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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
被相続人の財産に「借地権」が含まれている場合があります。借地権は相続が可能であり、地主から返還を求められても応じる義務はありません。 しかし、借地権には更新できないものがあるため、せっかく相続しても数年で手放すことになるかもしれません。そのため、契約内容などをきちんと確認して、借地権が必要でなければ相続放棄等について検討しなければなりません。 この記事では、借地権の概要や相続に伴うトラブル、借地権を相続した場合の注意点等について解説します。
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借地権とは、建物を所有するために土地を借りる権利です。 借地権には、主に以下の2種類があります。
これらの借地権について、次項より解説します。
定期借地権とは、定められた期間に限定された借地権のことであり、契約を更新することができないものです。 契約期間を満了すると、建物を取り壊して更地にする必要があります。また、立ち退きは義務であるため、立退料を請求することもできません。
普通借地権とは、更新することが可能な借地権のことです。契約期間を満了したとしても、建物を取り壊す必要がありません。 当初の契約期間が満了した場合、更新を拒否されたときには立退料を請求できる可能性があります。また、立退料の請求とは別に、「建物買取請求権」を行使すれば建物を買い取ってもらうことができます。
借地権を相続するために、地主の許可は必要ありません。また、土地の賃貸契約書の名義を変更する必要もありません。 地主に対しては、相続したことを伝えるための「通知書」を送付すれば問題ありません。ただし、念のため、「通知書」を通知したことを後から証明できる内容証明郵便という送り方を利用して送付しましょう。 また、借地に建っている建物については相続登記が必要となります。さらに、借地権の登記がある場合には、その借地権についても相続登記を行わなければなりません。
被相続人が生前に遺言書を作成し、第三者に対して借地および借地上の建物を遺贈する場合、法定相続人が相続する場合とは異なり、地主の許可が必要となります。 遺贈についての地主の許可は、被相続人が生前に受けることも、遺贈された人が受けることもできます。ただし、地主の許可が受けられないと借地権を解除されるおそれがあるため注意しましょう。 なお、被相続人の死後に、遺贈について地主が許可してくれない場合には、代わりの許可を受けるために裁判所へ申し立てることも可能です。
借地権を相続し、借地権と他の相続財産とを合わせて基礎控除額を上回った場合には、相続税がかかります。 相続税の基礎控除額は以下の式によって計算します。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
借地権の評価額が高額である場合には、相続税も高額になってしまうおそれがあるため注意しましょう。借地権の評価額の求め方は次項で解説します。 なお、相続税は自己のために相続が開始されたことを知ってから10ヶ月以内に納めなければなりません。
普通借地権の相続税評価額は、以下の式によって算出します。
借地権の相続税評価額=更地価格×借地権割合
更地価格は、路線価や評価倍率表を用いて算出します。路線価とは、その道路に面した土地の1㎡あたりの価格です。路線価と土地面積を乗じると、土地そのものの相続税評価額がわかります。 そして、土地そのものの相続税評価額に借地権割合を乗じると、借地権の相続税評価額を算出できます。 なお、借地権割合は一般的に主要な駅の周辺または繁華街等で高くなり、郊外等では低くなる傾向があります。 また、定期借地権の相続税評価額は、以下の式によって算出します。
借地権の相続税評価額=路線価×土地面積×借地権を設定したときの定期借地権割合×定期借地権の残存期間逓減率
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借地権の相続では、家族とのトラブルだけでなく、地主とのトラブルも発生しやすいです。 借地権の相続に伴うトラブルについて、次項より解説します。
借地権を相続するときに発生しやすい地主とのトラブルは、土地を借りる人が変わることによって生じます。 主な地主とのトラブルとして、以下のようなものが挙げられます。
これらのトラブルについて、次項より解説します。
地主から、相続に伴って名義変更料や承諾料等を要求されることがあります。これは、地主が被相続人にだけ土地を貸したつもりだった場合等にリスクが高いといえます。 しかし、名義変更料や承諾料等の要求に応じる義務はありません。なぜなら、法定相続人が借地権を相続する場合には、地主の承諾は不要だからです。 ただし、支払いを拒否して地主との関係が悪化すると、その後で更新拒絶等のトラブルが発生するリスクがあることに注意しましょう。
地主から、相続した借地や建物等から立ち退くことを要求される場合があります。しかし、法定相続人であれば要求に応じる義務はありません。
地主から、相続に伴って地代の値上げを要求されることがあります。しかし、値上げの要求に応じる義務は基本的にありません。 ただし、被相続人が生きている間に周辺地域の地価や賃料の相場が著しく上昇した等の事情がある場合には、固定資産税も上がってしまうこと等から、合理的な範囲内であれば値上げに応じなければならないケースもあります。
地主から、借地の建物について建て替えを拒否されるケースもあります。この際、増改築を禁止する旨の特約が設けられていないのであれば、地主の許可をとらなくても建て替えは可能です。 しかし、借地契約には増改築を禁止する旨の特約を設けるケースが多く、そのような特約があるのに許可なく建て替えをすると借地権契約を解除されてしまうおそれがあります。 特約があり、地主の承諾が得られない場合には、承諾料の支払いが必要となります。
相続した借地上の建物を売却すると、借地権も同時に売却することになります。しかし、借地権を売却するためには、特約等がなくても地主の許可が必要です。 売却を地主に拒否されてしまった場合には、譲渡承諾料の支払いが必要となります。
相続をきっかけとして、借地契約の更新を拒否される場合があります。しかし、相続した借地権であるかにかかわらず、地主による一方的な更新の拒否には「正当な事由」が必要です。 正当な事由だと認められるには、地主側と相続人側が借地になっている土地を必要としている理由が検討された上で、地主側がより土地を必要としている等の事情が求められます。このとき、地主側が立退料等を支払う場合があります。 このとき、相続人や被相続人による無断改築または地代の滞納等の事情があると、地主による更新の拒否について正当な事由だと認められてしまうおそれがあるので注意しましょう。
借地権を相続するときに発生しやすい家族間でのトラブルは、借地権が比較的高額になることによって生じます。 主な家族間でのトラブルとして、以下のようなものが挙げられます。
これらのトラブルについて、次項より解説します。
特に都市部の借地権は、財産価値が高い場合が少なくありません。そのため、誰が相続するかで揉めてしまうリスクがあります。 遺産分割協議がまとまらない場合には、「遺産分割調停」を申し立てる必要があります。遺産分割調停が決裂すると、自動的に「遺産分割審判」に移行して裁判官による結論が出されます。 ただし、遺産分割審判では借地権の売却等を命じられるおそれがあるため、なるべく調停までに解決するのが望ましいでしょう。
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遺産分割に用いるための借地権の評価額の算出方法については統一された基準がないことから、評価額について意見が合わずに揉めるリスクがあります。 簡単に適切な評価額を確認するための方法として、不動産業者に査定価格を出してもらうことが考えられます。
借地権が高額になる場合等では、相続人の共有とする「共有分割」に落ち着くケースがあります。しかし、共有分割は問題の真の解決にはならず、問題の先送りだといわれています。 例えば、借地にある建物の建て替えや売却等のためには、地主だけでなく共有者の全員の合意が必要となります。そのため、借地や建物の利用が大幅に制限されてしまうことになります。 さらに、共有者の1人が亡くなって新たに相続が発生すると、亡くなった共有者の法定相続人等が共有者に加わってしまいます。すると、ますます合意しづらくなります。 これらの事態を防ぐために、共有状態での放置はなるべく行わないようにしましょう。
借地権を相続した場合には、以下のような点に注意しましょう。
これらの注意点について、次項より解説します。
普通借地権の場合、契約期間が満了しても基本的に更新することが可能ですが、更新料を支払う必要があります。 更新料は、一般的には土地の価格の3~5%程度だといわれています。これを大幅に上回るような更新料は無効となる可能性があります。 基準となる価格は借地権の価格ではなく土地の価格ですので、注意しましょう。
最初の契約期間中に地震や水害等によって借地上の建物が消失した場合、特約がなければ、地主の許可がなくとも建物を再築することができます。許可が得られた場合や、再築する旨を地主に知らせてから2ヶ月以上経っても異議を述べられていない場合、更に20年間借地権を存続させることができます。 しかし、再築を拒否されている場合、借地権は最初の契約期間が満了してしまうと消滅するおそれがあります。この際、契約の更新を拒絶する正当な事由があるかについて検討がおこなわれます。
借地の地主が亡くなって相続が発生した場合であっても、地主の相続人は地主と同じ権利義務を承継するため、契約内容は基本的に今までと変わりません。 ただし、地主の相続人が土地を売却した場合、新たな所有者に対して借地権を主張するためには「対抗要件」が必要となります。 対抗要件として、借地にある建物の登記が行われていることが挙げられます。そのため、建物の登記が行われていれば、新たな所有者に対して借地権を主張することができます。 登記は、「表示の登記」でも良いと考えられていますが、他のトラブルを防ぐためにも、なるべく「所有権保存登記」を行うのが望ましいでしょう。 なお、借地権について登記を行うことも可能であり、借地権の登記も対抗要件となります。
相続放棄とは、相続人としての立場を放棄して、被相続人が遺した相続財産を一切受け取らないことです。相続放棄を行うためには、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、必要書類を提出して申し立てます。 相続財産に借地権が含まれている場合、相続放棄のメリットとデメリットとして次のようなものが挙げられます。
【相続放棄のメリット】
【相続放棄のデメリット】
相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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借地権は相続したくないものの、相続財産に相続したい財産がある場合等では、相続放棄することは難しくなります。 このような場合の対処法として、以下のようなものが挙げられます。
これらの対処法について、次項より解説します。
不要な借地権を手放すために売却する方法が考えられます。 借地権は、建物と一緒に売却をおこなうことも可能です。ただし、借地権を売却するためには地主の許可が必要になります。 もしも、地主に無断で借地権を売却してしまうと、借地契約の解除理由となるため注意しましょう。 地主に売却の許可を求めても拒否されてしまった場合には、裁判所に代わりの許可を求めることができます。
不要な借地権を相続した場合には、地主に買い取ってもらう方法が考えられますが、法的にそのような権利が認められているわけではありません。 そのため、買取を請求しても断られる場合があります。また、応じてもらえたとしても、希望した価格よりは低額になることが多いです。 地主が買取に乗り気な場合を除けば、なるべく第三者への売却を検討しましょう。
更新の時期が近い場合には、更新しないことによって借地権をなくすことができます。ただし、相続はすでに発生しているため、借地契約を終わらせる前に相続登記は行う必要があります。 なお、地主側から更新を拒絶した場合等に認められる「建物買取請求権」は、借主側が更新を望まない場合には認められないとされています。そのため、基本的には借地を更地にしてから返す義務が生じてしまうことに注意しましょう。
借地権を第三者に貸すという方法によって、自分で借地や建物を管理する手間をなくす方法があります。ただし、借地を第三者に貸すためには地主の許可をとらなければなりません。 許可が得られない場合には、裁判所に代わりの許可をしてもらう必要があります。このとき、地主が「介入権」を行使すると、借地権は地主に返されて、代わりに借地権の価額を受け取る流れになります。 地主が介入権を行使したときの借地権の価額は、裁判所によって決められます。
借地権の相続は、相続人間で取り分等を巡って協議するだけでなく、地主との話し合いも必要となる場合が少なくありません。 特に、都心の一等地のような場所での借地権等は評価額が高くなります。借主の相続をきっかけとして地主が自分で使いたいと言ってきても、簡単に手放したくはない借主の方もいらっしゃるでしょう。 借地権の相続についてトラブルになったら弁護士にご相談ください。借地権について相続人に認められる権利と認められない権利のような法的な問題だけでなく、今後も地主と付き合っていくことを考えた対応等、個別の事情を踏まえたアドバイスが可能です。