メニュー
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
一般的に相続というと、被相続人(亡くなった人)の預貯金や建物、土地等を手に入れることができる、メリットの大きい制度という印象があるかもしれません。 しかし、相続の対象となる財産には、借金などのマイナスの財産も含まれています。つまり、遺産の内容を詳しく調べなければ、相続によって損をしてしまうリスクがあります。相続財産が全体でマイナスとなるおそれがあるときには、「相続放棄」を検討するべきでしょう。 本記事では、相続放棄とは何か、相続放棄のメリット・デメリット、どのような手続きをするのか等について解説します。
来所法律相談30分無料・24時間予約受付・年中無休・通話無料
※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。 ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)のプラスの財産(現金や預貯金、不動産等)とマイナスの財産(借金等)の両方を一切相続しない相続方法です。 相続放棄をすると、「相続人としての地位」を失います。そのため、最初から相続人ではなかったことになり、相続財産を引き継ぐことがありません。 相続方法には、相続放棄の他にも、「単純承認」と「限定承認」があります。それぞれ、次の表のような相続方法です。
単純承認 | プラスの財産とマイナスの財産の両方を、無条件に相続する方法 |
---|---|
限定承認 | プラスの財産に相当する金額の範囲内で、マイナスの財産を相続する方法 |
なお、単純承認について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
相続が始まったときに、すぐに相続放棄を行うべきであるケースもあれば、相続放棄でない方法を考えるべきケースもあります。 それぞれについて、以下で挙げます。
【相続放棄をした方が良いケース】
・明らかに相続財産に負債が多いケース
・他の相続人との関係が悪く、話し合いができない上、特に相続したい財産もないケース
【相続放棄をしない方が良いケース】
・相続財産に高額な資産があるものの、負債がどの程度かが分からないケース
・絶対に手放したくない相続財産があるケース
上記に挙げた相続放棄をしない方が良いケースについては、限定承認が有効な場合があります。限定承認については、こちらの記事で解説しているのでご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
相続放棄には、下記に挙げるとおり大きなメリットがあります。
相続放棄をすれば、どんな相続財産も引き継がずに済むので、借金等のマイナスの財産を引き継ぐことがありません。 全ての財産を相続すると、被相続人に高額な借金があったことがのちに判明した場合に、差し引きすると巨額の損失が発生するリスクがあります。しかし、相続放棄をすれば、経済的に不利益を被ることはありません。 そのため、被相続人に明らかに高額の借金がある場合については、相続しない方が良いでしょう。
相続放棄をすると相続人ではなくなるので、遺産分割に関する話し合いに参加する必要がなくなり、精神的な負担を減らすことができます。 相続はお金が絡む問題なので、話し合いがこじれることも多いです。また、相続人全員が納得するまで話し合いを重ねる必要があるため、相当なストレスがかかります。 相続放棄をしてしまえば、相続人とのやり取りをしないで済みます。
相続放棄のメリットは大きいですが、次のようなデメリットもあります。
相続放棄をすると、すべての相続財産に対する一切の権利を放棄することになるため、欲しい財産を一切手に入れることができません。 そのため、マイナスの財産よりプラスの財産の方が多いにもかかわらず相続放棄をした場合、得られたはずの財産や、手放さなくても良い財産まで失ってしまう可能性もあります。特に、亡くなった方が購入した家や土地に住んでいる場合は、その家や土地を相続することもできないので、住む場所を失ってしまうケースもあります。
相続放棄は、基本的に撤回したり取り消したりすることはできません。 相続財産に高価な財産がないと勘違いして相続放棄をしてしまったようなケースでも、撤回・取り消すことはできない可能性が高いです。
相続放棄をすると、次順位の相続人(次に優先度の高い相続権を持つ人)に相続権が移ります。例えば、被相続人の子が相続放棄した場合、被相続人の両親が新たに相続人となります。 そのため、次順位の相続人に借金の存在を知らせずにいたところ多額の借金を負ってしまい、トラブルに発展してしまうことがあります。 次順位の相続人は、他の相続人が相続放棄を選択するような財産を相続しても利益にならないことが多いため、迷惑だと思われるケースが多いと考えられます。 相続放棄を行ったからといって、次の相続人に対して相続放棄したことを伝えなければならない義務はありませんが、相続放棄をするときには、次の相続人に事前に連絡し、相続放棄が完了した場合に再度連絡するのが望ましいでしょう。
相続放棄ができる期間は、自分が相続人になったことをはっきりと知ったときから3ヶ月以内です。この3ヶ月間を「熟慮期間」といいます。 熟慮期間を過ぎると、「単純承認」したものとみなされ、全ての相続財産を無条件に相続することになってしまうので注意が必要です。 しかし、相続財産の調査に時間がかかるケース等、熟慮期間が足りない場合があります。その場合には、家庭裁判所に「相続の承認または放棄の期間の伸長」という手続きを申し立てることで延長できる可能性があります。 下記の記事では、延長手続きの具体的な手順のほか、万が一熟慮期間を過ぎてしまった場合の対処法などをご紹介しています。ぜひ併せてご確認ください。
合わせて読みたい関連記事
相続放棄は、家庭裁判所に相続放棄したい旨を申述し認めてもらう必要があります。 相続放棄の申述は、一般的に下記のような流れで進めます。
相続放棄の申述が認められず、却下されてしまった場合は、その旨が記載された書面が届き、手続きが終了します。
相続放棄の申述を行う際には、主に下記のような書類の提出が求められます。
さらに、相続人になる予定だった者が亡くなっているケース等では、その人物の戸籍謄本も必要になります。 相続放棄の手続きについて、さらに詳しく知りたい方は、下記の記事も併せてご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
十分な判断能力がない方が相続放棄をするためには、代理人に代わりに手続きをしてもらう必要があります。 未成年の子供の場合は、法律上、親権者である親が代理人となるのが基本です。ただし、親も相続人であるときは、相続手続に関する代理人(特別代理人)を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。 認知症の方の場合には、症状の程度によって、以下のような違いがあります。
認知症が軽度 | 自分で相続放棄ができる |
---|---|
認知症が中程度 | 相続放棄について代理人の同意が必要になる |
認知症が重度 | 自分で相続放棄の手続きができないため、成年後見人が相続放棄する |
相続放棄は、一度却下されてしまうと再び申述することができなくなります。これは熟慮期間内であるか、熟慮期間の経過後であるかを問いません。 相続放棄に関する家庭裁判所の判断に不服がある場合は、2週間以内に「即時抗告」という不服申立てをすることができますが、結果を覆すのは簡単ではありません。 確実に相続放棄を行うためにも、できれば早い段階から弁護士に相談しておき、アドバイスを受けながら相続放棄の手続きを行うことをおすすめします。
相続放棄をするにあたっては、どのようなメリットやデメリットがあり、手続きをすることでどういった効果が発生するのかをしっかりと理解しておく必要があります。 具体的には、次項以下で挙げるようなポイントに注意しなければなりません。
法定相続人(法律で定められた相続人)の相続権には優先順位があります。そして、より優先順位の高い相続人が相続放棄をしてしまうと、次に優先順位の高い者に相続権が移ってしまいます。 例えば、被相続人の唯一の子が相続人である場合に、その子が相続放棄をすると、次に優先度の高い被相続人の父母が相続人となります。このとき、被相続人に多額の借金があるなどの理由で子が相続放棄をしていると、被相続人の父母から恨まれてトラブルになるおそれがあるので注意しましょう。 誰が法定相続人になるのかなど、相続順位や相続人の範囲について気になる方は、下記の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
相続放棄は、被相続人が生きている間、つまり相続が開始する前に行うことはできません。 相続放棄の手続きは家庭裁判所で行います。家庭裁判所は、相続が開始するまでは相続放棄の手続きを受け付けません。 また、相続が開始する前に「相続放棄します」といった誓約書などを作成しても、法律上は何の効果も発生しません。 相続放棄をすることが確実な方は、相続開始後の負担を減らすために、下記のような対策をしておくと良いでしょう。
被相続人が死亡し相続が開始されたあと、相続放棄をする前に、相続財産の処分などをしてしまうと、単純承認をしたものとみなされて相続放棄ができなくなってしまいます。 3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄または限定承認の申述をしない、あるいは相続財産を処分する等の行為をした場合に、自動的に単純承認したものとして扱われます。これを「法定単純承認」といいます。 「相続財産の処分」とは、以下のような行為を指します。以下に挙げるような行為はしない方が良いでしょう。
相続放棄をすると、「相続財産にあたるもの」を受け取ることができなくなります。そのため、相続放棄をした人は、被相続人が亡くなった時に所有していた預貯金や現金、家・土地といった不動産、自動車等を受け取ることができません。 また、次のような財産についても受け取ることができません。
これらのお金は、本来であれば被相続人が受け取る予定であったため、相続財産と同様に扱われるので受け取ることができなくなります。
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します
相続放棄をしても、「相続財産でない、被相続人が死亡時に所有していたとはいえない財産」を受け取る権利はなくなりません。 ここでいう「相続財産にあたらないもの」とは、一般的に、被相続人の死亡により発生した財産を指し、次に挙げるものが該当します。
相続財産にあたるのかどうか、条件によって判断が分かれる財産もあります。以下、具体例を挙げて解説します。
死亡退職金とは、死亡したことをきっかけに支払われる、被相続人が本来会社から受け取るはずだった退職金です。 死亡退職金が相続財産にあたるかは、受取人が誰なのかによって異なるため、会社の退職金規定などの記載によって判断します。 一般的に、受取人が定められていない場合や、被相続人が受取人だと定められている場合は相続財産にあたりますが、それ以外の場合は相続財産にあたらないと考えられているため、受け取りを検討する場合、受取人が誰に指定されているかを確認するとよいでしょう。
高額療養費の還付金とは、一定額以上の医療費を自己負担した場合に返還されるお金です。 高額療養費の還付金は、世帯主や被保険者に支払われるものです。したがって、被相続人や相続人が世帯主または被保険者なのか、それ以外なのかによって、相続財産にあたるかどうかは異なってきます。 具体的には、被相続人が世帯主または被保険者の場合は相続財産になりますが、被相続人が世帯主または被保険者以外で、相続人が世帯主または被保険者である場合は相続財産とはなりません。
相続放棄が認められても、相続に関連して発生する問題とすぐに無関係になるわけではありません。 相続放棄をした後も、相続財産の管理義務や税金の支払義務を問われたり、相続放棄が無効・取消しになったりするケースがあります。次項以下で、それぞれのケースについて解説します。
相続人は、相続財産に対して管理義務を負います。そして、管理義務は、相続放棄をした後であっても負い続けることになります。 相続人全員が相続放棄をした場合、基本的には、最後に相続放棄をした人に管理義務が残り続けます。 管理義務を負っているときに、老朽化した塀が倒れるなどの事故により他人に損害を与えてしまうと、損害賠償を請求されるおそれがあります。 管理義務を免れるためには、相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらう方法があります。相続財産管理人とは、相続人がいない場合に相続財産を管理・精算する人のことです。 ただし、相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうためには高額な費用がかかります。 相続放棄をした人が負わなければならない管理義務について詳しく知りたい方は、下記の記事を併せてご確認ください。
合わせて読みたい関連記事
相続放棄をした場合、基本的に納税義務を負いません。ただし、固定資産税は、毎年1月1日時点で登記簿または課税台帳に所有権者として登録されている人に請求されるため、相続放棄が認められた時期によっては課税される可能性があります。 相続放棄をした人が固定資産税を請求された場合、納税した後、本来の納税義務者(財産の所有者)に対して納税額に相当する金銭の返還を請求するのが一般的です。 相続放棄後に固定資産税を請求された場合の対処法については、下記の記事で詳しく解説しています。ぜひ併せてご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
相続放棄をすると相続財産を受け取れなくなるので、基本的に相続税はかかりません。しかし、「みなし相続財産」を受け取った場合や遺贈を受けた場合には、相続税がかかることがあります。 みなし相続財産とは、相続財産ではないものの、相続税法上では相続財産として扱われる財産です。例えば、死亡保険金や死亡退職金などが挙げられます。 みなし相続財産は相続放棄をした人も受け取ることができますが、相続税が課されます。 遺贈は遺言によって行われる「贈与」であって「相続」ではないので、相続放棄をした人も受けることができます。そして、遺贈には「贈与税」ではなく「相続税」がかかります。 なぜ相続放棄をした後に相続税がかかることがあるのか、また、相続放棄をしていても利用できる税金の控除制度など、詳しい解説をご覧になりたい方は下記の記事をご参照ください。
合わせて読みたい関連記事
相続人が受取人に指定され、これに基づいて受けとった保険金で借金の一部を返済した場合には、法定単純承認とはなりません。裁判例によると、自身の権利に基づき受け取った固有の財産である保険金で被相続人の借金の一部を返済した場合、保険金の受け取りによっても借金の一部返済によっても被相続人の相続財産を処分したとはいえないため、法定単純承認とは認められないとされています。その一方で、相続財産である保険金で借金の一部を返済した場合には、法定単純承認となり得ます。
相続放棄をした者には被相続人の債務を負う義務はないため、債権者から連絡が来ても応じる必要はありません。ただし、債権者から連絡が来ないようにするためには、相続放棄をした旨を通知する必要があります。なぜなら、相続放棄をしても、家庭裁判所から債権者に対して通知されないため、債権者は相続放棄の事実を知らないまま、利害関係人として取得した戸籍謄本等から特定した法定相続人へ連絡をしている可能性が高いからです。相続放棄が完了した場合、必ず裁判所から相続放棄を行ったことを証明する書類が発行、交付されますので、こちらを保管し、必要に応じて提示するとよいでしょう。なお、債権者に迫られるままに債務の一部を支払ってしまうと、法定単純承認が成立してしまい、相続放棄が無効となるおそれもあります。債権者対応は弁護士が請け負うことも可能ですから、少しでも不安がある方は弁護士へご相談ください。被相続人に借金がある場合の相続放棄については、下記の記事にて詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
生前贈与を受けていても、相続放棄をすることは可能です。ただし、被相続人の債権者によって、贈与の取り消しを裁判所に請求されるおそれがあります。生前贈与とは、被相続人が生きているうちに財産を贈与することです。相続放棄をする場合、必ずしも生前贈与によって受け取った財産を手放さなければならないわけではありません。しかし、贈与する者と贈与を受ける者が、債権者が害されることを知りながら贈与を行った場合には、生前贈与を取り消すことが可能です。このような債権者の権利を「詐害行為取消権」といいます。債権者が詐害行為取消権を行使して贈与が取り消されれば、受贈者は、生前贈与によって受け取った財産を返還しなければならなくなります。
兄弟などと一緒に相続放棄をすると決めた場合でも、1人で全員分の手続を行うことはできません。そのため、相続放棄をする相続人それぞれが家庭裁判所へ申述する必要があります。相続放棄は、相続人それぞれが単独で選択することができる相続方法です。そのため、兄弟などであっても、各人が相続放棄をしなければなりません。しかし、同じ被相続人について相続放棄を申述する場合には、同時に手続きを行うことによって、被相続人の戸籍謄本等を重複して提出しなくて良くなることがあります。同時に申述することにより、余分な手間や費用をかけずに済むといった利点はあります。
たとえ相続放棄をしていても、被相続人名義の口座に振り込まれてしまった未支給年金を引き出すことができます。未支給年金は遺族固有の権利であって相続財産ではないので、相続放棄をした人も受け取ることができるからです。とはいえ、凍結された口座からは入出金ができないので、口座のある金融機関に引き出しを依頼することになります。ただし、トラブルを懸念して応じてくれない金融機関が多いのも事実です。実質的には、他の相続人から未支給年金相当額を引き渡してもらうことになるでしょう。
携帯電話を解約しても相続放棄が認められる可能性はありますが、なるべく控えた方が良いでしょう。被相続人名義の携帯電話を解約できるのは、基本的には相続人だけです。また、携帯電話の料金に機種代金の分割払いが含まれている場合には、携帯電話を解約する行為が、被相続人の債務の清算に該当してしまうおそれがあります。携帯電話を解約する程度の行為は問題ないとも考えられますが、慎重に行動するようにしましょう。
専門家でないと相続放棄の手続きができないということはないので、ご自身で手続きをすることも可能です。しかし、3ヶ月という期限内に、本当に相続放棄をするべきなのかを見極めたうえで、必要書類を漏れなく揃えて手続きするのは大変です。また、ご自分で相続放棄を申述した結果、相続放棄が認められなければ元も子もありません。手続きにかける労力を削減し、相続放棄が認められる可能性を最大限に高めるためにも、相続問題に強い弁護士に依頼すると安心です。
相続放棄は、負債を引き継がずに済むメリットがある一方で、高額な財産を受け取れなくなる等のデメリットもある制度です。損失を避けようとして安易に相続放棄を選択すると、後悔することにもなりかねません。 そこで、相続放棄を検討なさっている方は、ぜひ弁護士にご相談ください。弁護士であれば、相続財産の内容などについて検討し、相続放棄をするべきかを判断することができます。 相続放棄をしてしまうと、基本的には取り消せません。そのため、相続財産に高額な資産が含まれている場合等には、専門家の力を借りて、慎重に検討することをおすすめします。