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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
遺言執行者とは、遺言を執行すべき者として指定又は選任された遺言の内容を実現する人のことで、遺言者の最期の意思を実現するために重要な役割を果たします。
では、この遺言執行者は必ず選任しなければならないのでしょうか?また、誰が、どのように選任されるのでしょうか?
ここでは、こうした様々な疑問にお答えするために、遺言執行者について広く説明していきます。ぜひご覧ください。
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遺言執行者(遺言執行人)とは、被相続人(亡くなった方)が残した遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。一般的に、被相続人が遺言書で指定するか、相続人が家庭裁判所に申し立てることによって選任されます。
遺言執行者がいない場合には、相続人や「遺贈」を受ける人が遺言の内容を実現化するための手続きを行います。具体的には、相続人や受遺者のうちの1人が、他の相続人などの合意を得て率先して相続手続を行うことになります。
なお、遺贈とは、遺言書によって遺産を誰かに与えることであり、これによって相続人でない者に遺産を与えることが可能です。
遺言執行者には、遺言の内容を実現するために必要な一切の権限が認められています。そのため、以下のような手続きを行うことができます。
なお、令和元年の民法改正により、遺言執行者への妨害行為は明確に禁止されました。そのため、相続人が無断で相続財産を売却したり、名義変更をしたりした場合、こうした相続人の行為は基本的に無効となります。
遺言執行者は必ず選任しなければならないわけではありません。
次項より、遺言執行者の選任が必要なケースと不要なケースに分けて、それぞれ解説していきます。
遺言執行者の選任が必要なケースとして、遺言に以下のような内容が含まれているケースが挙げられます。
これらの行為をする権限は遺言執行者にしかありません。そのため、遺言で指定されていないときは、家庭裁判所で遺言執行者選任の申立てを行い、遺言執行者を選任してもらう必要があります。
認知とは、結婚していない女性との間に生まれた子を、自分の子だと認める行為です。
隠し子などに相続させたい場合には必ず認知をし、戸籍に親子である旨を記載させる必要があります。
推定相続人の廃除とは、被相続人本人が自分の意思で、推定相続人(相続権を持つ人)の相続人としての権利を奪い、相続財産を渡さないようにすることをいいます。
特定の相続人が被相続人に虐待や侮辱といった行為をしたり、ひどい非行に走ったりしたという事情がある場合に、家庭裁判所に申し立てることで行えます。
廃除の取り消しとは、こうして一度行った推定相続人の廃除を取り消すことをいいます。
一般財団法人とは、財産を一定の目的のために利用することを目的とする法人です。
被相続人に「相続財産を社会貢献などのために役立てたい」といった希望がある場合に、一般財団法人を設立し、相続財産の運用を任せる旨の遺言が残されるケースがあります。
上記のケース以外では、遺言執行者を必ず選任しなければならないというわけではありません。
しかし、遺言執行者を選任しない場合より、遺言執行者を選任して各種手続きを任せる方がスムーズに遺言の内容を実現できることが多いです。例えば、被相続人の預貯金口座の解約手続には、相続人全員の印鑑証明書が必要ですが、遺言執行者が選任されていれば、遺言執行者1人の印鑑証明書だけで解約することができます。
遺言執行者は、遺言書がない場合や、遺言書のなかで指定されていない場合等には、選任が不要であるケースが少なくありません。子の認知等をしなければならないケースでは、家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てなければなりませんが、それ以外では選任する義務はありません。
ただし、遺言執行者を選任する義務がないときであっても、手続きのときの利便性等を考えて選任することが多いです。
例えば、相続人の仲が悪いケースでは、協力が得られず相続手続が進まなくなってしまうおそれがあります。このときに、遺言執行者がいれば、1人で各種の相続手続を進めることができます。
このように、トラブルを回避して遺言の内容を確実に実現するためには、あらかじめ遺言執行者を指定・選任しておいた方が良いでしょう。
遺言執行者は、主に次のような職務を行います。
【主な職務内容】
これらの職務について、以下で解説します。
被相続人(遺言者)が亡くなり、遺言執行者になることを承諾して就任したら、就任した旨を相続人全員と受遺者(遺贈を受ける人)の全員に通知します。
通知方法は特に決められていませんが、「通知を受けていない」と主張されることを防ぐためにも、就任通知書を作成して送付することをおすすめします。
相続人と受遺者は相続について強い利害関係を持っているので、知らせずに手続きを進めると後でトラブルに発展するリスクが高いです。また、相続人等が勝手に相続財産を処分することを防ぐ必要があるので、忘れずに通知しましょう。
なお、ここでいう「相続人」とは、遺留分のあるなしに関係なくすべての相続人を意味しています。一方で、就任通知の対象となる「受遺者」とは、相続人と同じ権利義務を持つ「包括受遺者」のことです。具体的には、“相続財産の2分の1を与える”というように、被相続人が遺贈の対象とする財産を特定していない受遺者のことです。
遺言執行者は、相続人が誰なのかを把握するため、就任後すぐに相続人調査を行い相続人の範囲を確定します。なぜなら、遺言執行者に就任したら、相続人全員に対して、遺言の内容を実行するうえで必要な手続きを速やかに始めなければならないからです。
法律で相続権を与えられた相続人は、被相続人の戸籍を辿ることで把握できます。そのため、相続人調査は、被相続人が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類を取り寄せ、親族関係を確認するという方法で行うことになります。
より詳しい相続人調査の方法については、下記の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
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相続人が確定したら、相続関係説明図を作成しておきましょう。
相続関係説明図とは、被相続人とすべての相続人の関係性を一覧にした図のことです。家系図をイメージするとわかりやすいかもしれません。
相続関係説明図の作成は強制ではありませんが、次のようなメリットがあるため、作成することをおすすめします。
●相続人の範囲を把握するのに役立つ
相続関係説明図を見れば、被相続人とどのような関係性にある人が相続人となるのかが一目でわかるため、財産目録等を交付するにあたってとても役に立ちます。
●相続手続をスムーズに進められる
不動産登記の名義変更の際に相続関係説明図を添付しておけば、提出した戸籍謄本等を返却してもらえます。返却してもらった戸籍謄本等を他の相続手続の際にも使用すれば、戸籍謄本類を取得する費用と手間を抑えながら手続きを進めることができます。
相続手続を進めるためには、相続が開始した時点で被相続人が持っていたすべての財産を記録し、一覧にしておく必要があります。
そのため、現金・預貯金・不動産・自動車等のプラスの財産はもちろん、借金・ローン・未払いの税金等のマイナスの財産がどれくらいあるのかを調査しなければなりません。
例えば、預貯金の場合は口座のある金融機関に開示を求めたり、不動産の場合は名寄帳を取得したりして確認します。例外的に、個人からした借金で借用書もない場合など、調査自体が困難なケースもありますが、通常行える調査は尽くしておく必要があります。
詳しい相続財産の調査方法は、下記の記事で紹介しています。気になる方はぜひこちらも併せてご覧ください。
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相続財産の調査を行ったら、財産目録を作成します。
財産目録とは、相続財産の内容を一覧にしたリストのことです。特に書式は決まっていませんが、相続財産のある場所や数量、価値などを明確に記載し、対象となる財産を特定できるようにすることが重要です。
なお、財産目録は、作成後速やかに相続人・受遺者全員に交付する必要があるため注意が必要です。
財産目録の記載内容や作成時のポイントなどを知りたい方は、ぜひ下記の記事もご参照ください。
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遺言執行者は、欠格事由に該当しなければ誰でもなることができます。遺言執行者の欠格事由は民法1009条により、以下の要件が定められています。
【遺言執行者の欠格事由】
これらの欠格事由に該当するかの判断は、相続開始時(基本的には被相続人が亡くなった時)の年齢や経済状況を基準に行います。
つまり、遺言で遺言執行者として指定された人が、遺言書の作成時には未成年だったとしても、相続開始時に成年に達していれば遺言執行者になることができます。
なお、法人であっても遺言執行者になることができるので、相続人以外にも被相続人の友人やNPO法人、専門家である弁護士や弁護士法人などが遺言執行者になることも可能です。
民法
(遺言執行者の欠格事由)1009条
未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。
遺言執行者が、相続人や受遺者と同じ人でも問題ありません。ただし、場合によっては、自分にとって不利な遺言の内容を実現しなければなりません。また、他の相続人から、理不尽な疑いをかけられるおそれもあります。
そこで、スムーズに相続手続を進めるためにも、公正で中立な立場にある人が遺言執行者となる方が望ましいでしょう。特に、相続人の関係が良好でない場合には、弁護士等の専門家に遺言執行者になってもらうことをおすすめします。
遺言執行者として弁護士を選任すると、次のように多くのメリットを得られます。
相続手続は法律に則って進めるため、法律の知識が不可欠です。法律のプロである弁護士であれば、各種の相続手続を円滑に進めることができるので、相続財産をより早く手にできるようになります。
弁護士を遺言執行者に選任すれば、相続人は様々な手続きから解放されて、負担はかなり軽減されます。
相続人の誰かを遺言執行者に選任した場合、不正を疑われる等のトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。しかし、弁護士を遺言執行者に選任すれば、こうした対立を防ぐことができます。
遺言執行者は、報酬を請求することができます。具体的な報酬の金額は、以下の3パターンのいずれかによって決めます。
弁護士を遺言執行者に選任した場合には、報酬の相場は、基本的に下記の「旧弁護士会報酬基準規程」に沿って決まります。
ただし、遺言の内容が複雑だったり、相続財産の価額が高額で手間がかかったりする場合は、報酬が高くなる傾向にあるので、相続財産の価額に応じて30万円から数百万円程度を用意する必要があるでしょう。
一方で、弁護士以外の専門家に依頼すると、安いケースでは30万円~50万円程度で済む可能性があります。ただし、相続トラブルが裁判に発展したときには、改めて弁護士に依頼しなければならず、追加的に弁護士費用がかかります。
相続財産の価額 | 報酬 |
---|---|
300万円以下 | 30万円 |
300万〜3000万円以下 | 2%+24万円 |
3000万〜3億円以下 | 1%+54万円 |
3億円を超える | 0.5%+204万円 |
遺言執行者は、次の3つのいずれかの方法で選任することができます。
なお、遺言執行者の人数に制限はないため、複数の人を遺言執行者として指定する、または選任してもらうことが可能です。
次項より、それぞれの具体的な内容について、詳しく確認していきます。
遺言執行者は、遺言者(被相続人)が遺言で指定することができます。
この方法をとる場合、遺言執行者に指定したい人を遺言書に記載するだけで手続きは済みます。ただし、遺言執行者に指定したい人物を特定できるようにする必要があるので、通常は次のような事項を記載します。
なお、親族を遺言執行者に指定する場合は特定が簡単なため、氏名・遺言者との続柄・生年月日等の記載だけで済ませることもあります。
とはいえ、事前の相談なく遺言執行者を指定した場合、拒否されてしまう可能性があるので、指定したいと考えている人にはあらかじめ確認しておくべきでしょう。
万が一遺言による遺言執行者の指定を拒否された場合は、家庭裁判所に申し立てて選任してもらうことになります。
遺言で遺言執行者を指定するメリットには、次のようなものがあります。
【遺言執行者の選任を申し立てる手間がない】
遺言執行者の選任を家庭裁判所に申し立てる場合、手間や費用、時間がかかります。しかし、遺言で遺言執行者を指定しておけば、相続開始後すぐに遺言執行者が就任できるので、早い段階で相続手続を始めることができます。
【相続人間のトラブルを防げる】
遺言で遺言執行者を指定しておかない場合、遺言執行者がいない状態がしばらく続くため、相続財産の管理や相続手続を任せるまでに期間が空いてしまいます。
その結果、相続人が他の相続人に無断で相続財産を処分してしまうといったトラブルが起こり、相続手続を進めるうえで混乱を招いてしまうリスクがあります。
遺言書に「〇〇に遺言執行者の選定を一任する」といった記載をするなどして、特定の第三者に遺言執行者を選任してもらう方法です。
第三者に遺言執行者を選任してもらう方法では、遺言であらかじめ指定しておいた遺言執行者が遺言者よりも先に亡くなってしまうといった事態を回避することができます。また、相続開始時の状況に応じて遺言執行者となる人を選んでもらえるので、柔軟な対応が可能なうえに、選任できる人の幅が広がります。
利害関係人が請求することにより、家庭裁判所に遺言執行者を選任してもらう方法です。
以下のようなケースで、選任を請求することができます。
また、家庭裁判所による選任を請求できる利害関係人とは、次の人を指します。
なお、申立ての際に、遺言執行者にしたい候補者の名前を申立書に記入できます。しかし、誰を遺言執行者として選任するかは家庭裁判所が決めるため、申立人が親族などを候補者にしても、弁護士等の専門家が選任されることがあります。
特に、相続人が揉めているケース等では、専門家が選任される確率が高いと考えられます。
家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる際に必要な書類としては、下記のようなものがあります。ただし、個別の事情によっては、下記以外の書類の提出が求められることもあります。
なお、申立時に取得が間に合わない書類があっても、申し立てた後に追加で提出することができます。
その他、申立時には、遺言書1通あたり800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手代(裁判所によって異なります)といった費用も用意する必要があります。
遺言であらかじめ遺言執行者として指定していた人が遺言者よりも先に亡くなってしまっていた場合、遺言執行者が指定・選任されていないものとして、家庭裁判所に遺言執行者を選任するよう申し立てることができます。
しかし、このような場合には、せっかく遺言執行者を指定しておいたメリットがなくなってしまいます。そこで、遺言執行者として指定していた人が先に亡くなってしまう事態に備えて、次のような対策をしておくことをおすすめします。
遺言執行者は、民法1019条により、解任される場合や辞任できる場合があります。ただし、一度就任した遺言執行者を解任するときや、遺言執行者を辞任するときには、家庭裁判所の許可を得る必要があります。
具体的には、以下のケースで解任や辞任が認められます。
民法
(遺言執行者の解任及び辞任)1019条
1 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
次のように、遺言の執行が客観的に困難だと認められる正当な事由があれば、遺言執行者は家庭裁判所の許可を得ることで辞任することができます。
遺言執行者が任務を怠ったり、その他正当な事由があったりする場合は、相続人や受遺者、遺言者の債権者といった利害関係人が家庭裁判所に解任を請求できます。なお、解任の請求は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。
解任できる具体的なケースとしては、次のような事情があるときです。
遺言執行者に選任された場合のデメリットとしては、次のようなものがあります。
報酬をもらえるというプラスの面がある一方、こうしたデメリットもあるので、遺言執行者に指定された場合、就任するかどうかは慎重に判断する必要があります。
公正証書遺言でも遺言執行者を指定することができます。
公正証書遺言とは、公正証書の形で作成する遺言です。公証人により作成された後、公証役場で保存してもらえるので、偽造や改ざんのおそれがない反面、作成に手間や費用がかかるというデメリットがあります。
公正証書遺言を作成する際には、円滑な相続手続のために遺言執行者を指定しておくのが一般的です。
次のようなケースでは、遺言執行者と相続人とのトラブルに発展しやすいです。
【遺言の解釈に争いがある】
何通りにも解釈できてしまうような内容の遺言だと、解釈の違いから相続人と対立してしまうおそれがあります。
【遺言の効力に疑いがある】
遺言を作成した時に既に認知症だった、遺言が偽造・改ざんされた可能性がある場合などには、遺言無効確認の調停や訴訟に発展するリスクがあります。
【遺言執行者が任務を怠っていたり、権限を悪用したりして利益を得ている】
相続人からの損害賠償請求や解任請求などが問題となりかねません。
遺言執行者について悩んでいる方は、弁護士にご相談ください。特に、誰を遺言執行者にするかで悩んでいる方は、弁護士を遺言執行者にすることをご検討いただきたいです。
相続手続には、法律に関する専門知識や、手続きを進める能力が欠かせません。弁護士であれば、法律の専門知識がありますし、相続に関する実務の経験も持っています。また、公正・中立な第三者の立場にあるので、弁護士を遺言執行者に選任することで、相続人間の無用なトラブルを防げる可能性があります。
ご自身が遺言執行者として指定された場合にも、弁護士のアドバイスを受けることで、トラブルを防止・解決できる可能性が高まります。まずはお気軽にご相談ください。