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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
遺産を相続しない方法には、「相続放棄」と「相続分の放棄」の2種類があります。 この2種類のうち、相続放棄をした場合には、亡くなった方(被相続人)の借金を払う必要はありません。 これに対して、相続分の放棄をした場合であっても、借金を払う必要があるため注意しましょう。 本記事では、相続放棄と相続分の放棄の違いについて解説します。
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相続分の放棄とは、遺産についての自身の取り分を放棄することです。 相続分の放棄をする場合には、特別な手続きは要求されていません。他の相続人に意思表示をして、遺産分割協議書にその旨を記載してもらい、相続分の放棄をした者も含めた相続人の全員が署名して押印すれば成立します。相続人間の遺産分割協議において行えるため、広く利用されています。 もっとも、このような相続分の放棄は、共同相続人間の内部の問題であり、放棄や効力を対外的に主張することはできないとされています。そのため、被相続人の債権者との関係では、借金の支払いを免れることはできません。 なお、相続分の放棄と似たものに「相続分の譲渡」があります。相続分の譲渡とは、自身の相続分を他の相続人や第三者に譲渡することです。
相続分の放棄を行うべきケースとして、次のようなものが挙げられます。
これらのケースのうち、負債はないものの、特定の相続人に遺産を相続させたい場合には、相続分の譲渡をすると良いでしょう。 相続分の譲渡をするときには、譲渡の事実を証明するために、当事者間で「相続分譲渡証明書」を作成すると良いでしょう。 さらに、他の相続人には「相続分譲渡通知書」を送ることによって、相続分の譲渡をした事実を知らせることができます。
相続放棄とは、相続の開始後に、自身の相続人としての立場を放棄することです。 相続放棄が認められると、その相続について最初から相続人ではなかったものとみなされます。 したがって、相続放棄をすれば、被相続人のプラスの財産だけでなくマイナスの財産(負債)も相続することはないため、被相続人の借金を払う必要はなくなります。 ただし、相続放棄をしても、遺産に含まれていた不動産の管理義務が残る場合があるため、すべての負担がなくなるわけではありません。 また、他の遺族に一切の相談をしないまま相続放棄をしてしまうと、次の順位の相続人(被相続人の兄弟姉妹等)に相続権が移ってしまい、トラブルになることがあるため注意しましょう。 なお、相続放棄の期限は自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月とされています。相続放棄をする場合には、期限までに家庭裁判所で手続きを行う必要があります。 相続放棄の手続きについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続放棄をするべきケースとして、次のものが挙げられます。
相続分の放棄 | 相続放棄 | |
---|---|---|
手続き方法 | 他の相続人への意思表示をする | 家庭裁判所で手続きをする |
期限 | ない | 自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内 |
1人で手続きは可能か | 実質的にできない | できる |
遺産分割協議への参加 | 必要 | 不要 |
債務を弁済する義務 | 消滅しない | 消滅する |
後順位の相続人への影響 | 影響しない | 影響する |
相続分の放棄を行うためには、特別な手続きは必要ありません。また、期間の制限もありません。 これに対し、相続放棄をするには、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3ヶ月以内に、家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしなければなりません。 また、相続放棄の場合、放棄をした者が初めから相続人ではなかったとみなされた結果、後順位の者が相続人になる場合があることに注意が必要です。
相続分の放棄は、民法上に明文がなく、その効果について、放棄した者の相続分を残りの相続人間において法定相続分で按分する、相続放棄と同様に扱うなど見解が分かれています。一方で、相続放棄では、放棄した者が最初から相続人ではなかったものとして分配します。 法定相続人が被相続人の配偶者と2人の子供だった場合について、表にまとめたのでご覧ください(相続分の放棄については、相続分で按分する説を採っています。)。 なお、親族関係が複雑である場合等、計算が難しいときには弁護士等に相談することをおすすめします。
法定相続人 | 法定相続分 | 相続分の放棄をした場合の相続割合 | 相続放棄した場合の相続割合 |
---|---|---|---|
母 | 1/2 | 2/3 | 1/2 |
子供A | 1/4 | 1/3 | 1/2 |
子供B | 1/4 | (相続分の放棄) | (相続放棄) |
自分が相続人になってしまったときに、相続放棄をするべきなのか、相続分の放棄をするだけで良いのかについて判断するのは簡単ではありません。 その判断を行うときには、遺産の内容が好ましくないために遺産相続をしたくないのか、特定の相続人に遺産を集中させたいのか等、放棄をしようと考えた理由によって結論が異なる場合があります。 このとき、相続税について検討すると、相続放棄をすることが好ましいわけではないケース等もあります。 被相続人と疎遠であり遺産の内容が把握できない場合等、自分で判断するのが難しい場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。