてしまうと、固定資産税の納税通知が来ます。これは、真の所有者であるか否かとは関係ないとされています。 本来であれば、相続放棄をした者は固定資産を相続しないため、固定資産税を納める義務はないはずです。しかし、真の所有者でなくても、課税台帳に掲載された者に固定資産税を課す「台帳課税主義」という原則により、固定資産税を支払わなければならないのです。

相続人と推定され、1月1日時点で課税台帳に登録されている

固定資産課税台帳とは、固定資産税の課税の基準となる固定資産の評価を明らかにするために、所有者ごとの資産を一覧表にした帳簿です。 固定資産税の納税義務者は、基本的に、毎年1月1日の時点における所有権者(登記簿に登録された人)です。そして、元所有権者である被相続人が亡くなると、通常はその相続人が新たに所有権を取得します。ですから、法定相続人が相続放棄をしたことを知らない市区町村は、法定相続人が新たに所有権を取得するだろうと推定して、相続放棄をした者であっても固定資産課税台帳に登録します。 また、相続放棄の手続きが年内に間に合わなかった場合についても、所有者として登録されることがあります。市区町村では相続放棄を申請していることを把握できないため、手続きが間に合わなければ登録されてしまいます。

そもそも登記制度とは

登記制度とは、第三者に対して、土地や建物といった不動産の所有権等を証明するための制度です。 「登記簿」と呼ばれる記録に掲載されることで、登記されたことになり、不動産の所有権等を証明できるようになります。 登記簿には土地や建物等の所有権者が記載されているため、市区町村は、登記簿の記載に基づいて固定資産課税台帳を管理します。 なお、土地や建物といった不動産を相続したときに行う「相続登記」については、以下の記事で詳しく解説していますのでご覧ください。

債権者代位登記をされた

固定資産課税台帳に登録された理由の一つとして、債権者代位登記をされた場合が挙げられます。 代位による登記(債権者代位登記)とは、債権者(=権利を持つ人)が自身の権利を守るために、債務者(=義務を負う人)に代わって登記をすることをいいます。 通常、登記は所有者の所有権を証明するためのものですから、するかしないかは所有権者に委ねられています。 しかし、債権者がその支払いを土地・建物に期待しているにもかかわらず、相続登記がされなければ、債権者はいつまでたっても差し押さえ等の強制的な手続きができず、お金の回収が難しくなります。そのため、債権者が債務者の代わりに登記をすることができる制度が設けられています。

相続放棄後に納税通知が届いた場合、納税義務はあるのか?

結論から言うと、納税通知が届いたら納税義務が発生します(もっとも、払い損となることを回避する手段があります)。 たとえ相続放棄をしていても、1月1日時点で固定資産課税台帳に登録されている限り、固定資産税を納税しなければなりません。 法律では、固定資産課税台帳に登録された人を納税義務者とする、「台帳課税主義」という原則が採用されています。そのため、固定資産課税台帳に登録された人に固定資産税の納税通知書が届き、納税義務者となります。 1月1日時点で固定資産課税台帳に登録される場合として、自身にお金を貸している人が相続登記を行ってしまったケースや、相続放棄の手続きが年をまたいでしまったケース等が挙げられます。

相続放棄後の固定資産税の支払いについて争った裁判例

ここで、相続放棄後の固定資産税の支払いについて争った、実際の裁判例をご紹介します。

横浜地方裁判所 平成12年2月21日判決

当該事案は、債務者である被相続人が亡くなった後、被相続人の債権者が土地建物の仮差押えを行い、原告らの代わりに原告らを土地建物の所有者とする登記(債権者代位登記)をしたため、原告らに固定資産税等が課税された事案です。 原告らは、固定資産税等が課された後に相続放棄をしましたが、課税基準日に登記簿上の所有者だったので、台帳課税主義に従って課税することは適法であると裁判所は判断しました。 そして、家庭裁判所の審判書のような公文書によって、原告らが真実の所有者でないことが証明されたとしても、台帳課税主義の例外は認められず、固定資産税の支払いを免れた者への請求が難しい事情があったとしても結論は変わらないとされました。

相続放棄後、そもそも納税通知が来ないようにするには?

納税通知書は固定資産課税台帳に登録された人に届くので、納税通知が来ないようにするためには固定資産課税台帳から登録を抹消する必要があります。 相続放棄をすると、初めから固定資産を含む相続財産を相続しなかったものとみなされるので、相続放棄をしたことを証明すれば、固定資産の所有者ではないことも証明できます。 相続放棄をしたことを証明するためには、固定資産課税台帳を管理する市区町村に、相続放棄申述受理通知書や相続放棄申述受理証明書等、相続放棄が完了したことを証明する書類を提示します。それにより、相続放棄をしたことを証明できれば、納税通知が来ないようにすることができます。

相続放棄後、固定資産税の請求が来た場合の対処法

台帳課税主義が採用されているからといって、自分のものではない固定資産にかかる税金を支払いたくはないものです。 しかし、払い損というわけではなく、納税したお金が返ってくることがあります。

固定資産税を立て替えたのち、本来の納税義務者に請求する

相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったものとして扱われます。つまり、初めから固定資産の持ち主ではなかったとされます。 したがって、固定資産の持ち主ではなかった元相続人が固定資産税を支払った場合、「本来の納税義務者が支払うべきものを立替払いした」こととなります。そのため、本来の納税義務者に対して、立替払いした金銭を返すよう請求することができます。これを「求償権」といいます。 求償権の行使は正当な権利ですが、本来の納税義務者は、固定資産税の課税の仕組みを知らないかもしれないので、請求するときの言動には注意を要します。無用な疑いを招くとトラブルになるおそれがあるので、経緯を慎重に説明しましょう。

不服申立てを行い、課税処分を取り消してもらう

相続放棄をすると、債権者による代位登記は無効になります。しかし、固定資産税の課税については、当然に無効とはなりません。 そこで、課税処分を無効にするためには、固定資産税を課税した各市町村の市町村長(東京23区については東京都知事)に対して、固定資産税の課税処分に対する不服申し立て(審査請求)を行う必要があります。この不服申立ての中で、債権者代位登記の無効を主張し、固定資産税を課税する法的な根拠がないことを示します。 なお、不服申立ては、処分の通知を受けた日の翌日から起算して3ヶ月以内に行う必要があるため注意しましょう。

市区町村役場から還付は受けられる?

固定資産税の還付請求をするためには、「納付期限の翌日から5年以内であること」かつ「還付を求めることについて法律上の根拠があること」が必要です。 しかし、説明したとおり、法律上では台帳課税主義が採られています。そのため、1月1日の時点で相続放棄をしていたとしても、固定資産税課税台帳に登録されていたとすれば、相続放棄をしていた元相続人に対して課税をすることは適法であるとされる可能性があります。 また、既にご紹介したように、相続放棄前の固定資産税の支払いについて適法とした裁判例がいくつもありますから、「還付を求めることについて法律上の根拠がある」と主張して納税義務を免れ、還付を受けることは難しいでしょう。

固定資産税の還付について争った裁判例

相続放棄の事案ではありませんが、登記名義人ではあるものの本当の所有者ではない人が納税義務を負うのか、還付請求の可否について争った裁判例をご紹介します。

大阪地方裁判所 昭和51年8月10日判決

当該事案は、土地の売買により、原告を新たな所有者とする登記がなされ、この登記に基づき固定資産税が徴収されていましたが、後に錯誤を原因として契約が無効となったため、固定資産税の返還を求めた事案です。 裁判所は、固定資産税は1月1日時点における固定資産の所有者に課税する旨が定められているため、真実の権利関係にかかわらず、登記記録において所有者として公示されている者が課税義務者になるとしました。 そして、1月1日時点における、固定資産の登記記録上の所有名義人であった原告に固定資産税を課税したことは適法であると判断して、請求を棄却しました。

注意!固定資産税を相続財産からは支払わないこと

相続財産である不動産等にかかる税だからといって、固定資産税を相続財産から安易に支払ってはいけません。 民法では、相続人が相続財産の一部でも処分してしまったときには、相続財産について無条件に相続をする「単純承認」をしたものとみなされます。つまり、相続財産から支払ってしまうと、相続放棄ができなくなってしまうおそれがあるのです。 また、相続財産のうち、プラスの財産(不動産や預貯金等)に相当する金額の分だけマイナスの財産(借入金やローン等)を受け継ぐ「限定承認」という手続きもありますが、単純承認によってこちらも使えなくなるため注意しましょう。 単純承認と限定承認について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

相続放棄をしたのに固定資産税の納税通知が届いてお困りの方は、弁護士へご相談ください

相続放棄をしたにもかかわらず固定資産税を支払った元相続人は、「本来の納税義務者が支払うべきものを立替払いした」のですから、本来の納税義務者に対して、立て替えた金銭を返すよう請求できます。 しかし、請求できるからといって、本来の納税義務者がそれに応じてくれるとは限りません。特に、親族関係が良好でない状況であれば、トラブルに発展することがあります。 トラブルを防ぐためには、専門家である弁護士にご相談ください。弁護士に相談することで、固定資産税の問題だけでなく、自身の債権者によって「債権者代位登記」をされてしまったケース等にも対応できます。 相続放棄をしても新たな問題が発生してしまったときには、ぜひ弁護士にご相談ください。

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