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【2023年改正】相続放棄後も保存義務は残る?誰がいつまで負うのか?

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

相続放棄をしても、相続財産に関する全ての義務が、すぐになくなるわけではありません。相続放棄をしても、放棄時に現に占有している相続財産がある場合には、相続財産清算人が選任されるまで、その財産について保存義務が発生するからです。 従来、放棄時に現に占有している相続財産について負う義務は「管理義務」とされていましたが、2023年4月に施行された改正民法により「保存義務」に変更されました。しかし、相続放棄時に占有していた相続財産を管理する義務があることについて、大きな変更はないと考えられます。 そのため、以下のような相続財産が残っていた場合、相続放棄をするには特に注意が必要です。

ここでは、保存義務の内容や、義務を怠ったときの影響等について解説します。

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相続放棄した場合の保存義務は誰にいつまで残る?

相続放棄した場合、相続財産の保存義務は、その財産を現に占有していた相続人に、その財産を他の相続人か相続財産清算人に引き渡すまで残ります。 従前は、最後に相続放棄した者が相続財産の管理義務を負っていたため、遠方の不動産の管理を行わなければならない場合がある等の不都合がありました。そこで、2023年4月に民法が改正されて、保存義務を負う者が、相続放棄時にその財産を現に占有していた者に限定されました。 次項では民法改正の内容について詳しく見ていきましょう。

【2023年4月改正】相続放棄後の保存義務者が明確に!

2023年4月の民法改正により、相続放棄によって相続財産を保存する義務を有する者が明確になりました。 改正前と改正後では、それぞれ以下のように定められています。

【改正前】
相続放棄をした相続人

【改正後】
相続放棄をしたときに、相続財産を現に占有している者

「現に占有」とは、被相続人の家に同居していた等、事実上の支配、管理をしていたことを意味します。 この改正により、遠方に住んでいた者が相続放棄をしたケース等については、被相続人の不動産等を保存する義務は発生しないことになります。 なお、従来の「管理義務」は「保存義務」へ呼称が変更されましたが、実質的な違いはありません。

相続人全員が相続放棄した場合はどうなる?

田舎に住んでいた親が亡くなり、相続する権利があった子の全員が東京に住んでいた場合、子の全員が相続放棄をすると後順位の相続人が相続することになりますが、後順位相続人がいないケースでは家の保存義務を有する者が存在しなくなります。なぜなら、家を現に占有している者がいないからです。 この場合、家は空き家になったままになりかねません。そこで、債権者等の利害関係人や検察官の申立てにより、家庭裁判所が「相続財産清算人」の選任を行い、相続財産清算人が相続財産を保存することになります。

相続放棄後の保存義務はいつまで続く?

相続財産を現に占有している相続人が相続放棄した場合、相続人が他にいるか否かによって、保存義務が続く期間が変わります。

【相続人が他にいる場合】
他に相続放棄をしていない相続人がいる場合には、次順位の相続人に財産を引き渡すまで保存義務が続きます。

【相続人が他にいない場合】
他に相続人がいない場合には、相続財産清算人を選任して、財産を引渡すまで保存義務が続きます。

例えば、第一順位の相続人・子が相続放棄をすると、父母が相続人になり、父母が相続財産の保存を始めるまで相続財産を保存します。 相続人となる順位は以下のとおりです。

常に相続人になる 配偶者
第一順位
第二順位 直系尊属(両親等)
第三順位 兄弟姉妹

なお、相続順位についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。

保存義務を免れるには?相続財産清算人の選任

相続放棄後、相続財産の保存義務を免れるためには、相続財産清算人の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。 相続財産清算人について、次項より解説します。

相続財産清算人とは

相続財産清算人とは、家庭裁判所によって任命される、主に相続財産の清算等をする人をいいます。 相続人がいるのかが明らかでない場合や、すべての相続人が相続放棄して相続人がいなくなった場合等に、相続に関して利害関係がある人等の申立てを受けて、家庭裁判所で審理が行われます。そして、家庭裁判所によって相続財産清算人が必要だと判断されれば、相続財産清算人が選任されます。 では、相続に関して利害関係がある人とはどのような人をいうのでしょうか。 例えば、相続財産を保存する義務から逃れようとする元相続人や、被相続人に貸していたお金の弁済を求める債権者等のことをいいます。

相続財産清算人の候補者

相続財産清算人になるための資格として特別に定められているものはありません。しかし、財産の保存や処分は公正に行われる必要があることから、被相続人の親族等が選任されるケースは少なく、基本的には弁護士や司法書士等の専門家が選任されます。

相続財産清算人の選任を申し立てる手続き

相続財産清算人の選任は、債権者や特別縁故者等の利害関係人または検察官が、被相続人が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所に申し立てます。 選任の手続きは、主に次のように進められます。

  1. ① 利害関係人等が相続財産清算人の選任を申し立てる
  2. ② 相続財産清算人の選任の審判をしたときは、相続財産清算人が選任された旨の公告及び相続人を探すための公告が行われる
  3. ③ 債権者や受遺者を確認するための公告・催告が行われる
  4. ④ 相続財産の保存、管理、処分が行われる
  5. ⑤ 債権者・受遺者への弁済が行われる
  6. ⑥ 残った財産が国庫に納められる

相続財産清算人の選任のときには、被相続人が生まれてから死亡するまでの戸籍謄本等、多数の書類を集めて家庭裁判所に提出しなければなりません。手続きの負担はとても重いため、弁護士などの専門家への相談をご検討ください。 なお、必要書類等については、以下の裁判所のサイトでご確認ください。

相続財産清算人の選任 【裁判所】

選任に必要な費用

相続財産清算人は、業務として相続財産の保存、管理、清算を行うため報酬が発生します。また、管理等のために経費も必要です。 相続財産清算人の報酬や経費は、基本的には相続財産から支払われますが、不足する場合には申立人の負担となります。そのため、相続財産が少なくても報酬を支払えるように、選任の申立てのときには、申立人が予納金として数十万円~百万円程度を納めなければなりません。 報酬は相続財産の処理が終わるまで支払われます。予納金が余れば返ってきますが、余るケースは少ないので、あまり期待しない方が良いでしょう。

相続財産清算人が選任されない場合もある

相続放棄をした財産に価値がない場合には、利害関係人が相続財産清算人の選任を申し立てることは少なく、相続財産清算人が選任されない場合があります。 そもそも、相続人がいなくなった場合でも、相続放棄をした者等が相続財産清算人の選任を申し立てる義務はありません。しかし、債権者等の利害関係人は、相続財産から弁済を受けるために相続財産清算人の選任を申し立てることができます。 とはいえ、相続財産に価値がなければ、債権者が弁済を受けることができず、むしろ報酬等の費用がかかります。そのため、相続財産清算人が選任されないことがあるのです。

相続放棄後の保存義務を怠るとどうなるのか?

相続放棄をした者が相続財産の保存義務を負った場合に、その義務を怠ると不利益を受けるリスクがあります。 考えられるリスクとして、以下のものが挙げられます。

  • 損害賠償請求を受けるリスク
  • 近隣住民とのトラブルが起こるリスク
  • 特定空き家に指定されてしまうリスク
  • 相続放棄が無効になるリスク

これらのリスクについて、以下で解説します。

損害賠償を受けるリスクがある

相続放棄した後で、相続財産の保存を怠ると損害賠償請求を受けるリスクがあります。 最も注意するべきなのが家屋等の不動産であり、老朽化した壁や塀などの倒壊等の事故によって、近隣住民が怪我をしたり、隣家の塀を破壊したりすることが考えられます。 それらの事故が発生すると、近隣住民等から損害賠償請求を受けるおそれがあります。

近隣住民とのトラブルが起こりやすい

空き家や空き地を放置すると、不法投棄や害虫の発生等により住環境が悪化して、近隣住民からの苦情を受けるリスクがあります。 さらに、空き家の場合には、放火される等の事件によって周囲に迷惑をかけてしまうリスクもあります。誰かが許可なく住み着いてしまうと、治安に悪影響を与えてしまうおそれもあります。

特定空き家に指定されてしまう

特定空き家とは、市町村が、倒壊のリスクがあり景観を損なっている等の要件を満たしていると認定した空き家のことです。 特定空き家に認定されると、自治体から適切な保存を求める助言や指導を受けることになります。それでも改善しなかった場合には、翌年から固定資産税を軽減する措置を受けることができなくなってしまいます。 また、勧告を受けても改善しなければ命令を受けることになり、従わなければ50万円以下の過料に処せられます。それでも改善しなければ行政代執行等が行われてしまいます。

相続放棄が無効になるおそれがある

保存義務として行えるのは、あくまでも相続財産の保存・改良を目的とする行為に限られます。 そのため、建物を放置して老朽化してしまったことに気づいたとしても、慌てて解体してしまうと「処分」行為に該当するリスクがあります。 もしも「処分」行為をしてしまった場合には、全ての遺産を相続すると認めたことになってしまいます。そうすると、相続放棄は無効となるため、放棄できると思っていた巨額の借金までも相続しなければならない事態が生じるおそれがあります。

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不要な土地や家がある場合の相続放棄について弁護士に相談するメリット

不要な土地や家がある場合には、相続放棄を申し立てる前に弁護士に相談することをおすすめします。 弁護士に相談するメリットとして、以下のようなものが挙げられます。

  • 相続放棄を申し立てるべきかについてアドバイスがもらえる
  • 相続放棄の手続きについて教えてもらえる
  • 相続放棄をするために、やってはいけないことを教えてもらえる
  • 相続放棄をしないのであれば、代わりに限定承認等の手続きについてアドバイスがもらえる

相続放棄後の保存義務に関するQ&A

相続放棄した不動産等の公共料金の契約を勝手に解約することは法定単純承認になりますか?

公共料金を解約しても、基本的には法定単純承認とはみなされません。なぜなら、公共料金の契約を解約することは、法定単純承認に該当する行為には当たらないからです。法定単純承認とは、民法に定められた行為をすることによって、単純承認を行ったとみなされる制度のことです。法定単純承認に該当する行為として、相続財産の全部または一部を処分すること等が挙げられています。相続財産を処分したことになるのは、財産の売却や取り壊し、不動産登記の移転等の行為です。公共料金を解約しても、相続財産を「処分」したことにはなりません。

相続放棄した家の保存義務を負う場合、家の解体費用も負担しなければなりませんか?

相続放棄を行った家の保存義務がある場合には、解体費用を負担しなければならないリスクが高いと考えられます。倒壊のおそれがあるなど危険な状態であるとか、家が老朽化し財産としての価値がもはやないような家屋の場合には、保存義務を負っている者がみずから費用を出して、保存行為として解体しなければなりません。

相続放棄の保存義務を怠ると賠償責任を負う場合も。後悔する前に弁護士へご相談ください

相続放棄後の保存義務から逃れるためには、最終的に相続財産清算人を選任することが必要ですが、多額の費用がかかるために、選任の申立てを行う方は少ないのが現状です。そして、結果的に相続財産である土地や建物が放置されてしまうことが多いです。 土地や建物を放置すると、老朽化による家屋の倒壊等で周辺住民に損害を与えかねません。この場合、周辺住民から損害賠償請求を受けるリスクがあることから、必ずしも相続放棄をすることが最良の方法とは限らないといえるでしょう。 そのため、相続放棄を行う前に弁護士へご相談ください。弁護士であれば、相続財産の全体を確認してから、相続放棄を行うべきなのか、行った後で相続財産をどのように保存するのか等についてアドバイスができます。 相続放棄には3ヶ月の期限があるため、なるべく早く相談することをおすすめします。

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