メニュー
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
遺言書によって誰かに遺産を贈りたいときには、「相続させる」や「遺贈(いぞう)する」という言葉を用います。これらの言葉は、どちらも遺産を誰かに与えるという点は同じですが、それぞれ意味合いが異なります。 たった一言の違いとはいえ、遺言書に「相続させる」と書くべきときに「遺贈する」と書いてしまうと、思わぬ不都合が生じてしまうおそれがあるため、注意しなければなりません。 この記事では、遺贈と相続の違い、手続き方法、文例を挙げて遺言書の内容等を解説します。
来所法律相談30分無料・24時間予約受付・年中無休・通話無料
※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。 ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
遺贈とは、遺言書によって財産を特定の者に贈ることです。相続は、人が死亡すると当然に発生しますが、遺贈は遺言書がなければ行われません。 「相続させる」と「遺贈する」の大きな違いは、相続財産を渡す相手が異なることです。 「相続させる」という言葉は、法定相続人に対してのみ使用することができます。 これに対して、「遺贈する」という言葉は誰に対しても使用することができます。 つまり、法定相続人に対しては「相続させる」とも「遺贈する」とも書くことができるということですが、法定相続人に対して遺産を渡したいときには「相続させる」と書くと、手続きが簡単になる等のメリットがあります。 なお、遺贈をする者を「遺言者」、遺贈によって財産を受け取る者を「受遺者(じゅいしゃ)」といいます。
誰かに遺産を遺贈したい場合には、次のような方法で行います。
なお、遺言書が無効になってしまうと遺贈も無効となるため、有効な遺言書を作成することが重要です。そのために、なるべく公正証書遺言を作成することをおすすめします。
合わせて読みたい関連記事
遺贈には、大きく分けて「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類があります。 それぞれの遺贈を行う場合について、遺言書の文例等を次項より解説します。 なお、遺贈には「条件付遺贈」や「負担付遺贈」などもあります。それぞれ、以下のようなものです。
条件付遺贈 | 「大学に入学したら」、「結婚したら」等の条件を設けて行う遺贈です。 |
---|---|
期限付遺贈 | 「18歳になったら」、「〇年×月△日になったら」等の期限を設けて行う遺贈です。 |
負担付遺贈 | 「被相続人の葬儀を行うこと」、「ローンを返済すること」等の負担を伴った遺贈です。 |
包括遺贈とは、「Aに相続財産の3割を遺贈する」といったように、遺産の全部または割合で指定した一部を遺贈するものです。 包括遺贈の受遺者は、借金等の消極財産(マイナスの財産)についても、全部または指定された割合に応じて承継します。したがって、遺言者の債務を負わなければならないおそれがあることに注意しましょう。 また、割合で指定した遺贈を受けても、遺産のうちどの遺産を承継すれば良いのか、対象となる遺産がわかりません。 そのため、包括遺贈の受遺者は遺産分割協議に参加し、どの遺産について指定された割合で承継するのかを、他の相続人と話し合って具体的に決める必要があります。 包括遺贈の文例は次のとおりです。
【遺産の全部を遺贈する場合】
第○条
遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、孫○○(西暦○○○○年○○月○○日生)に包括して遺贈する。
【遺産を割合で遺贈する場合】
第○条
遺言者は、遺言者の有する一切の財産のうち2分の1を、孫○○(西暦○○○○年○○月○○日生)に包括して遺贈する。
特定遺贈とは、「Aに○○の土地を遺贈する」といったように、個別の相続財産を指定して遺贈するものです。 特定遺贈の受遺者は、特定された遺産のみを承継するため、マイナスの財産が指定されていない限り、遺言者の債務を負うことはありません。 また、承継する対象の遺産は指定されているため、特定遺贈の受遺者は、法定相続人である場合を除いて遺産分割協議に参加する必要はありません。 特定遺贈の文例は次のとおりです。
第○条
遺言者は、遺言者の所有する次の土地を、孫○○(西暦○○○○年○○月○○日生)に遺贈する。
所在:○○市××町△丁目
地番:○番地
地目:宅地
地積:○○○平方メートル
遺贈は、以下のような場合には効力がなくなります。
これらの場合について、次項より解説します。
遺言書に「遺贈する」という記載があったとしても、受遺者が遺言者より先に亡くなっている場合は、遺贈の効力がなくなります。 この場合には、受遺者に与えられるはずであった遺産は基本的に相続人のものとなるため、相続人間で分配されることになります。 つまり、受遺者の子が遺贈を受ける権利を相続するといったことは発生しないのです。 ただし、遺言に別段の意思表示がなされていれば、それに従うことになります。 そのため、「Aが死亡していた場合には、Aの子に遺贈する」といった予備的な遺言をすることは可能です。
遺贈するとされた財産が、遺贈が効力を発生する時(基本的には遺言者が亡くなった時)に遺産(相続財産)に属していない場合も、遺贈の効力がなくなります。 例えば、遺贈するとされた財産を遺言者が生前に第三者に売却してしまった等の場合に、このような事態が生じます。
遺贈は、受遺者からの同意を得ないで、遺言者が一方的に遺産を与えることができますが、たとえ利益であっても強制されてはならないので、受遺者は遺言者の死亡後に遺贈を放棄することができます。ただし、遺贈のうち包括遺贈か特定遺贈かで、放棄の期間や方法は異なります。 包括遺贈の場合には、包括遺贈があったことを知った時から3ヶ月以内であれば遺贈放棄をすることができます。 遺贈放棄する場合には、家庭裁判所に申述する必要があります。このように定められているのは、包括遺贈の受遺者は借金も含めて財産を受け継ぐため、相続放棄と同様の手続きを求めているからです。 一方で、特定遺贈の場合には、いつでも放棄することができます。遺贈放棄する場合には、他の相続人全員または遺言執行者に対して放棄の意思表示を行います。
遺贈するときには、遺留分に注意しなければなりません。 遺留分とは、一定の法定相続人に対して保障されている、最低限の利益のことです。 遺言で遺留分を侵害された法定相続人は、侵害された遺留分に相当する金銭を、受遺者や他の相続人等に対して請求する権利を有します。この請求を「遺留分侵害額請求」といいます。 したがって、遺贈するときには、遺留分について配慮しながら遺言書を作成しなければなりません。 また、不動産が遺贈された場合には、基本的に、不動産を遺贈された者と他の相続人全員が共同で登記手続きを行う必要があります。そのため、登記手続きが進まなくなるおそれがあります。 そこで、相続人以外の第三者に不動産を遺贈する場合には、遺言で遺言執行者を指定しておいた方が良いでしょう。遺言執行者がいれば、受遺者と遺言執行者だけで登記手続きを行うことができます。 遺留分や遺言執行者について知りたい方は、以下の各記事をそれぞれご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します
遺贈を受けた者には、以下のような税金がかかる場合があります。
遺贈により遺産を取得した場合も、相続して遺産を取得した場合と同様に、相続税の対象になります。 相続税を計算するときの基礎控除は、遺贈の対象者が何人いても増額されません。 また、遺産を取得した者が、被相続人(遺言者)の遺産を受け取る可能性が高い者でない場合には、相続税額が2割加算されます。 相続税の2割加算など、計算方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
遺贈により不動産を取得した場合、不動産取得税や登録免許税がかかります。 「包括遺贈」と「特定遺贈」のうち、特定遺贈により不動産を取得し、受遺者が法定相続人以外の者であった場合には不動産取得税がかかります。 これに対して、包括遺贈や相続によって不動産を取得した場合には、不動産取得税はかかりません。 また、不動産を取得した場合には登記手続きを行う必要があり、この登記手続きのために登録免許税がかかります。 遺贈の登録免許税の税率は基本的に2.0%ですが、受遺者が法定相続人である場合には0.4%となることがあります。 なお、不動産を相続した場合には、登録免許税の税率は0.4%となります。 つまり、遺贈により不動産を取得した場合の方が、不動産を相続した場合よりも登録免許税が高くなるケースがあるということです。 上記の内容を、以下の表にまとめたのでご覧ください。
相続人に不動産を遺贈(相続) | 第三者に不動産を遺贈 | |
---|---|---|
不動産取得税(特定遺贈) | なし | あり |
不動産取得税(包括遺贈) | なし | なし |
登録免許税 | 0.4% | 2% |
遺贈寄付も遺贈の一つであるため、基本的には相続税の対象になります。 NPO法人や地方公共団体に対して遺贈するといったように、遺言によって法定相続人以外の者に相続財産を寄付することを遺贈寄付といいます。 終活ブームや生涯未婚率の増加といった背景から、人生最後の社会貢献として遺贈寄付を行う方が増えています。 なお、遺贈寄付の対象が国や地方公共団体、特定の公益法人等であった場合、一定の条件に該当すれば相続税の対象としない特例が設けられており、相続税がかからないケースもあります。
遺言書に「相続させる」でも「遺贈する」でもない文言(与える、譲る、あげる、分ける等)が記載されている場合には、個別の事情により遺言者の真意を解釈する必要があるため、確かなことは言えません。遺言書の全体の文言等によって結論が左右されることになります。 つまり、同じフレーズを使っていても、遺贈と認められる場合もあれば、認められない場合もあると考えられます。 第三者への遺贈では、相続人とトラブルになるリスク等があることから、解釈の余地がある言葉は使わないようにするのが賢明です。
相続人が遺贈を受けると、特別受益とみなされて相続分額が減らされる場合があります。 特別受益とは、被相続人から特別に与えられた財産のことであり、基本的に遺贈も特別受益とされます。特別受益があると、他の相続人と公平にするために、「特別受益に相当する財産を相続分として受け取った」として計算されます。 なお、遺言者が「遺贈を特別受益としない」旨の遺言書を残していると、遺贈は基本的に相続分に影響しなくなります。 特別受益について詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
遺贈することで、自分が望んだ相手に対して遺産を与えることができます。 遺贈したいと考えた場合、遺贈は遺言によって行うため、無効にならない遺言書を作成しなければなりません。 しかし、遺言書の作成時には注意すべき点が多くあります。 弁護士に相談していただければ、遺言書の作成をサポートすることや、作成した遺言書の効力を確認すること等ができます。 また、遺言執行者の職務を任せる人を探している場合には、弁護士も候補とできます。 遺贈により遺産を取得した場合には、相続税等の税金がかかります。 どのような税金がかかるかは、受遺者が誰かによって異なるケースもあり、個別の事情に応じて判断していく必要があります。 遺贈したいと考えているものの、不安を抱かれている場合は、弁護士への相談をぜひご検討ください。