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相続財産に争いがある場合の「遺産確認の訴え」とは?

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

相続では、どの財産が相続財産(遺産)に含まれるかがとても重要です。なぜなら、相続財産の範囲によって、相続人それぞれの取り分が大きく変わってしまうからです。 実際、不動産や預貯金などが相続財産に含まれるかどうかをめぐって、相続人同士が争うケースは多いです。遺産分割をスムーズに進めるには、相続財産の範囲を明確にする必要があります。そのための代表的な方法が「遺産確認の訴え(遺産確認訴訟)」です。 この記事では、遺産確認の訴えの仕組みや、相続財産の範囲を確定する方法、裁判の流れなどについて解説します。

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遺産確認の訴えとは(遺産確認訴訟)

遺産確認の訴え(遺産確認訴訟)とは、特定の財産が相続財産に含まれるかどうかの確認を求める裁判のことです。 遺産確認の訴えが認められると、その特定の財産は相続財産となるため、遺産分割の対象となります。もっとも、あくまで相続財産として認められるだけであり、訴えを起こした人の財産になるとは限りません。

遺産確認訴訟が必要となるケース

ケース1:相続財産の全体が不明確な場合

相続財産の全体像がはっきりしない場合です。例えば、被相続人と暮らしていた相続人に財産の内容を確認したところ、生前に被相続人から聞いていた金額よりも少なかったというケースが挙げられます。 このように、一部の相続人が財産を隠している可能性がある場合や、開示された財産以外にも隠された資産があると考えられる場合には、遺産確認の訴えを起こして、相続財産の全体像を明らかにしていくことになります。

ケース2:相続財産の範囲が曖昧な場合

特定の財産が相続財産に含まれるかどうか意見が対立している場合があります。 例えば、被相続人(亡くなった人)が子供名義の預金口座を作って積立てをしており、預金が相続財産といえるかどうかが問題となる場合が挙げられます。 このように相続財産の範囲が確定していない状況では遺産分割ができないため、遺産分割の前提として、遺産確認の訴えを提起して相続財産の範囲を確定するケースが多くみられます。

遺産確認の訴えに関する判例

遺産確認の訴えは、相続財産の範囲をはっきりさせるための裁判手続きですが、どんな財産でも対象になるわけではありません。裁判で確認する意味がある、つまり「確認の利益」があることが必要です。これは、その訴えが相続トラブルの解決に実際に役立つかどうかを基準に判断されます。 この点を示したのが、【令和元年(ワ)第20115号 東京地方裁判所 令和2年8月27日判決】の判例です。 この裁判では、原告(相続人の一人)が「すでに引き出された預金や現金も相続財産に含まれるはずだ」として、その確認を求めて訴えを起こしました。 しかし、裁判所は「遺産確認の訴えは現に存在する財産に限って認められ、すでに処分した財産については、裁判で確認する意味がない」として、訴えを退けました。 つまり、相続開始時に財産があっても、今は存在しない場合には、遺産確認の訴えは認められないということになります。

相続財産の範囲を確定する方法

遺産分割をするうえで、相続財産の範囲が確定していることは前提条件です。 相続財産の範囲を確定させる方法として、主に以下が挙げられます。

  • 遺産分割協議
  • 遺産分割調停
  • 遺産分割審判
  • 遺産確認の訴え
  • 遺産分割訴訟

遺産分割協議

相続財産の範囲は、当事者である相続人らの話合いによる合意を目指す遺産分割協議によっても確定させることができます。遺産分割協議は、当事者の意思を最も反映しやすい相続財産の範囲の確定方法です。 しかし、相続財産の範囲を狭くとらえるか広くとらえるかにより、それぞれの相続分に別個の影響が及ぶことからわかるように、当事者の利益は対立しているので、当事者のみの話合いで合意を形成することは難しい場合が多いでしょう。 遺産分割協議について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

遺産分割調停

裁判所の調停委員を介した話合いによる合意を目指す「遺産分割調停」によっても、相続財産の範囲を確定させることができます。 遺産分割調停は、調停委員の介入があるとはいえ、当事者の合意によって相続財産の範囲を確定するため、比較的当事者の意思を反映しやすい方法といえます。遺産分割協議によっても合意が形成されない場合に用いられる方法ですが、調停委員の介入によっても合意が形成されない場合は多々あり、さらに遺産分割訴訟に発展するケースも少なくありません。 遺産分割調停について、詳しくは以下の記事をご覧ください。

遺産分割審判

裁判所に遺産の分割方法を決めてもらう遺産分割審判によっても、相続財産の範囲の確定は可能です。審判の際に裁判官に依頼することで、相続財産の範囲を確定してもらうことができます。 ただし、裁判官が確定した相続財産の範囲に法的な拘束力はないため、審判を利用した相続財産の範囲の確定はまず行われません。相続財産の範囲に争いがある場合は、遺産確認の訴えで解決するのが一般的です。 なお、遺産分割に関する裁判手続きには、「遺産分割調停」と「遺産分割審判」があります。どちらも裁判所で行いますが、調停は、調停委員を交えて相続人同士が話し合い、合意を目指す方法です。 一方、審判は、話し合いがまとまらなかったときに、裁判官が最終的な判断を下す手続きです。この違いを理解しておくと、どの方法を選ぶべきか判断しやすくなります。 遺産分割審判について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

遺産確認の訴え

相続財産に何が含まれるかについて相続人の間で意見が食い違い、話し合い(遺産分割協議や遺産分割調停)で解決できない場合には、遺産確認の訴えという裁判を起こすことになります。 遺産確認の訴えで裁判所が出した判決には法的な拘束力があるため、後から別の裁判で違う判断をすることはできません。つまり、いったん判決が出れば、その内容を前提にして、遺産分割協議や遺産分割調停、遺産分割審判を進める必要があります。 このように、遺産確認の訴えには相続財産の範囲をはっきりさせる力があるため、根本的な解決を目指すときにとても有効な方法です。

遺産分割訴訟

遺産分割訴訟は、「所有権確認訴訟」と「共有持分権確認訴訟」の2種類に分けられます。 所有権確認訴訟とは、特定の財産が自身の固有財産だと考えられる場合に、当該財産についての所有権を確認するために提起する訴訟です。所有権が認められれば、当該財産は相続財産の範囲には含まれません。 共有持分権確認訴訟とは、特定の財産が相続人らの共有財産だと考えられる場合に、当該財産についての共有持分権を確認するために提起する訴訟です。共有持分権が認められれば、当該財産は相続財産の範囲に含まれます。

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遺産確認の訴えを提起する流れ

遺産確認の訴えを起こす場合は、以下のような手順で進めていきます。

  1. ① 訴訟提起
    まず原告(訴える側)が自分の言い分をまとめた訴状と、それを証明する証拠資料を、地方裁判所に提出します。
  2. ② 被告に対する訴状の交付
    裁判所は訴状を被告(相手方)に送付します。被告は自らの反論を書いた答弁書を提出しなければなりません。
  3. ③ 第1回口頭弁論期日
    原告の提出した訴状や、被告が提出した答弁書の陳述が行われます。
  4. ④ 第2回以降の期日
    原告と被告が準備書面で主張や反論を出し合い、必要に応じて証拠も一緒に提出します。
  5. ⑤ 和解
    裁判所から提示された和解案に双方が合意すれば、和解が成立し、裁判は終了します。
  6. ⑥ 判決
    和解が成立しない場合、裁判所が相続財産の範囲についての判決を下します。判決に納得できない場合は、2週間以内に控訴することが可能です。

遺産確認の訴えに必要な書類

遺産確認の訴えを裁判所に申し立てるには、次のような書類をそろえて提出する必要があります。

  • 訴状
    「どの財産が遺産にあたるのか」「なぜ確認を求めるのか」といった、原告の主張や理由をまとめた書面です。
  • 相続関係を証明する資料
    被相続人の出生から死亡までの戸籍、被相続人の死亡時の住民票、相続人全員の戸籍謄本や住民票などを用意します。
  • 相続財産を証明する資料
    不動産の全部事項証明書や固定資産評価証明書、預貯金通帳のコピーや残高証明書、株式・投資信託の残高証明書や取引報告書、生命保険の保険証券や契約内容通知書などが挙げられます。
  • 遺言書の写し
    被相続人が遺言書を残していた場合は提出します。

遺産確認の訴えにかかる費用

遺産確認の訴えを起こす際には、裁判所に納める収入印紙代や切手代のほか、戸籍謄本や登記簿の取得費用、書類のコピー代や郵送費など、さまざまな実費がかかります。 収入印紙代は確認の対象となる被相続人の財産の金額に応じて決まります。例えば、1000万円の遺産であれば約5万円が目安です。ただし、相続財産が1億円を超えるような場合には、印紙代だけでも数十万円にのぼることがあります。裁判を起こすだけでも、それなりの費用負担が生じる点に注意が必要です。

遺産確認の訴えに時効はある?

遺産確認の訴えそのものに、明確な時効は定められていません。 そのため、法律上はいつでも提起することができます。
ただし、注意が必要なのは、相続開始から長期間が経過すると、証拠が失われたり、関係者の記憶が曖昧になったりして、裁判の進行に支障が出るおそれがある点です。 また、遺産確認と関連する他の相続手続きには時効があるものも多いです。例えば、「遺留分侵害額請求」は、侵害を知った日から1年以内または相続開始から10年以内という時効が定められています。 つまり、遺産確認の訴えには期限がないように見えても、実際には早めの対応がとても大切です。遺産について気になることがあれば、できるだけ早く弁護士などの専門家に相談しましょう。

相続財産のトラブルを予防するために弁護士ができること

弁護士に依頼すれば、相続財産のトラブルを予防・解決することができます。具体的には次のような対応が可能です。

  • 被相続人の生前にできること
    弁護士が財産目録を作成することで、相続財産の範囲を明確にし、後の争いを防げます。
  • 被相続人が死亡してからできること(争いが起こる前)
    弁護士が財産調査を行い、相続財産の範囲を確定させることで、トラブルを防止できます。
  • 被相続人が死亡してからできること(争いが起きた後)
    すでに争いが起きている場合でも、弁護士が話し合いの調整や必要な調査を行い、解決に導きます。

また、弁護士に依頼すれば、複雑な相続手続きや話し合いの進行も任せられ、相続に伴うストレスから解放されます。さらに、特別受益寄与分など複雑な問題も整理してもらえるので、損することなく相続手続きを終えることが可能です。

遺産確認の訴えに関するQ&A

相続放棄をした場合、遺産確認の訴えで被告になることはありますか?

相続放棄とは、相続財産に関するすべての権利と義務を放棄し、相続人でなくなることです。相続放棄をした人は遺産分割に関与できないため、遺産確認の訴えで原告や被告になる権利(当事者適格)を持たないと考えられます。 実際、共同相続人のうち自己の相続分すべてを譲渡した相続人について、遺産確認の訴えの当事者適格を否定した裁判例もあります。このため、相続放棄をした場合、基本的に遺産確認の訴えで被告になることはないでしょう。

相続財産の範囲の確定を行う際、特別受益を主張する場合の証拠資料にはどんなものがありますか?

特別受益とは、生前贈与や遺贈等、相続人のうちの一人がほかの相続人と比べて特別に利益を得ていたことをいいます。特別受益の主張が認められると、相続財産に特別受益分を持ち戻して遺産分割をすることができますが、その証拠資料となるものは以下のとおりです。

  • 贈与したことがわかる合意書類:契約書、メモ、日記、メールの履歴等
  • 送金の事実がわかる資料:預金口座の取引明細、通帳、銀行等の振込用紙控え等
  • 贈与の金額に関する資料:預金口座の取引明細、銀行等の振込用紙控え等
  • 特別受益の価格を証明する資料:不動産の固定資産評価証明書・査定書・路線価

親が残してくれた自分名義の預金は自分のものになりますか?

被相続人である親が子供の名義で預貯金口座を作り、自身のお金を原資として積立てしていた場合、当該預貯金が名義人である子供のものになるか否かは、総合的な事情を考慮して決められます。具体的には、財産の名義や資金源、財産の管理者、処分権者、その名義とされた理由等が事情として考慮されます。 一般的に、名義人である子供自身が実際に通帳や印鑑等を管理していない場合には、被相続人の相続財産の範囲に含まれると判断されることが多いです。 したがって、ご質問者様が実際に通帳や印鑑等を管理していない場合には、たとえご質問者様名義の預貯金であっても、ご自身のものにはならない可能性があります。 もっとも、仮にご自身のものになった場合でも、特別受益の問題が生じ得ることにご留意ください。

遺産の範囲を確認していたら、銀行預金を勝手に使い込まれていることがわかりました。不当利得返還請求をする場合、時効はありますか?

不当利得返還請求には時効があります。 不当利得返還請求とは、本来受け取る権利がない人が不当に得た利益を、返還するよう求める法的手続きです。 例えば、相続開始前に被相続人の預金が無断で引き出されていた場合は、被相続人が本来持っていた不当利得返還請求権を相続人が引き継いで行使できます。また、相続開始後に、特定の相続人が自身の相続分を超えて預金を引き出していた場合、他の相続人は自らの相続分を侵害されたとして不当利得返還請求を行うことが可能です。 これらの請求には時効があり、「預金の使い込みが発覚してから5年以内」または「使いこみがあってから10年以内」に請求しなければならないため注意が必要です。 不当利得返還請求について詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

遺産分割調停・遺産分割審判・遺産確認の訴えの手続で管轄裁判所は変わりますか?

遺産分割調停・遺産分割審判・遺産確認の訴えでは、管轄裁判所が異なるのが一般的です。具体的には次のとおりです。

  • 遺産分割調停:ほかの相続人(相手方)の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 遺産分割審判:被相続人が亡くなった時点の住所を管轄する家庭裁判所
  • 遺産確認の訴え:ほかの相続人(被告)の住所地を管轄する地方裁判所

ただし、これらの裁判手続きをまとめて行う場合に、ご自身の希望する裁判所がどれか一つでも管轄裁判所と一致していれば、すべて同じ裁判所で扱ってもらえることもあります。そのため、必ずしも手続きごとに別の裁判所に行く必要があるとは限りません。

遺産確認の訴えについて不明点があれば一度弁護士にご相談ください

遺産確認の訴えが認められると、その財産は相続財産として認められ、遺産分割の対象となります。誰がどの財産をどれだけ受け取るかに直接影響するため、とても重要な手続きです。 ただし、どの財産が対象になるのか、どんな証拠が必要か、どうやって訴えを進めるかなど、専門的な知識が必要になる場面が多くあります。こうしたときは、弁護士に相談するのがおすすめです。証拠の集め方や書類の作成をサポートしてもらえるだけでなく、法律に基づいた的確なアドバイスを受けられます。また、弁護士が遺言書の財産目録を作成したり、問題発生後に財産調査を行うことで、トラブルの予防・解決も可能です。 遺産確認についてご不明な点がある場合は、ぜひ弁護士にご相談ください。