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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
親や兄弟が亡くなり、さまざまな手続きに追われて精神的にもつらいなか、亡くなった方に借金があることが判明したら、対応に困ってしまう方もいらっしゃるかと思います。 亡くなった方の借金は、「相続放棄」をすれば返済する義務はなくなります。しかし、「相続放棄」には期限があるため、泣き寝入りしなければならないことも考えられます。 このページでは、相続放棄の効果やメリット・デメリット、相続放棄までの期限、期限が過ぎてしまったときの対応等について解説します。
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相続放棄とは、相続人としての立場を放棄することです。これにより、プラス・マイナスにかかわらず、すべての財産を相続することはなくなります。 そのため、相続放棄をすれば、基本的には借金を相続せずに済みます。 しかし、相続放棄を行っても、借金自体が消滅するわけではありません。そのため、他の相続人が代わりに支払わなければならなくなります。 なお、相続放棄をするためには、家庭裁判所で手続きを行い、認められる必要があります。この手続きについては後述します。 相続放棄についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページを併せてご覧ください。
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配偶者は常に相続人となりますが、血族には相続順位があり、民法で以下のように定められています。
第1順位 | 子(既に亡くなっている場合には孫等) |
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第2順位 | 直系尊属(両親や祖父母等) |
第3順位 | 兄弟姉妹(既に亡くなっている場合には甥・姪) |
ここで、被相続人の子が相続放棄をしても、被相続人より先に子が死亡していた場合とは異なり、子の子(被相続人の孫)が相続することにはなりません。これは、相続放棄をすると最初から相続人でなかったものと扱われるためです。 被相続人の子が一人だけだった場合には、その子が相続放棄をすると被相続人の両親に相続権が移ります。 なお、誰がどの程度の割合で遺産を相続することになるのか詳しく知りたい方は、以下のページでご確認ください。
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相続放棄をすると、すべての財産を相続することができなくなります。一部財産のみを相続放棄することはできないため、借金だけ相続放棄することはできません。 そのため、相続財産に含まれる家や土地を残したい場合には、他の相続方法を選択することが考えられます。 相続方法には、相続放棄以外にも、「単純承認」と「限定承認」があります。これらの方法の違いは、次の表のとおりです。
単純承認 | プラス・マイナスの全ての財産を相続する |
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限定承認 | プラスの財産の範囲でマイナスの財産も相続する |
相続放棄 | プラスの財産もマイナスの財産も相続しない |
これらの方法のうち、多額の借金とどうしても相続したい財産がある場合には、限定承認を選択することが考えられます。 ただし、限定承認は相続人全員でしなければならないなど手続きが簡単ではなく、税務上の観点からも注意が必要であるため、慎重に検討しましょう。 「限定承認」について、メリットやデメリット、手続き方法など、以下のページで詳しく解説しています。こちらもぜひご参照ください。
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法定相続人の全員が相続放棄をした場合でも、借金等のマイナスの財産は残るので、連帯保証人がいるケースではそちらに請求されることになります。相続人が連帯保証人であるケースでは、相続放棄をしても連帯保証債務はなくなりません。 また、相続財産に不動産が含まれていると、相続放棄をしても管理義務が残ってしまうおそれがあります。 不動産の管理義務は、2023年3月31日までは、最後に相続放棄した者に課せられました。 2023年4月1日以降は、基本的には相続放棄をしたときに、その不動産を占有していた相続人に課せられることになります。 相続財産管理人が選任されれば、不動産の管理も行ってもらえるので、管理義務からは解放されます。しかし、相続財産管理人の申立てのときには、高額な予納金の支払いを求められるおそれがあります。相続放棄をしても、高額な費用がかかるおそれがあるため注意しましょう。
相続放棄を検討するべきケースとして、次のものが挙げられます。
相続放棄のメリットとしては、主に以下のことが挙げられます。
相続放棄によって、被相続人に以下のような借金があっても相続せずに済みます。
借金がある場合の遺産分割協議はスムーズに進まないことが多いです。借金の押し付け合いになり、場合によっては裁判をするような事態になりかねません。 親族と仲が悪く、相続争いに発展することが予想できるケースもあります。そのような争いにかかわりたくないという場合は、相続放棄すればそのような心配はなくなります。
相続放棄には、デメリットもあります。主に、以下のようなことが挙げられます。
相続放棄をすると、不動産などのプラスの財産も相続できなくなります。そのため、よく調べないと損をしてしまうおそれがあります。 例えば、遺産が田舎の土地と多額の借金のみであることを把握しており、相続しても得にならないと考えて相続放棄をしたところ、土地が想像以上に高額だった等のケースが考えられます。 相続放棄をしてしまうと、基本的には取り消しは認められません。そのため、相続財産は慎重に調べる必要があります。
自分が相続放棄をしたために、親族が借金を負うことになってトラブルになる場合があります。 例えば、被相続人の唯一の子である自分が相続放棄をすることによって、伯父(叔父)や伯母(叔母)といった親族が相続人になってしまい、借金を背負ってしまうかもしれません。そのような事態になれば、親戚関係が悪くなってしまうと考えられます。 自分が相続放棄をしたときに、他の相続人に対して、裁判所からの通知などは行われません。そのため、自分が連絡をしなければ、他の相続人にとっては不意打ちのような状況になってしまいます。 特に、借金などマイナスの財産が多いという理由で相続放棄する場合は、親族にきちんと説明しておくのが望ましいでしょう。どうしても連絡先がわからなければ、弁護士に相談して解決する方法も考えられます。
相続放棄をすると、基本的にやり直しはできません。そのため、たとえ相続放棄後に高額な遺産が発見された場合や、価値がないと思っていた土地などが高額であった場合等であっても、相続放棄を取り消すことは困難です。 相続放棄の取り消しが認められるケースとして、遺産の独占を狙った他の相続人から騙されたケースや、脅されたケース等が挙げられます。 勘違いにより遺産が借金しかないと思い込んでいたケースでは、取り消しが認められる可能性は低いでしょう。
相続人の行為によって、相続放棄ができなくなるケースがあります。例えば、被相続人の借金を遺産から返済してしまうと、相続放棄ができなくなることがあるので注意しましょう。 遺産からの借金の返済によって「単純承認」したとみなされてしまうと、すべての財産を相続することになるため、借金もすべて引き継がなくてはなりません。 一方、被相続人の借金の返済を相続人の財産から行った場合には単純承認とはみなされません。しかし、トラブルの原因となるため、返済を求められても慎重に対応しましょう。 また、次に挙げるような行為をすると、単純承認だとみなされるおそれがあります。
なお、単純承認について詳細を知りたい方は、以下のページをご覧ください。
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相続放棄には期限が設定されており、「相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内となっています。これは、「被相続人が亡くなったことを知った時」から3ヶ月以内と、ほとんど同じタイミングです。 この期間内に手続きを行わなければ、基本的に相続放棄はできません。ただし、亡くなった後にかなり経ってから督促状が来て初めて借金の存在を知った場合などは、それまでに単純承認していなければ、猶予が認められる可能性もあります。相続放棄は、家庭裁判所で手続きを行わなければならないため、時間的な猶予は十分ではないので注意しましょう。 なお、相続放棄の期限については、以下のページで詳しく解説しています。こちらもぜひ併せてご一読ください。
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相続放棄の期限である3ヶ月が過ぎてしまっても、事情があったと家庭裁判所に認められれば、相続放棄できる可能性があります。 例えば、次のようなケースであれば考慮されるでしょう。
ただし、これらの事情について証明するのは困難です。そのため、被相続人の死亡後に何年も経ってから督促があった場合には、借金の時効について検討しましょう。 借金の時効とは、借金に関する支払いの請求や金銭の返済などがない状態が継続したことによって、借金を消滅させることができる制度です。 しかし、時効が成立したかの判断は個人では難しく、借金の存在を認めることによって成立しなくなるケースもある等、請求されたときの発言によって不利になるリスクもあります。 時効の成立について検討するときには、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。
3ヶ月の期限が過ぎていても相続放棄が認められた裁判例を、以下でご紹介します。
【東京高等裁判所 令和元年11月25日決定】
[事案の概要]
3人の抗告人らは、被相続人が居住していた地区の市長からの通知により、叔母である被相続人の死亡と、自分たちが法定相続人であることを知りました。そこで、抗告人らのうち1人が代表して、相続放棄の書類を家庭裁判所に送付しました。
しかし、後日に市役所から、相続放棄の手続きは1人1人がそれぞれ行う必要があること等を指摘されました。
抗告人らはあらためて相続放棄の手続きを行おうとしたものの、家庭裁判所は熟慮期間を過ぎているとして却下しました。そこで、抗告人らは高等裁判所に即時抗告しました。
[裁判所の判断]
裁判所の判断は、抗告人らが3ヶ月以内に相続放棄の手続きを行わなかったのは、手続きが済んだものと信じていたこと、及び被相続人の財産についての情報不足が原因であるとしました。
さらに、被相続人とはまったく疎遠であったこと、抗告人らが高齢であり法律知識もなかったこと等から、抗告人らの相続放棄の手続きが遅れたのはやむを得ないとしました。
そして、熟慮期間は市役所職員から相続放棄は各自が手続きを行う必要があることや滞納している固定資産税等の具体的な額についての説明を受けたときから開始したものとして、相続放棄の申立てを受け入れるべきであると判断しました。
相続放棄をするためには、家庭裁判所で「相続の放棄の申述」という手続きを行わなければなりません。 そのため、相続人の全員が集まった場において、「自分は遺産を一切受け取らないので、借金も他の人に払ってもらいたい」と表明し、他の相続人の全員が受け入れて、その旨を記載した遺産分割協議書を作成したとしても、相続放棄とは認められません。 相続放棄ではないために、銀行等の債権者が、法定相続分に応じた借金の返済を求めてきたときに、拒否することができなくなってしまいます。仮に、相続人の誰かが「相続される借金は私が払います」と言っていても、安心してしまわないように注意しましょう。 相続放棄の手続きを詳しく知りたい方は、以下の記事を併せてご覧ください。
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被相続人に借金があるか調べる方法として、まず信用情報機関に問い合わせることで、借金の有無がわかる可能性があります。問い合わせ先は、以下の3つの団体です。
それぞれ、ウェブサイトに申請方法や必要書類などが掲載されています。 また、未納の税金に関しては、被相続人の住所地の市町村役場へ問い合わせましょう。 他にも、個人間の貸し借りや、連帯保証債務などが存在する可能性もあります。家の中や郵便受けに、契約書や請求書、督促状などがないか、よく探しましょう。 もしも3ヶ月の期限内に財産を調べ切れないと判断したら、早めに弁護士などに相談することをおすすめします。各所への問い合わせの手続きは、弁護士であれば代理が可能です。また、裁判所に申し立てて熟慮期間を伸長してもらうことができる場合もあります。 相続財産の調査方法について、さらに詳しく知りたい方は、以下のページを併せてご覧ください。
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亡くなった被相続人が借金をしていた債権者から、法定相続人が支払いを求められることがあります。そのような取り立てを受けた場合には、相続放棄をしたことや、相続放棄の手続きをしていることを伝えましょう。 相続放棄の手続きが終わった後であれば、その旨を伝え、念のため「相続放棄申述受理通知書」のコピー、または「相続放棄申述受理証明書」を送付しましょう(どちらも家庭裁判所で交付してもらえます)。 なお、取り立てを受けても、相続放棄を予定している、または手続きの途中ならば、被相続人の財産から返済してしまうことは厳禁です。被相続人の財産から返済してしまうと、相続放棄ができなくなるおそれがあります。 債権者が諦めないためにトラブルが発生したときには、弁護士等に相談することをおすすめします。
相続放棄をしても、被相続人の生命保険金を受け取ることはできます。なぜなら、生命保険金は基本的に相続財産ではなく、受取人固有の財産とされているからです。 同じように、次に挙げるものも、相続放棄をした者が受け取ることが可能です。
ただし、生命保険金は税法上では相続財産と同様に扱われるため、相続税がかかります。さらに、相続放棄をしてしまうと、相続放棄をしなければ受けられるはずだった「非課税枠」の適用が受けられなくなります。 「非課税枠」が使えないことによって重くなる税負担と、相続放棄によって引き継がなくなる借金等の金額を計算し、相続放棄を行うべきかを検討すると良いでしょう。
生前に相続放棄をすることはできません。その理由として、家族等からの圧力によって不当に相続放棄をさせられることが横行するリスクが挙げられます。これは、財産がなく借金しか存在しない場合でも同様です。 また、相続人に債務を相続させない旨の遺言書は、債権者に対して効果がないため、相続人は遺言書による相続分がなくても債務を逃れられません。 そこで、生前から債務整理を行っておくことや、事前に相続放棄申述書を準備しておくこと等が対策として挙げられます。
子供が未成年者である場合には、本人が有効に相続放棄をすることはできないため、基本的に法定代理人である親が代理して相続放棄します。ただし、親も相続人になっている場合には、次の対応が必要です。
たとえ莫大な借金を理由として相続放棄をするケースであっても、子を代理しての相続放棄を先に行うことは認められないので注意しましょう。 また、相続人が認知症を発症している場合には、成年後見人を選任して、代理してもらうことにより相続放棄します。 このとき、成年後見人が相続人の親族だと、成年後見人も相続人になっているおそれがあります。その場合には、同時に相続放棄するか、成年後見人である相続人が先に相続放棄しましょう。
被相続人が他人の連帯保証人になっていた場合には、相続放棄すれば、連帯保証人としての地位を相続することはありません。つまり、相続放棄すれば連帯保証人にならずに済むということです。 一方で、相続人が被相続人の連帯保証人になっている場合には、相続放棄しても連帯保証人であり続けます。そのため、少しでも財産を相続して返済に充てた方が良いケースもあります。 このようなケースでは、被相続人の遺産について調べて、相続した方が良いかを慎重に検討しましょう。
亡くなった方に借金があり、その借金を引き継ぎたくない場合には、相続放棄することができます。ただし、相続放棄をするとプラスの財産も手に入らなくなるため、財産の調査を詳細に行ってから検討するべきでしょう。 相続放棄には「相続開始を知ったときから3ヶ月」という期限があるため、この期限内に財産を調査して、手続きを行わなければなりません。 相続放棄をするべきかについてお悩みの場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。また、3ヶ月の期限が過ぎるまで借金の存在を知らなかった方や、亡くなった方の借金の取り立てを受けている方なども、諦めずに一度ご相談ください。 私たちは相続案件を扱った実績が多数あります。相続放棄についてお悩みでしたら、ゆっくりお話を伺いますので、まずはお気軽にお電話ください。