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相続財産清算人とは?必要なケースや申立ての流れなど

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

今までは相続財産を保存・管理・処分するために選任された人を総じて「相続財産管理人」と呼んでいましたが、民法改正により、「相続財産清算人」と呼ばれるようになりました。 現在も相続財産の保存を目的として選任される人を「相続財産管理人」と呼びますが、実際は、相続財産清算人がいないときのための、つなぎの存在となっています。 この記事では、相続財産清算人の概要や選任方法、選任後の流れ等について解説します。

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相続財産清算人とは

相続財産清算人とは、相続人に代わって相続財産を保存・管理し、清算を行う人のことをいいます。 相続人がいる場合包括受遺者がいる場合等には、相続財産清算人を選任する必要はありません。しかし、相続人も包括受遺者もいない場合や、相続人全員が相続放棄してしまったような場合等には、相続財産清算人の選任が必要となります。 なお、包括受遺者とは、被相続人からの遺言によって、相続財産の一定の割合を遺贈された人のことを指します。 相続財産清算人の役割は、主に以下のようなものです。

  • 相続財産目録の作成
  • 相続財産の管理
  • 債務の支払い
  • 受遺者への支払い

相続財産清算人の権限

相続財産清算人は、相続財産の保存行為や管理行為を、自分の判断で行うことができます。 一方で、相続財産の処分行為については、裁判所の許可がなければ行うことはできません。 保存行為・管理行為・処分行為に該当するのは、それぞれ以下のような行為です。

【保存行為・管理行為】

  • 預貯金の口座の解約
  • 既存の債務の履行
  • 不動産の相続登記
  • 賃貸借契約の解除

【処分行為】

  • 不動産や株式等の売却
  • 家財道具等の処分
  • 定期預金が満期になる前の解約
  • 返済期限になる前の債務の弁済

相続財産清算人には誰がなる?

相続財産清算人に選ばれるのは、地域の弁護士や司法書士等の専門家である場合が多いです。 相続財産清算人になるために、特別な資格が設けられているわけではありません。しかし、被相続人との関係や利害関係の有無などを考慮して、相続財産を清算するのに最も適任と認められる人が選ばれます。 申立人が候補者を挙げることも可能ですが、その候補者が必ず選任されるわけではありません。

相続財産清算人が必要になる場合

相続財産清算人が必要になるのは、主に以下のような場合です。

  • ①相続人がいない場合
  • ②相続人全員が相続放棄した場合

これらの場合には、利害関係者や検察官の申立てにより、家庭裁判所によって相続財産清算人が選任されます。 相続財産清算人が必要になる場合について、次項より解説します。

相続人がいない場合

相続財産があり、相続人が1人も存在せず、遺言もないために財産を管理する人がいない場合には、申立てによって相続財産清算人が選任されます。 相続人がいるときには、相続財産清算人は選任されません。また、選任申立てができるのは「利害関係人」または「検察官」に限定されているため、この両者でない者が選任申立てを行っても却下されます。 なお、利害関係人とは、被相続人にお金を貸していた人等、相続財産の管理や処分が行われることで利益を得たり、被害を免れたりする人のことです。

債権者などの利害関係人

被相続人の債権者が返済を受けたい場合や、特定受遺者が遺贈を受けたい場合には、相続財産清算人の選任を申し立てなければなりません。 特定受遺者とは、遺言によって特定の財産を遺贈される人のことです。一方で、相続財産の一定の割合を遺贈された人のことを「包括受遺者」といいます。 例えば、特定の家や土地、あるいは指定された預貯金等を遺贈してもらうためには、相続財産清算人が必要です。また、被相続人にお金を貸していた人や、家賃を滞納されていた大家等といった被相続人の債権者も、支払いを受けるために相続財産清算人を選任する必要があります。

特別縁故者

特別縁故者とは、生前の被相続人と特に親しかった者で、相続財産の少なくとも一部を受け取ることのできる者です。 特別縁故者になれるのは、主に次のような者です。

  • 内縁の配偶者
  • 親のように育ててくれた叔父・叔母等
  • 長年に渡って介護をしてくれた子供の配偶者
  • 無効となった遺言書で、全財産を遺贈される予定だった者

なお、特別縁故者が認めてもらえるのは、相続人がいない場合だけです。また、特別縁故者だと認められても、相続財産の数%についてのみ相続が認められるケースもあります。 特別縁故者になる可能性のある人でも、相続財産を勝手に自分のものとすることはできません。特別縁故者になるためには、相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。

相続人全員が相続放棄した場合

相続人全員が相続放棄すると、相続財産を管理する人がいなくなってしまいます。 このとき、相続放棄をしたときに相続財産である不動産や自動車等を実際に占有していた人には、自己の財産と同一の注意義務をもって保存する義務が発生します。 そこで、相続財産の保存義務を免れたい場合には、相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。選任後に相続財産を引き渡せば、保存義務は終了します。 相続放棄後の相続財産の保存義務について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

相続財産清算人の選任方法について

相続財産清算人の選任申立ての流れ

相続財産清算人の選任を申し立てる前に、被相続人の戸籍謄本等を確認して、相続人が存在しないかについて確認します。 結果として、相続人の存在・不存在が明らかでないことを確認できたら、家庭裁判所で「相続財産清算人の選任の申立て」を行います。

必要書類

相続財産清算人の選任を申し立てるときには、申立書だけでなく、以下のような添付書類が必要となります。

  • 被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の子の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の父母の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
  • 被相続人の兄弟姉妹の出生から死亡までのすべての戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票
  • 相続財産に関する資料(預貯金の通帳の写し等)
  • 申立人と被相続人との利害関係を証明する資料(借用書等)

申立ての費用

相続財産清算人の選任を申し立てるときには、主に以下のような費用がかかります。

  • 収入印紙:800円分(申立書に貼付する)
  • 連絡用の郵便切手:1000円~2000円程度(裁判所によって異なる)
  • 官報公告料:5075円
  • 戸籍謄本:1通あたり450円
  • 住民票の除票:1通300円

予納金とは

予納金とは、相続財産だけでは相続財産清算人へ支払う報酬等に不足するおそれがある場合に、申立人が納めなければならないお金です。 相続財産清算人の報酬は、相続財産から支払われます。そのため、相続財産である現金や預貯金等が少ない場合には、申立人が報酬等の不足に備えてお金を納めることになっています。 予納金の相場は、20万~100万円程度です。なお、予納金が残った場合には、すべての手続きが終わった後で返金されます。

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相続財産清算人の選任後の流れ

相続財産清算人の選任後、手続きは以下のように進められます。

  1. ①相続財産清算人の選任および相続人の捜索の公告
  2. ②被相続人の債権者および受遺者に対する請求申出の公告
  3. ③被相続人の債権者および受遺者への支払
  4. ④特別縁故者への財産分与
  5. ⑤不動産持分の共有者への帰属
  6. ⑥財産が残った場合には、国庫へ帰属する

これらのうち、①の公告は6ヶ月以上の期間に渡って行われます。 また、②の公告は2ヶ月以上の期間に渡って行われます。この公告は、①の公告の期間内に終わるように行われます。

相続財産清算人に関する質問

相続財産清算人の予納金を支払えない場合どうすればいいですか?

予納金が必要なケースで、支払うことができない場合には、選任の申立てが却下されるため相続財産清算人は選任されません。予納金は、相続財産から、相続財産清算人への報酬等が支払えないときに申立人が納めるお金です。必要なお金を用意できない場合には、日本司法支援センター(法テラス)の「民事法律扶助制度」を活用する等の方法が考えられます。

空き家の管理のために相続財産清算人を選任できますか?

相続財産に空き家があったとしても、相続人がいるときには、空き家の管理のために相続財産清算人を選任することはできません。そもそも、相続財産清算人は、相続人がいないときに選任されます。そのため、相続財産に含まれる空き家は自分で管理するか、相続放棄するしかありません。ただし、相続人全員が相続放棄をし、相続人がいない場合でも、相続放棄した相続人がそのときに占有していた不動産や自動車等については、相続財産清算人が選任されるまでは、保存行為を継続しなければならないので注意しましょう。なお、建物がないことや土壌汚染がないこと等を条件として、不要な土地を国に引き取ってもらうことができる「相続土地国庫帰属制度」が2023年4月に始まりました。建物を解体して更地にすれば利用できる可能性があるため、気になる方は専門家に相談することをおすすめします。

相続放棄した後、相続財産清算人の選任をしなくてもいいですか?

相続放棄をしても、相続財産清算人を選任する義務はありません。そのため、利害関係者や検察官が相続財産清算人の選任申立てを行わないと、相続財産が放置されてしまう可能性があります。しかし、相続放棄したときに現に占有していた相続財産は、自己の財産と同一の注意をしながら保存しなければなりません。この義務は、新たな相続人が現れないと、基本的に相続財産清算人が選任されるまで続いてしまいます。そのため、保存義務を免れるためには、相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります。

相続人がいても相続財産清算人の選任はできますか?

相続人がいる場合には、相続財産清算人を選任してもらうことはできません。これは、相続人がいることは明らかであるものの、居場所が分からない場合等にも同様です。そのため、相続人が行方不明である場合等には、失踪宣告を申し立てるか、不在者財産管理人の選任を申し立てることになります。ただし、相続人の全員が相続放棄した場合には、相続人がいなくなるため相続財産清算人を選任してもらうことができます。

相続財産清算人が選任されているかを調べる事はできますか?

相続財産清算人が選任された旨は裁判所の掲示板において掲示され、さらに官報で公告されるため、官報によって調べることができます。官報とは、国が発行している新聞のようなものであり、法令の公布や会社の公告、裁判所の公告等が掲載されます。官報による公告は、6ヶ月以上は継続されます。現在では、会員制の有料サービスである「官報情報検索サービス」も行われています。

相続財産清算人への予納金は誰が払うのでしょうか?

予納金は、相続財産清算人の選任の申立てをした人が支払います。すべての手続きが終わったときに、余った予納金は返金されますが、基本的には予納金を支払っても利益がでる可能性が高い場合にのみ申立てを行うべきだと考えられます。

相続についてお悩みの方はご相談下さい

相続財産清算人の選任を申し立てるためには、予納金等の費用がかかるだけでなく、書類を準備する必要があります。 もしも、相続財産がほとんどなければ、費用がかかるだけで利益がないかもしれません。そのため、事前に可能な範囲で調査等を行う必要があります。 また、自分の死後に相続財産清算人が必要となるような事態を防ぐために、遺言書の作成等の対策を検討している方もいらっしゃるでしょう。 そこで、相続財産清算人の選任の申立てを検討している方や、相続対策を検討している方は弁護士にご相談ください。個別の事情に応じて、最適な対応をご提案いたします。