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遺産相続コラム
先日、父が長い闘病生活の末、亡くなりました。 我が家は父・母・私・弟の4人家族です。生前、父には約1000万円の借金がありました。 父が他界後、弟が父の銀行口座に残されていた200万円(父の全財産です。)を私や母親に無断で引き出し、父が残した借金の返済に充ててしまいました。 父の債権者からは 「あなた方家族がお父さんの借金を相続するのだからちゃんと支払ってもらわないと困る。」 「どなたが支払ったのかは知らないが、お父さんがなくなってから200万円の支払があった。支払う意思を示しているということだから、もはやあなた達は相続放棄をすることはできず、借金を支払うしかない。」 等と連日支払いの催促を受けています。 弟が支払ってしまったからといって、我々は相続放棄できないのでしょうか。弟も一人で借金を背負わされるのもかわいそうです・・・。
まず、お父様が亡くなられてから3か月以内であれば、相続放棄(民法938条以下)を行うことが原則的に可能です。 この事例の場合、あなたとお母様については、相続放棄の申述を家庭裁判所に対して行うことにより、最初からお父様の相続人ではない、ということになりますので、この点については問題がないといえます(弟さんの行為はお二人については関係しません。)。 これに対して、弟さんについては話が変わってくることに注意が必要でしょう。民法921条1号は「相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき」について、921条本文が「相続人は、単純承認をしたものとみなす。」と規定しています。 そして、民法920条で「相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。」と規定しています。 弟さんがお父様の預金を引き出して、借金の支払いに充てた行為については、原則として、お父様の財産の処分行為に該当するのでこれに該当し、弟さんについてはお父様の遺産についての単純承認をしている、とされてしまい、基本的には、このタイミングで相続放棄をすることはできません。 よって、原則的には、弟さんについては、お父様の残した借金を相続しなくてはならない、ということになるでしょう(ただし、プラスの財産がある場合については、それも相続することができます。)。 もっとも、借金の返済という面だけを捉えれば、お父様の財産の保存行為、と評価できないこともありません。 この点については、相続財産の内容・金額や相続債務の内容・金額、その他の債権者の有無など事案によって判断することになります。
単純承認についてこのように、相続が発生した場合に、被相続人の方の財産に手を付ける際には、非常に注意を払う必要があります。 仮に今回の相談者の方の弟さんのように、借金を支払ってしまったような事情があったとしても、場合によっては、そこから相続放棄することが可能な場合(処分行為ではなく、保存行為と評価できる場合)があります。 あきらめずに、まずは専門家である弁護士等に相談し、適切な方法を見つけることが重要です。