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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
相続登記とは、相続によって取得した不動産の登記名義を変更することをいいます。 相続登記は、相続人の中の1人の名義にすることも、2人以上の共有名義にすることも可能です。また、共有名義にするときは、遺産分割協議に基づいて一部の相続人が任意の割合で登記することも、法定相続分どおりに登記することも、どちらも可能です。しかし、共有名義で登記をすることはおすすめできません。 本記事では、相続登記を共有名義で行ったときに起きる問題や対処方法について解説します。
目次
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共有名義で相続登記をすると、複数の相続人が当該不動産を共有している状態になります。 共有しているとき、共有者それぞれが持つ所有権の割合を「持分」といいますが、共有者である相続人は、当該不動産の全部について、それぞれの持分に応じた使用をすることができます。
ご説明したとおり、共有名義での相続登記をすると、共有者である相続人は、当該不動産の全部について、それぞれの持分に応じた使用をすることができます。 具体例で考えると、家屋の所有権について3分の1の持分を有する場合には家屋全体を使用することができ、さらにこの家屋を貸し出した場合には、賃料の3分の1を取得することができます。 また、管理行為(財産の保存、利用、改良を目的とする行為)や変更行為(法律的または物理的に性質や形状を変更する行為)といった、共有物に重大な変更が起こりかねない行為をするときは、共有者の同意が必要となります。具体的には、共有物の管理行為を行う場合は共有者の過半数の同意が必要となり、変更行為を行う場合は共有者全員の同意が必要となります。
ここまで、共有名義での相続登記をした場合の法律関係について説明してきました。 では、相続人が複数いる場合、共有名義での相続登記をするべきか、それとも遺産分割協議によって遺産の分け方を決め、単独で相続登記をするべきか、どちらが良いのでしょうか? 共有名義で相続登記を行うことのメリットとデメリットを考えてみます。
共有名義で相続登記をすることのデメリットは、次のようなものです。
不動産の売却や賃貸等を巡り、共有者の意思が一致しない場合は売却や賃貸等ができないため、トラブルとなってしまいがちです。
共有者の1人に持分を移転するための登記費用や、贈与する場合に課税される贈与税の金額は、相続時と比べてとても高額です。
後になって不動産を売却するとき、売却すること自体には納得していたとしても、売却価格や仲介業者、売却活動を中心となって行う共有者の選定等で意見が割れ、調整に時間がかかるおそれがあります。
これに対し、法定相続分に従って共有名義で相続登記をすることのメリットは、次のようなものです。
法定相続分どおりに相続すれば良いので、相続人間での協議や調整が必要ありません。
法定相続分と異なる割合で相続登記の申請をする場合、相続人全員の実印が押された遺産分割協議書と全員分の印鑑証明書が必要になりますが、法定相続分どおりに相続するので、これらを用意する必要はありません。
では、具体的にどのような場合に、共有名義での相続登記が問題となるのでしょうか? 例を用いて考えてみます。
相続人:配偶者、長男、二男
遺産:家屋
家屋の所有権についての法定相続分:配偶者2分の1、長男 4分の1、二男4分の1
このとき、長男が固定資産税等、家屋の維持費用がかかることを理由に、家屋の売却を提案したとします。しかし、配偶者と二男が売却に反対すると共有者全員の同意が得られないため、長男は家屋を売却することができません。 また、家屋全体の売却を諦めた長男が、自分の持分4分の1を不動産業者等に売却した場合、見知らぬ他人が家屋の所有権についての持分を有することになり、配偶者と二男が今までのように家屋を使用することが難しくなるでしょう。 このように、共有名義での相続登記をした場合、共有者全員の同意なく、共有物である不動産の全体を処分することができなくなります。さらに、共有者の1人が自己の持分を売却することにより、他の共有者と関係性の薄い人が共有者になるおそれがある等、共有名義での相続登記のデメリットは非常に多いといえます。
基本的に、共有名義での相続登記はおすすめしません。トラブルの種となりやすいからです。 しかし、売却の方針がまとまっているような場合には、共有名義での相続登記が適しています。 例えば、被相続人について2人の子が相続する場合に、遺産が自宅である不動産(家屋)とわずかな預貯金のみだったとします。この場合に、このまま遺産を均等に分けるのは難しいでしょう。 そこで、子2人は遺産分割後に家屋を売却することに合意し、家屋を2人の共有名義にした後、家屋を売却して売却代金を等分しました。この場合には、すぐに売却することに共有者全員が同意しているため、共有名義での相続登記のデメリットが顕在化するリスクは低いといえます。
相続人同士のトラブルを防ぐためにも、共有名義での相続登記はできる限り避けるべきです。 共有名義で相続登記をしていると、売却をする際等に全員の同意が必要になるため、不動産の活用が非常に難しくなります。また、共有名義を解消しようとしても、相続時よりずっと高額の費用がかかってしまいます。たとえどんなに仲の良い親族でも、自身の持分を巡って争いとなり、結果として不仲になってしまうおそれがあるのが共有名義での相続登記です。 共有名義での相続登記を避けることが難しい、あるいは避けられない場合は、早い段階で専門家である弁護士にご相談ください。より良い解決策を考え、ご依頼者様の不利益とならないよう、尽力いたします。
共有名義での相続登記をする場合の申請人は、法定相続分どおり相続登記をする場合と、任意の割合で相続登記をする場合とで異なります。
具体的には、次のようになります。
・法定相続分で相続登記をする場合:相続人のうち1人からの申請が可能
・任意の割合で相続登記をする場合:相続人全員での申請が必要―なお、不動産を相続する相続人全員で、遺産分割協議書や印鑑証明書等の書類を添付して申請する必要があります。
法定相続人の中に債務者がいる場合、債権者により、了承なく共有名義での相続登記をされてしまう場合があります。このような、債権を保全するために債権者が債務者を代位して財産を保存する権利を「債権者代位権」といい、これにより行われる登記を「債権者代位登記」といいます。 ただし、当事者である法定相続人の了承なく相続登記をするものなので、法定相続分での登記がなされることになります。勝手に法定相続分での相続登記をされてしまうことに加え、債権者代位登記では、相続人に対して権利証である登記識別情報が発行されないという不利益を受けます。
共有名義の相続登記は、主に次のような手順で行います。
1 相続登記の対象となる不動産の特定 まず、固定資産税の通知書や不動産の権利証から、相続登記の対象となる不動産を特定します。
2 不動産の登記簿謄本の取得 不動産の登記簿謄本を取得し、抵当権の有無等、不動産の状況を確認します。
(3 遺産分割協議) 遺産分割協議をした場合には、遺産分割協議書を作成し、相続人全員の実印を押します。
4 必要書類の収集 登記申請に必要な、被相続人や相続人の戸籍謄本等を収集します。遺産分割協議をした場合には、全員分の印鑑証明書が必要になります。
5 登記申請
必要書類を登記申請書に添付して、登記所(法務局)で登記の申請をします。
例えば、とりあえず共有名義の相続登記をしたものの、遺産分割協議の結果、長女が共有物である不動産を単独で所有することになったとします。この場合には、長女を名義人とする登記への名義変更が必要になります。このときに行われるのが、所有権の持分移転登記です。 所有権の持分移転登記とは、共有名義での登記を解消する方法の1つで、所有権の一部である持分についての変更を記録する登記です。基本的に、共有名義での相続登記と手続は変わりません。登記申請に必要な被相続人や相続人の戸籍謄本、遺産分割協議書、全員分の印鑑証明書等を登記申請書に添付し、登記所(法務局)で登記の申請をします。 その際、登記申請書内の下記の項目については、持分の移転であることを示すため、次のように記載します。 ①登記の目的 「(氏名)持分全部移転」 ※例の場合は長女以外の共有名義人の氏名 ②相続人(権利者) 「持分△分の○(氏名)」 ※例の場合は長女の氏名 なお、共有名義の登記を更正登記することも理論的には可能ですが、実務的には所有権の持分移転登記が用いられます。
リスクの多い共有名義を避けるための方法としては、次のようなものが挙げられます。
遺言書で遺産分割の内容を具体的に指定しておくと、不動産が共有名義になることを防ぐことができます。
例えば、遺産が土地と預貯金数千万円の場合、
・土地は長男に
・預貯金は長女と二男に
相続させる旨を遺言で残していた場合には、相続人全員の合意で遺産分割協議によって遺産を分割しない限り、共有名義になることを防ぐことができます。
「換価分割」とは、遺産である不動産等を売却し、その代金を分割することをいい、「代償分割」とは、相続人の1人が不動産等を取得し、他の相続人の相続分を現金等で代償して支払うことをいいます。 換価分割や代償分割によって遺産分割を行えば、共有名義になることを防ぐことができます。
現物分割とは、遺産である不動産等が土地のような分割可能な財産である場合に、持分に応じて分配することをいいます。 現物分割によって遺産分割を行えば、共有名義になることを防ぐことができる一方、そもそも現物分割ができるケースが限られているというデメリットがあります。
共有名義で相続登記をしてしまった場合に、解消する方法を説明します。
・持分の売却、買取り 自身の持分を他の共有者に売却したり、他の共有者の持分を買い取ったりすることで、単独名義にし、共有名義を解消することができます。
・持分放棄 持分放棄とは、文字どおり自身の持分を放棄することをいいます。放棄した持分は他の共有者に帰属するため、1人を残してその他の共有者が持分を放棄することによって、共有名義を解消することができます。
・共有物分割請求訴訟 裁判所の判決によって共有名義の解消を行う、共有物分割請求訴訟によって共有名義を解消することができます。
・土地の分筆 1つの土地を共有者の数に応じて複数の土地に分ける分筆によっても、共有名義を解消することができます。共有名義の不動産が土地等で、分割することができる場合にとることができる方法です。
・第三者への売却 不動産を第三者に売却し、代金を持分に応じて分けることで、共有名義を解消することができます。ただし、共有者が1人でも反対している場合にはとることのできない方法です。
共有名義で相続登記をすることはおすすめできないとご説明しました。しかし、相続登記後の売却の方針が明確な場合等には、共有名義での相続登記も選択肢の1つとすることができます。 共有名義での相続登記を選択肢に入れられるのかお悩みの場合や、すでに共有名義で相続登記をしており解消したい場合には、ぜひ弁護士にご相談ください。専門家である弁護士が、お悩みをスムーズに解決に導きます。
共有名義の不動産の相続が起こると、さらに共有者が増え、相続人の数だけ共有名義の名義人が増えます。 共有者が増えれば、共有者全員の同意が必要な不動産の処分はさらに難しくなります。また、関係の浅い人が共有者になるリスクが高まるため、不動産の円滑な使用や管理等にも支障が出るおそれがある等、トラブルの原因になりやすいです。 共有名義の不動産を相続すると共有者の1人になるので、持分の売却・放棄をしたり第三者へ持分を売却したりすることによって、共有名義の関係の解消を図るべきでしょう。
夫婦で共有名義になっていた不動産を妻と子が相続した場合を例に、法定相続分どおりに持分の名義変更をする場合と、任意の相続分で名義変更をする場合の手続について考えてみます。 法定相続分どおりに名義変更をするときには、不動産を管轄する登記所(法務局)に、妻と子が単独あるいは共同で、各種必要書類を揃えて登記の申請をすることになります。 これに対し、妻が持分をすべて相続する等、任意の相続分で名義変更をする場合には、法定相続分での登記で必要になる書類に加え、妻と子の遺産分割協議の結果の登記であることを証明するために、妻と子の実印が押された遺産分割協議書とそれぞれの印鑑証明書を添付して、妻が登記の申請をすることになります。
「遺産分割協議がまとまらないが、法定相続分で相続し、共有名義での相続登記をすることはしたくない……」 そうお思いの方もいらっしゃるかもしれません。しかし、相続登記を放置していると、債権者代位登記がなされたり、相続人が増えて権利関係が複雑になったりするおそれがあります。 相続登記を放置した場合のリスクについて、詳しくは以下の記事をご覧ください。
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相続放棄をすると、初めから相続人ではなかったものとして扱われます。そのため、共有持分は共有者である他の名義人に帰属することになります。 つまり、名義人の1人が相続放棄をすると、他の名義人の持分が増え、結果として1人が相続する財産価額が上がることになります。 それに伴い、持分にかかる相続税の金額も上がる等、共有名義の名義人の相続放棄は、他の名義人に大きな影響をもたらします。
共有名義の不動産の固定資産税の支払いは、持分に関係なく、共有者全員の連帯納付義務となります。固定資産税は、不動産の所有者である登記簿上の名義人に対して課税されます。そのため、共有名義で登記をしている場合、共有者全員が納税義務者となるのです。 なお、納税通知書は全員に届くわけではなく、共有不動産の代表者に、全員分を一括した全額の納付書として届きます。共有不動産の代表者は共有不動産がある市区町村がそれぞれの基準で決定しますが、変更したい場合には同市区町村役場での手続で変えることができます。
単独名義の不動産を相続登記する場合、不動産の固定資産税評価額に対して0.4%の登録免許税がかかります。他方で、共有名義の不動産を相続登記する場合には、移転する持分の固定資産評価額に対して0.4%の登録免許税がかかります。このように、相続する不動産の名義が単独か共有かによって、登録免許税のかかる範囲が異なります。
たとえ仲の良い親族でも、共有名義で相続登記をすることはおすすめしません。将来のトラブルの火種になりかねないからです。 しかし、どうしても遺産分割協議がまとまらず、相続税の申告期限も迫り、法定相続分での共有名義の登記をせざるを得ないとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。 このように遺産分割協議がまとまらない場合には、専門家である弁護士にご依頼ください。交渉のプロでもある弁護士が、第三者の立場から冷静に、協議をまとめるお手伝いをさせていただきます。ぜひ、依頼をご検討ください。