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葬儀費用は誰が負担する?葬儀費用で相続税が減る理由も解説!

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

近年では家族葬のような小規模な形式の葬儀が増えており、葬儀費用を100万円程度に抑えられる場合もありますが、従来のように多くの人が参加する葬儀を行うための費用の相場は200万円程度です。そのため、葬儀費用を相続財産から捻出したいと考える方もいるでしょう。 そこで、この記事では、葬儀費用を負担する人や相続財産からの支払いの可否、相続税がかかるときの葬儀費用の扱い等について解説します。

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葬儀費用は誰が負担するのか?

葬儀費用を負担する人について法律上の決まりはないので、基本的には相続人が話し合って負担する人等を決めることになります。 負担者として考えられるのは、主に以下のような人等です。

  • 喪主
  • 相続人
  • 相続財産
  • 慣習等によって負担者とされる人

これらの人等のうち、葬儀費用は喪主が負担するケースが一般的になっています。 しかし、喪主だけで費用を負担するのが難しい場合等は、他の親族等に一部の負担を求めることがあります。 喪主の負担について、次項で解説します。

喪主が一時的に負担するケースが多い

葬儀費用の支払いは、少なくとも一時的には喪主が負担している場合が多いです。喪主は、故人の配偶者や長男が務めるのが一般的です。 相続財産から葬儀費用を支払うことができるのであれば、喪主が負担した葬儀費用を、相続財産から支出すべきと考えることも可能であり、この場合、実質的には他の相続人と共同で負担していることになります。しかし、葬儀費用を負担する者については裁判例でも明確に定まっていないため、負担方法については、相続人・親族など関係者が協議する必要があります。 費用の負担者に関する裁判例については次項で解説します。

葬儀費用の負担者に関する裁判例

葬儀費用の負担者について、以下のように、「喪主」と判断したものと「相続人または相続財産」と判断したものがあります。

【名古屋高等裁判所 平成24年3月29日判決】

[事案の概要]
この裁判例は、被相続人の兄弟にあたる控訴人が、被相続人の葬儀を主宰し、支出した葬儀費用等について、被相続人の子にあたる被控訴人らに対して、不当利得返還請求として請求したものです。

[裁判所の判断]
裁判所は、被相続人が生前に葬儀に関する契約をしておらず、また、相続人や関係者の間で事前の取り決めがない場合には、葬儀費用は追悼儀式を主宰する者が負担するのが相当であるとしました。そして、本件については控訴人が追悼儀式の主宰者であるから、控訴人において葬儀費用を負担すべきであり、控訴人が被控訴人に葬儀費用を請求する法的根拠がないとして、控訴を棄却しました。

【東京地方裁判所 平成20年4月25日判決】

[事案の概要]
この裁判例は、被相続人が遺言書により子である被告に全財産を相続させたため、被告以外の被相続人の子や孫及び曾孫が原告となって、遺留分を請求したものです。

[裁判所の判断]
裁判所は、葬儀にかかった金額から香典の金額を差し引いた約80万円を葬儀費用とした上で、その金額を相続債務の一部として相続財産の金額から差し引きました。

葬儀費用は相続財産から支払えるのか?

葬儀費用を相続財産から支払うことは可能です。ただし、相続人が複数いる場合には、相続財産を使うことを事前に伝えるようにしましょう。 前提として、葬儀費用を支払う人は法律等に定められていないため、相続財産から支払うこともひとつの選択肢です。しかし、相続人が複数いる場合に、相続財産は各相続人間の共有であり、相続人のうちのひとりの一存で、相続財産を際限なく自由に処分できるわけではありません。そのため、相続財産から葬儀費用を捻出しようとするときは、事前に他の相続人の了解を得る必要があります。 また、相続財産である預貯金は、相続の開始により凍結されてしまうため基本的に引き出せなくなります。一部の仮払いを受けられる制度もありますが、なるべく立て替えて支払うのが望ましいでしょう。 なお、被相続人の社会的身分等に照らして不相応な葬儀費用を相続財産から支出すると、単純承認の法定事由たる「処分」(民法921条1号)に該当し、ひいては、そのような支出をした相続人は、被相続人のマイナスの財産も含めてすべて相続したことが擬制され、相続放棄できなくなるおそれがあるため注意しましょう。

故人の銀行口座から葬儀費用を引き出していい?

相続が発生したことを金融機関が把握すると、被相続人名義の口座は凍結されることになります。口座の凍結によって、被相続人名義の預貯金を引き出すことができなくなります。 他方で、親族の中にキャッシュカードの暗証番号を知っている人がいる場合、被相続人が死亡した後、金融機関が被相続人の死亡の事実を把握するまでの間に、ATM等を利用して、被相続人名義の預貯金を引き出すことも不可能ではありません。しかし、このような行為は、他の相続人から使い込みを疑われる原因となるだけでなく、相続放棄が認められなくなるリスク等もあるので、凍結される前に相続財産である預貯金を引き出すことはおすすめできません。 相続財産である預貯金が凍結されてから引き出すためには、預貯金だけをほかの相続財産に先立って遺産分割する方法や、仮払い制度を利用する方法があります。

「預貯金の仮払い制度」の利用について

預貯金の仮払い制度とは、相続財産である被相続人名義の預貯金について、法定相続人が一定の金額を引き出すことができる制度です。この制度は、民法改正により2019年7月1日から利用できるようになっています。 仮払いを受けられる預貯金の上限額は、各金融機関につき次の①②のうち低い方の金額です。

①死亡時の預貯金残高×法定相続分の割合×1/3
②150万円

この金額では足りない場合には、家庭裁判所に申し立てて仮処分を受けることにより、預貯金の仮払い制度では賄いきれない具体的な資金需要を満たす額の預貯金の引き出しが認められる可能性があります。 しかし、裁判所での手続きは煩雑であり、慣れない人にとっては利用するハードルが高いため、遺産分割協議をなるべく早く成立させるのが望ましいでしょう。 相続財産である預貯金の仮払い制度について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

死亡保険金から支払うことも可能

死亡保険金を受け取っていれば、葬儀代の支払いのために使うことができます。死亡保険金は受取人固有の財産なので、遺産分割によって分配する必要はありません。 葬儀費用に充てるためには、被相続人が亡くなったらすぐに支給される保険商品を選んでおき、葬儀を主宰してほしい人を受取人に指定しておくべきでしょう。 なお、保険金がかなり高額で、保険金が遺産に占める割合が過大であり、相続人間に著しい不平等を生じさせているといえるような場合には、例外的に死亡保険金が相続財産として扱われることがあります。 生命保険金の請求について知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

【相続税】葬儀費用は相続財産から控除できる

相続財産には相続税がかかります。しかし、葬儀費用は相続財産から控除できるので、相続税の支払いを抑えることができます。 葬儀費用を控除できるのは、人が亡くなったときに葬儀を行うのは必然的なことだと考えられているからです。 ただし、葬儀にかかった費用等をすべて控除できるわけではありません。控除できる費用とできない費用があることに注意しましょう。 控除できる費用と控除できない費用について、次項より解説します。

葬儀費用として控除できる範囲

葬儀費用として相続財産から控除できるのは、一般的に葬儀に欠かせないとされているもののための費用です。 控除できる費用として、以下のようなものが挙げられます。

  • ①通夜や告別式に関して葬儀会社に支払った費用
  • ②遺体や遺骨の捜索または運搬のための費用
  • ③火葬や埋葬のための費用
  • ④納骨費用
  • ⑤通夜や告別式に関する食事代
  • ⑥寺などに対するお礼(お布施)や戒名料等

葬儀費用として控除できない範囲

葬儀費用として相続財産から控除できないのは、控除対象の費用とは異なり、必ずしも葬儀に欠かせないとはいえない費用です。 控除できない費用として、以下のようなものが挙げられます。

  • ①香典返しの費用
  • ②墓石や墓地の買入れ等のための費用
  • ③初七日や法事等の費用

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葬儀費用を控除する場合の相続税の計算方法

葬儀費用は、相続財産の金額から差し引くことができます。 例えば、葬儀費用が200万円であるケースについて例を挙げると以下のようになります。

法定相続人 配偶者のみ
相続財産の評価額 4000万円
葬儀費用 200万円

相続税の基礎控除額は次の式で計算します。

基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

以上のことから、このケースにおける課税対象額は次のとおりです。 課税対象額=4000万円-{3000万円+(600万円×1)}-200万円=200万円 相続税の計算方法について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

葬儀費用を申告する方法

葬儀費用を申告するための書式は決められており、相続税の申告書のうち、第13表「債務及び葬式費用の明細書」を使用します。この書式は税務署で入手することや、国税庁のサイトからダウンロードすることができます。 書式を入手したら、「2 葬式費用の明細」に以下のような項目を記載します。

  • 支払先
  • 支払年月日
  • 各支払先に支払う金額
  • 負担した人の氏名と、その人が負担した金額
債務及び葬式費用の明細書
出典:債務及び葬式費用の明細書|国税庁

葬儀費用を負担するのが1人であれば、葬儀費用の明細の金額欄と、この金額のうち、各負担者が負担する金額欄に記載する金額は同額となります。 また、「3 債務及び葬式費用の合計額」の「葬式費用」に、「負担することが確定した葬式費用」「負担することが確定していない葬式費用」を記載します。それらを合算した金額が控除額となります。 令和5年(2023年)用の書式は、国税庁のこちらのページからダウンロードできるのでご利用ください。

相続税の申告書等の様式一覧(令和5年分用)

令和5年(2023年)以前に亡くなられた場合は以下のURLから該当の年を探してご利用ください。([申請書様式・記載要領]のところにある「相続税の申告書等の様式一覧(令和○年分用)がテンプレートになります」)

相続税の申告手続き|国税庁

申告には領収書の添付が必要

葬儀費用を申告するときには、基本的に領収書やレシート等を添付する必要があります。そのため、葬儀会社や飲食店等の領収書やレシートは必ず保管しましょう。 しかし、葬儀に伴って支払うお布施等については一般的に領収書等が発行されません。領収書等のない支出については、以下のような項目についてメモしておけば控除してもらうことが可能です。

  • 支払った目的(お布施、心付け等)
  • 支払日
  • 支払先の名称
  • 支払った金額

ただし、上記項目を記載したメモがあるからといって、必ずしも控除されるものではなく、メモに記載された計上額が高額になっていると、税務調査の対象となるおそれがあり、税務署は費用の水増しや架空計上を厳しくチェックしています。そのため、これらの行為を決して行ってはいけません。

相続財産から葬儀費用を払うと相続放棄できない?

相続財産から葬儀費用を支払っても、基本的には相続放棄することができます。 通常の場合、相続財産を一部でも使ってしまうと単純承認したとみなされるため、相続放棄できなくなってしまいます。しかし、葬儀は必要性の高い社会的な儀式だと考えられるので、例外として相続放棄が可能となります。 ただし、被相続人の社会的地位や身分等に相応な葬儀でなければなりません。そのため、あまりにも豪華な葬儀を行ってしまうと、相続放棄が認められなくなるおそれがあります。 また、通常の規模の葬儀を行ったとしても、領収書を受け取って保管する等の対応が必要です。 相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

香典の取り扱いについて

香典とは、葬儀において参列者が供える金品です。一般的には、香典袋に入れて遺族に渡されます。 法律上、香典は喪主への贈与として扱われます。そのため、相続財産としては扱われず、相続税もかかりません。ただし、社会通念上相当な金額を超える香典については贈与税がかかるおそれがあります。 香典は相続財産ではないため、他の相続人から遺産分割を請求することはできません。もしも、葬儀費用を支払っても香典が残った場合には、諸説ありますが、香典の法的性質が喪主への贈与であるならば、喪主が自由に使えると考えるのが相当だと思われます。

葬儀費用に関するQ&A

相続人以外が喪主になった場合、誰が葬儀費用を負担しますか?

葬儀費用を負担する人は法律等で決められているわけではないので、喪主になったからといって葬儀費用を負担する義務があるわけではありません。しかし、一般的に葬儀費用については喪主が負担すると考えられています。 喪主が相続人ではない場合に、相続財産から葬儀費用を出してもらうためには、相続人等と交渉する必要があります。そのため、事前に葬儀の規模や費用等について話し合っておくようにしましょう。

互助会の積立金で葬儀費用を支払った場合、相続財産から控除されますか?

葬儀費用の互助会とは、経済産業大臣から営業許可を受けた企業だけが行える事業であり、会員が毎月の掛け金を支払うことによって葬儀費用に一部充当できるようにして、負担を軽くすることを目的としています。 互助会で葬儀費用を積み立てていた場合、相続財産から控除できる葬儀費用は、積み立てたのが誰であるかによって変わるので注意しましょう。 ここで、例を挙げて解説します。

●葬儀費用:200万円
●積立金:50万円

【積み立てたのが被相続人である場合】
積立金は被相続人固有の財産であったため、相続財産から控除できるのは、相続人が実質的に費用を負担したといえる、「200万円-50万円=150万円」部分となります。
【積み立てたのが相続人である場合】
積立金は相続人の固有財産であり、この積立と合わせて、葬儀費用の全額を相続人が負担しているといえるので、相続財産から控除できるのは葬儀費用満額の200万円となります。

葬儀費用でトラブルになったら、相続問題を得意とする弁護士にご相談下さい。

一般的な葬儀費用は200万円程度かかるため、喪主が個人で負担するのは難しい金額です。しかも、領収書が発行されない支出もあり、葬儀費用の範囲と合わせて、相続財産から葬儀費用を捻出することに伴う紛争が生じる可能性があります。 そこで、葬儀費用を巡って相続トラブルに発展した場合には、弁護士にご相談ください。弁護士であれば、他の相続人等を説得する方法についてアドバイスできます。 また、自身の死後に葬儀のことで迷惑をかけたくないと考えている方は、遺言書を作成する方法や、死後事務委任契約を締結しておく方法等によってトラブルのリスクを抑えられます。それらの方法について気になる方もご相談ください。