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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
相続人が行方不明になっていると、そのままの状態では遺産分割協議を行えないため、相続手続きを進められなくなるおそれがあります。 そこで、何らかの方法により相続人と連絡を取るか、相続人の代わりとなる「不在者財産管理人」を家庭裁判所に選任してもらう必要があります。 この記事では、相続人が行方不明である場合の対応方法や、不在者財産管理人が選任される場合の注意点等について解説します。
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相続人が行方不明だと、そのままの状態では遺産分割協議ができなくなります。なぜなら、有効な遺産分割協議成立には相続人全員の同意が必要となるからです。 遺産分割について正式に決まらないままでは、法定相続分によって相続財産を分配するケース等を除いて各財産の相続人が決まらず、不動産の相続登記や預貯金口座の解約等ができない等、相続手続きに支障が生じてしまいます。 相続人が行方不明である状況として、主に以下のような場合が考えられます。
これらの場合について、次項より解説します。 なお、遺産分割協議の流れについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続人の住所や連絡先がわからない場合には、様々な方法によって居場所を確認できる可能性があります。 相続人の居場所を確認する方法として、主に以下のようなものが挙げられます。
これらの方法について、次項より解説します。
相続人の住所や連絡先がわからない場合、まずは親戚や共通の知人等に確認しましょう。 また、連絡先のわからない相続人がSNSを利用している場合もあるため、FacebookやInstagram、LINE等の機能を活用して接触を試みる方法もあります。
相続人の本籍地がわかれば、本籍地の市区町村役場で戸籍の附票を発行してもらうことができます。戸籍の附票には、本籍地とともに住所も記録されているので、現在の住所を確認できる可能性があります。 ただし、個人情報を保護するため、戸籍の附票を取得できるのは以下の人に限定されています。
このため、所在不明の相続人の住所を確認したい場合において、配偶者や直系血族がいないケースでは、弁護士等の専門家に相続人の調査を依頼する必要があります。
相続人の1人と疎遠であり、現在でも居住しているかは不明であるものの、一応は住所が判明している場合には手紙を送る方法が考えられます。 文面は、できるだけ丁寧な言葉遣いで、相続の状況や遺産分割協議に参加してほしい旨をシンプルに書くようにしましょう。また、相手を不安にさせないように、住所を知った方法についても説明しましょう。 送った手紙が「転居先不明」「宛先不明」等により返送された場合には、送り先に誰も住んでいないか、他の人が住んでいると考えられます。 また、「受取拒否」等の場合には、相続人本人が住んでいる可能性があるため、何度か手紙を送ってみるようにしましょう。
手紙を送っても受け取りを拒否されてしまう場合等には、直接現地を訪ねる方法が考えられます。 このとき、誰も住んでいる様子がないケースや、別人の表札がかかっているケース等では、相続人が行方不明である可能性が高いと思われます。
住所や連絡先がわかっている相続人について、電話をかけても手紙を送っても無視され、訪問しても居留守を使われてしまう等の状況では、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる方法があります。 遺産分割調停を申し立てると、自身と相手方の双方に、裁判所から調停期日通知書が送付されます。調停期日においては、調停委員に仲介してもらいながら、相手方と顔を合わせずに話し合うことが可能です。 なお、相手方が調停期日に欠席しているため合意する見込みがないと判断されれば、調停は不成立となり自動的に審判へ移行します。審判では、相手方が欠席しても、裁判所の判断により遺産分割方法が決定されます。 遺産分割調停の流れについて知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続人の居場所を探しても発見できず、まったく連絡を取れない場合には、裁判所で手続きを行えば相続手続きを進めることが可能となります。 裁判所で行う手続きは、相続人の生死不明の期間が7年未満であるか、7年以上であるかによって変わります。 それぞれの場合について、次項より解説します。
不在者財産管理人とは、行方不明になっている人の財産を本人に代わって管理する人のことをいいます。行方不明になっている人の法律上の利害関係人や、検察官からの申立てによって選任されます。 家庭裁判所は、基本的に、利害関係のない親族等、または弁護士や税理士等の専門家から選任します。 選任されると、行方不明になっている相続人の財産を管理します。そして、裁判所の許可があれば、本人に代わって遺産分割協議に参加することが可能です。 なお、相続手続きが終わっても、基本的に仕事は終わりません。そのため、十分な心構えのない親族等が選任されると、財産管理の負担が重くなるおそれがあります。
一般的に、不在者財産管理人を選任してもらうときの申立人等を表にまとめたのでご覧ください。 また、不在者財産管理人に、相続人の代わりに遺産分割協議へ参加してもらうためには、遺産分割協議の内容案を併せて提出して家庭裁判所の許可を受ける必要があります。 この許可を受けるためには数ヶ月かかるため、相続税申告の期限等に注意しましょう。
申立人 | 利害関係者または検察官 |
---|---|
申立先 | 不在者の従前の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所 |
必要書類 | ・申立書 ・不在者の戸籍謄本 ・不在者の戸籍附票 ・不在者が行方不明であることがわかる資料 ・不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書、預貯金口座の通帳等) ・利害関係者による申立ての場合には、利害関係がわかる資料(戸籍謄本等) |
費用 | ・800円分の収入印紙 ・連絡用の郵便切手(裁判所により金額が異なる) ・予納金(不在者財産管理人の報酬や管理費用に充てられ、大体20万~100万円程度) |
選任までの期間 | 2~3ヶ月程度 |
失踪宣告の申立てとは、行方不明者を法律上死亡したとみなす「失踪宣告」を行ってもらうための手続きです。行方不明になっており、生死不明である期間が7年以上に及ぶ相続人がいる場合には、失踪宣告によって死亡したものとして遺産分割協議を行うことになります。 なお、船の沈没等によって行方不明になった人については、生死不明である期間が1年以上であれば失踪宣告を行ってもらえます。 もしも、失踪宣告を受けた相続人が生きていた場合には、家庭裁判所に報告することによって取り消されます。取り消されても、遺産分割協議は基本的にやり直す必要がありません。 しかし、失踪宣告によって受けた利益が残っている相続人は、死亡したとみなされていた相続人に対し利益を返還する義務を負うことになります。 ただし、他の相続人の1人でも、失踪宣告を受けた相続人が生きていたことを知っていた場合には、遺産分割協議は無効となるためやり直す必要があります。
失踪宣告は、法律上の利害関係人が家庭裁判所に申し立てます。 失踪宣告の申立て方法について、表にまとめたのでご覧ください。
申立人 | 法律上の利害関係人 |
---|---|
申立先 | 行方不明者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所 |
必要書類 | ・行方不明者の戸籍謄本 ・行方不明者の戸籍附票 ・失踪していることを証する資料(行方不明者届受理証明書等) ・利害関係を証する資料(戸籍謄本等) |
費用 | ・収入印紙:800円分 ・連絡用の郵便切手:裁判所によって異なる ・官報公告料:4816円 |
審判確定までの期間 | 10ヶ月~1年程度 |
認定死亡制度とは、災害や事故等に巻き込まれて死亡している確率が極めて高い人について、死亡したと推定する制度です。 大地震や土砂崩れ、飛行機事故等によって遺体が見つからない場合には、死亡地の市区町村長に死亡の報告をすることによって死亡を認定してもらえます。 生死不明の相続人の死亡が認定されれば、遺産分割協議に参加してもらう必要がなくなります。
不在者財産管理人は基本的に財産の管理しかできないので、遺産分割協議に参加するためには家庭裁判所の許可が必要です。 家庭裁判所の許可を得るためには、遺産分割協議の内容案を裁判所に提出しなければなりません。もしも不在となっている相続人に不利な案になっていると、遺産分割協議の許可が下りません。 これは、不在者財産管理制度が不在者の利益を保護するための制度だからです。そのため、不在となっている相続人について、基本的には法定相続分以上の相続財産を確保しなければなりません。 なお、不在者財産管理人のことが個人的に気に入らない等の理由では、他の相続人が不在者財産管理人を交代させることはできません。
帰来時弁済型の遺産分割とは、行方不明になっている相続人以外の相続人がすべての相続財産を受け取って、行方不明の相続人が帰ってきた場合には、他の相続人が代償金を支払う制度です。 この遺産分割は勝手に行うことができず、基本的には不在者財産管理人の選任時に提出する遺産分割協議の案に盛り込んでおきます。 不在者財産管理人は、不在者が戻るまで財産を管理し続けなければなりません。それに伴って報酬も発生するため、行方不明だった相続人がいつまでも帰ってこなければ、相続した財産がすべて報酬に使われるおそれがあります。そのため、遺産分割協議の終了とともに不在者財産管理人の役割を終えるために、帰来時弁済型の遺産分割を行います。 帰来時弁済型の遺産分割が認められるのは、相続財産が少額であるケースが多いです。行方不明の相続人が受け取る相続財産が100万円以下であれば認められる可能性が高いでしょう。
行方不明の相続人がいると、基本的に遺産分割協議ができないので、相続登記も行うことができません。 しかし、以下のケースでは相続登記を行うことができます。
遺言書によって不動産を相続する人が指定されている場合には、遺産分割協議を行わなくても相続できるため、相続登記を行うことができます。
行方不明の相続人も含めて、法定相続分に従って不動産を相続すれば、その相続に基づいた相続登記を行うことができます。たとえば、法定相続分の等しい相続人が2人いた場合、相続人が半分ずつ不動産の持分を有すると登記することができます。 ただし、この方法では不動産を共有することになるため、売却するとき等に行方不明の相続人も含めた全員の同意が必要となります。問題を先送りしているだけだといえるため、おすすめできません。
相続人の住所や連絡先がわからない場合に、被相続人が生前に行うべき対策として遺言書を作成しておくことが挙げられます。 遺言書を作成しておけば、行方不明の相続人がいても、不在者財産管理人の選任や失踪宣告等の手続きは不要となります。基本的には、遺言書の内容に従って相続財産の分配等の手続きを進めることが可能です。また、不動産の相続登記も可能です。 ただし、遺言書による相続財産の分配が偏っていると、行方不明だった相続人が帰ってきたときに、他の相続人が「遺留分侵害額請求」を受けるおそれがあります。 また、遺言書に形式的なミス等があると、有効性を争われるリスクが生じてしまいます。 そこで、有効な遺言書を遺留分に配慮しながら作成するために、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。 遺言書について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために手続き等を行う人です。行方不明になっている相続人がいても、遺言執行者は遺言書に従って手続きを進められるため、支障がほとんど生じなくなります。 ただし、遺言執行者を相続人等の親族にすると、不正を疑われる原因になるおそれがあります。そのため、なるべく第三者を選ぶのが望ましいでしょう。 また、遺言執行者は相続登記等の慣れない手続きを行わなければならず、法律の知識のない人にとっては負担が重くなります。そのため、弁護士等の専門家に依頼することをおすすめします。 遺言執行者について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事を併せてご覧ください。
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相続人が行方不明になっただけでは、その相続人の子に代襲相続は発生せず、相続人の子が遺産分割協議に参加することはできません。 しかし、失踪宣告によって、行方不明になっていた相続人の死亡日が被相続人よりも早くなれば代襲相続が発生します。 代襲相続について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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被相続人と前妻との間に子供がいた場合、その子供にも相続権があります。これは、被相続人が子供の親権者でなかったとしても影響ありません。 前妻の子供について、現在の住所が分からない場合には、戸籍の附票を区役所などで取得することによって確認できる可能性があります。相続手続きで必要な場合には、弁護士等の専門家に調査を依頼すれば「職務上請求」によって取得することができます。 相続人の全員によらない遺産分割協議は無効とされているため、前妻の子供との関係が良好でなかったとしても無視してはいけません。 なお、前妻には相続権がありません。 再婚した場合の相続について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続人調査を弁護士に依頼した場合には、着手金や実費に加えて数万円の依頼料がかかります。しかし、居場所の分からなかった相続人だけでなく、存在を知らなかった相続人がいるケースもあるため、なるべく調査をしておくことが望ましいでしょう。 なお、他の依頼もまとめて行うことによって、様々な依頼を個別に行うよりも費用が安くなる可能性が高まります。 相続人調査について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
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相続人が行方不明であっても、基本的には自己のために相続が開始されたことを知ったときから10ヶ月以内に相続税の申告をする義務があります。そのため、なるべく相続人の捜索に時間をかけないのが望ましいといえます。 そこで、相続人が行方不明となっている場合には、なるべく早く弁護士にご相談ください。弁護士であれば、職務上請求により戸籍の附票を確認して、相続人を捜すことができます。また、不在者財産管理人の選任や失踪宣告の申立て等の手続きについてもサポートできます。 相続人になる予定の人と仲違いして音信不通になっている場合等についても、有効な遺言書を作成すれば、自分が亡くなった後のことを心配する必要がなくなります。遺言執行者を引き受けることも可能ですので、ぜひ私たちにご相談ください。