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監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
遺言執行者とは、遺言を執行すべき者として指定または選任された、遺言の内容を実現する者のことで、遺言者の最期の意思を実現するために重要な役割を果たします。 しかし、遺言執行者の存在は、一般的にはあまり知られていないため、何をするのか、誰を選ぶのか等が分からない方も少なくないでしょう。 ここでは、遺言書の執行者(執行人)の義務や選任の必要性、選任できる者、選任方法、報酬等について解説します。
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遺言執行者(遺言執行人)とは、被相続人が生前に作成した遺言書の内容を実現するために、必要な手続きを行う者です。一般的に、被相続人が遺言書で指定するか、相続人が家庭裁判所に申し立てることによって選任されます。 主な職務として、相続人調査や相続財産調査、財産目録の作成、遺言書の内容に従った相続登記、預貯金の名義変更や解約等が挙げられます。
遺言執行者は相続の管理・監督だけでなく、相続手続きを自分で行うことが可能です。 遺言執行者の権限によって可能な行為として、主に以下のようなものが挙げられます。
なお、2019年の民法改正により、遺言執行者への妨害行為は明確に禁止されました。そのため、相続人が無断で相続財産を売却したり、名義変更をしたりした場合、こうした相続人の行為は基本的に無効となります。
2019年民法改正により、遺言執行者の通知義務が設けられました。通知義務について、表にまとめたのでご確認ください。
通知の時期 | 通知する相手 | 通知する内容 |
---|---|---|
遺言執行者に就任したとき | 相続人全員 | ・遺言執行者に就任したこと ・遺言書の内容 |
相続人から請求を受けたとき | 請求した相続人 | 遺言執行の内容 |
遺言執行が終了したとき | 相続人全員 | 遺言執行が終了したこと |
被相続人の兄弟姉妹など、相続人に遺留分がなかったとしても、通知の対象から除外することは基本的にできません。 これらの義務を怠ると、利害関係人が家庭裁判所に申し立てることにより、遺言執行者を解任されるおそれがあります。
遺言執行者は、相続人が誰なのかを把握するため、就任後すぐに相続人調査を行い相続人の範囲を確定します。なぜなら、遺言執行者に就任したら、相続人全員に対して、遺言の内容を実行するうえで必要な手続きを速やかに始めなければならないからです。 法律で相続権を与えられた相続人は、被相続人の戸籍を辿ることで把握できます。そのため、相続人調査は、被相続人が出生してから亡くなるまでのすべての戸籍謄本類を取り寄せ、親族関係を確認するという方法で行うことになります。 より詳しい相続人調査の方法については、下記の記事で解説していますので、ぜひご覧ください。
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相続手続を進めるためには、相続が開始した時点で被相続人が持っていたすべての財産を記録し、一覧にしておく必要があります。 そのため、現金・預貯金・不動産・自動車等のプラスの財産はもちろん、借金・ローン・未払いの税金等のマイナスの財産がどれくらいあるのかを調査しなければなりません。 例えば、預貯金の場合は口座のある金融機関に開示を求めたり、不動産の場合は名寄帳を取得したりして確認します。例外的に、個人からした借金で借用書もない場合など、調査自体が困難なケースもありますが、通常行える調査は尽くしておく必要があります。 詳しい相続財産の調査方法は、下記の記事で紹介しています。気になる方はぜひこちらも併せてご覧ください。
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相続財産の調査を行ったら、財産目録を作成します。 財産目録とは、相続財産の内容を一覧にしたリストのことです。特に書式は決まっていませんが、相続財産のある場所や数量、価値などを明確に記載し、対象となる財産を特定できるようにすることが重要です。 なお、財産目録は、作成後速やかに相続人・受遺者全員に交付する必要があるため注意が必要です。 財産目録の記載内容や作成時のポイントなどを知りたい方は、ぜひ下記の記事もご参照ください。
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遺言執行者を選任する義務は基本的にありません。しかし、遺言に以下のような内容が含まれているケースでは選任が必要です。
これらのケース以外でも、適正な相続手続きが難しい事情があれば、遺言執行者を選任しておくと良いでしょう。選任した方が良い事情として、多忙や、相続人の認知症などが挙げられます。
遺言執行者になれるのは、未成年者および破産者以外の者だと民法1009条により定められています。 遺言執行者になるための特別な資格等は存在しないため、遺言者の配偶者や子など、相続人の中から選任することも可能です。 しかし、様々な手続きを行う必要があり、難易度が高いケースも少なくないので、不動産などの相続財産が多いケースや遠方で相続手続きを行わなければならないケース等では、弁護士や司法書士等の専門家に依頼することをおすすめします。
遺言執行者が、相続人や受遺者と同じ人でも問題ありません。ただし、場合によっては、自分にとって不利な遺言の内容を実現しなければなりません。また、他の相続人から、理不尽な疑いをかけられるおそれもあります。
そこで、スムーズに相続手続を進めるためにも、公正で中立な立場にある人が遺言執行者となる方が望ましいでしょう。特に、相続人の関係が良好でない場合には、弁護士等の専門家に遺言執行者になってもらうことをおすすめします。
遺言執行者として弁護士を選任することには、以下のようなメリットがあります。
遺言執行者は、次の3つのいずれかの方法で選任することができます。
なお、遺言執行者の人数に制限はないため、複数の人を遺言執行者として指定する、または選任してもらうことが可能です。
遺言執行者は、遺言者(被相続人)が遺言で指定することができます。 遺言書で指定する場合には、遺言執行者に指定したい者を遺言書に記載するだけで手続きが済みます。遺言執行者に指定したい人物を特定するために、通常は次のような事項を記載します。
親族を遺言執行者に指定する場合は特定が簡単なため、氏名・遺言者との続柄・生年月日等の記載だけで済ませることもあります。 ただし、指定した者に拒否されないように、あらかじめ確認しておくべきでしょう。 遺言による遺言執行者の指定を拒否された場合には、家庭裁判所に申し立てて選任してもらうことになります。 遺言で遺言執行者を指定するメリットには、主に以下のようなものがあります。
遺言書に「〇〇に遺言執行者の選定を一任する」といった記載をするなどして、特定の第三者に遺言執行者を選任してもらう方法です。 第三者に遺言執行者を選任してもらう方法では、遺言であらかじめ指定しておいた遺言執行者が遺言者よりも先に亡くなってしまうといった事態を回避することができます。また、相続開始時の状況に応じて遺言執行者となる人を選んでもらえるので、柔軟な対応が可能なうえに、選任できる人の幅が広がります。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをすることにより、遺言執行者を選任してもらうことができます。 申立てができるのは、相続人や受遺者、被相続人の債権者等の利害関係人です。 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる際に必要な書類としては、主に以下のようなものがあります。
その他、申立時には、遺言書1通あたり800円分の収入印紙と、連絡用の郵便切手代といった費用も用意する必要があります。 個別の事情によっては、追加的な書類の提出を求められることもあります。
遺言執行者は、報酬を請求することができます。報酬の金額は、以下のいずれかによって決めます。
遺言執行者の報酬は、相続財産から支払われるケースが多いです。 弁護士を遺言執行者に選任した場合には、報酬の相場は、基本的に「旧弁護士会報酬基準規程」に沿って決まります。 ただし、遺言の内容が複雑である場合や相続財産が高額である場合等では、報酬が高くなる傾向にあるため、30万円から数百万円程度を用意する必要があるでしょう。 行政書士や司法書士など弁護士以外の専門家に依頼すると、安いケースでは30万~50万円程度で済む可能性があります。しかし、相続トラブルが裁判に発展したときには、改めて弁護士に依頼しなければならないことが多いため、追加的に弁護士費用がかかることに注意しましょう。
相続財産の価額 | 報酬 |
---|---|
300万円以下 | 30万円 |
300万〜3000万円以下 | 2%+24万円 |
3000万〜3億円以下 | 1%+54万円 |
3億円を超える | 0.5%+204万円 |
遺言執行者は、民法1019条により、解任される場合や辞任できる場合があります。ただし、一度就任した遺言執行者を解任するときや、遺言執行者を辞任するときには、家庭裁判所の許可を得る必要があります。 具体的には、以下のケースで解任や辞任が認められます。
民法
(遺言執行者の解任及び辞任)1019条
1 遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
2 遺言執行者は、正当な事由があるときは、家庭裁判所の許可を得て、その任務を辞することができる。
次のように、遺言の執行が客観的に困難だと認められる正当な事由があれば、遺言執行者は家庭裁判所の許可を得ることで辞任することができます。
遺言執行者が任務を怠ったり、その他正当な事由があったりする場合は、相続人や受遺者、遺言者の債権者といった利害関係人が家庭裁判所に解任を請求できます。 なお、解任の請求は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要があります。 解任できる具体的なケースとしては、次のような事情があるときです。
遺言であらかじめ遺言執行者として指定していた人が遺言者よりも先に亡くなってしまっていた場合、遺言執行者が指定・選任されていないものとして、家庭裁判所に遺言執行者を選任するよう申し立てることができます。 しかし、このような場合には、せっかく遺言執行者を指定しておいたメリットがなくなってしまいます。そこで、遺言執行者として指定していた人が先に亡くなってしまう事態に備えて、次のような対策をしておくことをおすすめします。
遺言執行者に選任された場合のデメリットとしては、次のようなものがあります。
報酬をもらえるというプラスの面がある一方、こうしたデメリットもあるので、遺言執行者に指定された場合、就任するかどうかは慎重に判断する必要があります。
公正証書遺言でも遺言執行者を指定することができます。 公正証書遺言とは、公正証書の形で作成する遺言です。公証人により作成された後、公証役場で保存してもらえるので、偽造や改ざんのおそれがない反面、作成に手間や費用がかかるというデメリットがあります。 公正証書遺言を作成する際には、円滑な相続手続のために遺言執行者を指定しておくのが一般的です。
次のようなケースでは、遺言執行者と相続人とのトラブルに発展しやすいです。
【遺言の解釈に争いがある】 何通りにも解釈できてしまうような内容の遺言だと、解釈の違いから相続人と対立してしまうおそれがあります。 【遺言の効力に疑いがある】 遺言を作成した時に既に認知症だった、遺言が偽造・改ざんされた可能性がある場合などには、遺言無効確認の調停や訴訟に発展するリスクがあります。 【遺言執行者が任務を怠っていたり、権限を悪用したりして利益を得ている】 相続人からの損害賠償請求や解任請求などが問題となりかねません。
遺言執行者について悩んでいる方は、弁護士にご相談ください。特に、誰を遺言執行者にするかで悩んでいる方は、弁護士を遺言執行者にすることをご検討いただきたいです。 相続手続には、法律に関する専門知識や、手続きを進める能力が欠かせません。 弁護士であれば、法律の専門知識がありますし、相続に関する実務の経験も持っています。また、公正・中立な第三者の立場にあるので、弁護士を遺言執行者に選任することで、相続人間の無用なトラブルを防げる可能性があります。 ご自身が遺言執行者として指定された場合にも、弁護士のアドバイスを受けることで、トラブルを防止・解決できる可能性が高まります。まずはお気軽にご相談ください。