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遺言書でトラブルになりやすい11の事例と防止するための対策

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

自身の財産について、遺言書により希望する相手に渡したいと考える方は多いでしょう。しかし、遺言書が原因となって、遺産相続のときにトラブルが発生するケースが少なくありません。 また、有効な遺言書が作成されていたとしても、その指定とは異なる方法で相続財産を分配したい場合も考えられます。 ここでは、遺言書によってトラブルが起こりやすい理由やトラブルの事例、遺言書が原因となって揉めないようにするための方法、遺言書があるときの遺産分割協議等について解説します。

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遺言書でトラブルが起こりやすい理由

遺言書には、以下の3種類の方式があります。

自筆証書遺言 全文を遺言者が自筆して、氏名と日付についても自分で書いて捺印し、保管しておく遺言書です。
遺言者の勘違い等により無効となりやすく、偽造を疑われかねない等、トラブルの原因になりやすい方式です。
公正証書遺言 公証役場で、2人の証人に立ち会ってもらいながら、公証人によって作成してもらう遺言書です。無効となるリスクの低い方式です。
ただし、費用が掛かることと、形式的な不備はなくても、内容に問題がないことを公証人が確認してくれるわけではないことに注意が必要です。
秘密証書遺言 遺言者が自筆またはパソコン等を用いて作成し、氏名を自筆して捺印した上で、公証人によって存在を認めてもらう遺言書です。
内容を秘密にできるものの、遺言者の勘違い等により無効となるリスクがあり、自筆証書遺言と比較して費用がかかるため、ほとんど使われていません。

遺言書には法律上の要件があり、有効性について争われやすいためトラブルが生じることが多いです。特に、自筆証書遺言という遺言書は無効になりやすいため注意しなければなりません。 遺言書には3つの種類があります。そのうち、自筆証書遺言は、財産目録以外の全文を自筆する必要があり、日付も自書の上、署名捺印しなければなりません。これらの形式を守らなければ無効となってしまいます。 また、複数の意味に解釈できるような曖昧な文言を書いてしまいがちなことも、トラブルになりやすい理由の一つです。 遺言書について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

遺言書でトラブルになりやすい11の事例

遺言書を作成するにあたって、その形式や内容等によって起こり得るトラブルとして、主に以下のようなものが挙げられます。

  • ①遺言書に記載不備がある
  • ②遺言書を無理やり書かされた可能性がある
  • ③遺言書の内容に納得いかない
  • ④遺言書で家族以外への遺贈を指定している
  • ⑤想定してない相続人が現れた
  • ⑥寄与分を主張された
  • ⑦相続税の支払いを考慮していない
  • ⑧遺言書を勝手に開封した
  • ⑨遺言執行者が指定されていない
  • ⑩遺言書が見つからない
  • ⑪遺産分割協議後に遺言書が見つかった

これらのトラブルについて、次項より解説します。

①遺言書に記載不備がある

遺言書の書き方は民法で定められており、細かな決まりがあるため、不備があると無効になります。 考えられる不備として、主に次のようなものが挙げられます。

  • 遺言書に日付が記載されていない
  • 「3月吉日」「4月31日」等の特定できない日付が記載されている
  • 遺言書の字が汚くて読めない

また、遺言書にあいまいな記載があると、遺産を分割するときに揉めやすくなります。なぜなら、遺言者の真意を解釈しなければならず、意見の相違が生まれやすくなるからです。 遺産を具体的に特定するためには、不動産であれば登記簿謄本のとおりに記載し、預貯金であれば金融機関名・口座の種類・口座番号・口座名義人まで記載する等、どの財産を与えるのかを確実に指定しましょう。 遺言書の無効について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

②遺言書を無理やり書かされた可能性がある

遺言者を騙したり脅したりして遺言書を書かせた場合、偽造された遺言書と同様に無効となります。ただし、実際に遺言書を無効とするためには、訴訟によって、遺言書が無効であることを裁判所に認めてもらう必要があります。 しかし、遺言書が無理やり書かされたことを証明するためには証拠が必要となるため、無効であることを認めてもらうのは簡単ではありません。 遺言者が認知症だった場合には、裁判例によれば、認知症の重さや遺言書の内容によって、作成時の意思能力の有無が判断されると考えられます。 つまり、遺言書が認知症の方によって書かれたとしても、必ず遺言能力がないとして無効になるわけではなく、有効であると認められる可能性もあるということです。 なお、遺言書の無効が認められた場合は、相続人間で遺産分割協議を行うことになります。 遺言書の効力についての詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。

③遺言書の内容に納得いかない

父親が亡くなった際、遺言書に「弟にすべての遺産を相続させる」という旨が記載されていたら納得できないでしょう。このように、全財産を一人に相続させるような遺言書が作成された場合には、遺留分侵害額請求を行うことが考えられます。 被相続人の兄弟姉妹を除いた法定相続人には、遺留分という、最低限の相続分が保障されています。遺留分に相当する遺産は、自動的に与えられるわけではなく、遺留分侵害額請求をすることで初めて確保することができます。 ただし、遺留分侵害額請求によって獲得できるのは基本的に金銭だけであり、実家の土地や建物等を手に入れるのは難しいので注意しましょう。 遺留分侵害額請求や、遺言書に納得できない場合の対処法についての詳しい内容を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

④遺言書で家族以外への遺贈を指定している

遺言書によって、内縁の妻や遠い親戚、友人等の法定相続人ではない者や、法人にも遺産を渡すことが可能です。このように、遺言によって誰かに無償で遺産を渡すことを「遺贈」といいます。また、遺贈を受ける者のことを「受遺者」といいます。 家族でない受遺者に財産を遺贈する場合には、遺産の取り分が減る家族から不満が出るおそれがあります。状況によっては、遺言者の家族が「遺言者は受遺者に騙された」等の主張をして、裁判等によって争おうとするかもしれません。 そのため、「受遺者に遺贈する理由」を遺言書に記載するのが望ましいでしょう。納得できる理由が書いてあれば、相続人が不信感を抱くリスクは低くなります。 遺贈について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

⑤想定してない相続人が現れた

遺言者と前妻の間に子供がいたことが、遺言者が亡くなった後に発覚する場合があります。このとき、前妻との間の子供についても、他の子供と同じ相続分を有します。 さらに、遺言者に愛人がいて、その愛人との間に隠し子がいる場合もあります。遺言者が隠し子を認知(親子であることを認め、相続権を与えること)している場合には、他の子供と同じ相続分を有します。 これまで、他に子供がいると知らなかった家族にとって、遺言者が亡くなった後に新たな子(相続人)の存在を知るのは衝撃的なことでしょう。そのため、感情的になってしまい、トラブルに発展するケースが珍しくありません。なるべく、生前に打ち明けて理解を得ておくようにしましょう。

⑥寄与分を主張された

遺言書によって遺産の分配方法が決められていたとしても、相続人の中に寄与分を主張する者が現れるケースがあります。 寄与分とは、被相続人の介護や家業の手伝い等によって、相続財産の維持・増加に「特別な寄与」をした相続人の相続財産の取り分を増やす制度です。 寄与分は、寄与した者自身が主張し、相続人全員の合意を得ることができれば受け取ることができます。寄与分を主張する相続人として、献身的に介護したり、被相続人の事業を手伝ったりした者が挙げられます。 寄与分についての詳しい内容は、以下の記事をご覧ください。

⑦相続税の支払いを考慮していない

被相続人の財産を相続すると、基本的には相続税を支払う必要があります。しかし、相続税について考慮せずに遺言書を書いてしまうと、相続人が支払いに窮するおそれがあります。 相続税は、基本的に現金で納めます。そのため、家や土地等の不動産、あるいは高級自動車のような、簡単には換金できない財産を相続した場合には相続税が払えないケースがあります。 さらに、相続税を大まかに計算して現金や預貯金を残したとしても、被相続人と遠縁の者が相続や遺贈を受けると、相続税が2割増しでかかる制度があります。この制度が適用される場合には、残した現預金だけでは足りなくなるおそれがあるため注意しましょう。 相続税の2割加算の対象となる者や、相続税の計算方法について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

⑧遺言書を勝手に開封した

自筆証書遺言や秘密証書遺言は、基本的に検認手続きを行わなければ開封できません。 検認手続きとは、家庭裁判所において遺言書の状態を確認する手続きです。検認を受けないままで勝手に遺言書を開封すると、5万円以下の過料に処せられるおそれがあります。 検認を受けないまま遺言書を開封しても、遺言書が無効になったり、開封した者が相続する権利を直ちに失ったりすることはありません。そのため、開封した状態のままで検認手続きを行いましょう。 ただし、遺言書を改ざんしたのではないかと他の相続人から疑われてしまうリスクは生じてしまいます。 遺言書の検認手続きについては、以下の記事を併せてご覧ください。

⑨遺言執行者が指定されていない

遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するための手続き等を行うために選任される者です。 遺言執行者が指定されていなければ、相続手続きに相続人全員の協力が必要となってしまうため、スムーズに進まなくなるおそれがあります。 また、遺言執行者には相続財産を調査して管理する役割があることから、指定しないと相続財産を使い込まれてしまうリスク等も高まってしまいます。 しかし、遺言執行者を指定しても、手続きを行わずに放置するケースがあります。これは、思っていたよりも手続きが大変である等の理由で、手続きを行う意欲を失ったこと等が原因です。 遺言執行者が任務を怠るなどしたときには、相続人等、相続について利害関係のある者が家庭裁判所に申し立てて、解任の請求を行うことができます。請求が認められると、遺言執行者は解任されます。 遺言執行者の役割等について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

⑩遺言書が見つからない

被相続人から遺言書を作成したと言われていたのに、あるはずの遺言書が見つからないケースがあります。このような場合、本人が紛失したことや、誤って破棄したこと等が考えられます。 また、他の相続人に遺言書を捨てられたり、隠されたりしたケースもあるでしょう。 しかし、ただ発見に至っていない可能性もあるため、諦めずに以下のような方法を検討しましょう。

  • 被相続人が利用していた金融機関の貸金庫を探す
  • 法務局に保管されている遺言書を探す
  • 公証役場で作成された遺言書を探す
  • 被相続人の知人等に、遺言書を預かっていないか確認する

⑪遺産分割協議後に遺言書が見つかった

遺言書が遺産分割協議の後で発見されたケースでは、基本的に遺言書の内容が優先されます。そのため、協議による分配方法が遺言書の内容に反していると、通常であれば無効となり、遺言の内容に従って遺産分割することになります。 しかし、相続人全員が合意することによって、遺言書の内容とは異なる方法で遺産分割を行うことが可能です。 また、遺言書によって遺産分割協議を禁止できるとされていますが、そのような文言がなければ、全員の合意によって遺産分割協議で決めた内容のまま遺産分割することができます。

遺言書のトラブルを防止するための対策

遺言書が原因となってトラブルが発生するのを防止するために、以下のような対策が考えられます。

  • 遺言能力のあるうちに作成する
  • 要件を満たした遺言書を作成する
  • 公正証書遺言で作成する
  • 遺言執行者を指定する
  • 遺留分に配慮する
  • 弁護士に相談・依頼する

これらの対策について、次項より解説します。

遺言能力のあるうちに作成する

遺言書は、意思能力のある、元気なうちに作成しましょう。法定相続人の構成や相続財産の内容等が変わったとしても、遺言書はいつでも撤回できて、新たに作り直すことも可能なので問題ありません。 あまりにも現在の法定相続人や財産状況と遺言書の内容が乖離していると、トラブルの原因になるため数年おきに内容を見直すことをおすすめします。

要件を満たした遺言書を作成する

遺言書は、民法によって定められた要件を満たすように作成しなければなりません。また、相続人に相続させたい財産が特定できるように、明確に記載する必要があります。 現在の法律では、録音や録画等の方法によって遺言書を作成することはできないため注意しましょう。メモのような簡単な遺言書であっても、要件を満たしていれば有効になる可能性はありますが、なるべく無効にならないように、念入りに作成することが望ましいでしょう。 遺言書の有効性等について不安がある場合には、弁護士にチェックしてもらうことをおすすめします。

公正証書遺言で作成する

公正証書遺言であれば、自筆証書遺言と比べて書き方の不備で無効になってしまうリスクが低くなります。また、遺言者が寝たきり等であっても口述できれば遺言書を残すことができることといったメリットがあります。 さらに、遺言書の原本は公証役場で保管されるため、偽造や紛失、破棄される等のリスクはほとんどありません。 公正証書遺言についての詳しい内容を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

遺言執行者を指定する

遺言執行者は、次の事項を含む遺言書を作成した場合には、必ず指定しておく必要があります。

  • 子の認知
  • 推定相続人の廃除およびその取消し

また、相続財産を特定遺贈する場合には、なるべく遺言執行者を指定しておくのが望ましいでしょう。 遺言執行者を指定する方法は、以下のようなものがあります。

  • 遺言による指定
  • 遺言で指名された第三者による指定
  • 家庭裁判所による選任

遺留分に配慮する

遺言書によって遺留分を侵害してしまうと、遺留分侵害額請求が行われる原因になってしまいます。さらに、親族間の感情的な対立を引き起こし、不仲になる要因になるおそれもあります。 そのため、最低でも遺留分を確保するか、遺留分を侵害する結果となるような遺言書を作成した理由について、納得してもらえるように付言事項に記載しておく必要があります。

弁護士に相談・依頼する

遺言書について弁護士に依頼するメリットとして、主に以下のようなものが挙げられます。

  • 遺言書の記載の不備等によって無効になるリスクを下げることができる
  • 相続全般に関する相談を同時にできる
  • 遺言執行者になってもらうことができる

相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します

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遺言書トラブルに関するQ&A

遺言書があっても遺産分割協議をすることは可能ですか?

遺言書があったとしても、相続人全員が合意すれば、遺言とは異なる遺産分割協議をすることができます。 なお、遺言書で遺言執行者が指定されている場合や、法定相続人以外の者に遺贈されている場合には、遺言執行者や受遺者(遺贈を受ける者)の同意も必要になります。 ただし、遺言書に遺産分割の禁止について記載されている場合は、遺産分割協議を行うことはできません。遺産分割協議を禁止できる期間の上限は相続開始の時から5年間です。 例えば、未成年の相続人が成年になり、その者自身が遺産分割協議に参加できるようになるまで待ってほしい、といったようなケースで有用でしょう。 また、「相続させる」という旨の遺言がある場合には、相続によって財産が自動的に分配されます。この場合には、遺産分割協議ではなく、相続した者から財産の贈与を受けたり、相続した者と財産を交換する協議をすることになります。

遺言書がなく遺産分割がこじれています。どう対処したら良いですか?

遺産分割協議がいつまで経ってもまとまらない場合には、遺産分割調停を申し立てて、家庭裁判所の調停委員に仲介してもらいながら話し合う方法があります。 遺言書がないのであれば、遺産分割協議を行い、相続人間で話し合って遺産をどのように分配していくかを決めます。しかし、話し合いがまとまらなければ、相続手続きが進まなくなってしまうため、タイミングを見計らって調停を申し立てる必要があります。 たとえ調停が不成立になっても、自動的に遺産分割審判に移行され、裁判所の判断で遺産分割の方法が決められます。したがって、調停を申し立てれば最終的な解決を図ることが可能です。 遺産分割協議・遺産分割調停の流れ・遺産分割審判の流れ、それぞれについての詳しい内容は、以下の各記事をご覧ください。

遺言書には絶対に従わなければなりませんか?無視したらどうなりますか?

遺言書に従わないことは可能であり、無視したとしても処罰されることはありません。ただし、独断で遺言書を捨てたり、隠したりすると、相続する権利等を失うおそれがあるため注意しましょう。 遺言書に従わないようにするためには、相続人全員が遺言書と異なる方法で相続することに合意している必要(遺言書で遺言執行者が指定されている場合や、法定相続人以外の者に遺贈されている場合には、遺言執行者や受遺者の同意も必要)があります。 なお、遺言書で遺産分割協議を禁止している場合には、最大で5年間は遺産分割協議ができないので注意しましょう。

遺言書でトラブルにならないよう、相続問題に強い弁護士がサポートいたします

相続が原因で、親族の関係性にひびが入ってしまうようなトラブルを防ぐためにも、遺言書は書いた方が良いといえます。しかし、作成した遺言書に問題があると、遺言者の考えが反映されないおそれがあるだけでなく、余計なトラブルを生み出すおそれもあります。 また、遺産の相続人としても、他の相続人が遺言書の内容を曲解するような事態を防ぐために、遺言者が正しい知識によって遺言書を書くのが望ましいでしょう。 弁護士であれば遺言書の効力を確認することができますし、遺言書作成時のサポートをすることもできます。 遺言書を書きたいと考えているものの作成に不安を抱かれている方や、両親等が遺言書を残すことを検討なさっている方は、弁護士に相談することをおすすめします。