メニュー
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
遺言書を作成して、財産の大半を特定の人物に与えようとしても、配偶者や子供等には遺留分があるため、自身の死後に遺留分侵害額請求が行われるおそれがあります。そのため、自らの希望を叶えるためには、遺留分権利者に権利を放棄してもらうのが望ましいでしょう。 しかし、遺留分放棄は、いつでも自由に行えるわけではありません。念書等を書いてもらって満足しても、自身の死後に争いとなるリスクは残ります。 そこで、この記事では、遺留分放棄の方法や、遺留分放棄を撤回できるのか等について解説します。
来所法律相談30分無料・24時間予約受付・年中無休・通話無料
※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。 ※事案により無料法律相談に対応できない場合がございます。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に認められている、相続財産の最低限の取り分です。被相続人が、遺言書で全財産を特定の人物に相続させる等の偏った分配を行ったときに、法定相続人が一定の取り分を主張できるように設けられています。 ただし、遺留分を受け取る権利のある者であっても、受け取る義務はありません。遺留分を受け取る権利を手放すことを「遺留分の放棄」といいます。 遺留分について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
次のようなケースでは、遺留分の放棄を行っておくことが望ましいでしょう。
遺留分の放棄を行うメリットとデメリットとして、それぞれ以下のようなものが挙げられます。
【メリット】
【デメリット】
遺留分放棄は、被相続人の生前でも、死亡後でも可能です。
被相続人の死亡後の遺留分放棄は、遺留分を受け取らない旨の意思表示を行えば可能です。しかし、被相続人の生前の遺留分放棄については、家庭裁判所で手続きを行わなければなりません。
遺留分放棄を被相続人の生前に行う場合は家庭裁判所での手続きが必要なので、念書を書いても無効であり法的効力はありません。 遺留分の権利者を、被相続人等からの不当な圧力から守るために、被相続人の生前における遺留分放棄には家庭裁判所の手続きが必要とされています。 一方で、被相続人の死後の遺留分放棄は意思表示のみで行えるため、念書が有効となります。ただし、他の相続人に念書を書かせるときには、相手方の感情に配慮する等、慎重な対応が必要となります。
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します
被相続人の生前に遺留分放棄を行うためには、家庭裁判所の手続きが必要となります。ただし、手続きを行えば必ず許可されるわけではありません。 家庭裁判所での手続きは、次のような流れで行われます。
これらの手続きを行わず、念書を書いただけでは無効となるため注意しましょう。 許可の通知や不許可の通知は申立人に対してのみ行われます。被相続人等が、遺留分放棄の許可が行われたことを確認したい場合には、審判を行った家庭裁判所に「遺留分放棄許可証明書」の発行を請求できます。
遺留分放棄の許可審判は、以下のような手続きです。
●申立人
遺留分を有する者(被相続人の配偶者や子供等)
●申し立て先
被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所
●費用
・800円分の収入印紙
・連絡用の郵便切手(裁判所によって金額が異なる)
●必要書類
・遺留分放棄の許可審判申立書
・被相続人の戸籍謄本
・申立人の戸籍謄本
家庭裁判所が遺留分放棄を認めるのは、以下の基準に合致しているときです。
●本人の意思によって放棄しようとしている
遺留分放棄を行うことについて、被相続人等の圧力によって申し立てているのではないことを確認されます。
●放棄する合理的な理由がある
遺留分放棄を行うことについて、家業を継ぐ者に相続財産を集中させる等の合理的な理由が必要です。「自分の資産が十分にあるから」や「相続手続きが面倒くさいから」といった理由で認められる可能性は低いでしょう。
●遺留分と同等の代償を受け取っている
遺留分と同等の価額の代償を受け取っていれば、遺留分放棄が認められる可能性が高いです。
これについては、次項で解説します。
遺留分権利者に、遺留分放棄を受け入れてもらうためには、代償を用意して説得することが最も効果的だと考えられます。これは、家庭裁判所で遺留分放棄を許可してもらう基準にも含まれています。 ただし、遺留分放棄の代償は金銭的な価値のあるものでなければなりません。そのため、「都会で働くことを認めてもらった」等の、金銭的な価値のない代償ではほとんど認められません。 また、代償は確実に受け取れる必要があります。「代償の支払いは10年後に行う」等、不確かな代償は認められにくいでしょう。
被相続人の死亡後であれば、遺留分放棄を行うために家庭裁判所の許可は必要ありません。口頭での意思表示であっても遺留分放棄は可能となります。 しかし、口頭で述べただけでは、遺留分放棄を行った証拠が残らず、後で争いとなるおそれがあります。そのため、必ず合意書等の書面を作成して、遺留分放棄が行われたことを証明できるようにしましょう。 なお、遺留分権利者が自主的に作成した念書等については、被相続人の死後に作成したものであれば有効となる可能性が高いでしょう。そのため、念書には日付を必ず記載するようにしましょう。
遺留分侵害額請求の時効は、次の期間が経過するまでとされています。
●相続開始と遺留分を侵害されたことを知ってから1年
●被相続人の死亡から10年
時効の期間が経過してしまうと、たとえ遺留分が侵害されていても、遺留分侵害額請求を行う権利が消滅します。
時効が成立すれば、手続きを行わなくても遺留分放棄したものとみなされます。
相続税にも強い弁護士が豊富な経験と実績であなたをフルサポート致します
被相続人の生前の遺留分放棄については、家庭裁判所の許可を受けているため、撤回するときにも家庭裁判所に申し立てる必要があります。 このとき、被相続人の死後であれば撤回は基本的に認められません。これは、既に相続が始まっており、遺留分放棄の撤回を認めてしまうと混乱を招くおそれがあるからです。 遺留分放棄の撤回が認められるのは、遺留分放棄の前提となる事情が変わった場合等に限定されます。 例えば、兄が家業を継ぐことを前提として遺留分放棄を行ったのに、兄は家業を他人に譲渡して遠方に移住してしまった等の場合であれば、遺留分放棄の撤回が認められる可能性があります。 一度、遺留分を放棄してしまうと、「お金が欲しくなった」等の理由で撤回が認められる可能性はほとんどありません。後悔しないために、納得した上で放棄の手続きを行いましょう。
相続放棄とは、あらゆる相続財産を引き継がずに放棄することです。 「遺留分の放棄」と「相続放棄」は全く異なる手続きであり、様々な点に違いがあります。 それぞれ、主な違いを表にまとめましたのでご確認ください。
遺留分放棄 | 相続放棄 | |
---|---|---|
放棄するもの | 遺留分 | 相続権 |
遺産相続 | 相続できる | 相続できない |
代襲相続 | 起こる (遺留分請求はできない) |
起こらない |
生前の手続き | 家庭裁判所の許可があればできる | できない |
他の相続人の割合 | 遺留分は変わらない | 相続分は増える |
遺産分割協議 | 参加する | 参加しない |
手続きを行える期間 | 期間の制限はない | 相続開始から3ヶ月以内 |
なお、相続放棄について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
法定相続人の1人が遺留分放棄をしても、他の法定相続人の遺留分が増えることはありません。 一方で、相続人の1人が相続放棄をすると、他の相続人の相続分が増えます。これは、相続放棄を行った者が最初から相続人でなかったものとして扱われることから、相続人の頭数が減るからです。
遺留分放棄を行ったとしても、相続権は失いません。そのため、被相続人が遺言書を作成しなかった場合や、作成した遺言書を無効とした場合等には、遺産分割協議に参加して、法定相続分にあたる相続財産を受け取ることができる可能性があります。 ただし、相続財産に借入金等のマイナスの財産があった場合、遺留分放棄を行った者に対しても、法定相続分に相当する請求が行われるおそれがあります。 被相続人が多額の負債を抱えており相続したくないケースでは、相続放棄を行うようにしましょう。 法定相続分について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
合わせて読みたい関連記事
自分の生前に、配偶者や子供等に遺留分放棄を行ってもらいたい場合には、裁判所に認めてもらうための対策が必要となります。また、遺留分を放棄してもらうためには代償が必要となりますが、どの程度の財産を渡せば良いのかは計算が難しく、すぐに巨額の金銭的負担が生じるのは困る方もいらっしゃるでしょう。 そこで、遺留分放棄を検討している方は弁護士にご相談ください。 弁護士であれば、妥当な代償の算定や、巨額の金銭等を用意しなくても良い方法等についてアドバイスを行うことが可能です。 遺言書の作成等、他の悩み事についても併せてご相談ください。