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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
使用貸借とは、動産や不動産等を無償で貸し借りすることです。一般的には、親しい関係にある人との間で行われます。 使用貸借契約は、貸主が死亡したとしても貸主の相続人との間で継続されます。反対に、借主が死亡すると、特約がある場合等を除いて使用貸借契約は終了します。 これは、賃料がかかる代わりに、借主が死亡しても契約が継続する賃貸借とは異なる特徴です。他にも、使用貸借と賃貸借では、相続税がかかるときの扱い等に違いがあります。 そこで、この記事では、使用貸借と相続の関係等についてケース別に分けてくわしく解説します。
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使用貸借が相続の対象となるのかについては次の場合で異なります。
【使用貸借契約の貸主が死亡した場合】
基本的に貸主の地位は相続の対象となります。そのため、使用貸借契約は継続するため、借主は使用貸借していたものを引き続き使用できます。
【使用貸借契約の借主が死亡した場合】
基本的に借主の地位は相続の対象となりません。そのため、使用貸借契約は終了し、借主の相続人は被相続人が使用貸借していたものを貸主に返還しなければなりません。
ただし、建物を所有するために土地を使用貸借している場合などには、建物の使用が終わっていなければ、借主が死亡しても使用貸借契約が継続する可能性があります。
使用貸借とは、当事者の信頼関係に基づいて、動産や不動産等を無償で貸して、目的を達成したら返還するという契約です。 自分が所有する土地や建物を、子や孫、友人等に無償で貸すケースは典型例であり、基本的には当事者が親しい関係である場合に用いられます。 なお、借主が借りている不動産の固定資産税を支払っていたとしても賃貸借にはならず、使用貸借契約に該当するケースが多いです。
物の貸し借りの契約には、主に「賃貸借」と「使用貸借」があります。 主な違いとして、賃貸借であれば賃料が発生し、使用貸借であれば賃料が発生しないことが挙げられます。 賃貸借の事例として、アパートの一室を借りて家賃を支払う契約が挙げられます。
使用貸借している土地の貸主が死亡すると、使用貸借契約は特約がない限り自動的に引き継がれるため、その土地は貸主の相続人が相続することになります。そのため、基本的には特別な手続きはありません。 特約がある場合については次項で解説します。
使用貸借契約を締結するときに、「貸主が死亡した場合には使用貸借契約が終了する」という旨の特約を定めていると、貸主の死亡によって使用貸借契約は終了するため相続の対象となりません。 使用貸借契約の終了の特約は、口約束であっても有効です。ただし、証拠が残らないために借主との間でトラブルが発生するおそれがあるので、なるべく書面によって特約も締結しましょう。
使用貸借契約は、借主の死亡によって終了すると定められています(民法第597条3項)。 そのため、借主の相続人が借主の立場を相続することは基本的にありません。 土地の借主が死亡したときに、相続人が引き続き土地を使いたい場合には、貸主と新たに使用貸借契約を締結する必要があるケースが多いです。 ただし、貸主側に新たな契約の締結を求めても拒否されるおそれがあります。そのような場合には、賃貸借契約への変更等も検討してみましょう。
以下のケースでは、借主が死亡した場合であっても、使用貸借が相続の対象となります。
これらのケースについて、次項より解説します。
使用貸借契約に、借主が死亡した場合に借主の相続人が相続する旨の定めや、借主が死亡した場合であっても使用貸借契約は終了しない旨の定め等があった場合には相続の対象となります。 このような定めは、当事者が特約として取り決めておくことができます。
使用貸借契約の借主が死亡した後、借主の相続人が使用貸借の対象物を利用していた場合、貸主が異議を述べなければ黙示の承諾があったものとして使用貸借契約の存続が認められる可能性があります。
使用貸借契約の貸主が死亡してしまった場合や、借主が死亡しても相続できることを定めていた場合には、当事者のどちらかが死亡したとしても相続人が使用貸借契約を相続します。しかし、使用貸借の期間や目的を定めなかったのであれば、貸主の相続人は基本的に契約の解除がいつでも可能です。 民法には次のとおり契約を解除できるタイミングが定められています。
貸主 |
目的※1が定められている場合:使用終了時 目的※1が定められていない場合:いつでも解除できる |
---|---|
借主 | いつでも解除できる |
※1 使用貸借するのが土地であれば「建物を所有すること」等
貸主の相続人は、期間や目的が定められていない使用貸借契約をいつでも解除できます。しかし、定められた期間中や、目的を達成する前である場合には、貸主側から一方的に解除することはできません。 そのため、期間や目的が定められている使用貸借契約において貸主が借主に立ち退きを求める場合は、立退料の支払いを提示したり、原状回復費用を免除したりして交渉する必要があるでしょう。
借主である被相続人の死亡により原則として使用貸借契約は終了することから、借主の相続人に使用貸借契約の目的物を使用する権限はなく、基本的に立ち退かなければなりません。 しかし、使用貸借契約の中で「借主の死亡によっては終了しない」旨が定められている場合には、使用貸借契約は継続するため、立ち退く必要はありません。 また、建物所有目的の土地使用貸借の場合には、個人的考慮を重視する必要がないとして、土地使用貸借契約の目的に従った土地の使用が終わるまでは、土地の使用貸借契約は終了しないと判断される傾向があり、そのようなケースにおいては、借主の相続人が使用貸借契約を相続できるので立ち退く義務はないことになります。
使用貸借契約対象の土地や建物等の所有権は、相続によって相続人に移転します。 このとき、貸主の死亡により使用貸借契約が終了する旨の特約等がなければ、使用貸借契約の貸主としての立場も相続し、借主が使用している土地や建物等であっても、相続税は所有者である貸主にかかります。 相続税について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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使用貸借している土地は、相続税を課税するときの評価額が「自用地評価額」になります。つまり、借主が使っているため被相続人や相続人が使っていなくても、自分で利用している土地と同じように相続税がかかってしまいます。 一方で、賃貸借契約をしていた場合には、以下の計算方法で算出します。
使用貸借契約を賃貸借契約に切り替えることによって、使用貸借していた土地の相続税の評価額が下がるため節税となり得ます。 しかし、以下のような点について注意しなければなりません。
判断に迷ったら、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。
使用貸借契約は、口約束によって締結することの多い契約です。特に、親子等の家族間で締結する場合には、わざわざ契約書を作成したりしないでしょう。 しかし、相続が発生した場合には、契約書がないと特にトラブルが発生しやすくなります。そのため、なるべく期間や目的を明記した契約書を作成するようにしましょう。 また、貸主は自身の親族等に対して、使用貸借契約の締結に至った経緯等を説明しておくのが望ましいでしょう。それでもトラブルになりそうな場合には、弁護士に相談することをおすすめします。
使用貸借契約の相続について争われた裁判例をご紹介します。
【東京地方裁判所 令和3年5月14日判決】
[事案の概要] この事例は、原告Xの親Aが被告Yの父親Bに土地を貸していたところ、AとBが亡くなった後で、原告Xが使用貸借契約は終了したとして建物の収去や土地の明け渡し等を求めた事例です。 なお、被告Yは賃貸借契約により土地を借りている旨の主張を行いましたが、土地は無償で貸していたと認められたため使用貸借契約として扱われています。
[裁判所の判断] 裁判所は、亡Aの承諾を受けて亡Bが元々土地にあった建物を取り壊し、新たな建物を建築してからは、使用貸借契約の目的は建物を所有することになったとしました。そして、亡Aが生前に使用貸借している土地を無償譲渡してもよいという意向を示していたため、被告が本件建物に居住している間は使用収益に必要な期間が経過したとはいえないとして、使用貸借契約は終了していないと判断しました。
使用貸借により借りている土地は、基本的には借主が死亡すると使用貸借が終了して貸主に返還しなければなりません。 しかし、借主が死亡しても土地を返還しない特約があった場合には、返還する必要はありません。これは、契約書を作成した場合だけでなく、口約束や暗黙の了解であっても認められる可能性があります。 例えば、家を建てて家族で居住することを目的として土地を使用貸借していたケースでは、借主の相続人が引き続き居住することを黙示で認めていたと解釈される可能性があります。 ただし、相続人が土地を引き続き使用できるのは例外的な事情があるケースに限定されます。貸主とのトラブルを防ぐために、なるべく契約書を作成しておくようにしましょう。
使用貸主から使用貸借していた土地について、当該土地に住んでおり、貸主と同一の生計で生活していた親族が当該土地を相続する場合には小規模宅地の特例を適用することができます。 小規模宅地の特例とは、被相続人が所有していた土地について、一定の要件を満たす場合に相続税の計算における評価額が最大で80%減額される制度です。 使用貸借契約の借主が、貸主と同一の生計で暮らしているといえるためには、仕送りをしている・してもらっている等、いわゆる「財布がいっしょ」である必要があります。 なお、借主が固定資産税のみを支払っていても使用貸借契約と判断される場合がほとんどですが、相場と同程度の家賃等を支払っていた場合には賃貸借となり小規模宅地の特例は適用できません。 この場合には、代わりに「貸付事業用宅地等の特例」の対象となる可能性があります。
使用子供が親の土地を使用貸借している場合であっても、基本的には所有者である親が固定資産税を支払います。 使用しかし、子供が固定資産税を支払っても問題ありません。たとえ固定資産税を支払ったとしても、使用貸借契約には影響せず、贈与税も発生しません。 使用ただし、子供が相場と同程度の地代を支払っている場合は、使用貸借契約ではなく賃貸借契約になると考えられます。そのような場合に、通常の賃貸借契約で発生する「権利金」を子供が支払っていないときは、権利金相当額を贈与したものとみなされて贈与税が発生するおそれがあるので注意しましょう。
使用貸借契約は、基本的にお金のやり取りが発生しないため、契約書を交わすケースは少ないです。そのため、相続が発生するとトラブルに発展するリスクがあります。 特に、貸主の相続人が使用貸借についてよく思っていなかった場合や、借主であった被相続人が使用貸借契約について相続人等に説明していなかった場合等では、感情的な対立が発生しやすいといえます。 そこで、使用貸借契約の相続についてトラブルになりそうなケースや、トラブルが発生してしまったケースでは弁護士にご相談ください。弁護士であれば、双方の言い分について検討して、解決に向けてアドバイスをすることが可能です。 無償の契約だからといって簡単に考えず、契約の解除を巡る争いを見越して準備することをおすすめします。